- 更新日 : 2025年9月26日
労災保険料の計算方法とは?2025年料率と年度更新をわかりやすく解説
事業主にとって、年に一度の労働保険の「年度更新」は重要な手続きです。とくに労災保険料の計算は、事業の種類によって料率が細かく分かれており、正確な計算方法がわからず不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、労災保険料の基本的な計算方法から、令和7年度(2025年度)の最新料率、年度更新における概算・確定保険料の仕組み、そして一人親方などが加入する特別加入制度まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
目次
労災保険料の計算方法とは?
労災保険料は、毎月の給与から控除される社会保険料とは異なり、年に一度、事業所全体の賃金総額をもとに算出し、6月1日から7月10日までの期間に「年度更新」として申告・納付します。
計算は、年度内(4月1日から翌年3月31日まで)に全従業員へ支払う賃金総額に、事業の種類ごとに定められた保険料率を掛けることで算出します。算出された保険料は、全額を事業主が負担するのが原則です。
労災保険の基本と計算式
労災保険(労働者災害補償保険)は、従業員が業務中や通勤中にけが、病気、あるいは死亡した場合に、本人や遺族の生活を守るために必要な保険給付を行う制度です。保険料は、以下の計算式で算出されます。
賃金総額に含まれるもの
保険料の計算基礎となる「賃金総額」とは、税金や社会保険料などを控除する前の、事業主が従業員に支払うすべてのものを指します。これには、名称を問わず労働の対償となるものが広く含まれます。
労働保険料との違い
「労働保険料」とは、「労災保険料」と「雇用保険料」を合わせた総称です。年に一度の「年度更新」では、この2つの保険料をあわせて申告・納付します。労災保険料が全額事業主負担であるのに対し、雇用保険料は事業主と従業員の双方が負担する点で大きな違いがあります。
労災保険の加入義務がある事業主
労災保険は、原則として従業員(パートタイマー・アルバイトを含む)を一人でも雇用するすべての事業主に加入が義務付けられています。事業の規模や業種は問いません。従業員を雇用した場合は、まず労働基準監督署で「保険関係成立届」を提出し、労働保険番号の交付を受ける必要があります。
事業の種類で変わる労災保険料率
労災保険料率は、事業ごとの労働災害リスクの大きさを反映するため、過去の災害発生状況などをふまえて細かく定められています。また、一定の条件を満たす事業場では、保険料率が個別に変動する仕組みもあります。
業種ごとに定められた保険料率
労災保険料率は、最も低い業種で2.5/1,000(0.25%)、最も高い業種では88/1,000(8.8%)と、事業内容によって大きな差があります。たとえば、令和7年度の料率では、「卸売業・小売業、飲食店」は3/1,000(0.3%)、「建築事業」は9.5/1,000(0.95%)です。自社の事業がどの業種に該当するかは、厚生労働省の労災保険率表で確認します。
メリット制による保険料率の増減
継続事業(建設業などを除く一般的な事業)で、一定の規模要件を満たす事業場には「メリット制」が適用されます。これは、過去3年間の労働災害の発生状況に応じて、次年度の労災保険料率が一定の範囲内(±40%)で増減する仕組みです。災害が少なければ保険料が安くなり、多ければ高くなるため、事業主の災害防止努力を促す目的があります。
一人親方や個人事業主の特別加入制度
従業員を使用しない個人事業主や一人親方、企業の役員など、本来は労災保険の対象外となる方々も、業務の実態などから労働者に準じて保護することが適当と認められる場合に、任意で加入できる「特別加入制度」があります。
特別加入者の保険料は、自身で希望する給付基礎日額(3,500円~25,000円)を選択し、それに365を掛けた「保険料算定基礎額」に、定められた保険料率を掛けて計算します。
出典:特別加入保険料率表(令和6年11月1日~)|厚生労働省
労災保険料の計算シミュレーション
労災保険料は、年に一度、事業所全体の年間の賃金総額をもとに計算します。個人の給与から月々計算するものではありません。ここでは、事業所全体を想定した年間の賃金総額が異なる4つの業種の例でシミュレーションします。
例1:卸売業・小売業の場合
- 事業所の年間賃金総額:3,000万円
- 労災保険料率:3/1,000 (0.3%)
- 計算式:30,000,000円 × 0.3% = 90,000円
- 年間の労災保険料:90,000円
例2:建築事業の場合
- 事業所の年間賃金総額:5,000万円
- 労災保険料率:9.5/1,000 (0.95%)
- 計算式:50,000,000円 × 0.95% = 475,000円
- 年間の労災保険料:475,000円
例3:食料品製造業の場合
- 事業所の年間賃金総額:8,000万円
- 労災保険料率:5.5/1,000 (0.55%)
