• 更新日 : 2026年10月6日

経理DXの事例とは?中小企業が経費精算から始める進め方

Point経理DXの事例では、何がどう変わった?

経理DXは、紙をデータに置き換えるだけでなく、承認や記帳の流れごと組み替える取り組みです。

  • 経費精算をアプリ化し入力の手間を減らす
  • 請求書データを会計ソフトへ自動で渡す
  • 月次決算を早めて経営判断に数字を回す

一度に全社へ広げず、時間のかかっている業務を1つ選んで試すと定着しやすくなります。

経理DXの事例は、大企業だけのものではありません。従業員数十名規模の会社が、経費精算や請求書処理といった一つの業務から着手し、手入力や転記の削減につなげたケースが公開されています。

経理DX(デジタルトランスフォーメーション)の事例をもとに、ペーパーレス化との違い、中小企業でも進めやすい手順、社内で合意を得る進め方までを整理します。

経理DXとペーパーレス化は何が違う?

経理DXとペーパーレス化の違いは、業務の流れを変えるかどうかにあります。ペーパーレス化は紙をデータに置き換える段階にとどまり、経理DXはそのデータを使って承認や記帳の手順ごと組み替える段階を指します。

中小企業庁は、デジタル化の取組を、デジタルツールを利用した業務環境への移行、デジタル化による業務効率化やデータ分析、さらにビジネスモデルの変革や競争力強化などの段階に分けて整理しています。経理業務においても、単に紙を電子化するだけでなく、業務フローを見直し、データを業務改善や経営判断に活用していくことが重要です。

紙をPDFに変えるだけでは作業時間が減りにくい

請求書や領収書をスキャンしてPDFで保存しても、経理の作業時間はあまり減りません。

承認の回付や会計ソフトへの転記といった手順が、紙のときのまま残るためです。データの置き場所が棚からサーバーに変わっただけ、という状態になりやすくなります。

たとえば、紙の請求書をPDFにしてフォルダへ保管しても、担当者が1件ずつ目視で金額を確認し、会計ソフトに手入力しているケースは珍しくありません。

業務の流れを組み替えるところから経理DXが始まる

経理DXでは、受け取ったデータをそのまま次の工程へ渡せる形に業務の流れを作り替えます。

受領した請求書データをOCR(光学文字認識)で読み取り、クラウド会計ソフトへ自動連携させる。承認はシステム上で完結させ、仕訳は連携されたデータから起票する。こうした手順の組み替えが経理DXにあたります。

両者の違いを整理すると、次のとおりです。

ペーパーレス化は経理DXの入口にはなりますが、ゴールではありません。紙をなくすことよりも、業務の流れを変えることに意識を向けたいところです。

項目 ペーパーレス化 経理DX
ねらい 紙の削減と保管スペースの縮小 業務の流れの見直しと生産性の向上
作業手順 従来のまま 自動化と再設計
データの扱い 保管が中心 分析や経営判断への活用

参照:第5節 デジタル化・DX|中小企業庁

中小企業に経理DXが求められる理由は?

中小企業ほど経理DXの効き目が出やすいのは、法対応にともなう確認作業が増える一方で、人員を増やしにくい状況が重なっているためです。

制度対応を作業として抱え込むか、業務を作り替えるきっかけにするかで、経理担当者の負荷は大きく変わってきます。

電帳法とインボイス対応で確認作業が積み上がっている

電子帳簿保存法(電帳法)とインボイス制度への対応によって、経理の確認作業はむしろ増えています。

注文書・契約書・領収書・請求書などに相当する電子データをやり取りした場合、そのデータは電子のまま保存する必要があります。適格請求書(インボイス)の登録番号の確認も、日常業務に上乗せされました。

国税庁は、電子帳簿保存法にもとづく各種制度を利用することで経理のデジタル化を図れると案内しています。令和7年度の税制改正では、請求書等を帳簿に自動連携する仕組みに対応した制度も新設されました。手作業のまま続けるか、連携の仕組みごと入れ替えるかで、その後の負荷は変わります。

担当者が1人に偏ると業務が止まりやすくなる

経理を1人の担当者に任せきりにしていると、その担当者が不在になったとき業務が止まりやすくなります。

支払いの漏れや月次決算の遅れが起きても、代わりに引き継げる人がいない状態になりがちです。仕訳のルールが担当者の記憶の中だけにあると、引き継ぎ資料も残りません。

クラウド会計やワークフローの仕組みを入れると、申請から承認までの手順がシステム上に記録されます。誰が担当しても同じ流れで処理でき、引き継ぎの負担を下げられるでしょう。

参照:電子帳簿等保存制度特設サイト|国税庁

経理DXの事例にはどんなものがある?

