• 作成日 : 2025年6月20日

本店移転登記を自分で行うには?必要書類・費用・オンライン申請の方法まで徹底解説

会社の本店を移転する際には、法務局への本店移転登記という手続きが不可欠です。「手続きが複雑そう…」「自分でできるのだろうか?」「どんな書類が必要で、費用はどれくらいかかるの?」といった疑問や不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、特に株式会社の本店移転登記手続きを自分で行いたいと考えている方に向けて、手順、必要書類、費用、法務局への申請方法まで分かりやすく解説します。

本店移転登記とは

本店移転登記とは、会社の主たる事務所である「本店」の所在地を変更した際に、その変更内容を法務局の登記簿に正確に反映させるための手続きです。会社法第915条第1項により、本店の移転があった日から2週間以内に、その変更登記を申請することが義務付けられています。

この登記を怠った場合、代表者個人に対して100万円以下の過料が科されるおそれがあります(会社法第976条)。それだけでなく、登記事項証明書(会社の履歴事項全部証明書など)に記載された情報と実際の状況が異なると、金融機関からの融資や取引先との契約に支障をきたすなど、会社の信用問題にも発展しかねません。法人の住所変更に関わる登記手続きは、社会的な信用を維持するためにも非常に重要なのです。

本店移転登記の種類

本店移転登記は、移転先の新しい本店所在地を管轄する法務局によって、大きく2つのケースに分けられます。どちらのケースに該当するかで、手続きの進め方や必要書類の数、費用が変わってくるため、最初に確認することが重要です。

管轄内本店移転

現在の本店所在地と同じ法務局の管轄区域内へ本店を移転する場合です。

例えば、東京都千代田区から同じ千代田区内へ移転する場合や、同じ東京法務局(本局)の管轄である千代田区から中央区へ移転する場合などが該当します。この場合、手続きは移転先の法務局(つまり現在の管轄法務局)1ヶ所への申請で済みます。

管轄外本店移転

本店を、現在の所在地とは異なる法務局の管轄エリアへ移転するケースです。

例えば、東京都千代田区(東京法務局管轄)から神奈川県横浜市中区(横浜地方法務局管轄)へ移転する場合などが該当します。この場合、旧本店所在地を管轄する法務局と、新本店所在地を管轄する法務局の両方へ登記申請を行う必要があり、手続きや登録免許税が管轄内移転とは異なります。

本店移転登記を自分で行う方法

ここでは、株式会社の本店移転登記を自分で行うための具体的なステップを解説します。

株主総会・取締役会での意思決定

まず、会社内部で本店移転に関する正式な意思決定を行います。必要な手続きは、会社の定款の記載内容や機関設計(取締役会設置会社かどうかなど)によって異なります。

定款変更の要否を確認

定款に本店所在地が最小行政区画まで(例:「当会社は、本店を東京都千代田区に置く。」)記載されており、その範囲内での移転であれば、通常、定款変更は不要です。

定款に本店所在地が具体的な地番まで(例:「当会社は、本店を東京都千代田区丸の内一丁目1番1号に置く。」)記載されている場合や、最小行政区画を変更する場合(例:東京都千代田区から東京都新宿区へ移転)は、定款変更が必要です。

意思決定機関と決議

本店移転によって定款変更が必要な場合は、株主総会の特別決議が必要です。

定款変更が不要な場合、取締役会設置会社では、取締役会の決議で具体的な移転場所と移転日を決定します。取締役会非設置会社では、取締役の過半数の一致(または株主総会の普通決議など定款の定めに従う)で決定します。

必要書類の準備と作成

意思決定が完了したら、法務局へ提出する必要書類を準備・作成します。主な必要書類は以下の通りです。

  • 本店移転登記申請書:法務局のウェブサイトから様式をダウンロードできます。
  • 株主総会議事録:定款変更が必要な場合や、株主総会で移転を決定した場合に必要です。
  • 株主リスト:上記の株主総会議事録を添付する場合に必要となります。
  • 取締役会議事録または取締役決定書:定款変更が不要で、取締役会(または取締役の過半数の一致)で具体的な移転場所・日付を決定した場合に必要です。
  • 委任状:司法書士などの代理人に申請を依頼する場合に必要です。

