- 作成日 : 2023年4月28日
民法における危険負担とは?契約時に確認したい項目も解説
2020年4月に民法の改正法が施行され、売買など、当事者双方が債務を負う双務契約で問題となる「危険負担」のルールが大きく変わりました。
この記事では、売買契約などの双務契約において理解しておくべき危険負担について、わかりやすく解説していきます。
目次
民法における危険負担とは?
帰することができない事由で債務を履行することができなくなった場合、債務者と債権者のどちらが履行することができなくなったことによる損失を負担するかという問題が生じます。
この問題を「反対給付の履行を拒むことができるか」という形で規定するのが「危険負担」です。
例えば、売主Aが所有する家屋を買主Bに売買する契約を締結した場合、売主Aは買主Bに目的物である家屋を引き渡す義務を負います。
この事例で売買契約後、家屋を引き渡す前にABの責めに帰することができない事由によって火災が発生し家屋が全焼してしまい、引き渡すことができなくなった場合、どのような扱いになるのでしょうか。
改正民法における危険負担では、次のようなルールとなっています。
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
つまり、事例では買主Bは売主Aに代金の支払を拒絶できることになります。
危険負担では、このように買主の代金支払債務が制限され、売主がリスクを負担する考え方を「債務者主義」といいます。反対に代金支払債務が制限されず、買主がリスクを負担する考え方を「債権者主義」と呼んでいます。
なお現行法のように危険負担が債務者主義の場合でも、買主の代金支払債務は当然には消滅しません。債務から完全に解放されるには、買主Bは契約解除の意思表示をしなければなりません。
契約書の危険負担条項で注意してチェックしたい点
売買などの契約書には、通常、危険負担条項を盛り込みますが、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。
売主の立場と買主の立場に分けてみていきましょう。
売主の立場で特にチェックしたい項目
基本的に民法には「契約自由の原則」があるため、「債務者主義」ではなく、「債権者主義」として買主の代金支払債務が消滅しないような特約条項を設けることも可能です。しかし、民法が「債務者主義」としている以上、無理に債権者主義にするよう申し入れると買主が反発し、契約が破断となる可能性があります。
改正民法では、危険の移転時期は「引き渡し時」であることが明文化されています(法567条)。つまり目的物を引き渡した時点でリスクは買主が負うことになります。
特約条項を入れる場合、民法の規定通りとなっているか確認しましょう。
なお機械などの物品売買の場合で危険負担の移転時期が「検査完了時」あるいは「検査合格後」となっている場合は、納品(引き渡し)後よりも後ろ倒しになっていることを意味します。
この場合、納品後、検査合格までの間に盗難などで物品が滅失してしまった場合には買主は代金支払を拒むことができます。債務者(売主)にとって不利な方向の特約がついているといえるでしょう。
買主の立場で特にチェックしたい項目
買主の立場では売主の場合と逆になります。危険負担の特約条項が「債権者主義」になっていないか、しっかり確認する必要があります。
また、危険の移転時期は、納入後の「検査完了時」あるいは「検査完了時」とし、できるだけ遅い移転時期とする方が有利です。
2020年4月施行の改正で危険負担はどう変わった?
すでに述べたように民法の危険負担に関する規定は、2020年4月施行の改正民法によってルールが変わりました。
改正により「債務者主義」となっています。
民法における危険負担について知っておこう!
売買契約などの双務契約において理解しておくべき危険負担について解説してきました。
まず、現行民法では「債務者主義」を採用し、リスクは売主が負担することになっていることを理解しましょう。そして契約書の危険負担の特約条項をチェックしておくと良いでしょう。
よくある質問
危険負担とは何ですか?
売買などの双務契約において、売主に責任がない事由で物を引き渡す債務が履行不能となった場合、売主と買主のどちらがリスクを負担するか、という問題のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
契約書の危険負担条項をチェックする際に気をつけるべきことはありますか?
債権者主義になっていないか、引き渡し時期がいつになっているかを確認すべきです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)とは? 条文や要件をわかりやすく解説
電子契約を導入するにあたっては、その法的根拠を理解する必要があります。それは電子署名法および各種の関係法令です。今回は電子署名法の概要や、電子署名の「真正性」を担保する認証業務の仕組みについて解説します。 電子署名法(電子署名及び認証業務に…
詳しくみる2022年6月施行の特定商取引法改正を解説
消費者の無知につけ込む悪質な送付商法やサブスク商法が問題視され、特定商取引に関する法律(特商法)や、それに関連する法令が改正されました。2021年に改正された特商法は、2022年6月に施行されました。 今回は、改正特商法のポイントをわかりや…
詳しくみる著作者とは?法的な定義や権利を解説
著作者とは、著作権や著作者人格権を取得した主体を指します。このうち、財産権である著作権は他の人に譲渡をすることも可能です。著作者が著作権を譲渡すると著作者以外の人に著作権が帰属し、権利行使できるようになります。 今回は著作者の意義や権利、業…
詳しくみる民法541条とは?催告の相当期間はどのくらい?契約解除の手続きをわかりやすく解説
民法第541条は、契約の相手方が債務を履行しない場合に、相当の期間を設けたうえで契約解除を可能にする規定です。具体的に「相当の期間」とは、どのくらいなのでしょうか?本記事では、民法第541条の概要や適用ケース、契約解除の手続き、関連する判例…
詳しくみる民法555条とは?売買契約の成立要件や効果についてわかりやすく解説
民法555条とは、売買契約が成立する要件を定める条文です。売主がある商品やサービスの所有権を買主に移転することを約束し、買主が売主に代金を支払うことを約束すると売買契約が成立します。民法555条の成立要件や得られる効果、書面作成の必要性につ…
詳しくみる債務不履行における損害賠償とは?
債務不履行を理由とする損害賠償については、主張すべき要件事実や請求可能な範囲、時効期間など、民法に規定されているルールを知る必要があります。 この記事では、損害賠償請求を行うために満たすべき要件や注意点、また債務者側にとっても重要な帰責事由…
詳しくみる