経理DXの事例は、主に経費精算・請求書処理・月次決算といった領域です。いずれも作業量を測りやすく、変化を数字で確かめやすい業務にあたります。

ここでは、公開情報で内容をたどれる事例を取り上げます。

経費精算だけを切り出してExcel管理から抜け出した事例

建築・リノベーション事業を手がけるクジラ株式会社は、経費精算だけをクラウド化し、Excel管理から脱却しました。

従業員数の増加にともない現場での細かな出費や移動が増え、処理する領収書の枚数も大きく変わりました。当時はExcelで管理していたものの、管理が煩雑になり、正確さと効率の両面で限界を感じていたといいます。

会計ソフトは従来から使っている他社製品を継続し、経費精算部分だけを「マネーフォワード クラウド経費」に置き換えました。従業員はスマホアプリからレシートを撮影して申請し、承認済みのデータをCSVで出力して既存の会計ソフトへ取り込む流れです。会計ソフトごと乗り換えずに済んだ点が、決め手になったと語られています。

導入後は経理担当者の負担が軽くなっただけでなく、誰が何にいくら使ったのかを科目ごとに集計し、四半期ごとに社内で共有できるようになりました。数字が見える状態を続けたことで、組織全体の意識も変わったといいます。

参照:クジラ株式会社の導入事例|マネーフォワード クラウド

請求書の受領から仕訳までをつないだ事例

UcarPAC株式会社は、紙とExcelに頼っていた請求書処理をクラウドでつなぎ、仕訳の二重入力をなくしました。

従業員31名、管理部門2名という少数の体制で、経理業務から監査対応までを担っています。以前はオンプレミス型の他社会計システムを使っており、保守切れが迫っていました。

当時は、紙やメールで届いた請求書を印刷してExcelで管理し、会計システムにCSVで取り込める形へ実務担当がマッピングしていたといいます。受領件数は月平均30件程度でも、転記作業に1〜2営業日を要し、証憑の突合も紙から探す必要がありました。

「マネーフォワード クラウド債務支払」と「クラウド会計Plus」を導入し、請求書の受領から支払・仕訳・承認・保管までを一元管理する形に切り替えたところ、実務担当者が行っていた仕訳入力の二重作業が不要になりました。システムを入れ替えても月次決算は従来どおり8営業日で締められており、監査法人にアカウントを発行してリモートでの監査にも対応できるようになっています。

参照:UcarPAC株式会社の導入事例|マネーフォワード クラウド

月次決算の締めを大幅に前倒しした事例

株式会社FOR YOUは、表計算ソフト中心だった経理をクラウドへ移し、月次決算の締めを4分の1程度まで短縮しました。

以前は経費精算や給与計算など経理業務の大部分をスプレッドシートで管理していたため業務が属人化しやすく、データを作成した本人でさえ仕組みや保存場所がわからなくなることが少なくなかったといいます。社員数が40名を超え、限界を感じていました。

クラウド会計・経費・請求書・給与・年末調整をあわせて導入し、その後、上場準備に合わせて仕訳の承認機能を持つ会計Plusへ移行しました。導入前は月次決算の締めまで60日程度かかっていたところ、4分の1程度まで短縮できたと語られています。

承認機能の活用で内部統制が強まり、ミスや決算時の修正も減りました。数値のズレや未回収項目に早く気づけるようになった点も効果に挙げられています。

参照:株式会社FOR YOUの導入事例|マネーフォワード クラウド

経理DXの事例を領域別に整理すると、次のとおりです。

領域 主な取り組み 事例で語られた変化
経費精算 スマホ撮影とクラウド申請 経理担当者の負担軽減と経費の見える化
請求書処理 電子受領と会計ソフトの自動連携 転記作業と仕訳の二重入力の解消
月次決算 クラウド会計と銀行明細の自動連携 締めまでの期間短縮とミスの減少

経理DXの進め方は?スモールスタートの手順

経理DXは、時間のかかっている業務を1つ選んで小さく始める進め方が現実的です。中小企業庁の調査では、DXに向けた取組を進めるにあたっての問題点として「費用の負担が大きい」「DXを推進する人材が足りない」を挙げる事業者の割合が、どの取組段階でも高くなっています。

一度に全社へ広げる前提で考えると、着手そのものが遠のきます。進め方は、次の順で組み立てると迷いにくくなるでしょう。

  • ステップ1:時間のかかっている業務を選ぶ
  • ステップ2:低コストのツールで試す
  • ステップ3:削減できた時間を数値にする
  • ステップ4:対象領域を段階的に広げる

