• 更新日 : 2025年6月19日

従業員が退職する際の雇用保険の手続きとは?雇用保険以外の手続きも解説

従業員が退職する場合、会社側で雇用保険に関する手続きを行う必要があります。雇用保険の手続きを行わないと、従業員が退職した後に失業給付を受給できなくなる可能性があります。

しかし、具体的にどのような手続きを行うべきかわからず、困っている総務担当の方もいらっしゃるかもしれません。

本記事では、従業員が退職する際に会社が行う雇用保険の手続きを解説します。また、雇用保険以外で必要な手続きも解説します。

従業員が退職する際の雇用保険手続きの流れ

雇用保険は、労働者の生活や雇用の安定、就職の促進を目的とした国の制度です。労働者が失業した際は、雇用保険制度によって失業保険が支給されます。労働者が失業保険を受け取るには、退職時に会社側で所定の手続きが必要です。

ここからは、従業員が退職する際の、雇用保険に関する手続きの流れを解説します。

1. 退職届を受理する

従業員は会社に退職届を提出することで、正式に退職の意思を表明します。退職届を受理してから、退職に関する雇用保険の手続きを始めましょう。

なお、民法では、退職の意思は退職日の14日前までに表明しなければならないと定めています。仮に従業員が希望する退職日が、退職届を提出してから14日未満の場合、会社が合意しない限りは従業員が希望する日に退職することはできません。

退職に関する雇用保険の手続きでは、複数の書類を準備する可能性があります。余裕を持って手続きを進められるように、従業員には退職日の14日前までに退職届を出してもらうよう呼びかけましょう。

2. 雇用保険被保険者資格喪失届を準備する

雇用保険被保険者資格喪失届は、従業員の退職に伴い、雇用保険の被保険者資格を喪失したことをハローワークに届け出る書類です。従業員が退職する際は、雇用保険被保険者資格喪失届を提出する必要があります。

雇用保険被保険者資格喪失届は、ハローワークのインターネットサービスからPDFファイルをダウンロードし、印刷することで使用できます。印刷したら、退職者の氏名や被保険者番号、被保険者資格の喪失理由などを正確に記入してください。記入にあたって不明点があれば、必ず管轄のハローワークに確認しましょう。

3. その他、必要な書類を準備する

従業員が退職する場合、雇用保険被保険者資格喪失届のほかにも、状況に応じて以下の書類が必要な可能性があります。

書類名説明
雇用保険被保険者離職証明書離職票を発行してもらうためにハローワークに提出する書類
離職日以前の賃金支払い状況が確認できる資料雇用保険被保険者離職証明書と一緒に提出するもので、賃金台帳・出勤簿・労働者名簿などを指す
離職理由が確認できる資料雇用保険被保険者離職証明書と一緒に提出するもので、退職届・労働契約書・解雇予告通知書などを指す
外国人雇用状況届出書外国人の従業員が退職する場合に提出する書類。雇用保険の資格の有無に関わらず提出が必要

離職票は失業保険の申請に必要な書類で、従業員からの希望に応じて交付します。従業員が離職票の交付を希望する場合は、雇用保険被保険者離職証明書や各種資料が追加で必要なため、スケジュールに余裕を持って準備しましょう。

4. ハローワークに書類を提出する

従業員が退職した後に、手順2や手順3で準備した書類を、事業所の所在地を管轄するハローワークへ提出します。提出期限は、従業員が雇用保険の資格を喪失した日の翌日(退職日の翌々日)から10日以内であるため、早めに対応しましょう。提出方法としては、ハローワークへの持参のほか、郵送やe-Govによる電子申請も可能です。

期限内に書類を提出しない場合、雇用保険法に違反したとみなされ、6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金を科される可能性があるため注意しましょう。

5. 従業員に離職票を送付する

ハローワークに離職証明書を提出すると、おおよそ1週間前後で離職票が交付されます。交付されたら速やかに従業員に郵送するか、可能であれば直接手渡しするようにしましょう。

