- 更新日 : 2025年12月2日
スタンダード市場とは?プライム市場との違いや上場基準をわかりやすく解説
上場を検討している事業主の中には、東京証券取引所の「スタンダード市場」や「プライム市場」などについて調べている人もいるでしょう。実績があり、収益も安定している中小企業が上場を検討するならば、スタンダード市場が向いています。
この記事では、スタンダード市場の上場基準やプライム市場との違い、メリット・デメリットを解説しています。スタンダード市場の基本を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
スタンダード市場とは?

スタンダード市場(英語表記:Standard Market)は、2022年4月の東証市場再編によって新設された市場区分の一つです。
再編前の東証の市場区分は、東証一部、東証二部、東証マザーズ、JASDAQ(スタンダード・グロース)で構成されていましたが、再編後はプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つの市場区分となっています。
スタンダード市場は、主に従来の東証二部と JASDAQスタンダードに上場していた企業、および一部の東証一部の企業が移行・選択した市場であり、3区分の中間に位置づけられています。
【市場区分の変更前と変更後】
| 再編前 | 再編後 |
|---|---|
|
|
現在、スタンダード市場に上場している企業数は、1,567社です(2025年10月22日時点)。上場している主な企業は以下のとおりです。
- 日本マクドナルドホールディングス (2702)
- 日本オラクル (4716)
- アコム (8572)
- ワークマン (7564)
- 東映アニメーション (4816)
- セリア (2782)
- ヨネックス (7906)
- 沖縄セルラー電話 (9436)
- サン電子 (6736)
スタンダード市場のコンセプト
東証の公式サイトでは、スタンダード市場のコンセプトについて次のように表記しています。
【スタンダード市場のコンセプト】
公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場
つまり、スタンダード市場に上場する会社は、グロース市場のように「高い成長可能性」を最優先する段階ではなく、すでに安定した事業基盤と収益性を持ち、上場企業として最低限守るべきルール(基本的なガバナンス)を整備している企業が集まる市場、ということです。
なぜ東証の市場区分は再編されたのか?
2022年4月の東証市場再編は、主に2つの大きな課題を解決するために実行されました。
1つ目は「各市場のコンセプトの曖昧さ」です。従来の市場区分、例えば東証一部やJASDAQ(ジャスダック)では、高い成長性が期待される新興企業と、安定した実績を持つ老舗企業が同じ市場に混在していました。これでは、投資家が「安心して投資できる実績ある市場」なのか「高い成長性を期待する新興市場」なのか区別がつきにくく、各市場の位置づけが不明確になっていました。
2つ目は「上場後の企業価値向上を促す仕組みの不備」です。従来は、新規上場時に求められる基準に比べ、上場を維持するための基準(上場廃止基準)が大幅に緩く設定されていました。そのため、一度上場してしまえば、企業価値の維持・向上に対する意欲が働きにくく、「上場ゴール」と指摘されるような状況を生む一因となっていました。今回の再編は、これらの課題を克服し、各市場の役割を明確にするとともに、上場企業に継続的な成長を促す目的があります。
以下の記事では、東証一部の廃止の背景や上場のメリットについて詳しく解説しております。併せてご参照ください。
スタンダード市場と他市場(プライム・グロース)の違いは?
プライム市場とスタンダード市場の違い
プライム市場は、世界中の投資家との良好なコミュニケーションを重視する企業に向いています。一方でスタンダード市場は、公開市場での取引が活発で、高い経営品質を持つ企業向けの市場です。
審査基準は、プライム市場と比べると収益基盤や財務状態が異なっています。
プライム市場は、直近2年間の利益合計が以下のいずれかを満たすという基準があります。
- 25億円以上または
- 売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上
スタンダード市場は、直近1年間の利益が1億円以上となっています。スタンダード市場はプライム市場と比べて、収益基盤や財務状態の金額の基準が緩く設定されている部分が相違点です。
審査基準は、プライム市場と近い内容となっていますが、グロース市場と比べると企業の継続性、収益性の項目が追加されている点が異なります。
スタンダード市場は、グロース市場よりも高い流動性を求められるため、上場維持基準がグロース市場よりも高くなっています。
グロース市場とスタンダード市場の違い
グロース市場は、高い成長可能性を重視する新興企業(ベンチャー企業)に向いています。一方でスタンダード市場は、公開市場での取引が活発で、安定した収益基盤と高い経営品質を持つ中堅企業向けの市場です。
審査基準は、グロース市場と比べると企業の収益性や流動性(株式の売買のしやすさ)の点で異なります。
スタンダード市場は、直近1年間の利益が1億円以上という安定した収益基盤の証明が必要です。 これに対し、グロース市場にはこのような明確な利益基準はありません。その代わり、利益が出ていなくても「事業計画の合理性」や「将来の成長性」が厳しく審査されます。
また、スタンダード市場はグロース市場よりも高い流動性を求められる(例:流通株式時価総額がスタンダード10億円以上に対し、グロースは5億円以上)ため、上場維持基準もグロース市場より厳しく設定されている点が相違点です。
スタンダード市場の上場基準とは?

