• 更新日 : 2026年10月7日

建設DXの事例は?中小企業のICT施工と効果を解説

Point建設DXの事例では何が変わる?

中小規模の建設会社でも、測量・書類・契約のデジタル化から成果が出ています。

  • 3次元測量とICT建機で丁張作業を減らす
  • 遠隔臨場で現場と事務所の往復を省く
  • 電子契約で印紙代と郵送の手間をなくす

全社一斉ではなく、協力を得られる現場から小さく試すと定着しやすくなります。

建設DXの事例は、3次元測量や遠隔臨場、電子契約といった身近な範囲から広がっています。2024年4月に時間外労働の上限規制が建設業にも適用され、限られた人数と時間で工期を守る必要が高まりました。国土交通省はICT活用の事例集を公開しており、売上十数億円規模の会社の取り組みも収録されています。本記事では、中小建設会社が参考にしやすい建設DXの事例と、現場に根づかせる進め方をまとめます。

建設DXが求められる背景は?

建設DX(デジタルトランスフォーメーション)が急がれる背景には、労働時間の制約と担い手の減少があります。2024年6月に成立した改正建設業法でICT活用が努力義務として定められ、制度面の後押しも加わりました。

時間外労働の上限規制が工期の組み立て方を変えた

長時間労働で工期を吸収する進め方は、法律上とりにくくなりました。建設業では上限規制の適用が5年間猶予されていましたが、令和6(2024)年4月から適用されています。

厚生労働省が示す上限は、以下のとおりです。

  • 原則:月45時間・年360時間以内
  • 特別の事情がある場合:年720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計:単月100時間未満
  • 同合計:2〜6か月平均で月80時間以内

災害時の復旧・復興の事業には一部の特例がありますが、通常の工事は原則どおりの扱いです。同じ人数・同じ段取りのまま労働時間だけを削れば、工期は延びます。作業そのものを短くする手立てが求められ、デジタル技術に目が向くようになりました。

出典: 建設業・ドライバー・医師の働き方改革総合サイト|厚生労働省

高齢化と若手不足で1人あたりの生産量が問われている

担い手が減るなかで工事量を保つには、1人あたりの生産量を引き上げる進め方が求められます。国土交通省が総務省「労働力調査」をもとに作成した2024年の年齢構成は、次のとおりです。

区分 建設業 全産業
55歳以上の割合 36.7% 32.4%
29歳以下の割合 11.7% 16.9%

参照:令和6年度 国土交通白書|国土交通省

高齢層が厚く、若年層が薄い構成です。抜けた分を採用だけで埋めるのは簡単ではなく、手作業や紙のやり取りを減らして1人が受け持てる範囲を広げる方向に軸足が移っています。

改正建設業法でICT活用が努力義務になった

特定建設業者と公共工事の受注者には、効率的な現場管理のためのICT活用が努力義務として定められました。令和6年6月に第三次・担い手3法が成立し、これを受けて国土交通省が「情報通信技術を活用した建設工事の適正な施工を確保するための基本的な指針(ICT指針)」を公表しています。

指針で示された努力義務は、次の内容です。

  • 特定建設業者:効率的な現場管理のためのICT活用
  • 公共工事の受注者:同じくICTを活用した現場管理
  • 元請:下請業者のICT活用に対する指導

指針では、経営規模や工種の内容に応じた取り組みが求められるとされています。大規模な投資ができない会社でも、身の丈に合った範囲で進めておく意味は小さくないでしょう。

参照:情報通信技術を活用した建設工事の適正な施工を確保するための基本的な指針|国土交通省

建設DXの現場での事例は?

現場側の建設DX事例は、測量・出来形管理・立会といった、時間はかかるものの付加価値を生みにくい作業から成果が出ています。国土交通省の「ICT事例集」には、売上十数億円規模の会社の取り組みも収録されています。本記事で取り上げる事例の概要は、以下のとおりです。

会社名(所在地) 取り組み 主な効果
熱海建設
(宮城県)
3次元設計データとICT施工で敷均し 巻き出し丁張が2名・4時間から0名・0時間に
北島組
(徳島県)
3Dレーザースキャナーで起工測量から電子納品まで 測量の人員・時間と交通誘導警備員を削減
大日本土木
(岐阜県)
ウェアラブルカメラで段階確認を遠隔化 立会の時間調整に伴う作業の遅延を防止
本間組
(新潟県)
3次元モデルで排砂管の干渉チェック 検討の作業日数が約60%、人員が約70%減