離職票は、従業員が失業保険を申請するために大切な書類です。離職票の送付が遅れてしまうと、従業員が失業保険を受給できる日も後ろ倒しになり、従業員の生活に支障をきたす可能性があります。そのため、離職票が交付されたら、従業員への送付が遅れないように迅速に対応しましょう。

従業員自身で行う雇用保険の手続き

従業員が失業保険の受給を希望する場合、会社から離職票を受け取った後、自身で失業保険の申請が必要です。失業保険を受給する流れを会社があらかじめ説明することで、従業員は安心して失業保険の申請手続きができます。

ここからは、従業員自身が行う雇用保険の手続きを解説します。総務部の方は自分で説明できるように、内容を確認しておきましょう。

1. ハローワークで失業保険の申請を行う

会社から離職票を渡されたら、従業員は自身の住所地を管轄するハローワークへ行き、失業保険を申請します。失業保険を申請する際は、離職票以外に以下の書類が必要です。

  • 申請を行う本人の写真(縦3cm、横2.4cmのものを2枚)
  • 個人番号および身元情報が確認できる書類(マイナンバーカードや運転免許証など)
  • 従業員自身の名義の通帳

失業保険を受け取るには、原則として離職前の2年間に12ヶ月以上の被保険者期間(雇用保険に加入していた期間)が必要です。失業保険の申請時に被保険者期間の確認が行われ、受給資格を満たすと判断されると、次のステップへ進みます。

また、申請時に渡される「雇用保険受給資格者のしおり」は、後の手順で必要になるため、大切に保管するように伝えましょう。

2. 待期期間を過ごす

失業保険を受給するには、受給資格が決定してから7日間の待期期間を過ごす必要があります。待期期間は失業の状態にあるかどうかを確認するための期間で、アルバイトやパートを含めた就労が制限されています。期間中に労働による賃金を得てしまうと、待期期間が延長されるため注意が必要です。

待期期間が終了した後は、短時間であれば就労できる可能性があります。退職する際は最低でも待期期間分の生活費を確保する必要があります。

3. 雇用保険受給説明会に参加する

雇用保険受給説明会では、失業保険の受給に関する重要事項や、今後の手続きに関する説明を受けます。また、失業保険の受給に必要な「雇用保険受給資格者証」や「失業認定申告書」を渡されるため、雇用保険受給説明会への参加は必須です。説明会の日程は失業保険を申請したときに知らされるため、忘れずにメモするよう伝えましょう。

なお、雇用保険受給説明会へ行くときは、筆記用具と「雇用保険受給資格者のしおり」を持参します。

4. 失業認定日に失業認定を受ける

雇用保険受給説明会に参加した後は、指定された失業認定日にハローワークへ向かいます。ハローワークでは、失業認定申告書に求職活動の状況や就労状況などを記入し、雇用保険受給資格者証とともに提出します。失業認定申告書の記載内容から、給付の受給資格を満たしていると判断されれば、数日後に失業給付が振り込まれる流れです。

失業認定日は原則として4週間に一度の間隔で設定され、失業認定を受けた際に、次の認定日が指定されます。

なお、会社を自己都合で退職した場合、原則として待期期間満了後の1ヶ月間は給付制限期間とされています。給付制限期間中は失業認定を受けても給付を受給できないため、退職する従業員に伝えておきましょう。

退職した従業員の雇用保険以外の手続き

退職した従業員についての手続きは、雇用保険に関するもの以外にも存在します。ここからは、退職した従業員の雇用保険以外の手続きを解説します。

健康保険証の回収

退職者は、退職日をもって会社の健康保険の被保険者資格を失うため、会社の健康保険証は使用できなくなります。そのため、退職者本人と被扶養者の健康保険証は、退職する日までに会社側で回収する必要があります。

