- 更新日 : 2025年10月6日
障害者への退職勧奨は違法になる?認められるケースやポイントを解説
本記事では、障害者への退職勧奨の違法性について解説します。
まずは、退職勧奨が解雇とどう違うのか、基本的な概念を明確にしていきます。さらに、障害のある従業員への退職勧奨が法的に問題ないのかどうか、違法性について、重要なポイントや注意点を網羅的に解説。
どのような状況で退職勧奨を行うべきか、具体的な実施の流れについても詳しく説明するので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
障害者に対する退職勧奨は違法になるケースがある
本項では、退職勧奨の基本的な概念と、解雇との違いについて解説します。
とくに焦点を当てるのは、障害のある従業員への退職勧奨が法的に許されるのかという点です。障害者に対する退職勧奨が違法となるケースや、実施する際の重要なポイント、注意点を網羅的に説明します。
障害者に対する差別的な退職勧奨は違法
障害者に対する退職勧奨が差別的である場合、障害者雇用促進法に違反する可能性が高いといえます。
とくに、以下のような行為は違法性が高いとされます。
- 労働能力などの評価にもとづかず、障害者であるという理由だけで退職勧奨を行う
- 健常者は成績下位者のみを対象とする一方、障害者は平均以下の者も対象とする
- 複数の対象者がいる場合に、障害者であることのみを理由に優先して退職勧奨を行う
基本的に、健常者と同じように退職勧奨を進めます。
障害者に対する退職勧奨が認められる場合
障害者に対する退職勧奨は、必ずしも全面的に禁止されるものではありません。健常者を含めた全従業員の労働能力などを公正に評価した結果、障害者が退職勧奨の対象となる場合も認められます。
たとえば、障害の特性に応じた合理的配慮を十分に行ったにもかかわらず、無断欠勤が続き改善の見込みがない場合などには、障害者に対して退職勧奨を行うことも可能です。
障害者に対して退職勧奨しても問題ないケース
本項では、障害者に対する退職勧奨が必ずしも禁止されるわけではないことを前提に、どのような状況で実施が適切とされるかを解説します。
具体的には、合理的配慮を行ったうえで改善が見込めない場合などです。退職勧奨が許容されるケースについて、整理しました。
1. 勤務態度に問題がある
上司の指示に従わない、仕事中に居眠りや遅刻、欠勤を繰り返すなど、問題行動の多い従業員に対しては退職勧奨が検討される場合があります。
障害者に対しても、注意や指導、軽い懲戒処分を繰り返して改善が見られない場合には、同様に退職勧奨を実施することが可能です。ただし、会社側が従業員をすぐに解雇できるわけではありません。
2. ほかの従業員とのトラブルが頻発する
どの職場でも、ほかの従業員と協力して業務を遂行する能力が必要です。しかし、協調性が不足し周囲とのトラブルが絶えない場合は、退職勧奨の対象となり得ます。
たとえば、部下へのパワハラやセクハラなども該当します。
障害者に対しては、まず注意や指導を十分に行い、自身の問題点を認識させたうえで、退職勧奨を検討することが適切です。
3. 能力が不足している
業務上のミスの多発や顧客からの苦情、営業成績の低迷などを理由に退職勧奨が行われる場合があります。
たとえば、職務経験や資格から一定の技能や教育的役割を期待して雇用したにもかかわらず、役割を果たせず、指導を重ねても業務水準に達しない場合などです。
また、統合失調症やうつ病、適応障害などの既往がある従業員は、再発により業務に支障が出たり、ほかの従業員とのコミュニケーションが困難になったりすることもあります。
4. 企業との信頼関係が構築できない
機密情報の不正持ち出しや就業規則違反、上司や経営陣への誹謗中傷など、雇用関係に必要な信頼が失われた場合には退職勧奨が検討されます。
横領や経歴詐称、名誉毀損などの犯罪行為も同様です。
損害が小さい場合であっても、信頼関係の維持が困難であることから、多くの場合、会社は従業員に退職を求める判断を行います。
5. 企業の経営状況が悪化した
会社の経営状況の悪化や不採算部門の廃止、事業内容の変更などに伴い、人員整理の一環として退職勧奨が行われることがあります。こうしたケースでは、整理解雇の前段階として退職勧奨を実施するのが一般的です。
また、人件費削減の観点から、障害者に限らず幅広い従業員に対して勧奨が行われる傾向があります。
障害者に対して診断結果を求める場合の注意点
本項では、障害者に診断結果の提出を求める際の注意点について解説します。
事業主が障害者に対して、障害の症状や程度に関する報告を義務の履行の範囲内で求めることは問題ありません。しかし、退職勧奨の判断材料とする目的で報告を求めることは認められず、違法行為となるため注意が必要です。
適切な範囲で情報を取得する重要性について、整理して解説します。
利用目的を伝える
障害の有無や症状に関する情報は「要配慮個人情報」とされ、個人情報保護法にもとづき利用目的の明確化が求められます。
原則として、法令にもとづく場合などを除き、目的外での利用は禁止されています。
たとえば、障害者雇用促進法の手続きのために取得した情報を、退職勧奨の対象者選定に使用することは目的外利用となり、個人情報保護法に違反する行為です。
個別に診断結果の提出を要求しない
障害者雇用促進法にもとづく手続きのためでも、障害をもつと思われる従業員に個別に症状や程度の報告を求めることは適切ではありません。
不当なプレッシャーを与えたり、報告義務の誤解を招いたりするおそれがあるためです。
