- 作成日 : 2024年7月24日
ガバナンスに欠かせない監査役会設置会社とは?範囲や目的など全体像を解説
企業が成長し規模も大きくなるにつれて、その社会的責任や株主への責任も強く求められるようになります。このような企業には、適切な運営を行うためのガバナンスが必要とされ、その中には会社法にて明記されている要求事項も少なくありません。
本記事では、会社法にて要求されている監査役会などの機関設計として重要な監査役会設置会社について、対象とする企業や仕組み、目的などの全体像を解説します。
目次
監査役会設置会社とは
監査役会設置会社とは、一言でいえば、取締役が行う業務を監査する仕組みを持つ株式会社のことです。
まずはじめに、その仕組みを持つ監査役会や対象企業、類似する言葉との違いについて解説します。
監査役会の役割
監査役会とは、監査役によって構成された取締役らの業務を客観的に監査する組織のことを意味します。
ここでの監査役とは、代表や取締役と同じ役員として扱われ、法令違反や会計不正などがないかを監視する役割を担っています。
監査役会にて不正や違反などの重大事項の有無を確認し、もしこれらの事実があった場合には、対応策を決めるための取締役会を召集する権利を有しています。
監査役会を設置する義務がある企業
全ての企業が対象ではないものの、重大な事実があった場合に社会全体への影響が大きいとされる企業は監査役会の設置義務が会社法にて定められています。代表的なところでは以下の2つ企業群が対象として挙げられます。
1. 公開会社:株式譲渡制限を設けていない企業
2. 大会社:資本金が5億円または負債が200億円以上の企業
特にこの公開会社と大会社の定義は、上場会社の定義とは異なることに注意が必要であり、上場していなくても公開会社・大会社のいずれかに該当するケースも存在します。例えば、未上場で創業10年未満ながら、評価額10億ドルを超えるユニコーン企業は、上場会社ではなくても資本金が5億円または負債が200億円以上であれば、監査役会の設置が必要となります。
監査役会設置会社と指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社
監査役会設置会社とは、冒頭で説明したとおり、取締役の業務を監査する仕組みを有する株式会社と定義されていますが、混同されやすい形態として、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社が挙げられます。
それぞれの特徴と違いは次のとおりになります。
| 設置会社 | 設置会社 | 内容 |
| 監査役会設置会社 | 監査役会 |
|
| 指名委員会等設置会社 | 監査委員会 |
|
| 監査等委員会設置会社 | 監査等委員会 |
|
日本取締役協会のレポートによれば、2023年では監査役会設置会社が全体の53.7%を占めており、最も一般的な形態であるといえるでしょう。また、監査等委員会設置会社は、導入以降急速に普及し42.1%まで達している一方、指名委員会等設置会社は導入のハードルが高く、4.2%に留まっています。
※参考:日本取締役協会「上場企業のコーポレート・ガバナンス調査(P8)」
監査役会設置会社の構成と仕組み
続いて、監査役会設置会社における構成や仕組みについて紹介します。
構成人員と関連機関
監査役会の構成は、監査役が3名以上であり、そのうち半数以上が社外監査役であることが求められます。また、常勤監査役が1名以上必須となります。監査役の任期は4年、取締役の任期は2年です。
株主総会では、監査役の選任と解任、および報酬の決定が行われ、監査役会は取締役会の業務執行を監査します。監査役会設置会社にはこれらの組織が不可欠です。
監査役会設置会社の目的
監査という業務の性質から、会社が取締役や経営陣によって適切に運営されているかを客観的に判断することが監査役会設置会社の主な目的といえるでしょう。
これは言い換えれば、コーポレートガバナンスの強化と、株主の権利の保護が目的だとも解釈できます。
監査役会設置会社における業務は、主に会計監査と業務監査に分けられます。
会計監査では重大な倒産リスクや会計不正リスクの洗い出しを行い、業務監査では汚職や法令違反などのリスクの抽出を担います。
また監査役は、いずれかの業務に責任を持つ形で任命されるケースが多いです。
監査役会設置のための手続き
これから監査機能を強化していくにあたって新しく監査役会を設置する際には、次のステップを経る必要があります。
1. 株主総会にて監査役会設置に関する定款変更決議を採る
2. 監査役の選任決議を行う
3. 監査役の就任承諾を得る
4. 承認効力発生日から2週間以内に法務局へ以下の書類と併せて登記申請をする
- 株主総会議事録
- 定款
- 株主リスト
- 新任監査役の就任承諾書および本人確認証明書
適切な監査役の候補を事前に見つけておくことができれば、煩雑な手続きを経ることなく、比較的速やかに監査役会設置会社としての体制を整えることができます。
監査役会設置会社の事例 – ソフトバンクグループ
監査役会設置会社の一例として、ソフトバンクグループを紹介します。
ソフトバンクグループの報告によると、監査役会は社外監査役2名を含む4名の監査役で構成されています。このうち常勤監査役は2名で、残りの2名は非常勤監査役です。
この構成は、前章で紹介した「監査役が3名以上、かつ半数以上が社外監査役、常勤監査役が1名以上必須」という監査役会の条件を満たしています。
また、監査役は取締役会に出席し、意思決定の状況や各取締役の業務執行を監視し、その監督義務の履行状況を検証する役割があります。
監査役会では、事業年度ごとに監査方針や重点監査項目を定めており、原則月1回の頻度で開催されます。ここでは主に業務監査を行います。
一方、会計監査では、四半期ごとに会計監査人から経過や結果の報告を受け、情報や意見の交換を行います。
さらに、監査役の業務を支援するために監査役室が設置されており、専任スタッフが監査役の指示のもとで情報収集や調査を行います。
このようにして、ソフトバンクグループは効率的かつ効果的に監査役会設置会社としてのガバナンス機能を整備しています。
※参考:SoftBank「企業・IR (体制)」
まとめ
本記事では、会社法にて必須とされているガバナンス機能を高める形態の1つである、監査役会設置会社について、その定義や体制、役割、具体的な設立の流れなどを解説しました。
監査役会設置会社の主な目的は、取締役や経営陣の業務を客観的な立場から監査することであり、会計的な不正や業務上の重大なリスクなどをなくすことがそのミッションです。これによって企業のコーポレートガバナンスが強化され、ひいては株主の権利を保護することにつながります。
監査役会設置会社は現在、国内の多くの公開会社や大会社で採用される形態となっていますが、類似する指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社などの特徴も鑑みながら、適切な監査のための体制を整備するようにしましょう。
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