回収した健康保険証は、従業員が退職した日の翌日から5日以内に、事業所を管轄する年金事務所へ提出しましょう。従業員が健康保険証の返却を忘れており、年金事務所へ保険証を提出できない場合は、代わりに「健康保険被保険者証回収不能届」を提出します。

健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届の提出

従業員が会社で勤務している間は、健康保険や厚生年金保険などの社会保険に加入していますが、会社を辞める際に脱退します。従業員が会社を辞める場合、健康保険・厚生年金保険の資格喪失の手続きとして「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」の提出が必要です。

健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届には、事業所や従業員の情報を記入し、事業所を管轄する年金事務所へ提出します。提出期限は従業員が退職した日の翌日から5日以内であるため、従業員の健康保険証とあわせて提出すると効率的です。

なお、健康保険組合に加入している会社で従業員が退職する場合は、年金事務所と健康保険組合の2か所に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出します。

住民税の手続き

会社が退職者の給与から住民税の徴収を行っていた場合は「給与支払報告に係る給与所得異動届書」の提出が必要です。提出先は従業員が居住する市区町村で、退職日の翌月10日までに提出します。

「給与支払報告に係る給与所得異動届書」の提出を怠ると、市区町村から会社宛てに住民税の督促状が届く可能性があります。従業員の氏名や特別徴収税額など、記載する内容は多岐にわたるため、余裕を持って準備しましょう。

源泉徴収票の発行

源泉徴収票は、その年の1月1日から退職する日までに支払われた給料・賞与の総額や、源泉徴収した所得税額などを記載した書類です。

所得税法では、従業員が退職する場合、退職の日以後1ヶ月以内に源泉徴収票を本人へ交付することが定められています。期限までに源泉徴収票を発行しないと、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

発行しないことで会社に罰則が科されるだけでなく、退職者の年末調整確定申告ができなくなるため、確実に対応しましょう。

従業員の退職手続きに関する注意点

ここからは、従業員の退職手続きに関する注意点を解説します。

退職した従業員情報は一定期間保管する

労働基準法では、労働者名簿・雇用契約書・解雇通知書など、労働関係の情報が記載された重要書類の保管義務を定めています。保管期間は原則として5年間(当分の間は3年間)とされているため、従業員が退職した際に、該当者の書類をすぐに破棄しないようにしましょう。

また、ほかにも保管期間が定められている書類が多数あります。例を挙げると以下の通りです。

書類名保管期間
雇用保険の被保険者に関する書類4年
健康保険・厚生年金保険に関する書類2年
賃金台帳7年
源泉徴収簿7年

それぞれの書類の保管期間をきちんと把握し、大切に保存しましょう。会社内のスペースの都合上、紙のまま保管することが難しい場合は、電子データでの管理を検討するのも一つの方法です。

従業員への貸与品を漏れなく回収する

従業員が退職する際は、社員証や名刺、制服などの貸与品を忘れずに回収しましょう。貸与品の回収が漏れてしまうと、新しい備品を購入する必要があるため、余計なコストが発生します。社員証や名刺に関しては、退職した従業員が持っていると情報漏洩につながるリスクもあるため、忘れずに回収しましょう。

従業員の退職が決まった際に貸与品リストを作成することで、回収漏れがないかを確認しやすくなります。返却が確認できない場合は従業員に督促を行い、退職する前に返してもらいましょう。

外国人の従業員には、自身が行う手続きをより丁寧に説明する

外国人の従業員が退職する場合は、日本の雇用保険制度や行政手続きに不慣れである可能性を考慮しましょう。言語の壁や文化の違いから、手続き内容の理解が難しい場合があるかもしれません。

失業保険の申請をはじめ、従業員自身が行う手続きはより丁寧に説明しましょう。多言語対応の資料を用意したり、通訳を介したりすると、外国人の従業員も手続きの内容を理解しやすくなります。従業員が退職後の生活に不安を抱かないよう、最大限にサポートする姿勢を心がけてください。


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