- 作成日 : 2024年12月3日
代表権のない取締役とは?役割や代表・社長との違い、契約のリスクを解説
代表権のない取締役とは、会社を代表して業務遂行するための代表権を持たない取締役を意味します。代表権のない取締役は契約書への署名や押印は原則として行えませんが、例外として認められるケースも複数存在します。
この記事では代表権のない取締役の役割や代表(社長)との違い・契約のリスクなどについて解説します。
目次
代表権のない取締役とは?
代表権のない取締役とは、法律上法人を代表する権限を持たない取締役のことを指します。単に「取締役」と呼ばれるケースが多い他、「平取締役」と呼ばれることもあります。通常の取締役として経営に携わることはできるものの、法人を法的に代表する権限がないため、契約の締結や押印に関して制約があります。
代表権がない取締役は企業のガバナンスや監督に専念する役割が求められることが多く、代表権を持つ取締役とは異なる立場にあります。
代表権のない取締役の役割
代表権のない取締役の主な役割としては、専門的な知識を活かして経営方針の助言を行う、業務の遂行状況を監督するなどが挙げられます。社員が昇格するケースが大多数ですが、企業によっては社外から専門家や著名人を取締役として任命し、外部からの視点で経営の質を向上させる役割を付与するケースもあります。
他にも特定分野の専門知識を経営に反映させるため、客観的な視点を経営に取り入れるため、あるいは企業の知名度アップを目指すなどの目的で社外取締役を招き入れることもあります。
代表権のない取締役の法的な制約
代表権のない取締役は法的に法人を代表する権限がないため、社内・社外において電子署名、紙の契約書への押印など代表行為の執行権限がない、書類や契約書に署名する場合、権限を持つ代表取締役などの同意や承認を得なければならないなどの制約を受けます。
企業と外部との契約関係においては、契約を正式に結ぶ権限がありません。この制約は企業の法的な責任範囲を明確にするためであり、取引先とのトラブルやリスクの軽減を図るための重要な役割を果たしています。
ただ、取締役会の決定や社内規定に応じて一定の事項に限って実行権限が付与されるケースもあります。
代表権の確認方法
取締役が代表権を有するかを確認する方法としては、主に代表者事項証明書を取得するか、契約締結権の委任状を提出してもらうという2パターンがあります。
代表者事項証明書とは、代表者に関する情報で法人が法務局に登録されているものが記載されている登記事項証明書の一種です。資格証明書とも呼ばれています。会社の代表者名、代表者の住所、代表者の役職、会社名、会社所在地、法人番号などが記載されており、法務局に交付申請書を提出すれば取得可能です。
契約締結権の委任状は企業の代表者が契約権限を自社の人間に委任する際に用いられます。契約をする際、委任状を相手方から提出してもらえれば代表者の署名が記載されているので、すぐに代表者取締役の氏名が確認できます。
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会社法による、代表権のない取締役の権限や責任
会社法において代表権のない取締役は法人を直接代表する権限は持ちませんが、一定の職務や責任が定められています。例えば会社内部においては経営や事業の管理監督に携わる役割を持っています。また、業務の執行においても法令や定款、取締役会の決議に従う責任があり、これらに反する行為があった場合には、責任を問われる可能性もあります。
さらに、会社法では取締役には善管注意義務と忠実義務が規定されており、代表権のない取締役もこれに従って行動することが求められます。善管注意義務は会社あるいはステークホルダーのために良識と高度な注意を持って業務を行う義務、忠実義務は法令・定款・株主総会の決議を遵守し会社のために忠実に職務を行う義務のことです。
代表権のない取締役と代表取締役、社長との違い
代表権のない取締役と代表取締役・社長にはそれぞれ異なる権限と責任が存在します。代表取締役は会社法に基づき法人を法的に代表する権限を持ち、対外的な契約や交渉を行うことができます。企業の最高経営責任者としての役割も担うため、会社の経営判断や方針決定における責任が非常に大きいです。一方、代表権のない取締役は法人の代表権を持たず、外部との契約行為はできません。
ただし、取締役としての責任はあり、経営や業務の監督、専門知識を活かした助言など、内部的な役割に重きが置かれます。また、社長という肩書は会社の内部で用いられる役職名で、代表取締役と重なることも多いですが、企業によっては社長職が代表権を持たない場合もあります。
代表権のない取締役の具体的な仕事内容
代表権のない取締役は主に会社の内部管理や監督、取締役会での意思決定に関与し、会社運営に必要な業務や戦略の策定に携わります。ここからは具体的な仕事の内容を3つご紹介します。
会社の内部管理と監督
代表権のない取締役は、会社の内部統制の維持や事業の管理を通じて企業の運営基盤を支えます。具体的には、予算計画のレビュー、企業戦略やミッション策定、内部統制システムの監視などが挙げられます。
また、取締役会に参加して会社のリスク管理やコンプライアンス体制が適切であるかを確認し、必要に応じて改善策を提案する役割もあります。
取締役会での意思決定
代表権のない取締役は取締役会における重要な意思決定に関与し、経営方針や戦略の策定に関与します。取締役会では経営計画、予算配分、新規事業の推進など、他の取締役や役員同様に会社の成長に関わる事項への検討に携わります。
また、代表権のない取締役や代表取締役に対する監督やサポートとしての役割を任されるケースも多いです。
会社運営の決定事項
代表権のない取締役は代表取締役を支える立場であり、代表のような実務的権限を持たないものの、経営計画や内部組織体制の整備など、運営方針の決定に関与するケースもあります。