法務局への登記申請

書類が全て整ったら、管轄の法務局へ登記申請を行います。

申請先の法務局

  • 管轄内移転の場合:新本店所在地を管轄する法務局。
  • 管轄外移転の場合:まず旧本店所在地を管轄する法務局に申請(2通の登記申請書が必要)し、その後、新本店所在地を管轄する法務局へ書類が送付されます。

申請方法

  • 窓口申請:法務局の窓口に直接書類を持参して申請します。
  • 郵送申請:書留郵便で法務局へ送付します。
  • オンライン申請:詳細は後述します。

申請期限

本店移転の日から2週間以内です。この期限を過ぎると過料の対象となるため注意が必要です。

登記完了と登記事項証明書の取得

登記申請後、法務局での審査が行われ、不備がなければ1週間〜2週間程度で登記が完了します。

登記が完了したら、新しい本店所在地が記載された「登記事項証明書(履歴事項全部証明書など)」を取得し、内容に誤りがないか確認しましょう。この証明書は、登記完了後の各種手続きで必要になります。

本店移転登記の必要書類

改めて、株式会社の本店移転登記における主な必要書類をリストアップします。ケースによって異なるため、必ずご自身の状況に合わせて確認してください。

管轄内移転・定款変更不要の場合

  1. 本店移転登記申請書
  2. 取締役会議事録(取締役会設置会社) または 取締役決定書(取締役会非設置会社)
  3. 登録免許税納付用台紙(収入印紙30,000円分を貼付)

管轄内移転・定款変更要の場合

  1. 本店移転登記申請書
  2. 株主総会議事録(定款変更の決議)
  3. 株主リスト
  4. 取締役会議事録 または 取締役決定書(具体的な移転場所・日付の決定)
  5. 登録免許税納付用台紙(収入印紙30,000円分を貼付)

管轄外移転(定款変更は必須)の場合

  1. 本店移転登記申請書(旧本店所在地法務局提出用と新本店所在地法務局提出用の2通が必要となるが、実際は旧本店所在地法務局にまとめて提出)
  2. 株主総会議事録(定款変更及び本店移転の決議)
  3. 株主リスト
  4. 取締役会議事録 または 取締役決定書(具体的な移転場所・日付の決定)
  5. 登録免許税納付用台紙(収入印紙 合計60,000円分を貼付:旧3万+新3万)

本店移転登記申請書のダウンロード方法

「本店移転登記申請書」は法務局のウェブサイトからダウンロード可能です。

また、マネーフォワード クラウド会社設立でも「本店移転登記申請書」の無料テンプレートをご用意しているので、ぜひご活用ください。

本店移転登記にかかる費用

自分で手続きする場合、費用は気になるところです。

登録免許税

本店移転登記にかかる登録免許税は、以下の通りです。

  • 管轄内本店移転:30,000円
  • 管轄外本店移転:60,000円 (旧本店所在地法務局分30,000円 + 新本店所在地法務局分30,000円)

この費用は、収入印紙を購入し、登記申請書と一緒に提出する台紙に貼付して納付します。

その他の費用

登録免許税以外に、以下のような実費が発生する場合があります。

  • 登記事項証明書取得費用:登記完了後や、場合によっては議事録作成の際に会社の情報を確認するために取得します(1通490円〜600円程度)。
  • 郵送費:郵送申請する場合の書留郵便代など。
  • 交通費法務局へ直接出向く場合の交通費。

自分で手続きを行えば、司法書士への報酬は発生しません。

本店移転登記にかかる期間

登記申請から登記が完了するまでの期間は、申請先の法務局の混雑状況や申請内容(管轄内か管轄外かなど)によって異なり、一般的には以下の通りです。

  • 管轄内本店移転:申請からおおむね1週間〜2週間程度。
  • 管轄外本店移転:旧本店と新本店の両方の法務局での手続きがあるため、通常の1週間〜2週間より日数がかかるケースもあります。

法務局のウェブサイトで、現在の標準処理期間の目安が公開されている場合もありますので、確認してみるとよいでしょう。

本店移転登記のオンライン申請の方法

法務局の「登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと 供託ねっと)」を利用すれば、インターネット経由で本店移転登記の申請ができます。オンラインで登記申請を行うことができるのは代表取締役に限られ、本人のマイナンバーカードを使用します。

