- 作成日 : 2024年4月5日
実用新案法とは?保護対象や出願のメリット、出願方法・改正内容を解説
実用新案法とは、物品の形状や構造、組み合わせに関する考案を保護する法律です。他社との差別化を行いたい技術的な創作について、知的財産権上の保護を受けたい際に役立ちます。
本記事では、企業の法務担当者の方に向けて、実用新案法とは何かや特許との違い、保護対象、登録の流れ、実用新案法改正のポイントについてわかりやすく解説します。
目次
実用新案法とは?
実用新案法は、物品の形状や構造、組み合わせに関する考案を保護するための法律です。実用新案の出願や登録、実用新案の内容、権利が侵害された際の対応などが定められています。
自然法則を用いた技術的なアイデアの中でも、高度なものは特許法により保護されます。また、特許権を得るほど高度でないアイデアも、実用新案権における保護対象です。これにより、幅広い範囲の技術的創作が法的な保護を受けられます。
実用新案法の目的
実用新案法は、一見些細な工夫でも産業界での役割が大きく、日常生活を便利にする「考案」を保護する目的で制定されました。
他社との差別化を追求する技術的創作について、簡易的な手続きを通じて知的財産権の保護を望む場合、実用新案登録出願が役立ちます。これにより、オリジナリティのあるアイデアを保護しながら、事業の競争力を高められるでしょう。
実用新案法の保護対象
実用新案法は、物品の形状に係るものが保護の対象であり、技術的思想の創作のうち、高度である点を必要としません。
本項では、実用新案法の保護対象について詳しく解説します。
保護対象の法的な定義
実用新案法の第2条および第3条により、自然法則を利用した技術的な創作が保護の対象です。具体的には、物品の形状や構造、あるいはそれらの組み合わせに関する考案とされています。
一方、方法に関する考案は、実用新案法の保護対象外です。
また、特許法の保護対象とは異なり、考案が高度である必要はありません。これにより、さまざまな技術的創作が実用新案法の保護を受けられます。
実用新案と特許の違い
実用新案法における実用新案と特許は、保護対象が以下のように異なります。
実用新案 | 特許 | |
---|---|---|
保護の対象 | 自然法則を利用した技術的思想の創作 | 自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの |
引用:e-GOV法令検索 実用新案法
引用:e-GOV法令検索 特許法
具体的には、実用新案は、物品の形状、構造、組み合わせについての考案を保護します。一方で、特許は、プログラムや化合物などの発明や方法や物の生産方法の発明が保護対象です。
実用新案と特許は、保護対象が重複している部分があるため、考案の内容によっては、特許と実用新案のどちらでも出願が可能です。
ただし、他社の模倣行為に対抗したい場合、実用新案権は効果的な手段とは言えません。そのため、特許出願を行い、特許権を取得する方がより有利でしょう。
保護対象の具体的な事例
実用新案法の保護対象となる具体的事例として、花王のフローリング用清掃用具「クイックルワイパー」が挙げられます。クイックルワイパーは、清掃ヘッドに対して柄の角度を自由に調整できる製品です。これにより、清掃ヘッドがぐらつかず、作業性が向上します。
このような技術的な面での工夫が、実用新案法により保護されています。
実用新案登録の流れ
実用新案登録の流れは、以下のとおりです。
- 実用新案登録願の記入
- 特許庁出願課に提出
- 審査を受ける
- 設定登録がされる
まずは、実用新案登録願に、考案者名や住所、考案名、登録請求の範囲、創作物の特徴などを記載します。
書類を記載した後は、特許庁出願課に提出します。その後、審査を経て、設定登録という流れです。
本項では、実用新案法の流れや提出方法について説明します。
出願のメリット
実用新案として出願するメリットは、特許出願が難しいものでも、実用新案登録の対象となる場合があることです。それにより、登録された考案の実施(生産や使用、販売)などを独占できます。
さらに、特許庁から発行される「実用新案技術評価書」をもっていれば、権利侵害者に対して差し止めや損害賠償の請求ができる可能性があります。
そのほかに、実用新案登録は無審査で、迅速かつ安価に登録ができ、出願から10年間権利が保有できます。
これらのメリットにより、実用新案登録は企業にとって、特許出願できないものを権利保護できる手段と言えるでしょう。
出願にあたって必要な書類
実用新案の出願にあたっては、実用新案登録出願を記載してください。以下のページに記載する必要があります。
- 実用新案登録願
- 実用新案登録請求の範囲
- 明細書
- 図面
- 要約書
実用新案登録願では、考案者や出願人の名前、住所などの基本情報を記入します。実用新案登録請求の範囲では、登録を希望する考案の特徴を具体的に記述します。
明細書は、物品の形状や構造を表してください。図面は、物品の形状や構造を表す必要があり、明細書と合わせて考案の内容を理解するための重要な資料です。
要約書は、考案者が解決する課題や手段を明確に記載します。見出しを含め、400字以内で記載しましょう。
提出方法
実用新案登録の出願書類の提出方法は以下の3点です。
- 直接提出
- インターネット出願
- 郵送
