• 作成日 : 2025年6月20日

吸収合併における許認可の承継方法は?建設業・運送業などの業種別に解説

吸収合併は、企業の成長戦略や事業再編において有効な手段の一つです。その手続きは多岐にわたり、特に許認可の取り扱いは重要なポイントとなります。

この記事では、吸収合併に伴う許認可の取り扱いに関して、スムーズな事業承継を実現できるよう、基本的な知識から具体的な手続き、業種別の注意点、さらにはリスク回避策までを包括的に解説します。

そもそも許認可とは

許認可とは、特定の事業を行うために、行政庁から得る必要がある許可、認可、免許、登録、届出などの総称です。法令によって、一定の業種においては許認可を受けることが前提となっており、許認可を受けずに事業を行った場合、刑事罰の対象となるおそれもあります。審査基準を満たしていることを行政庁が確認し、事業を行うことを法的に認めるのが許認可制度です。

吸収合併による許認可の承継パターン

吸収合併が行われると、消滅会社は法人格を失い、権利義務の全て(資産、負債、契約関係など)は存続会社に包括的に承継されるのが原則です(会社法第750条第1項、会社法第2条第27号)。

この「包括承継」の原則に基づき、多くの許認可は、一定の手続きを経ることで存続会社に引き継がれることが期待できます。しかし、その扱いは許認可の種類や根拠法令によってそれぞれ異なり、主に以下のパターンに分類できます。

当然承継

合併の事実を行政庁に届け出るだけで、あるいは届出すら不要で、当然に許認可が承継されるケースです。ただし、このケースは限定的です。

承認・認可等が必要な承継

合併に伴う許認可の承継承認申請などを事前に行政庁に行い、その承認や認可を得ることで初めて承継が認められるケースです。これが最も一般的なパターンと言えるでしょう。この場合、合併の効力発生前に承認を得ておく必要があるか、効力発生後の速やかな届出・申請で足りるかなども、許認可ごとに異なります。

新規取得扱い

包括承継が認められず、存続会社が新たに許認可を取得し直さなければならないケースです。この場合、消滅会社の許認可は合併と同時に失効し、存続会社は新規の申請者として審査を受けることになります。そのため、事業の空白期間が生じないよう、タイミングには細心の注意が必要です。

一部の許認可では、承継承認などが合併の効力発生の実質的な前提条件となる場合があります。

吸収合併による許認可の包括承継の例外

吸収合併では権利義務が包括承継されるのが原則ですが、許認可に関しては「一身専属性の高いもの」や、法令で個別の手続きが定められているものは、その法令の規定が優先されます。

  • 人的要件・物的要件・資産要件の充足
    承継が認められる場合でも、存続会社が当該許認可の人的要件、物的要件、資産要件を引き続き満たしている必要があります。満たせない場合は、承継が認められないか、改善が求められます。
  • 欠格事由の確認
    存続会社やその役員が、許認可の欠格事由に該当していないかを確認する必要があります。該当する場合、承継が認められない、あるいは既存の許認可が取り消されるリスクがあります。
  • 事業計画の変更
    吸収合併に伴い事業計画が大きく変更される場合、別途変更承認申請などが必要になることがあります。
  • 許認可ごとの個別判断
    最終的には、個々の許認可の根拠法令や行政庁の運用指針に基づいて判断されるため、画一的な取り扱いはできません。必ず所管の行政庁に事前確認を行うことが不可欠です。

【業種別】吸収合併時の許認可の承継手続き

ここでは、主要な業種における吸収合併時の許認可手続きのポイントを解説します。ただし、これは一般的な情報であり、具体的な手続きは必ず所管の行政庁にご確認ください。

建設業許可

建設業許可は、吸収合併において比較的スムーズに承継が認められやすい許認可の一つですが、適切な手続きが必要です。

原則として、消滅法人が持っていた建設業許可を承継する場合は、あらかじめ合併認可申請を行い、合併の効力が発生する日の前日までに認可を受けます。なお、合併の効力発生日を過ぎてから、遡って認可を受けることはできません。

注意点は、以下の通りです。

  • 経営管理責任者・専任技術者の継続性:存続会社において、これらの人的要件が引き続き満たされていることが重要です。消滅会社の役員や専任技術者が退任する場合は、代替の人材を確保する必要があります。
  • 財産的基礎:存続会社が許可要件である財産的基礎(自己資本額など)を満たしているか確認が必要です。
  • 営業所の状況:消滅会社の営業所を引き継ぐ場合、その営業所が許可要件を満たしているか確認します。

運送業許可(一般貨物自動車運送事業など)