オンライン申請のメリット

  • 法務局へ出向く必要がない。
  • 平日の午前8時30分から午後9時まで申請可能。
  • 電子証明書による署名など一定の条件を満たした場合、登録免許税が安くなる場合がある。
  • 処理が比較的早い。

準備するもの

  1. パソコンとインターネット環境
  2. 申請用総合ソフトのダウンロード・インストール
  3. 電子証明書
  4. ICカードリーダライタ

GビズIDプライムまたはメンバーアカウントは必須ではありませんが、利用できる手続きが広がります。

登記・供託オンライン申請システムの利用手順

大まかな流れは以下の通りです。

  1. 申請用総合ソフトを起動し、申請者情報を登録する。
  2. 申請書様式を選択し、必要事項を入力する(登記すべき事項はテキストファイルで添付も可能)。
  3. 作成した株主総会議事録などの添付書類をPDF化し、電子署名を付与して添付する。
  4. 申請データを送信する。
  5. 到達通知・受付のお知らせを確認後、登録免許税を電子納付する(インターネットバンキングやATMからPay-easyを利用)。

利用手順の詳細については、法務局のウェブサイト「株式会社の本店移転の登記をしたい方(オンライン申請)」ページで確認しましょう。

参考:商業登記のオンライン申請について|法務省

オンライン申請の注意点

  • 全ての添付書類をPDF化し、電子署名を付与する必要があります。
  • パソコン操作や申請システムに慣れていないと、最初のうちは戸惑うかもしれません。
  • 電子証明書の有効期限に注意が必要です。

本店移転登記完了後に必要な手続き一覧

本店移転登記完了後は、以下の関係各所への届出・連絡を忘れずに行いましょう。

税務署への届出

  • 異動届出書:新しい本店所在地を管轄する税務署(場合によっては旧本店所在地を管轄する税務署にも)へ提出します。登記事項証明書(履歴事項全部証明書)のコピーを添付します。
  • 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書

都道府県・市区町村への届出

新しい本店所在地のある都道府県税事務所および市区町村役場へ、法人住民税・法人事業税に関する届出を行います。登記事項証明書のコピーなどを添付します。

年金事務所・労働基準監督署・ハローワークへの届出

  • 健康保険・厚生年金保険 適用事業所名称/所在地変更(訂正)届:新しい本店所在地を管轄する年金事務所へ提出します。
  • 労働保険名称、所在地等変更届:新しい本店所在地を管轄する労働基準監督署へ提出します。
  • 雇用保険事業主事業所各種変更届:新しい本店所在地を管轄するハローワークへ提出します。

これらの届出は、移転後速やかに行う必要があります。提出期限が設けられているものもあるため注意しましょう。

その他

  • 金融機関:取引のある銀行や信用金庫、証券会社、保険会社など金融機関に住所変更の届出を行います。登記事項証明書などが必要になります。
  • 取引先・顧客:請求書や契約書等の送付先が変わるため、速やかに連絡します。
  • 郵便局:転居届を提出し、旧本店所在地宛の郵便物が新住所へ転送されるように手続きします。
  • ウェブサイト・会社案内・名刺など:記載されている住所情報を更新します。
  • 許認可関連:許認可を受けて事業を行っている場合は、管轄の行政庁への届出や変更申請が必要な場合があります。

これらの手続きを漏れなく行うことで、移転後の事業運営をスムーズに開始できます。

本店移転登記をスムーズに行いましょう

株式会社の本店移転登記は、法律で定められた重要な手続きであり、正確な書類作成と期限内の申請が求められます。この記事では、自分で手続きを行うことを前提に、その流れ、必要書類、費用、オンライン申請の方法、そして登記完了後の手続きまでを網羅的に解説しました。

ご自身で手続きを進める際は、この記事の内容を参考に、法務局のウェブサイトや相談窓口も活用しながら、慎重に準備を進めてください。特に、「本店移転登記 必要書類」の確認と、「本店移転登記申請書」の正確な記入は、スムーズな手続きを行う上で大切になります。もし手続きに不安を感じる場合や、時間を節約したい場合は、司法書士などの専門家に相談することも賢明な選択です。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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