ステップ1:時間のかかっている業務を選ぶ

最初にやることは、経理業務のうち最も時間を使っている作業を洗い出すことです。

経費精算に毎月何時間かけているか、請求書の処理に何日かかっているか。経理担当者に1週間だけ業務日報をつけてもらうだけでも、どこに時間が偏っているかが見えてきます。

中小企業白書でも、社内のボトルネックを特定し、できるところから必要最小限の取組を行う「身の丈DX」で成果を上げた企業が紹介されています。改善する対象を1つに絞ることが、動き出しを早めます。

ステップ2:低コストのツールで試す

対象業務が決まったら、無料の試用期間や月額のクラウドサービスで試験導入します。

いきなり年間契約や大規模なシステムから入る必要はありません。クラウド型のサービスは必要な機能から段階的に導入でき、使い始めてから範囲を広げられます。

費用面では、国の支援策も選択肢に入ります。IT導入補助金は令和8年度から「デジタル化・AI導入補助金」へ名称が変わり、インボイス制度に対応した会計・受発注・決済の機能を持つソフトウェアの導入が支援対象に含まれます。クラウド利用料も最大2年分が補助対象となるため、初期の持ち出しを抑えたい場合に確認しておくとよいでしょう。

ステップ3:削減できた時間を数値にする

試験導入の結果は、作業時間の変化を数値にして残します。

本格導入を判断する材料として、記録しておきたいのは次のような項目です。

  • 導入前後の作業時間の差
  • ミスや差し戻しの発生件数の変化
  • ツールの月額コストと削減できた人件費の比較
  • 実際に操作した担当者や申請者の使い勝手

削減できた時間は、次の式で金額に置き換えると社内で共有しやすくなります。

削減できた時間(月)× 想定時給 = 月あたりの削減額

自社で計測した数値を当てはめると、投資に見合うかどうかを社内の言葉で説明できるようになります。

ステップ4:対象領域を段階的に広げる

1つの業務で効果を確認できたら、次に時間のかかっている業務へ同じ手順を横展開します。

経費精算から請求書処理へ、請求書処理から月次決算へと、範囲を順に広げるイメージです。銀行明細のAPI連携や、定型作業をRPA(ロボットによる業務自動化)で置き換える取り組み、電子契約のような周辺業務への展開も、この段階で検討しやすくなります。

焦って一気に導入すると現場が混乱し、以前のやり方へ戻そうという動きが起きやすくなります。小さな成功体験を積み重ねることが、経理業務のデジタル化を根づかせるコツといえるでしょう。

参照:デジタル化・AI導入補助金制度概要|中小企業基盤整備機構

経理DX事例に学ぶ社内の合意形成の進め方は?

経理DXでつまずきやすいのは、ツール選びよりも社内の合意形成です。中小企業庁の調査でも、DXを進めるうえでの問題点として費用の負担と推進人材の不足が上位に挙がっており、社内をどう巻き込むかが実務上の課題になっています。

経営層と現場では、判断の材料になるものが違います。それぞれに合わせた伝え方を用意しておくと進みやすくなります。

削減できる時間を金額に置き換えて経営層に示す

経営層の判断材料になるのは、作業時間そのものではなく投資に対する見返りです。

「業務を効率化したい」という説明だけでは、承認を得るのは難しいでしょう。経営者が知りたいのは、いくらかけてどれだけ戻ってくるのかという点です。

ステップ3で記録した数値を使い、現状と導入後の見込みを並べた表を用意すると伝わりやすくなります。項目は、対象業務の月間工数、ツールの月額コスト、人件費に換算した削減額で十分です。自社で計測した数値を入れれば、社内の実感と結びついた資料になります。

協力的な部署から先に始めて実感を共有する

現場の抵抗を和らげるには、全社へ一斉に広げず、協力的な部署から先行して始める方法があります。

経営層の承認が得られても、現場から「今のやり方で困っていない」「新しい仕組みを覚える余裕がない」という声が上がることは珍しくありません。長く同じ手順に慣れている人ほど、抵抗感が強い傾向にあります。

先行したメンバーが「使ってみたら楽だった」「月末の残業が減った」と実体験を共有してくれれば、周囲の心理的なハードルは下がります。中小企業白書で紹介された企業の経営者も、最初は社員からの反発が出るものの、結果を出せれば社員の意識も変わってくると語っています。

移行期間として紙の提出も当面は受け付ける、という併用の設計も選択肢になります。3か月ほどの猶予を用意することで、現場が自分のペースで新しい手順に慣れていけます。

参照:第5節 デジタル化・DX|中小企業庁

経理DX事例から見る攻めの経営判断への活かし方は?

