• 作成日 : 2025年12月23日

合同会社で相続が発生したらどうなる?持分承継の仕組みは?相続対策としての活用法も解説

合同会社を運営している、あるいはこれから設立を検討している方にとって、「相続」は避けて通れないテーマです。

特に社員が死亡した場合、持分の承継や会社の存続に深く関わるため、定款の内容や事前の準備によって対応が大きく変わります。また、合同会社はその構造上、資産管理や相続税対策にも有効な手段となり得ます。

本記事では、合同会社において相続が発生した場合の取り扱いと、相続対策として活用する方法の2つの視点から解説を行います。

合同会社の社員が死亡した場合、相続はどうなる?

定款に相続による持分承継を認める規定がなければ、社員の死亡によりその社員は法定退社となり、持分は相続人に引き継がれません。一方、定款で持分の承継を認めていれば、相続人が亡くなった社員の持分を承継して新たな社員となることが可能です。

まずは定款の規定を確認し、有無によって対応が大きく異なります。

定款に承継の定めがない場合は、相続人が引き継げるのは払戻請求権

社員の死亡は会社法上の退社事由となるため、定款で別段の定めがない限り、亡くなった社員は死亡と同時に会社を退社した扱いになります。その結果、相続人が引き継げるのはその社員の持分の払戻請求権という金銭的な権利のみです。つまり、合同会社の持分そのものは相続の対象とならず、会社から払い戻される出資分の価値(清算時の純資産に応じた額)のみが遺産として残ります。

この払戻請求権の金額は死亡時点の合同会社の純資産額を基準に算定され、会社の純資産がマイナス(債務超過)であれば払戻金は発生しません。

なお、被相続人以外にも他の社員が残っている場合には、いったん払い戻された持分相当の財産を改めて出資し直すことで、相続人が新規に社員として加入することも可能です(この場合、他の社員全員の同意が必要)。

定款に承継規定がある場合は、相続人がそのまま社員になれる

定款で「社員が死亡した場合はその相続人が当該社員の持分を承継できる」旨の規定がある場合、相続人は亡くなった社員の持分をそのまま引き継ぎ、合同会社の新たな社員となることができます。これは会社法第608条に基づく定めで、持分会社(合同会社など)では定款で相続人への承継を認めれば、社員の地位を引き継がせることが可能になるためです。

この規定があることで、亡くなった社員の地位を会社に残る相続人が継承し、会社の存続や事業継続が容易になります。

なお、相続人が複数いる場合、亡くなった社員の持分は一旦相続人全員の共有(準共有)となり、相続人全員が共同で一名の社員の地位を承継する形になります。この場合、相続人の中から代表者を一人定めて持分に関する権利を行使する必要があります。

複数の相続人のうち特定の一人だけが単独で承継するには、遺産分割協議や持分の譲渡など追加の手続きが必要となります。そのため、事前に定款で承継者を特定しておいたり、遺言で承継者を指定しておくことが望ましいでしょう。

参考:会社法 第608条|e-GOV

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唯一の社員が死亡した場合、合同会社は解散する?

合同会社が1人だけの社員で構成されている場合、その社員が死亡すると他に社員がいないため、会社は法律上「社員の欠缺」に該当し、原則として解散となります。

社員が1人だけで死亡すると、合同会社は原則として解散する

会社法第641条では、合同会社においてすべての社員が欠けた場合、すなわち「社員が一人もいない状態」が生じたときは、会社は当然に解散すると定められています。唯一の社員が死亡した場合、定款に持分の承継に関する明記がなければ、相続人は自動的に社員にはなれず、会社は法的に継続不能な状態と判断されます。その結果、会社は解散事由が発生したものとされ、清算手続きに移る必要があります。

これを避けるには、社員を複数人にしておくことや、定款に「死亡時には相続人がその地位を承継する」旨の条項を設けておくことが有効です。家族や後継者が会社を存続させる意思がある場合、こうした定款整備や事前の社員追加が不可欠となります。

参考:会社法 第641条|e-GOV

死亡以外に合同会社で持分を承継するケースはある?

合同会社の持分が相続されるのは死亡時に限りません。社員が法人である場合、その法人が合併などで消滅したときにも持分の承継が生じる可能性があります。

社員が法人で合併により消滅した場合にも持分の承継は起こり得る

社員が法人である場合、その法人が他の会社と合併し、消滅するケースでは「包括承継」が発生します。この場合、合併により消滅した法人が有していた合同会社の持分も、合併後の存続会社または新設会社がまとめて承継することが考えられます。

ただし、これは法律で自動的に承継されるわけではなく、合同会社の定款に「合併等により社員が消滅したときは、その包括承継人が社員の地位を引き継ぐ」といった条項があることが前提です。このような定款規定がない場合には、死亡時と同様に合併で消滅した法人も退社扱いとなり、持分は承継されません。つまり、法人を社員として合同会社を設立・運営する場合でも、将来の合併リスクを見越して、包括承継を認める規定をあらかじめ盛り込んでおく必要があります。

合同会社の定款で入れておくべき相続関連の条項は?