例えば事業方針の見直し、財務管理、組織改編の提案といった長期的な視点からの戦略提言を行うこともあります。
代表権のない取締役が契約書に押印するリスク
代表権のない取締役は法律上企業を代表する法的な権限がないため、契約書に署名・押印してしまうとさまざまなトラブルに発展する恐れがあります。具体的なリスクを考えてみましょう。
契約が無効になる可能性がある
代表権がなく契約締結権限が与えられていない取締役が契約に押印した場合、その契約が無効とされる可能性があります。会社法上、会社を代表して契約を行う権限は、代表取締役など特定の者に限定されています。
代表権を持たない取締役が押印しても、その契約書は原則として法的な効果を持ちません。契約をしてしまった相手方が保護されない可能性もあり、訴訟などの大きなトラブルに発展するリスクがあります。
代表権を持たない取締役が契約を行う場合、会社内部での承認プロセスを経る、正規の権限者である代表取締役の委任状を得る、契約締結権限を取得するなどのプロセスを経る必要があります。
無権限での契約による信用の低下
無権限で契約を締結したことが発覚すると、取引先などからの信用が低下する恐れがあります。代表権を持たない取締役が契約に関わり押印などを行うということは、会社の内部管理体制に問題があると判断される可能性があります。
このような事態によって取引相手の時間とコストの損失を招き、今後の契約締結やビジネス上の信頼関係にも悪影響をおよぼしかねません。そのため、契約締結時には権限者の確認を行い、社内での適切な手続きに基づいて契約を進めることが、企業の信用維持のために欠かせません。
代表権のない取締役の押印が有効となるケース
代表権のない取締役の押印が有効になるケースは限られていますが、会社の内部規則や承認フローが適切に機能している場合は有効性が認められる場合もあります。
表見代表取締役に該当する
表見代表取締役とは、実際に代表権はないものの代表権を有すると誤解されるような肩書を持つ取締役のことです。社長、副社長、取締役会長、CEO、代表取締役職務代行者などが挙げられます。
会社法第354条では、以下のように定められています。
株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う。
つまり、故意に代表権のない取締役と契約したのではなく、相手が肩書などから代表権のある取締役であると善意で信じた上で結んだ契約であれば、その契約は法律上有効とみなされます。
表見支配人に該当する
表見支配人とは、支店長・所長・営業所長など支配人のような肩書がある人を指します。表見支配人が署名・押印した契約書は通常、契約書としては無効ですが、相手方が表見支配人に権限があると信じていた場合に有効とされます(根拠法:会社法第13条)。
第十三条 会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該本店又は支店の事業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
委任を受けた使用人に該当する
会社法14条1項では、「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。」 と定められています。相手方が過失なく社内規定を知らず、事業判断の権限を有する立場の使用人(従業員)が署名・押印した契約は、代理権の有無を問わずに契約が有効であると認められます。
ただし、署名・押印した者がその業務を担当、処理した経歴がないケース、相手方が悪意を持って(代表権がないと知っていて)故意に契約を結んだケースに該当する場合、契約は無効となり、相手方も契約遂行などの保護は受けられない可能性があります。
代表権のない取締役が契約書に押印する場合の注意点
代表権のない取締役が契約書に押印する際にはいくつかの注意点があります。代表権がない取締役は基本的に契約を締結する権限を持たないため、適切な手続きを踏まないと契約が無効とされる可能性があります。ここからは具体的な注意点について解説します。
契約締結権限を得る
まず、代表権のない取締役が契約書に押印する場合、契約を有効にするために「契約締結権限」を得ることが重要です。通常、契約締結の権限は代表取締役にのみ与えられているため、取締役会の承認や株主総会での決議を経て、契約締結権限を付与することが必要です。
委任状を作成しておく
契約締結権限を付与する場合、委任状の作成も有効な方法です。委任状には代表取締役から対象取締役への具体的な権限の委譲が記載されていることが求められます。委任状があれば取締役が契約を締結する際の信頼性が高まり、相手方にも安心感を与えることができます。
代表権を理解して契約上のリスクを軽減しよう
例え取締役であったとしても、代表権を有していなければ契約書への署名・押印など会社を代表とした行為は認められていません。しかし、実際には会社の業務は広範にわたり代表者が全てに関与するのは難しく、慣例上代表権のない使用人(従業員)が代理として契約書に署名・押印したりすることもあり得るため、例外も認められています。
代表権を持たない者が押印した契約にもう一方の当事者が合意したのが故意でない場合、契約内容は保護されますが、思わぬトラブルを避けるためにも契約を行う際には相手方の名義人が代表権を持っているか確認しましょう。自社で代表権がない者が契約を行う場合は、きちんと対策した上で誤解のないよう相手方に説明することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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