運送業の許可は、その種類(一般貨物、特定貨物、旅客など)によって詳細が異なりますが、一般的には合併の認可申請が必要です。

管轄の運輸局に対し、合併の認可申請を行います。この認可を受けずに合併の効力が発生すると、事業を継続できない可能性があります。

注意点は、以下の通りです。

  • 事業計画の遂行能力:存続会社が、合併後の事業計画を適切に遂行できる体制(車両、車庫、運転者、運行管理者、整備管理者、資金計画など)を有していることが審査されます。
  • 安全管理体制:存続会社の安全管理体制が適切に構築・維持されていることが重要です。

宅地建物取引業免許

宅地建物取引業免許は、吸収合併による承継が認められていません。つまり、存続会社が免許を取得する必要があります。

免許権者(国土交通大臣または都道府県知事)に対し、要件を満たした上で宅地建物取引業免許を申請しますが、免許証が発行されるまでには一定の時間がかかるため、吸収合併と同時に取得することは難しいケースも想定されます。

注意点は、以下の通りです。

  • 専任の宅地建物取引士の設置:法定数の専任の宅地建物取引士が確保されていることが必須です。
  • 事務所の要件:宅地建物取引業法上の事務所としての要件を満たしているか事前に確認が必要です。
  • 欠格事由:存続会社の役員等が欠格事由に該当しないことも求められます。

 その他の主要な許認可

  • 飲食店営業許可・風俗営業許可:保健所や公安委員会への届出や承認申請が必要です。特に風俗営業許可は人的要件や場所的要件が厳しく、承継が難しい場合もあります。
  • 古物商許可:都道府県公安委員会への変更届や書換申請が必要です。
  • 労働者派遣事業許可:存続会社が労働者派遣事業の許可を受けているかどうかで手続きが変わり、許可を受けていない場合は新たに許可申請を行う必要があります。財産的基礎や事業所の要件なども改めて確認されます。
  • 産業廃棄物処理業許可:消滅会社は廃止届の提出が必要です。存続会社は都道府県知事等から新たに許可を受けなければなりません。施設基準や処理能力などが審査されます。

上記はあくまで一例です。企業が保有する許認可は多種多様であり、その一つ一つについて根拠法令や行政庁の運用を確認し、適切な手続きをリストアップすることが不可欠です。見落としがあった場合、事業継続に重大な支障をきたす可能性があるため、専門家のアドバイスも活用しながら慎重に進めましょう。

吸収合併時の許認可の承継手続きの流れ

許認可の承継手続きは、許認可の種類や行政庁によって異なりますが、一般的な流れと留意点を解説します。

  1. 許認可の洗い出しと調査
    消滅会社が保有する全ての許認可をリストアップします。
    各許認可について、根拠法令、管轄行政庁、承継の可否、必要な手続き、要件、標準処理期間などを調査します。
  2. 事前相談・確認
    管轄行政庁の担当窓口に、吸収合併の計画を説明し、許認可の承継手続きについて事前相談を行います。この段階で、必要書類や具体的なスケジュール感を確認します。
  3. 申請書類の準備・作成
    行政庁の指示に基づき、申請書、添付書類(合併契約書、登記事項証明書、事業計画書、財務諸表、役員の履歴書・誓約書、事務所の図面など)を準備・作成します。
  4. 申請・届出
    定められた期限までに、管轄行政庁に申請書・届出書を提出します。
  5. 審査
    行政庁による審査が行われます。審査期間は許認可の種類や行政庁窓口の混雑状況によって大きく変動します。場合によっては、ヒアリングや実地調査が行われることもあります。
  6. 承認・認可・届出受理
    審査の結果、問題がなければ承認・認可が下りるか、届出が受理されます。これにより、正式に許認可が承継されたことになります。
  7. 変更後の許認可証等の受領
    新しい許認可証や、変更が記載された既存の許認可証などを受領します。

必要書類

必要書類は許認可ごとに異なりますが、一般的に以下のようなものが求められることが多いです。

  • 合併契約書の写し
  • 合併に関する取締役会議事録・株主総会議事録の写し
  • 存続会社および消滅会社の登記事項証明書
  • 存続会社および消滅会社の定款
  • 存続会社および消滅会社の財務諸表
  • 存続会社の役員の住民票、身分証明書、履歴書、誓約書など
  • 許認可にかかる事業計画書
  • 営業所の図面、賃貸借契約書の写し(必要な場合)
  • その他、各許認可法に基づく個別の書類