参照:ICT指針に関する事例集(令和7年3月改訂)|国土交通省

3次元設計データ作成とICT施工で測量・丁張作業を減らせる

3次元設計データを建機に読み込ませると、丁張の設置そのものをなくせるケースがあります。宮城県の熱海建設株式会社(売上24億円)は、築堤盛土工事で1層ごとの巻き出し厚さを3次元設計データにし、マシンコントロールを搭載したブルドーザーで敷均しを行いました。

従来は25m間隔で設置していた巻き出し用の丁張がなくなり、仕上がりのばらつきも抑えられています。

株式会社北島組(徳島県):3Dレーザースキャナーで起工測量から電子納品までをデジタル化
  • 同社では技術者に加え、交通誘導警備員の削減にもつながった
若築建設株式会社:LiDAR搭載タブレットで点群を取得し、重機での事前整形を不要に
  • 同社では2人がかりだった測量を1人でこなせるようになった

北島組では、導入前に舗装チームへ操作研修を実施したことが立ち上げを支えました。機器だけでなく、扱う人の準備も成果を分けます。

遠隔臨場で現場と事務所の往復を省ける

ウェアラブルカメラで立会を遠隔化すると、監督職員と現場の双方で移動時間を減らせます。岐阜県の大日本土木株式会社は、橋梁下部工の現場で既製杭の材料確認や掘削完了確認に、ウェアラブルカメラとクラウドを組み合わせた遠隔臨場システムを採用しました。

向いている場面と留意点は、次のとおりです。

区分 内容
効果が出やすい場面 回数が多く1回あたりが短い確認、時間が読みにくい確認
得られる効果 立会の時間調整に伴う作業の遅延防止、監督職員の負担軽減
留意点 密に配筋された箇所はカメラを近づけにくく、立会の時期を早める工夫が要る

北海道の北土建設株式会社(売上40億4,100万円)は、作業員や重機にウェアラブルカメラを取り付け、職長がパソコンやスマートフォンから広い現場を見渡せる体制を整えました。移動が減った分を書類作成に充てられます。

3D図面で施工計画を可視化し協議を早められる

支障物との干渉を3次元で見せると、発注者や関係機関との協議を短縮できます。宮城県の株式会社橋本店(売上175億円)は、仙台市の雨水管布設工事で、ドローン空撮とレーザースキャナーによる点群データから3D図面を作成し、クレーン旋回時に架空線と接触する範囲を可視化しました。

2D図面での説明と比べたときの変化は、次のとおりです。

  • 問題の把握が早まり、工事の早期着手につながった
  • 接触リスクが視覚的に伝わり、安全面でも効果が見込める
  • 発注者や地域住民への説明資料としても使えた

新潟県の株式会社本間組は、排砂管敷設工事で3次元モデルと点群データを重ねて干渉チェックを行い、当初27箇所あった干渉を6箇所まで減らしました。機器の初期費用を除いた経済性でも、従来方法から約20%のコスト縮減が確認されています。

参照:建設業におけるICTの導入・活用に向けた施策について|国土交通省

建設業の事務・バックオフィスの事例は?

事務側の建設DXでは、契約・書類・入退場記録の領域で効果が出ています。作業時間だけでなく、印紙代や郵送費といった経費そのものを減らせる点が特徴です。

電子契約で印紙代と郵送の手間をなくせる

工事請負契約を電子で締結すれば、印紙税はかかりません。国税庁は、印紙税の課税対象となるのは課税物件表に掲げられた文書であり、電磁的記録は文書に含まれないとの考え方を示しています。

電子契約への切り替えで減らせるものは、次のとおりです。

  • 契約金額に応じた収入印紙の代金
  • 封筒代・切手代などの郵送費
  • 返送を待つ日数と押印のための移動

導入前に押さえておく決まりは、以下のとおりです。

確認事項 内容
書面交付の原則 建設業法第19条第1項で定められている
電子契約の根拠 同条第3項。平成13年から設けられている規定
相手方の承諾 建設業法施行令5条の5。事前の取得が必要。承諾は書面でも電磁的方法でも可
技術的要件 建設業法施行規則13条の4。見読性・原本性・本人性の確保

国土交通省は令和7年9月30日に「電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン」を施行し、平成13年策定の旧ガイドラインを廃止しました。サービスを選ぶ際は、新しいガイドラインへの適合を確認しておくとよいでしょう。