原則として、採用後の障害把握は全従業員に申告を呼びかける方法が望ましいでしょう。例外的に、従業員が自発的に公的制度や社内制度の利用を申し出た場合には、個別の報告を指示することが可能です。
従業員が報告を拒否した場合は尊重する
要配慮個人情報は、法令にもとづく場合などを除き、事前に本人の同意を得ずに取得することが禁止されています。したがって、企業が障害の有無や症状について報告を求めても、従業員にはそれに応じる義務はありません。
障害者本人が情報を開示したくない場合は、報告を拒否することもあり得ます。この点を理解したうえで、適切な対応が求められます。
(適正な取得)
第二十条 個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない。
2 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない。
障害者に対して退職勧奨を実施する流れ
本項では、障害者に対して退職勧奨を行う際の具体的な手順や流れについて解説します。適法かつ適切な対応を行うために、注意すべきポイントや段階的な進め方を整理し、実務で参考となる情報をまとめました。
1. 退職勧奨を実施するかどうか社内で検討する
退職勧奨を行う際は、まず対象となる従業員について、会社の幹部や直属の上司から意見を聞き、実施方針を社内で共有して理解を得ておくことが重要です。
これにより、退職勧奨が特定の個人の判断ではなく、会社全体としての方針であることを従業員に明確に示せます。
社内で統一した対応を取ることが、適正な手続きの実施につながります。
2. 対象となる従業員と話す機会を設ける
退職勧奨では、対象従業員を個別に呼び出して面談の機会を設けることが重要です。
会議室などの個室で実施するのが望ましく、ほかの従業員がいる場で行うと名誉毀損につながる可能性があるため注意が必要です。
とくに障害をもつ従業員に対しては、心理的負担を考慮し、配慮した対応を心がけるとよいでしょう。
3. 従業員に退職してほしい旨を伝える
退職勧奨では、対象従業員に会社として退職を希望する旨を伝えますが、あくまで「お願い」の形で行う必要があります。そのため、威圧的な態度は避けるべきです。
面談を進める際は、机をたたいたり大声を出したり、業務時間外に呼んだりするのは控えましょう。従業員が拒否しているにもかかわらず、長時間にわたる退職勧奨を実施するなどもNGです。
とくに障害者に対しては、狭い個室で複数人同席させるなど、圧迫感を与える行為を避けることが重要です。心理的配慮を徹底して進めます。
4. 退職勧奨についての検討を促す
退職勧奨に対する回答を、面談の場ですぐに求めることは、強引な印象を与えるため避けましょう。
従業員には、十分な検討時間を確保します。とくに、家族を扶養している場合は、家族と相談する必要も考慮しましょう。
会社の意向を伝えた後は、改めて面談日を設定し、その期日までに回答を検討するよう促すことで、適切かつ配慮ある対応が可能となります。
5. 退職する時期や処遇などを決める
従業員が条件次第で退職に応じる意向を示した場合は、退職時期や有給取得、退職金などについて具体的に調整します。
とくに、退職による生活面の不安が合意の阻害要因となっている場合には、退職に同意する条件として一定の退職金や解決金の支給を検討するのも有効です。こうした対応により、従業員の不安を軽減しつつ、円滑に退職勧奨を進めることが可能となります。
6. 従業員から退職届を受け取る
退職勧奨の結果、退職の合意に至った場合は、必ず従業員から退職届を提出してもらうことが重要です。
退職届は、従業員が自発的に退職に同意したことを示すものであり、解雇ではないことの証拠として法的にも重要な意味をもちます。
そのため、円滑な手続きのために必ず取得する必要があります。
障害者の退職勧奨に関するよくある質問
本項では、障害者に対する退職勧奨に関して、企業や従業員から寄せられるよくある質問を整理し、適切な対応方法や注意点を解説します。
障害者雇用で解雇することは可能ですか?
障害者を解雇する場合でも、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当であると認められる場合に限り許されます。
障害者雇用促進法では、障害を理由とした解雇は一切禁止されています。そのため、障害の有無にもとづく不当な解雇は法律違反です。
障害者の解雇を検討する際は、法的制限を十分に理解したうえで慎重に判断する必要があります。
障害者の退職勧奨で言ってはいけないことはありますか?
障害者への退職勧奨では、社員を侮辱的・差別的な発言、退職を強制するような言葉、解雇を示唆する発言などは避ける必要があります。
たとえば「退職しなければ懲戒解雇」「他の社員の迷惑」「給料泥棒」「今すぐ退職届を書け」といった発言は、不適切です。
退職するかどうかの最終判断は、あくまで従業員自身にあることを尊重しましょう。
障害者雇用では何年まで働けますか?
障害者雇用であっても、一般の雇用と同様に無期転換ルール(通称「5年ルール」)が適用されます。
有期契約で採用された場合でも、契約更新を重ねて通算5年を超えた時点で、労働者は無期雇用に転換する権利をもちます。
この制度により、障害者も安定した雇用形態を確保でき、長期的な雇用継続が可能です。雇用管理上、契約期間や更新状況の把握が重要となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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