- 更新日 : 2025年6月23日
健康保険上の扶養とは?範囲や年収の条件、税法上の扶養との違いを解説
健康保険上の扶養(被扶養者)は、扶養の認定を受けた日から過去1年間の収入見込額で判断されます。被扶養者の認定基準には、所得税法上の基準も関連します。
本記事では、健康保険上の扶養対象の範囲や年収の条件、所得税法上の扶養との違いを解説します。被扶養者の所得税や扶養控除について調べている人事労務担当者は、参考にしてください。
目次
健康保険上の扶養とは?
健康保険法第3条によると、健康保険上の扶養とは「主として被保険者により生計を維持している者」と定義されています。したがって、被保険者が扶養する家庭内の子などの親族が対象となるのです。
扶養控除の制度について
扶養控除の制度とは、健康保険加入者と生計が同じ親族が受けられる控除です。ただし、控除対象者は、年齢が16歳以上で配偶者や青色事業、白色事業専従者を除く親族と定められています。つまり、16歳以上の会社や店舗などの事業に専従している親族は、扶養控除の対象外です。
扶養控除の種類は、次の通りです。
- 一般の控除対象親族:16歳以上で仕事に従事していない生計をともにする親族
- 特定扶養親族:一般の扶養控除対象親族のうち19歳以上23歳未満の人
- 老人扶養親族:一般の扶養控除対象親族のうち70歳以上の人
- 同居老親など:老人扶養親族のうち同居している老親
同居老親にあたる扶養控除対象親族は、病気治療のために1年以上入院した場合でも同居親族と認められます。ただし、同居老親が老人ホームなどの施設に入所した場合は、居住場所が入所した老人ホームとなるため、同居老親とみなされません。
健康保険上の扶養で控除されるもの
健康保険上の扶養親族が控除されるものは、所得税です。扶養親族がその年に得た所得のうち、一定の金額が控除されます。扶養親族の控除される額は、次の通りです。
扶養控除の種類 | 控除額 |
---|---|
一般の控除対象親族 | 38万円 |
特定扶養親族 | 63万円 |
老人扶養親族 | 48万円 |
同居老親など | 58万円 |
出典元:国税庁|No.1180 扶養控除 をもとに作成
社会保険上と国民健康保険上の扶養の違い
健康保険上の扶養は、あくまでも会社などに雇用される健康保険の扶養控除です。自営業者が加入する国民全員が加入する国民健康保険では、扶養という概念はありません。
そのため、健康保険と国民健康保険では扶養控除の制度自体が違うと判断できるでしょう。
健康保険 | 国民健康保険 |
---|---|
生計をともにする親族の扶養控除制度がある保険制度 | 国民全員の加入義務のために加入する保険制度 |
国民健康保険に加入する必要がない人は、次の通りです。
- 他の健康保険の加入者および被扶養者
- 生活保護を受給中の人
- 後期高齢者医療制度に加入している人
- 短期滞在在留外国人の人
これらに当てはまらない人は国民健康保険の加入が義務付けられています。
健康保険上の扶養になる条件
健康保険上の扶養になる場合は、いくつかの条件を満たしていることが必要です。ここでは、扶養の範囲や年齢、収入制限、居住状況など条件項目を紹介します。
被扶養者の範囲
健康保険上の被扶養者として認められる範囲は、健康保険法により定められています。健康保険上の被扶養者は、健康保険に加入する被保険者と同じ保険給付(病気、ケガ、死亡、出産時など)が受けられる人のことです。健康保険上の被扶養者は、以下の範囲で定められています。
健康保険上の被扶養者になる範囲 |
---|
被保険者に生計を維持されている以下の人
※上記該当者の同居または別居は関係ない |
上記に該当する被保険者と同一の世帯(同居して家計を共にしている状況)および、被保険者の収入が世帯生計の主として維持されている人 |
出典先:全国健康保険協会|被扶養者とは をもとに作成
これらの健康保険上の被扶養者に該当する人は、後期高齢者医療制度に加入した時点で健康保険の被扶養者資格を喪失します。
年齢
健康保険上の被扶養者になる年齢は、配偶者(事実上の婚姻関係と同じ関係の人も含まれる)や前述した扶養親族(配偶者、子、孫、兄弟姉妹)であり、その年の12月31日現在の年齢が16歳以上と定められています。
ただし、多様な生活形態が増加する昨今では、条件次第で非居住者でも控除対象の扶養親族と認められます。非居住者が控除対象の扶養親族となる年齢的な条件は、次の通りです。
- その年の12月31日時点で16歳以上30歳未満の年齢の人
- その年の12月31日時点で70歳以上の年齢の人
年間の収入
健康保険上の被扶養者に該当する年間の収入には、認定基準があります。定められている認定基準は、次の2つです。
被保険者と同一世帯に属している被扶養者の年間収入の認定基準 | 被保険者と同一世帯に属していない被扶養者の年間収入の認定基準 |
---|---|
※上記の認定基準で被保険者の年間収入を上回らず、その世帯の生計状況を認定基準に沿っていれば被扶養者と認められる場合もある |
|