これらの書類は、正確かつ漏れなく準備する必要があります。不備があると審査が遅れたり、最悪の場合、不受理となる可能性もあります。

期間の目安

手続きにかかる期間は、許認可の種類、行政庁の審査体制、申請内容の複雑さ、書類の準備状況などによって大きく異なります。

  • 届出のみの場合:数日~数週間程度
  • 承認・認可が必要な場合:1ヶ月~数ヶ月程度、場合によっては半年以上かかることもあります。

特に、合併の効力発生日までに許認可の承継を完了させたい場合は、標準処理期間を考慮し、余裕を持ったスケジュールで準備を進めることが不可欠です。許認可によっては、合併の効力発生の数ヶ月前からの申請が必要となるケースもあります。

吸収合併時の許認可の承継手続きを怠った場合のリスク

吸収合併時における許認可の承継手続きを適切に行わなかった場合、以下のような重大なリスクや罰則が生じる可能性があります。

事業停止・許認可取消

最も深刻なリスクは、許認可が失効し、事業を継続できなくなることです。

  • 無許可営業状態:必要な許認可を受けずに事業を継続した場合、無許可営業とみなされる可能性があります。
  • 行政指導・改善命令:行政庁から是正を求める指導や改善命令が出されることがあります。
  • 事業停止命令:指導や命令に従わない場合、一定期間の事業停止を命じられることがあります。
  • 許認可取消:悪質な場合や改善が見られない場合、保有している許認可が取り消されることもあり得ます。一度取り消されると、再取得が困難になるケースも少なくありません。

罰金・過料

法令違反に対しては、罰金や過料といった金銭的なペナルティが科されることがあります。

  • 罰金:懲役刑と併科されることもある、比較的重い刑事罰です。
  • 過料:行政上の秩序罰であり、刑罰ではありませんが、金銭的な負担となります。

罰則の内容や金額は、各許認可の根拠法令によって定められています。

企業価値・社会的信用の低下

法令遵守(コンプライアンス)違反は、企業の社会的信用を大きく損なう可能性があります。

  • 取引先からの信用失墜:許認可トラブルが明るみに出れば、取引先との関係が悪化し、契約を打ち切られるなどの影響が出かねません。
  • 金融機関からの評価低下:融資審査などで不利になる可能性があります。
  • ブランドイメージの毀損:顧客からの信頼を失い、売上減少につながることも考えられます。
  • M&A破談のリスク:デューデリジェンスの過程で許認可の不備が発覚した場合、M&A自体が破談になる可能性もあります。

これらのリスクを回避するためにも、吸収合併における許認可手続きは、専門家のアドバイスも受けながら、細心の注意を払って進める必要があります。

吸収合併と許認可に関するよくある質問

ここでは、吸収合併と許認可に関して頻繁に寄せられる質問とその回答をまとめました。

許認可が合併の効力要件となる場合はありますか?

会社法上、吸収合併の効力発生自体が、特定の許認可の取得や承継を直接的な「効力要件」としているわけではありません。合併契約の締結、株主総会の承認、債権者保護手続き、登記など、会社法所定の手続きを経れば、合併の法的効力は発生します。

しかし、特定の許認可がなければ事業を一日たりとも行うことができず、かつ、その許認可の承継手続きが合併の効力発生後では間に合わない(あるいは承継が認められない)場合など、実質的な意味での効力要件と言えるケースは存在します。このような許認可については、合併の効力発生前に承継の目処を立てておくことが、事業継続の観点から極めて重要であり、事実上の効力要件に近いと言えるでしょう。

合併の認可を要しない旨の証明書とは何ですか?

主に運送業など一部の許認可で見られる概念で、一定の条件を満たす合併の場合に、本来必要とされる合併の「認可」手続きを簡略化し、より簡易な「届出」で済ませることを可能にしたり、あるいは実質的に認可が不要であることを行政庁が証明したりする書類や制度を指す可能性があります。

関東運輸局などのウェブサイトで関連情報が提供されている場合がありますが、これは全ての許認可に共通するものではなく、特定の業法や行政庁の運用に基づくものです。適用条件は厳格であり、一般的には、合併による事業規模の変動が軽微である場合や、既に同一の許可を有する事業者間の合併で、公益への影響が少ないと判断される場合などに限定されることが多いと考えられます。

このような証明書や制度の利用を検討する場合は、必ず事前に管轄行政庁に詳細を確認し、自社のケースが該当するかどうか、必要な手続きは何かを正確に把握する必要があります。

吸収合併における許認可の重要性を理解しましょう

吸収合併は、企業にとって大きな変革の機会ですが、その裏には多くの法的手続きが潜んでいます。中でも許認可の取り扱いは、合併後の事業が円滑にスタートできるかどうかを左右する極めて重要な要素です。

本記事で解説した内容は一般的なものであり、実際の許認可手続きは個別の状況や最新の法令・運用によって異なります。必ず所管の行政庁に確認するとともに、必要に応じて行政書士や弁護士といった専門家のサポートを受けながら、万全の体制で臨むことを強く推奨します。


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