- 計算式:80,000,000円 × 0.55% = 440,000円
- 年間の労災保険料:440,000円
例4:貨物取扱事業の場合
- 事業所の年間賃金総額:1億円
- 労災保険料率:8.5/1,000 (0.85%)
- 計算式:100,000,000円 × 0.85% = 850,000円
- 年間の労災保険料:850,000円
出典:特別加入保険料率表(令和6年11月1日~)|厚生労働省
労災保険料の申告と納付方法
労災保険料は、毎年6月1日から7月10日までの間に「年度更新」という手続きを行い、申告・納付します。この手続きは、まず概算で保険料を前払いし、翌年に確定した金額との差額を精算するという流れになっています。
年度更新の仕組み
労災保険料の年度更新では、「昨年度の保険料の精算」と「今年度の保険料の前払い」を同時に行います。
1. 概算保険料の申告・納付(今年度の前払い)
まず、これから始まる新年度に従業員へ支払う見込みの賃金総額から、概算の保険料を計算して前払いします。見込み額が前年度から大きく変動する場合を除き、通常は前年度の実績額を用います。
2. 確定保険料の申告・精算(昨年度の精算)
次に、前年度に実際に支払った賃金総額が確定するため、それにもとづいて正しい保険料(確定保険料)を計算します。この金額と、前年に納付した概算保険料とを比べて差額を調整します。
- 不足がある場合:確定保険料が概算保険料より多ければ、その不足分を今年度の概算保険料とあわせて納付します。
- 過払いがある場合:確定保険料が概算保険料より少なければ、その過払い分は今年度の概算保険料に充当(相殺)されます。充当しきれない場合は還付されます。
この仕組みにより、年度の途中で賃金総額が変動しても、翌年に必ず正確な金額で精算されることになります。
納付方法
算出された労働保険料は、原則として金融機関や郵便局の窓口で納付書を使って納付します。また、事前の手続きをすれば、口座振替による納付や、電子申請・電子納付も可能です。
なお、概算保険料額が40万円(労災保険か雇用保険のどちらか一方のみ成立している場合は20万円)以上の場合には、年3回の分割納付(延納)が認められています。
参照:労働保険関係手続の電子申請について|厚生労働省、労働保険年度更新に係るお知らせ|厚生労働省
労災保険料の計算で注意すべき点
労災保険料の計算では、業種の判断や賃金総額の集計で間違いが起こりやすいポイントがいくつかあります。正確な申告のために、注意点をしっかりおさえておきましょう。
正しい業種分類の選択
自社の事業がどの業種に該当するかを確認しましょう。複数の事業を行っている場合は、原則として最も主要な事業(賃金総額が最も多い、または従業員数が多いなど)の料率を適用します。判断に迷う場合は、労働局や労働基準監督署に確認しましょう。
端数処理のルール
労災保険料の計算の過程で端数が出た場合の処理にはルールがあります。
- 賃金総額:集計した全従業員の賃金総額に1,000円未満の端数がある場合は、切り捨てます。
- 保険料額:算出した保険料額に1円未満の端数がある場合は、切り捨てます。
労災保険料の計算を効率化するには
年度更新の手続きは複雑で時間がかかることもあります。ITツールや専門家の力を借りることで、担当者の負担を軽減し、業務を効率化できます。
厚生労働省の申告書作成支援ツール
厚生労働省のウェブサイトでは、「年度更新申告書計算支援ツール」が提供されています。Excel形式のファイルで、数値を入力するだけで労働保険料を自動計算してくれるため、手計算によるミスを防ぎ、申告書作成をスムーズに進めることができます。
クラウド給与計算ソフトの活用
クラウド型の給与計算ソフトには、労働保険の年度更新に対応した機能が備わっているものも多くあります。毎月の給与データから賃金総額を自動で集計し、申告書様式のデータを作成してくれるため、転記ミスなどがなくなり、大幅な時間短縮につながるでしょう。
社会保険労務士への委託
労働保険事務組合に事務を委託したり、社会保険労務士に手続きを依頼したりする方法もあります。専門家に任せることで、複雑な計算や申告手続きから解放され、コア業務に集中できます。とくに、担当者の知識に不安がある場合や、リソースが不足している場合に有効な選択肢です。
正確な労災保険料の計算と年度更新で企業を守る
労災保険料は、年間の賃金総額に事業の種類ごとの保険料率を掛けて算出し、6月1日から7月10日までに「年度更新」として申告・納付します。賃金総額に含める項目や業種分類の判断を誤ると、申告内容に不備が生じる可能性があります。
厚生労働省の計算支援ツールやクラウド給与ソフトを活用すれば、計算の効率化とミス防止につながります。正しい理解と適切な手続きを行うことが、従業員を守り、企業の信頼を維持する基盤となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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