書類業務のデジタル化で現場監督の時間を戻せる

現場監督の業務時間の多くを書類作成が占めており、ここを削ると現場管理に時間を回せます。大阪府の株式会社竹延(売上30億5,000万円)が自社の業務を分析したところ、現場監督の業務のうち約55%を書類業務が占めていました。

同社は施工計画書の作成や工事写真の整理を現場から切り出し、サテライトオフィスで複数現場分をまとめて処理する体制に変えました。国土交通省の事例集で報告されている効果は、次のとおりです。

  • 工事写真帳の作成が1時間あたり18枚から25枚に増加
  • 施工計画書の共通部分は作成時間が最大97%削減
  • 見積の対応件数が1か月あたり最大12倍に増加

書類を各現場で個別に作っていると、担当者ごとに品質が揺れます。フォーマットを共通化して集約すると、書類の質もそろいやすくなります。

入退場記録と電子申請で事務作業を減らせる

CCUS(建設キャリアアップシステム)のカードタッチを使うと、就業履歴の記録と建退共の手続きをまとめて電子化できます。CCUSは技能者の情報を業界共通のデータベースに蓄積する仕組みで、2019年4月に本運用が始まりました。

蓄積されるおもな情報は、次のとおりです。

  • 保有資格と講習の受講履歴
  • 社会保険の加入状況
  • いつ・どの現場で・どの立場で働いたかの就業履歴

国土交通省が公表する「建設キャリアアップシステムの利用状況(2026年3月末)」によると、技能者の登録数は約181万人です。ICT指針でも、バックオフィスの取り組みとしてCCUSや建退共電子申請方式、電子契約の活用が挙げられています。

なお電子帳簿保存法により、2024年1月以降にやり取りした電子取引データは電子のまま保存する扱いです。メールやPDFで受け取った請求書を印刷して保管するだけの運用は、原則として認められません。

参照:取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い|国税庁

建設DXを現場に定着させる進め方は?

導入して終わりにせず定着させるには、対象を絞った試行と、現場で相談できる担当者の配置が効きます。国土交通省のICT指針でも、経営規模や工種に応じた段階的な取り組みが想定されています。

単一の作業から始めて範囲を広げる

多機能なツールをいきなり全社展開するより、1つの作業に絞って試すほうが定着しやすくなります。「現場写真をアプリで撮って送る」「日報をスマートフォンで入力する」といった範囲であれば、操作を覚える負担が小さく、効果も見えやすくなります。

株式会社竹中工務店は、ペーパーレス化にあたり作業所での試行をふまえた機能改善と、着工に合わせた説明会を実施し、着工前に合意を形成しました。広げ方は、次のような順序が組みやすいでしょう。

  1. 協力を得られる1〜2現場でトライアル運用する
  2. 出てきた不満や要望を拾い、設定や運用ルールを直す
  3. 同じ工種の現場へ横展開する
  4. 対象の作業を増やし、他の工種にも広げる

現場に相談できる担当者を置く

操作に詰まったとき、その場で聞ける相手がいるかどうかで定着の速さが変わります。ITに詳しい人材である必要はなく、スマートフォン操作に慣れている職長クラスが各現場に1人いれば、周囲への波及が生まれます。

担う内容は、次のようなあたりが中心です。

  • 操作方法の質問にその場で答える
  • 使い方の見本を現場で見せる
  • 改善要望を本社に戻す

メーカーの無料サポートや月1回程度の勉強会を組み合わせると、担当者側の負担も抑えられます。株式会社橋本店のように、3D図面の作成に特化した部署を社内に置いて現場を支える例もあります。

効果を数値で振り返る場をつくる

導入前後の数値を並べて共有すると、次の投資判断がしやすくなります。振り返る指標には、次のようなものが挙げられます。

  • 測量や書類作成にかかった時間
  • 事務所と現場を往復した回数
  • 印紙代や郵送費などの経費
  • 月あたりの残業時間

月1回程度、使われていない機能や現場からの要望を確認する場を設けると、運用が形だけのものになるのを防げます。

参照:ICTの全面的な活用|国土交通省

建設DXに使える補助金や支援制度は?