合同会社の相続に関しては、社員の死亡によって会社が解散したり、相続人が持分を引き継げないといったリスクが生じることがあります。これらを未然に防ぐためには、定款に明確な相続関連条項を盛り込むことが不可欠です。

持分の相続承継を許可する条項

もっとも重要なのは、「社員が死亡した場合に、その相続人が社員として持分を承継できる」旨の条項を定款に定めることです。これがないと、会社法上の規定により社員の死亡は退社とみなされ、持分の承継が認められず、会社は解散のリスクを負う可能性があります。

特に一人合同会社では、承継規定の有無が会社存続の明暗を分けます。この条項は「死亡その他の一般承継があった場合、相続人等は当然に社員となる」といった文言で定めることが一般的です。

合併や破産による承継をカバーする条項

社員が法人である場合、その法人が合併で消滅したり破産した場合にも、社員資格が喪失し、持分の承継が認められない可能性があります。これに備え、「社員が法人であるときは、合併や破産等によって地位を承継する者が社員の地位を引き継ぐ」といった条項も加えておくと安心です。包括承継のルートを明確にすることで、法人社員の不測の事態にも対応できます。

持分譲渡の承認手続きに関する規定

持分の譲渡についても、譲渡を認めるか否か、その承認方法(全社員の同意、あるいは多数決など)を定めておく必要があります。これが曖昧なままだと、相続や贈与を通じて不本意な人物が社員となるリスクがあるため、会社のガバナンス維持の観点からも重要な条項です。

合同会社が相続対策に活用できる理由は?

合同会社は資産の集約や評価引き下げ、所得分散などにより、相続税対策として有効に機能します。ここでは、相続時に評価額を抑える方法や所得を分散する仕組み、名義変更コストを減らす手法について解説します。

合同会社を通じて保有することで相続税評価額を抑えられる

個人で不動産や株式を直接所有していると、それらは市場価値に基づいてそのまま相続財産として評価されます。これに対し、合同会社を通じて資産を保有すると、相続時に引き継がれるのは資産そのものではなく「合同会社の持分(または払戻請求権)」です。

合同会社の持分は、原則として「非上場株式」と同様に評価されます。これは、会社の純資産価額や類似業種比準方式などを用いた評価が行われるため、市場価格と比べて低い評価額となることが一般的です。その結果、同じ不動産や資産でも、合同会社を通して所有することで相続税評価額を抑えられる可能性があります。

資産の収益性が低く、会社の純資産が圧縮されているような場合には、この評価の差が大きく出る傾向があります。

所得分散で資産集中を避け、相続財産を圧縮できる

個人が事業や不動産収入を得ていると、その所得がすべて本人に集中し、相続財産の増加につながります。これを防ぐために、合同会社を設立して収益の受け皿とし、家族を役員として登用する方法が有効です。

不動産の賃料収入を合同会社で受け取り、妻や子に役員報酬として分配すれば、所得が家族間で分散されます。これは、贈与や譲渡を行わずに実質的な資産移転ができる手法です。結果として、将来の相続時に本人の保有資産を抑えることが可能となり、相続税負担の軽減が期待できます。

さらに、合同会社の持分を毎年少しずつ家族に贈与することで、非課税枠を活用しながら持分を移転していくこともできます。このように計画的に承継準備を進めることで、贈与税の負担を抑えつつ相続財産を減らすことができます。

不動産の名義変更にかかるコストを削減できる

不動産を個人で所有していると、相続時には相続人への所有権移転登記が必要となり、登録免許税や司法書士報酬などのコストが発生します。これに対して、あらかじめ不動産を合同会社名義にしておけば、相続の際に必要なのは「社員の持分の承継」と「社員変更登記」のみで済みます。

この方法では、個々の不動産ごとの名義変更を行う必要がなくなるため、相続発生時の事務負担と手続きコストを大きく抑えることができます。複数の不動産を所有している場合や、将来的に世代を超えて引き継ぐ予定がある資産が多い場合には、法人名義での管理が大きなメリットとなります。

資産管理会社として合同会社を活用することで、相続のたびに発生する不動産の名義変更作業を回避でき、コストと手間の削減につながります。

合同会社を相続対策に活用する際の注意点は?

合同会社は柔軟な相続対策に向いている一方で、適切な準備を怠ると、かえってトラブルや手続きの停滞を招く恐れもあります。ここでは、合同会社を相続対策として利用する際に留意すべきポイントを解説します。

承継条項や社員構成を事前に整備しておく

合同会社を活用する上で注意すべきなのは、社員が死亡した際の対応です。前述のとおり、定款に「持分を相続人が引き継げる」とする条項がなければ、死亡と同時に社員地位が消滅し、会社は解散となるリスクがあります。リスクを回避するには、承継条項を明文化するか、複数社員体制にしておくことが求められます。

家族間の経営参画に伴うトラブルのリスクにも配慮

相続後、家族が社員として経営に参画することで、経営方針の違いや意思決定の対立が生じるケースもあります。複数の相続人が共同で持分を有する場合は、共有状態のままでは意思統一が難しくなることも少なくありません。こうした問題を避けるには、社員間であらかじめ役割や議決権のルールを定めておくこと、さらには遺言書などで承継者を特定しておくことが有効です。

法人化によるコスト増の可能性も想定しておく

合同会社を法人として維持するには、毎年の決算申告や会計処理などの手間が発生し、税理士等への依頼費用も必要です。また、法人化したからといって必ずしも節税になるとは限らず、事業の収益状況や資産構成によっては、法人税の方が不利になる場合もあります。こうしたコスト・税負担を見極めるためにも、設立前から専門家に相談し、自社の状況に適した相続対策スキームを構築することが不可欠です。

合同会社の相続対応と活用法を理解して、事前準備を進めましょう

合同会社に関わる相続には、社員の死亡によって会社の存続が揺らぐリスクや、持分の承継が制限される可能性が含まれます。一方で、合同会社をうまく設計・活用すれば、相続税評価の引き下げや所得分散、名義変更の簡素化といった相続対策上の利点も得られます。

どちらにも共通するのは、定款の整備と事前準備の重要性です。合同会社を相続の武器として活かすためにも、自社の状況に即した制度設計を進め、専門家のアドバイスを受けながら将来に備えておきましょう。


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