出典元:全国健康保険協会|被扶養者とは をもとに作成
その他条件
健康保険上の被扶養者となる認定基準は、年間収入の認定基準以外でも判断することがあります。年間収入の認定基準と明らかにかけ離れている場合は、健康保険の運営者が別の認定基準で判断するとのことです。別の認定基準で判断する場合は、社会常識的に妥当性を欠く場合とされています。
また、健康保険上の被扶養者は退職日の翌日から認定が可能であり、収入見込みをもとに判断されます。例えば、主たる生計のある被保険者の夫が退職した妻を被扶養者とする場合、退職日の翌日から被扶養者と認定されます。退職した妻が被扶養者になるには、年間収入の認定基準を満たしていることが条件です。
ただし、退職した妻が雇用保険の失業給付を受給した場合は、被扶養者から外れる可能性が生じます。失業給付は、受給前の待機期間や給付制限期間などがあるため、その期間中のみ被扶養者と認定されます。失業給付で受給する金額によっては、被扶養者でいられる場合もあります。
健康保険上の扶養と税法上の扶養の違い
扶養の手続きでは、健康保険上の扶養と税法上の扶養があります。健康保険上の扶養と税法上の扶養の違いは、以下の通りです。
健康保険上の扶養 | 税法上の扶養 | ||
---|---|---|---|
概要 | 主として被保険者により生計を維持している者 | 生計をひとつにする親族で所得金額が一定以下の者 | |
仕組み | 収入の認定期間 | 被扶養者として認定された日から1年間 | その年の1月1日から12月31日までの1年間 |
収入の範囲 |
| ||
収入の基準 |
※上記以外の条件に被保険者の収入の2分の1または上回らないなどを含める |
| |
対象者の範囲 |
|
※同居は問わない | |
扶養者の選択 | 共働きの夫婦どちらか収入の多い方が扶養者となる | 共働きの夫婦の子たちをそれぞれの扶養親族にできる | |
呼び方 | 被扶養者 | 扶養控除 |
参考:
共働き夫婦で健康保険上の扶養はどちらがよいか
共稼ぎ夫婦は、前項で紹介した健康保険上の扶養と税法上の扶養の違いが、子どもや親を扶養に入れる場合の判断基準となるでしょう。
健康保険上の扶養 | 税法上の扶養 | |
---|---|---|
扶養者の選択 | 共働きの夫婦どちらか収入の多い方が扶養者となる | 共働きの夫婦の子たちをそれぞれの扶養親族にできる |
税法上の扶養(扶養控除)の場合は、夫が長男を扶養存続にし、妻が長女を扶養親族にするなど扶養者の選択が可能です。
一方、健康保険上の扶養の場合は、夫婦どちらかの収入の多さで扶養者が決まります。そのため、被扶養者になった妻(夫)は、扶養範囲内の収入で働く必要があります。
健康保険上の扶養の条件を外れるとどうなる?
健康保険上の扶養(被扶養者)は、所得ではなく年間収入が130万円(60歳未満)または、180万円(60歳以上または障害厚生年金を受給可能な障がい者の場合)を超えた時点で被扶養者から外れます。
健康保険上の扶養から外れる場合は、健康保険上の扶養から外れる場合、被保険者は勤務先での手続きを行う必要があります。また、被扶養者は保険証の返還を求められます。手続きの際は、「健康保険 被扶養者(異動)届」を作成し、被扶養者は保険証の返還が求められます。
扶養の手続きで会社が気をつけること
会社側は、扶養の手続きにおいていくつか気をつけることがあります。
年末調整確認時の手続き漏れに注意する
扶養から外れた年の年末調整では、申告漏れなどがあると健康保険料や厚生年金保険料などの未払分を納めなければなりません。
扶養外に関わらず扶養範囲で処理した場合、扶養資格の喪失日までさかのぼった支払いが求められます。そのため、年末調整の確認時は手続き漏れに注意しましょう。
扶養の手続きを漏れなく行う方法職日の翌日
従業員が扶養から外れたときの手続きは、健康保険上だけではなく税法上の手続きも必要です。また、手続きが遅れることで扶養から外れている状態で医療機関を受診してしまうなど、全国健康保険協会や健康保険組合という保険者の負担分も返還することになるでしょう。
会社側は、このような事態への対策は、扶養の手続きを漏れなく行う方法が必要です。例えば、人事業務の処理をシステム化して効率化することが、手続き漏れ防止に効果的でしょう。
健康保険上の扶養は税法上の扶養と照らし合わせて判断しよう
従業員の扶養に関する手続きは、健康保険上の扶養と税法上の扶養の違いについて理解が必要です。共稼ぎ夫婦の場合は、自社の従業員だけではなく他社に所属する配偶者もふまえて手続きを進めましょう。
また、本記事で解説した扶養の条件は、健康保険上と税法上で異なる条件が存在するため、混乱が生じる可能性もあります。そのため、社会保険の手続きや給与計算などは、システム化することが求められるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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