スタンダード市場へ新たに上場(IPO)するためには、数値的な「形式基準」と、質的な「実質審査基準」の両方をクリアしなければなりません。
主な形式基準(数値基準)
スタンダード市場への新規上場には、市場の流動性(売買のしやすさ)と安定性を担保するための形式基準(数値基準)を満たす必要があります。上場申請を行ううえで最低限満たす必要がある基準のことです。
基準の主な項目には、上場時の株主数、流通株式数、純資産の額、利益の額または時価総額などがあります。
スタンダード市場の上場基準のうち、形式要件は以下の通りです。グロース市場よりは厳格で、プライム市場よりは緩和されているという位置づけです。
新市場区分の上場基準
| 項目 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 | |
|---|---|---|---|---|
| 流動性 | 株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
| 流通株式数 | 2万単位以上 | 2千単位以上 | 1千単位以上 | |
| 流通株式時価総額 | 100億円以上 | 10億円以上 | 5億円以上 | |
| 売買代金 | 時価総額250億円以上 | – | – | |
| ガバナンス | 流通株式比率 | 35%以上 | 25%以上 | 25%以上 |
| 経営成績 財政状態 | 収益基盤 |
または、
| 最近1年間の利益が1億円以上 | – |
| 財政状態 | 連結純資産50億円以上 | 連結純資産額が正(プラス)であること | – | |
参照:新市場区分のコンセプト・上場基準|JPX 日本取引所グループ
実質審査基準(質的基準)
スタンダード市場への上場審査では、数値基準をクリアすることに加え、企業が将来にわたって安定的に成長し、投資家を保護できる体制を持っているかどうかが「実質審査基準」として厳しく審査されます。
実質審査基準とは、申請会社が安定的・継続的に収益性を維持し、適切な管理体制を構築して、将来性のある経営が適切に行われているかなど審査する基準です。
書類審査のほか、ヒアリングや実地調査などで、審査します。
実質審査基準の項目と主な内容を、以下で紹介します。
スタンダード市場の実質審査基準
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 企業の継続性および収益性 |
|
| 企業経営の健全性 |
|
| 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 |
|
| 企業内容等の開示の適正性 |
|
| その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項 |
|
出典:2024 新規上場ガイドブック(スタンダード市場編)|日本取引所グループ
上場審査の基準については以下の記事で詳しく解説しておりますので、併せてご参照ください。
スタンダード市場の上場維持基準とは?

再編前は上場基準よりも上場廃止基準が緩和されており、上場時の企業価値が維持されないという問題がありましたが、改変後は上場基準と上場維持基準がほぼ同じとなっています。
スタンダード市場の上場維持基準を満たすことができず、改善されない場合は、上場廃止となるので注意しましょう。
スタンダード市場の上場基準・上場維持基準
| 項目 | 上場基準 | 上場維持基準 | |
|---|---|---|---|
| 流動性 | 株主数 | 400人以上 | 400人以上 |
| 流通株式数 | 2千単位以上 | 2千単位以上 | |
| 流通株式時価総額 | 10億円以上 | 10億円以上 | |
| 売買高 | – | 月平均10単位以上 | |
| ガバナンス | 流通株式比率 | 25%以上 | 25%以上 |
| 経営成績 財政状態 | 収益基盤 | 最近1年間の利益が1億円以上 | – |
| 財政状態 | 純資産額が正(プラス)であること | 純資産額が正(プラス)であること | |
参照:新市場区分のコンセプト・上場基準|JPX 日本取引所グループ
スタンダード市場が適している企業