初期費用の負担は、国の補助金や助成金で軽くできます。ソフトウェアとハードウェアで使う制度が分かれるため、導入したいものがどちらに当たるかを先に整理しておくと選びやすくなります。

制度名 主な対象 所管
デジタル化・AI導入補助金 施工管理アプリ・勤怠管理・電子契約などのITツール 経済産業省 中小企業庁
中小企業省力化投資補助金 ICT建機・3Dレーザースキャナー・GNSS測量機など 経済産業省 中小企業庁
働き方改革推進支援助成金 労働時間の短縮に向けた設備・機器や研修など 厚生労働省

デジタル化・AI導入補助金でソフト導入費を抑えられる

旧IT導入補助金が2026年度から名称を変え、AIを含むITツールの導入費用を補助しています。中小企業庁の案内によると、2026年度の内容は次のとおりです。

  • 補助率:2分の1から5分の4
  • 補助上限額:最大450万円
  • 公募要領の公開:2026年2月27日

施工管理アプリやクラウド勤怠管理、電子契約サービスは対象になりやすい分野です。申請にあたって押さえておきたい条件は、以下のとおりです。

  • 対象は事務局に登録されたITツール
  • IT導入支援事業者との共同申請が必要
  • 交付決定前の発注・契約は対象外

締切は年度内に複数回設定されるため、最新の公募スケジュールは公式サイトで確認しましょう。

機器の導入には省力化投資補助金や助成金を使える

ソフトウェアではなく建設機械や測量機器を導入する場合は、中小企業省力化投資補助金が候補になります。

区分 製品カテゴリの例
登録済み マシンコントロール・マシンガイダンス機能付ショベル、チルトローテータ付ショベルなど
交付申請が可能 地上型3Dレーザースキャナー、GNSS測量機、パワーアシストスーツなど

労働時間の短縮に取り組む中小企業には、厚生労働省の働き方改革推進支援助成金もあります。補助金は申請から交付決定まで時間がかかるため、検討を始めた段階で準備に入ると、繁忙期を避けた計画が組みやすくなります。

参照:デジタル化・AI導入補助金|経済産業省 中小企業庁

建設DXの事例に関するよくある質問

導入を検討する段階でよく挙がる疑問について、公的な情報をもとに整理します。

建設DXの初期費用はどのくらいかかる?

費用はツールの種類によって幅があり、クラウド型のサービスは月額課金から始められるものが中心です。料金プランは改定されることがあるため、各サービスの公式サイトで最新の内容を確認してください。

機器を伴うICT施工は初期費用が大きくなりますが、公共工事では施工者希望型でICT経費が設計変更に反映されます。補助金を使う場合は、交付決定前に契約すると対象外になる点に注意が必要です。

中小規模の会社でもICT施工に取り組める?

国土交通省の事例集には、売上十数億円規模の会社がICT施工に取り組んだ例が収録されています。徳島県の株式会社北島組は、補助金を活用して3Dレーザースキャナーなどを導入し、舗装修繕工事のICT化を実現しました。

国土交通省はICT建設機械等認定制度を運用しており、従来の建設機械に後付けする機器も認定の対象です。

測量にドローンを使うとき、どんな手続きが必要?

機体重量100g以上のドローンは、飛行させる前に国土交通省への機体登録が必要です。2022年6月20日に登録制度が施行され、登録されていない無人航空機は飛行させられません。

求められる対応は、次のとおりです。

  • 国土交通省への機体登録
  • 登録記号の機体への表示
  • リモートID機能の搭載

人口集中地区の上空や夜間、目視外といった飛行では、別途許可・承認の手続きが必要です。測量用の機体は重量があるため、事前の確認を工程に組み込んでおきましょう。

電子契約に切り替えるとき、取引先への確認は必要?

建設工事の請負契約を電子で結ぶには、あらかじめ相手方の承諾を得る必要があります。承諾は書面のほか、電子メールなどの電磁的方法でも取得できます。

無断で切り替えることはできないため、事前の説明と同意の取得を運用に組み込んでおきましょう。下請業者が多い会社では、承諾の取得状況を管理する台帳があると混乱を避けられます。

参照:無人航空機登録ポータルサイト|国土交通省

建設DXの事例を自社の現場と事務に置き換える

建設DXの事例は、3次元測量とICT建機による丁張作業の削減、ウェアラブルカメラを使った遠隔臨場、電子契約による印紙代の削減など、作業単位で切り出せるものが中心です。

国土交通省のICT事例集には売上十数億円規模の会社の取り組みも収録されており、会社の規模だけで取り組みの可否が決まるわけではありません。

まずは自社で時間がかかっている作業を書き出し、近い事例と照らし合わせると、着手する範囲を絞り込みやすくなります。デジタル化・AI導入補助金や省力化投資補助金を組み合わせることで、初期費用の負担も抑えられます。

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