- 更新日 : 2025年8月19日
一人で飲食店を開業できる?必要な資格や資金、運営のコツを解説
一人で飲食店を開業することは、準備と計画を丁寧に進めることで十分に実現できます。しかし、従業員を雇用する場合とは異なる視点で、資格の取得、資金計画、店舗運営の工夫が求められます。
安易な考えで始めると「やめたほうがいい」という状況になりかねません。この記事では、一人で飲食店を開業するために必要な資格や資金、成功に向けた運営のコツ、そしてワンオペ経営の注意点まで、専門的な視点からわかりやすく解説します。
目次
一人で飲食店を開業することは十分に可能か?
一人で飲食店を開業し、運営することは可能です。カウンター席のみのバーやカフェ、テイクアウト専門店など、小さな店舗を一人で切り盛りしているオーナーは少なくありません。
ただし、調理から接客、会計、清掃、発注、経理まで、すべての業務を一人でこなすことになるため、事前の周到な準備と効率的な店舗運営の仕組みづくりが成功の条件といえるでしょう。
一人で開業するメリット
一人で飲食店を開業する大きな利点は、自分の理想とするお店を形にしやすいことでしょう。メニュー構成から内装、接客スタイルまで、すべてを自分の裁量で決められます。
また、人件費がかからないため、損益分岐点が低くなり、利益を確保しやすい構造をつくれます。従業員との人間関係に悩むこともなく、自分のペースで働ける点も魅力と感じる方が多いのではないでしょうか。
一人で開業するデメリット
飲食店のすべてを一人で担うことによる負担の大きさは無視できません。体調を崩してしまったり、怪我をしたりすると、その日からお店を閉めざるを得ず、収入が途絶えるリスクがあります。
また、業務量が多いために長時間労働になりやすい傾向もあります。集客やメニュー開発といった、今後を見据えた活動に時間を割けず、日々の業務に追われてしまうこともあるでしょう。
しかし、週に1日はしっかり休む、営業時間を無理なく設定する、事前に保険に加入して万が一に備えるなど、働き方を工夫することで乗り越えられる部分もあります。また、商工会や同業者とのつながりを持ち、相談できる環境を作っておくことも大きな支えになります。
こうした備えを意識したうえで開業すれば、一人での運営でも継続可能な体制を築くことは十分に可能です。
一人で飲食店を開業するのに必要な資格
一人で飲食店を開業する場合でも、お客様に安全な食を提供し、法令を遵守するために、いくつかの資格取得と行政への届出が必須となります。調理師免許がなくても開業できますが、以下の二つの準備は必ず進めましょう。
食品衛生責任者
飲食店を営業するには、店舗ごとに「食品衛生責任者」を一人置くことが食品衛生法で義務付けられています。オーナー自身がこの資格を取得するのが一般的です。
取得方法は、各都道府県の食品衛生協会が実施する養成講習会を受講することです。講習は1日(約6時間)で、衛生法規、公衆衛生学、食品衛生学などの科目があり、最後に簡単なテストを受ければ取得できます。
栄養士、調理師、製菓衛生師などの資格を持っている場合は、講習会を受けずに食品衛生責任者になることができます。
出典:食品衛生責任者について|一般社団法人東京都食品衛生協会
防火管理者(収容人数による)
店舗の収容人数が30人以上の場合、「防火管理者」の選任が必要です。収容人数は、従業員とお客様の合計です。一人で運営する小さい飲食店でも、客席数によっては該当する可能性があります。
防火管理者は、火災の予防や発生時の被害を最小限に抑えるための責任者です。資格は、店舗の延床面積に応じて甲種(300㎡以上)と乙種(300㎡未満)に分かれており、日本防火・防災協会などが実施する講習を1~2日間受講することで取得できます。
物件の契約前に、所轄の消防署に収容人数と延床面積を伝え、必要かどうかを確認しておくとよいでしょう。
営業許可申請
飲食店の営業を始めるには、保健所に「飲食店営業許可」を申請し、許可を得る必要があります。申請後、保健所の担当者が店舗の施設検査に訪れ、厨房の設備や手洗い場の数、換気の状態などが基準を満たしているかチェックします。