スタンダード市場が適している企業は、一般的な投資家がスムーズに取引できる流動性を持ち、最低限の情報を公開していることが特徴です。さらに、安定的な収益と健全な財務を持っていることが求められます。
自社がスタンダード市場に適しているか判断するためには、上場するメリット・デメリットを理解する必要が大切です。
それぞれ上場するメリット・デメリットを解説します。
スタンダード市場に上場する主なメリット
資金調達力の向上と社会的信用の獲得が最大のメリットです。
考慮すべきデメリットや負担
上場維持コストの発生と、情報開示の義務が主な負担となります。
- 継続的なコスト負担
監査法人に支払う監査報酬、東証への年間上場料、株主総会の運営費用、IR(投資家向け広報)活動費用など、上場を維持するために継続的なコストが発生します。 - 厳格な情報開示の義務
四半期ごとの決算発表や、経営に影響を及ぼす重要事実の「適時開示」など、法令に基づく厳格な情報開示が求められます。これに対応するため、経理部門や法務部門の体制強化が不可欠です。 - 買収リスク
株式が公開され自由に売買されるため、自社の意図しない株主による敵対的買収の対象となる可能性も生じます。
スタンダード市場に新規上場する方法

新規でスタンダード市場に上場し、受理してもらうためには、新規上場日が2022年4月4日以降であることが必要です。上場するには、上場申請エントリー後、スタンダード市場の上場に必要な手続きを済ませ、書類を提出します。その後、審査を受けて、問題なければ上場承認という流れになります。
申請の流れ
スタンダード市場の上場申請から上場承認までの主な流れは、次のようになります。
申請から上場までかかる期間は、申請からおおよそ3ヶ月です。
- 上場申請エントリー
- 事前確認・スケジュール調整…担当者、日本証券取引所自主規制法人の審査担当者、主幹事証券会社の間で行われます
- 上場申請、申請書類受理、ヒアリング…申請書類を提出し、上場申請の手続きをした後、審査担当者から上場申請理由や、会社の沿革、事業内容などのヒアリングを受けます
- 質問事項送付~回答、ヒアリング(質問~ヒアリングのやり取りは3回程度)…不明な点があれば、審査担当者から、質問事項を提示します。質問に対する回答書をもとに再度ヒアリングを受けます
- 各種面談…審査担当者が審査項目に適合しているか確認をしていきます
- 社長説明会…代表が事業内容や事業計画などを東証に対して実施します
- 上場承認
- 有価証券新規上場申請書
- 新規上場申請有価証券訂正通知書
- 反社会勢力との関係がないことを示す確認書
- 反社会勢力との関係がないことを示す確認書(別添 個人法人リスト)
- 新規上場申請に係る宣誓書
- 主要な事業活動の前提となる事項について
- 株券等の分布状況表
- 独立役員届出書(ドラフト)
- コーポレート・ガバナンスに関する報告書
- 提出書類一覧
- eラーニング受講対象者一覧
スタンダード市場の場合は、上場審査料が300万円、新規上場料800万円、その他、年間上場料として、上場時価総額に応じて、以下の年間上場料がかかります。
【年間上場料(スタンダード市場)】
| 上場時価総額 | スタンダード市場 |
|---|---|
| 50億円以下 | 72万円 |
| 50億円超250億円以下 | 144万円 |
| 250億円超500億円以下 | 216万円 |
| 500億円超2,500億円以下 | 288万円 |
| 2,500億円超5,000億円以下 | 360万円 |
| 5,000億円超 | 432万円 |
スタンダード市場に向いている企業は?
スタンダード市場には、安定した収益基盤を確立し、さらなる成長と社会的信用を求める中堅企業に適しています。
プライム市場を目指すほどの規模やグローバル展開はまだないものの、グロース市場のようなベンチャー段階は卒業し、持続的な成長フェーズに入った企業に最適な市場です。
具体的には、「国内市場で確固たる地位を築いている」「ガバナンス体制を整備し、経営の透明性を高めたい」「企業の知名度を上げ、事業基盤をさらに強化したい」といったニーズを持つ企業が対象となるでしょう。
スタンダード市場の基準と位置づけを理解しよう
スタンダード市場とは、東証の3区分の中で、安定した収益基盤と基本的なガバナンス(企業統治)を持つ中堅企業向けの市場です。プライム市場と比べて上場基準は緩和されていますが、グロース市場とは異なり「年間1億円以上の利益」といった明確な収益性が求められます。
2022年の市場再編により、新規上場基準と上場維持基準がほぼ同水準に設定されました。そのため、上場後も継続的な企業価値の向上が必要です。スタンダード市場の位置づけを正しく理解し、自社の信用力向上や資金調達といったメリットと、上場維持コストなどの負担を比較検討することが、上場の判断には欠かせないでしょう。
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