実用新案登録の出願書類は、特許庁の出願課出願受付(特許庁庁舎1階)へ直接提出できます。インターネット出願ソフトを用いたインターネットによる出願も可能です。
また、郵送による提出もできます。郵送先は「〒100-8915 東京都千代田区霞が関3丁目4番3号 特許庁長官 宛」です。
必要な書類を提出すると、実用新案登録の手続きを進められます。
審査
実用新案の審査には、2つの流れがあります。
- 基礎的要件審査
- 方式審査
一つ目は「基礎的要件審査」です。ここでは、出願書類に記載された内容が実用新案登録の基本的な要件を満たしているかを審査します。ただし、新規性や進歩性といった実体的要件に対する審査は行われません。
基礎的要件は、以下の5つの要件から成り立ちます。
- 物品の形状、構造又は組合せに係る考案であること。
- 公の秩序、善良の風俗などに反しないこと。
- 実用新案登録請求の範囲の記載様式を満たしていること。
- 考案の単一性を満たしていること。
- 明細書、実用新案登録請求の範囲または図面に必要な事項が記載されており、その記載が著しく不明瞭でないこと。
引用:知的財産相談・支援ポータルサイト 実用新案登録出願書類の書き方ガイド
次に「方式審査」では、出願書類や手続きが法律で定められている方式要件に適合しているかが検証されます。審査を通過すると、実用新案登録は進行します。
設定登録の流れ
方式要件や基礎的要件を満たした実用新案登録出願は、出願から約2ヶ月ほどで実用新案権が設定され、登録が完了します。
登録を証明する「実用新案登録証」は、登録された日からおよそ2週間後に郵送されます。
参考:特許庁 初めてだったらここを読む~実用新案出願のいろは~
直近の実用新案法改正でおさえておくべきポイント
2020年4月に実用新案法29条(損害賠償額の推定等)の第1項と第4項が改正され、実用新案権侵害の被害者である実用新案権者は、広範囲に損害賠償を求められるようになっています。
今までの実用新案法では、被害者は、自身の生産・販売能力の範囲内で損害賠償請求ができました。一方で、改正法では、自らの生産・販売能力を超える部分に対しても、損害賠償請求ができるようになっています。それにより、実用新案権の侵害を前提としたライセンス料相当額の損害賠償請求が可能です。
また、実用新案権侵害があった場合は、侵害がないときに比べて、ライセンス料が高く設定されます。損害賠償請求にあたって、侵害の事実を前提とした対価を考慮するためです。
実用新案法改正の詳細について、詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。
実用新案法を理解して、自社の技術を守ろう
実用新案法とは、自然法則を利用した技術的アイデアを保護する法律です。特許を得るほどではない高度なアイデアを実用新案法によって保護できます。
実用新案法を出願するメリットは、無審査でスピーディーかつ安価に登録できる点です。出願する際には「実用新案登録願」を提出する必要があるため、準備してください。
実用新案法を理解して、自社が保有している技術を守りましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
行政契約とは?意味や種類をわかりやすく解説
行政契約とは、行政主体が契約の当事者となり、他の行政主体や私人との間で結ぶ契約をいいます。過去には、行政契約を公法上の法律関係として私人間の契約と区別する考え方がとられることもありましたが、現在では両者の区別はせず、あくまで契約としてその意…
詳しくみるフリーランス新法と下請法の違いは?企業の対応についても解説
フリーランス新法と下請法の違いを理解することは、企業にとって重要です。2024年11月に施行予定のフリーランス新法は、下請法と類似点がありながらも、適用範囲や義務内容に違いがあります。 本記事では、両法の比較や企業の対応について詳しく解説し…
詳しくみる民法における危険負担とは?契約時に確認したい項目も解説
2020年4月に民法の改正法が施行され、売買など、当事者双方が債務を負う双務契約で問題となる「危険負担」のルールが大きく変わりました。 この記事では、売買契約などの双務契約において理解しておくべき危険負担について、わかりやすく解説していきま…
詳しくみる無体財産権とは?債権との違いも解説!
「知的財産権」と聞くと、特許権や著作権を思い浮かべる方が多いでしょう。 一方で、「無体財産権」という言葉を似たような意味で使っている記事も散見します。 「知的財産権」と「無体財産権」は何が違うのでしょうか。 この記事では無体財産権とは何か、…
詳しくみる民法627条とは?退職の申入れや解雇予告についてわかりやすく解説
民法627条は、雇用契約の解約の申入れに関して定めた法律です。雇用期間が設定されていない場合、同条では当事者はどのタイミングでも解約の申入れができると定められています。 本記事では、民法627条の概要、就業規則や労働基準法との関係を解説しま…
詳しくみる【2023年施行】民事訴訟法改正を解説!業務への影響や今後の変更は?
2023年に民事訴訟法が改正され、新たな仕組みが順次適用されます。訴訟準備や口頭弁論期日の参加などにWeb会議システムが利用しやすくなるなど、全体としてIT化が進む内容となっています。 当記事で改正内容をまとめて紹介しますので、新しい訴訟の…
詳しくみる