この検査に合格して、はじめて営業が許可されます。内装工事を始める前に、設計図面を持って保健所に事前相談に行くと、手戻りなくスムーズに進められるでしょう。
深夜酒類提供飲食店営業届出(深夜にお酒メインで提供する場合)
営業時間が午前0時以降に及び、主にお酒を提供する飲食店を営業する場合には、「深夜酒類提供飲食店営業届出」が必要です。対象となるのは、バーやスナック、深夜営業の居酒屋などです。
この届出は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(いわゆる風営法)に基づくもので、管轄の警察署に提出します。申請後、約10日で届出完了とされ、営業が可能になります。
店内の照明の明るさや騒音レベル、18歳未満の立ち入り禁止の徹底など、営業にあたって守るべき基準も定められています。
該当するかどうか不明な場合は、事前に営業予定地の警察署生活安全課へ相談しておくと安心です。
その他の届け出
開業後には税務署への「個人事業の開業届」が必要です。また、地域によっては「深夜営業届」や「防火対象物使用開始届」なども求められます。必要な書類は店舗の所在地域によって異なるため、開業予定地の自治体や消防署への確認が欠かせません。
一人で飲食店を開業するのに向いている店舗スタイル
一人で飲食店を開業するなら、動線が短くシンプルな業務が向いています。
一人で切り盛りするため、調理・接客・会計を無理なくこなせる店舗設計が求められます。広さやメニュー、客単価などのバランスをとりながら、自身のスキルや体力と照らし合わせて最適なスタイルを選びましょう。
カウンター中心の小型飲食店
カウンター形式の店舗は、一人営業と相性のよいスタイルです。厨房と接客エリアが近いため、移動が少なく、料理の提供やお会計もスムーズに対応できます。とくに定食屋、ラーメン店、立ち飲みスタンドなどは、一人営業の成功事例も多く見られます。
また、席数を絞ることで仕込みや片付けの手間を抑えられるため、日々の業務の負担も軽減できます。
テイクアウト・デリバリー特化型
テイクアウト専門店やゴーストレストラン(実店舗を持たずデリバリーに特化した営業形態)は、一人開業との相性が良好です。店内スペースを必要としないため、物件取得費や内装工事費が抑えられる上、接客業務も最小限で済みます。
たとえば、からあげ専門店、カレー、スイーツ販売などは少人数運営がしやすく、原価や作業工程を管理しやすい点もメリットです。
小規模なカフェやベーカリー
カフェやパン屋も、商品数を絞り、営業時間を短めに設定すれば一人営業が可能です。焼き菓子・ドリップコーヒー・サンドイッチなど、簡易な仕込みで提供できるメニュー構成にすることで、朝の仕入れや仕込み負担を抑えつつ、接客にも集中しやすくなります。
ただし、朝の仕込み時間が長くなる業態(例:クロワッサンを1から焼くパン屋など)は、一人営業に向かない可能性もあります。
一人で飲食店を開業するためのメニュー設計
一人で飲食店を開業するなら、メニュー数は絞りましょう。仕込みや洗い物の手間、ピーク時の調理スピードを考慮し、戦略的に構成することが求められます。
メニューは「少数精鋭」で構成する
提供する料理は3〜5品程度に抑え、主力メニューを明確にしましょう。定食屋であれば「日替わり定食」と「丼もの」、ラーメン店であれば「醤油・味噌・塩」といった基本の味で十分です。
同じ食材を使い回せるようにすることで、仕入れ管理や在庫ロスを減らせます。これは食材の保存スペースが限られる小さな厨房ではとくに重要なポイントです。
調理の効率化を意識した構成にする
フライパンを複数使う、都度焼く、揚げるといった手間がかかるメニューは、ピーク時に混乱の原因になります。仕込みである程度完成形に近づけておき、注文後は温めて盛り付けるだけにするなどの工夫で、スムーズなオペレーションが可能になります。
また、冷凍保存や下処理済みの食材を一部活用するのも有効です。衛生管理を徹底すれば、無理なく品質を保てます。
客単価と回転率を意識する
一人営業では一度に多くの客をさばくことは難しいため、単価設定と滞在時間のバランスが大切です。提供時間が短いメニューは回転率が上がり、結果的に収益も安定しやすくなります。