経理DXの価値は、作業時間の削減だけでは終わりません。集まったデータを資金繰りや投資判断に回せるかどうかが、次の段階の分かれ目になります。

情報処理推進機構(IPA)が2025年に公表した調査でも、日本企業のDXはコスト削減など内向きの成果に偏りやすく、売上増加といった外向きの成果につながりにくい傾向が示されています。効率化で生まれた余力をどこに向けるかが問われる段階といえるでしょう。

月次決算を早めるとキャッシュフローが見えやすくなる

月次決算が早まるほど、資金の動きに気づくタイミングが前倒しになります。

月次決算の確定が翌月20日という状態では、経営者は1か月半ほど前の数字を見て判断していることになります。締めを翌月上旬まで前倒しできれば、資金が不足しそうな兆しにも早く気づけます。

たとえば、売掛金の回収遅延が起きた場合、翌月上旬に把握できれば、月の前半のうちに取引先への督促や金融機関への相談に動けます。締めが遅いほど対応は後手に回りやすくなります。

蓄積したデータを経費の見直しや投資判断に使う

データがリアルタイムで貯まると、過去の数字と並べた比較がしやすくなります。

経理データの活用先として挙げられるのは、次のような場面です。

  • 月別・部門別の経費推移を見て、無駄なコストを早めに見つける
  • 売上と利益の推移から、決算前の投資や経費計上の判断材料にする
  • 取引先ごとの入金サイクルを分析し、資金繰りの改善につなげる
  • 前年同月比の売上をもとに、仕入れ量や人員配置を検討する

クラウド会計ソフトの多くには、ダッシュボードやレポートを自動で出力する機能が備わっています。分析の専門知識がなくても標準機能でグラフや推移表を確認でき、中小企業でも取り組みやすい環境が整ってきました。

過去を記録する経理から、次の判断を支える経理へ。ここが経理DXで目指したい姿といえるでしょう。

参照:「DX動向2025」日米独比較で探る成果創出の方向性 「内向き・部分最適」から「外向き・全体最適」へ|情報処理推進機構

経理DXの事例に関するよくある質問

経理DXを検討する段階でよく挙がる疑問をまとめました。

経理DXにはどのくらいの費用がかかりますか?

クラウドサービスは月額制が中心で、必要な機能から段階的に導入できる形が一般的です。金額はサービスや利用人数によって変わるため、各サービスの料金ページや料金シミュレーションで確認するのが確実でしょう。デジタル化・AI導入補助金の対象になるソフトウェアもあります。

ITに詳しい担当者がいなくても始められますか?

経費精算のように操作の範囲が限られる業務から始めると、専任の担当者がいなくても運用に乗せやすくなります。事例でも、顧問税理士や導入支援の担当者に相談しながら選定を進めたケースが語られています。

経理DXとERPは何が違いますか?

ERP(統合基幹業務システム)は、会計・販売・人事などの基幹業務を一つの仕組みでまとめて管理する考え方を指します。経理DXは、そのうち経理業務の流れをデジタル前提で作り替える取り組みを指す言葉です。ERPの導入は経理DXを進める手段の一つにあたります。

会計ソフトを入れ替えないと経理DXはできませんか?

入れ替えが必須というわけではありません。クジラ株式会社の事例のように、会計ソフトは従来のまま使い続け、経費精算だけをクラウド化してCSVで連携する形も選べます。

電子帳簿保存法への対応は経理DXに含まれますか?

電子取引データを電子のまま保存することは法令上の義務であり、対応そのものは経理DXの前提にあたります。国税庁も、同法にもとづく各種制度を利用することで経理のデジタル化を図れると案内しています。

経理DXは事例を参考にスモールスタートから

経理DXは、ペーパーレス化と違って業務の流れそのものを組み替えるデジタル変革です。今回の事例では、経費精算だけをクラウド化した企業、請求書の受領から仕訳までをつないだ企業、月次決算の締めを前倒しした企業と、着手した領域は異なっていました。共通するのは、時間のかかっている業務を1つ選び、そこから範囲を広げた点です。

まずは経理業務のうち最も時間を使っている作業を1つ洗い出し、無料の試用期間から試してみてください。削減できた時間を金額に置き換えて記録しておけば、次の領域へ広げるときの説得材料にもなります。

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