- 更新日 : 2025年11月6日
勤務医は法人化できる?医師が法人設立するメリット・デメリットや手順を解説
所得が増えるとそれだけ課せられる税金が増えてきます。そのため「少しでも節税したい」と考える医師の方は多いのではないでしょうか。そこで検討したいのが、医師として法人化し、節税する方法です。
本記事では、勤務医が法人化する方法についてご紹介します。法人化のメリット・デメリットも含めて確認していきましょう。
目次
勤務医は法人化が可能?
勤務医であっても、法人化は可能です。法人化を検討すべきタイミングと、どのような事業で法人化したらいいのかを考えていきます。
法人化を検討すべきタイミング
勤務医が法人化を検討するのであれば、年間課税所得が800万円超を目安にしましょう。その理由ですが、法人税と比較して所得税率が高くなるためです。
課税所得金額800万円の場合、個人の所得にかかる所得税は23%(控除額は63万6,000円)です。それに対して、資本金1億円以下の法人に課せられる法人税の税率は年800万円以下の部分が15%、年800万円を超える部分は23.20%です。よって、所得が800万円を超えると法人税の方が節税などの面で有利になります。
どのような事業で法人設立が考えられる?
勤務医が法人化する場合、主に以下のような事業が考えられます。
- 資産管理会社を設立する
不動産投資や株式投資などを行っているのであれば、資産管理会社を設立するという方法があります。資産管理会社であれば、運用指示などを行うだけでよいため、本業に支障をきたすこともないでしょう。
- メディカルサービス法人を設立する
保険請求業務や会計業務、化粧品などの販売を行うメディカルサービス法人を設立するという方法です。法人としての節税効果以外にも事業拡大が期待できます。個人の医師よりも医療法人でよく使われる手法です。
- セミナーや執筆を行う法人を設立する
医療に関するセミナーや原稿執筆を引き受ける医師の方であれば、法人を設立することで、経費として扱える範囲を広げることができ、節税につながります。例えば、業務上で使用した交通費、光熱費なども経費扱いにすることが可能です。
- 医療コンサルティング会社を設立する
病院の経営支援を行うコンサルティング会社を設立するという方法です。自分の経験を生かすことができ、収入を増やすことができるでしょう。
勤務医が法人を設立するメリット
勤務医が法人を設立するメリットをご紹介します。
- 信用力の向上
- 相続税対策
- 節税対策
- 経費にできる幅が広がる
信用力の向上
法人化にすることで世間からの信用力は高まります。特に、医療コンサルティングやセミナー事業を行う場合、個人よりも登記に気を配っている法人の方が信用されやすいというメリットがあるでしょう。事業拡大につながる可能性も見込まれます。
相続税対策
財産を法人の名義にしておくことで、医師個人で相続するよりも、相続税の負担を軽減することができます。
節税対策
先述のとおり、法人にすると法人税が適用されます。所得が多くなればなるほど個人にかかる所得税よりも法人税の方が税率は低くなるため節税効果が高くなります。
経費にできる幅が広くなる
法人は個人と比較すると経費にできる幅が広くなります。例えば、光熱費やスマートフォンに関する費用なども経費として扱うことが可能です。
ただし、経費にできるのは業務で使っている範囲であり、プライベートと兼用する場合は、業務で使っている分を割り出した金額のみが経費扱いになります。
勤務医が法人を設立するデメリット
勤務医が法人を設立する場合、メリットだけではありません。デメリットもありますので、ご紹介します。
- 設立費用
- 運営コスト
- 行政手続きの増加
設立費用
法人を設立する際は登記費用などに費用がかかります。株式会社の場合、約20万円~30万円、合同会社の場合、約6万~10万円程度は必要です。
運営コスト
煩雑な事務作業を行うスタッフの雇い入れ、会計関連の処理を依頼する税理士や会計士への顧問料など、法人ならではのコストがかかる可能性もあります。
行政手続きの増加
法人の場合、登記の手続きや毎年の確定申告など、個人と比較すると行政手続きが増加します。
勤務医が法人を設立する際に必要な手続き
勤務医が法人を設立する流れを押さえておきましょう。なお、勤務医が法人を設立する手続きは一般的な法人設立とほぼ同じです。
- 社名や資本金、所在地を決める
社名や資本金の額などを決定します。 - 事業目的の決定
資産管理会社にする、医療に関するセミナーや執筆を引き受ける会社にする、などの事業の目的を決定します。 - 定款作成、認証
会社の決まりを定款として作成します。株式会社の場合、作成した定款は公証役場で認証を受ける流れです。 - 資本金を払い込む
資本金を発起人の銀行口座に振り込みます。 - 登記申請書類の作成と法務局への提出
登記申請書を作成し、定款、資本金の払い込み証明書などと共に法務局に提出します。
勤務医が法人を設立する際の注意点
勤務医が法人を設立する場合、いくつかの注意点があります。ここでは主な注意点について紹介します。
勤務先の許可が必要な場合も
勤務医の法人化には勤務先の就業規則等を確認し、必要に応じて許可を得る必要があります。「副業禁止」という決まりがある勤務先の場合、法人設立が認められないと頭にいれておきまよう。無断で法人設立すると、トラブルになる恐れもありますので気をつけましょう。
手続きに強い税理士を探すのが難しい
相続対策、節税など、勤務医が法人設立をする目的はさまざまです。勤務医の事情に詳しく、かつ医療系に精通している税理士を探すのが難しい場合もあります。
勤務医の法人化における経営者の傾向データ
勤務医が法人化を検討する際、実際の法人設立の傾向を知ることは参考になります。ここでは、法人設立経験者のデータから、勤務医の法人化を考える際のポイントを見ていきましょう。
半数以上が段階的な法人設立を選択
マネーフォワード クラウドで実施した調査によると、会社設立者1,040名のうち57.8%が会社設立前に個人事業主として事業を行っており、法人成りの形で会社を設立していることが明らかになりました。
特に設立間もない企業ほどその傾向が強く、設立1年以内の企業では68.5%、設立2~3年以内の企業では75.2%と、近年設立された企業ほど個人事業主からの法人成りの割合が高くなっています。
出典:マネーフォワード クラウド、先輩起業家が一番困ったことは?【会社設立の意思決定調査】(回答者:会社設立の経験がある方1,040名、集計期間:2024年1月)
勤務医の法人化における段階的アプローチの有効性
このデータは、勤務医の法人化においても参考になります。多くの経営者が個人事業主として事業基盤を固めてから法人成りを選択している傾向は、勤務医にとっても有効なアプローチといえるでしょう。
例えば、勤務医が資産管理会社やセミナー事業を始める場合、まず個人事業主として小規模に開始し、年間課税所得が800万円を超えるタイミングで法人化を検討するという段階的な方法が考えられます。この方法により、事業の実績を積みながら、法人化のメリットを最大限に活かすことができます。また、勤務先の就業規則の確認や、医療系に精通した税理士の選定など、準備期間を設けることで、より円滑な法人設立が可能になるでしょう。
節税したいのであれば、勤務医の法人化にはメリット多し!
勤務医が法人化することで節税効果が期待できます。また、法人設立で信用度が高まるため、メディカルサービス法人やセミナー会社などの場合は事業拡大につながる可能性もあります。所得額が増えてきた場合、勤務医であってもメリット・デメリットを踏まえ、法人化を検討することをおすすめします。
なお、勤務医が法人化する際は、副業規定の有無を確認し、必要に応じて勤務先の許可を取るようにしましょう。無許可で法人設立してしまうとトラブルが発生する可能性がありますので気をつけてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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