また、
ドリンクやサイドメニューで追加注文を促す、セットメニューを導入するなど、客単価を意識した設計も一つの方法です。
一人で飲食店を開業するための資金計画の目安
一人で飲食店を始める場合でも、物件取得や設備費、仕入れなどに一定の資金はかかります。小規模店舗であっても500万円〜1,000万円程度を見込むのが一般的です。資金の見積もりが甘いと、開業後の経営を早期に圧迫する可能性があるため、慎重に計画しましょう。
とくに物件取得費は立地や状態により大きく差が出ます。初期費用を抑えるには、内装や設備がそのまま使える「居抜き物件」も検討の価値があります。
日本政策金融公庫の調査によると、飲食店を含む全業種の開業費用のうち、500万円~1,000万円未満の割合が3割以上を占めており、開業費用の平均値は985万円、中央値は580万円です。
以下の表の金額はあくまで一般的な目安として捉え、自身の計画に合わせて詳細な見積もりを作成しましょう。
開業資金の内訳と費用の目安(5〜10坪の例)
費目 | 内容 | 目安 (5~10坪程度の店舗) |
---|---|---|
物件取得費 | 保証金(敷金)、礼金、仲介手数料、前家賃など。 家賃の6~12か月分が一般的。 | 100万円~300万円 |
内外装工事費 | 設計デザイン費、壁・床・天井の工事、電気・ガス・水道・換気工事など。 居抜き物件かスケルトン物件かで大きく変動。 | 150万円~500万円 |
厨房設備費 | 冷蔵庫、コールドテーブル、製氷機、フライヤー、コンロ、シンク、調理器具など。新品か中古かで変動。 | 100万円~300万円 |
その他備品費 | 食器、テーブル、椅子、レジ、BGM機器、ユニフォームなど。 | 30万円~100万円 |
広告宣伝費 | ショップカード、チラシ、ウェブサイト作成、オープン告知など。 | 10万円~50万円 |
合計(初期投資) | 約500万円~1,200万円 |
運転資金も忘れずに準備する
開業してすぐに安定収益が得られるとは限りません。家賃や仕入れ、光熱費などの固定費に加え、最低でも3〜6か月分の運転資金を確保しておきましょう。自身の生活費も含めて余裕を持たせると安心です。
資金が足りないときの調達手段
自己資金だけで足りない場合は、外部からの資金調達を検討します。いずれの資金調達方法を利用するにせよ、説得力のある「事業計画書」の作成が必要です。事業計画書は、お店のコンセプト、ターゲット顧客、市場の分析、売上や利益の予測、そして借りた資金をどのように使って、どうやって返済していくのかという道筋を示す、事業の設計図にあたります。
日本政策金融公庫
政府系の金融機関で、これから創業する人や中小企業向けの融資制度が充実しています。「新規開業資金」や「女性、若者/シニア起業家支援資金」など、比較的低い金利で借り入れができる可能性があります。事業計画書の提出が必須です。
制度融資
地方自治体、信用保証協会、金融機関が連携して行う融資です。自治体が利子の一部を負担してくれるなど、有利な条件で借りられる場合があります。お住まいの地域の役所や商工会議所で情報を得られます。
補助金・助成金
国や地方自治体が提供する、返済不要の資金です。「小規模事業者持続化補助金」や「創業助成金」など、さまざまな種類があります。公募期間や条件が細かく定められているため、常に最新の情報をチェックすることが大切です。
一人で飲食店を開業する流れと手順
一人で飲食店を開業するまでは約3か月から6か月の準備期間が必要です。計画的な準備が必要です。
事業計画の策定とコンセプト決定
まず、どのような店舗にするかコンセプトを明確にしましょう。ターゲット客層、提供する料理、価格帯、営業時間などを具体的に決めることで、その後の準備がスムーズに進みます。簡単な事業計画書を作成し、売上予測や収支計画も立てておくと、融資の申し込み時にも役立ちます。
物件選びと契約
立地は売上に直結するため、慎重に選びましょう。一人経営の場合、あまり広すぎる物件は管理が大変になります。10坪から20坪程度の物件が適しているでしょう。契約前には必ず現地を複数回訪問し、平日・休日、昼・夜の人通りを確認することが大切です。
内装工事と設備導入
保健所の基準を満たす厨房設備の設置が必要です。手洗い設備、冷蔵・冷凍設備、換気設備などは必須となります。工事業者とは事前に十分な打ち合わせを行い、予算内で必要な設備を整えましょう。この段階で保健所の事前相談も受けておくと安心です。
各種許可申請と開業準備
営業許可の申請、食品衛生責任者の講習受講、開業届の提出などを順序よく進めます。同時に、メニューの最終決定、仕入れ先の確保、宣伝・広告の準備も行いましょう。開業前には必ず試営業を行い、オペレーションの確認と調整を済ませておくことが重要です。
一人での飲食店開業に必要な保険
一人で飲食店を開業する場合、万が一の事態に備えて適切な保険に加入しておきます。会社員と異なり、公的な保障が手薄になる個人事業主だからこそ、リスクを正しく理解し、民間の保険で備える必要があります。
とくに検討すべき主要な保険は以下の3つです。
お客様や第三者への賠償に備える保険(賠償責任保険)
飲食店では、お客様に損害を与えてしまうリスクが伴います。高額な損害賠償請求に発展するケースもあるため、必ず加入すべき保険です。
- 生産物賠償責任保険(PL保険)
提供した飲食物が原因で、お客様が食中毒になったり、異物混入で口の中を怪我したりした場合の治療費や慰謝料などを補償します。PL法(製造物責任法)により、過失がなくても事業者が責任を問われる可能性があるため、飲食店にとって生命線ともいえる保険です。 - 施設賠償責任保険
店舗の施設や設備が原因でお客様に損害を与えた場合に適用されます。たとえば、「雨の日に床が濡れていてお客様が転倒し骨折した」「店員が熱いスープをこぼしてお客様に火傷を負わせた」「お店の看板が落下して通行人に怪我をさせた」といったケースが対象です。
店舗や設備への損害に備える保険(火災保険)
火を扱う飲食店にとって、火災のリスクは避けられません。賃貸物件の場合、契約時に火災保険への加入が義務付けられていることがほとんどです。
- 火災保険(店舗総合保険)
火災だけでなく、落雷、ガス爆発、台風などの自然災害、水漏れ、盗難など、店舗や厨房設備、什器(じゅうき)が受けたさまざまな損害を補償します。 - 店舗休業補償(特約)
とくに一人で運営する場合に重要なのが、火災や食中毒による営業停止など、不測の事態で店を休業せざるを得なくなった間の「売上減少」や「家賃などの固定費」を補償する特約です。休業中も支払いは続くため、この補償があるかないかで、事業を再開できるかどうかが決まることもあります。
自身の就業不能に備える保険(所得補償保険など)
一人開業で最も警戒すべきリスクが、オーナー自身が病気や怪我で働けなくなることです。働けなくなったその日から収入はゼロになりますが、家賃や自身の生活費の支払いは待ってくれません。
所得補償保険・就業不能保険
病気や怪我で長期間働けなくなった場合に、毎月一定額の給付金を受け取れる保険です。収入が途絶えた間の生活費や事業の固定費を支えるための備えとなります。
これらの保険は、飲食店向けに必要な補償がセットになったパッケージプランで提供されていることもあります。複数の保険会社のプランを比較し、ご自身の店舗規模やリスクに合わせて、過不足のない補償内容を選ぶことが大切です。保険代理店などの専門家に相談し、具体的な見積もりを取ることをおすすめします。
一人で飲食店開業をするには、事前の計画が不可欠
一人で飲食店を開業するには、資格の取得や資金の確保だけでなく、長時間労働や体調不良など、特有のリスクを想定した運営設計が必要です。調理から接客、会計まですべてを一人で切り盛りするため、無理のない営業時間やメニュー構成にしましょう。
丁寧な準備と柔軟な視点で、開業後の運営を見据えることが欠かせません。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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