- 作成日 : 2025年8月5日
ChatGPTによるリーガルチェックの方法は?契約書作成に使えるプロンプトも紹介
近年、ChatGPTをはじめとする生成AIを活用したリーガルチェックが、多くの企業で注目されています。簡単な指示(プロンプト)で契約書の要約やリスクの洗い出しができるため、法務部門の業務効率化に繋がると期待されています。しかし、その手軽さの裏には、情報の正確性や機密情報漏洩といった重大なリスクも潜んでいます。
本記事では、ChatGPTをリーガルチェックに安全かつ効果的に活用するための具体的な手順、目的別のプロンプト例、注意点などを分かりやすく解説します。
目次
生成AIによるリーガルチェックの現状
これまで弁護士などの専門家が担ってきたリーガルチェック業務に、ChatGPTをはじめとする生成AIを活用する動きが活発化しています。スタートアップから大企業まで、法務部門の業務効率化やコスト削減を目的に導入検討が進んでいます。
特に、NDA(秘密保持契約)や業務委託契約書といった定型的な契約書の一次レビューに生成AIを導入し、人間はより複雑で重要な判断に集中するという分業体制が現実的な選択肢となりつつあります。これにより、契約締結までのスピードが向上し、ビジネスチャンスを逃さない体制構築が期待できます。
生成AIによるリーガルチェックの違法性については、以下の記事をご覧ください。
ChatGPTを活用したリーガルチェックでできること
ChatGPTは万能ではありません。リーガルチェックでできることとできないことを正しく理解しておくことが重要です。
できること | できないこと |
---|---|
契約書の要約 | 最新の法改正や判例の完全な反映 |
定型的な契約書の不利な条項の洗い出し | ビジネスモデルや交渉の背景を汲み取ったリスク判断 |
条文の代替案(たたき台)の作成 | 紛争解決を見据えた戦略的な条項の提案 |
契約書同士の比較と差分のリストアップ | 業界特有の慣習や専門用語の正確な理解 |
文章表現の平易化や誤字脱字のチェック | 法的判断そのもの |
ChatGPTを活用したリーガルチェックの手順
次に、ChatGPTを活用したリーガルチェックの具体的な手順を見ていきましょう。
ステップ1. 契約書の機密情報をマスキングする
契約書に含まれる会社名、担当者名、住所、取引金額、製品名といった固有の情報を、ChatGPTに入力する前に必ずマスキング(匿名化)してください。例えば、「株式会社A」を「甲」、「株式会社B」を「乙」のように置換します。
これを怠ると、入力した機密情報がAIの学習データとして利用され、外部に漏洩するリスクがゼロではありません。セキュリティを最優先し、情報漏洩対策を徹底することが、ChatGPTをビジネスで利用する上での大前提です。
ステップ2. 目的別のプロンプトを入力する
次に、目的に応じたプロンプトを入力します。単に「この契約書をチェックして」と依頼するのではなく、「あなたは日本の法律に詳しい弁護士です。以下の契約書案について、甲の立場から不利な点、リスクとなりうる点を網羅的にリストアップし、その理由と代替案を提案してください」のように、役割、立場、目的、出力形式を具体的に指定します。このプロンプトの質が、出力結果の精度を大きく左右します。
ステップ3. 出力結果を専門家がレビュー・修正する
ChatGPTからの回答は、あくまで参考情報です。鵜呑みにせず、必ず人間の目でその内容をレビューしてください。AIは事実誤認(ハルシネーション)を起こす可能性があり、最新の法改正や業界特有の慣習を反映していない場合もあります。指摘されたリスクが本当に自社にとってリスクなのか、提案された代替案が現実的かなどを、自社の状況に照らし合わせて判断し、必要に応じて修正を加える作業が不可欠です。
ChatGPTのリーガルチェックで使えるプロンプト例
ここでは、コピー&ペーストしてすぐに使える、目的別のプロンプト例を紹介します。これらのテンプレートをベースに、ご自身の状況に合わせてカスタマイズしてみてください。
契約書の要約
長大な契約書の全体像を素早く把握したい場合に有効です。重要なポイントを箇条書きで整理させることで、レビューの当たりをつけやすくなります。
#役割
あなたは日本の法務担当者です。
#指示
以下の契約書の内容を、500字程度で要約してください。特に、以下の点を明確に含むように箇条書きで整理してください。
- 契約の目的
- 契約期間と更新条件
- 当事者の主な義務
- 契約金額と支払条件
- 解除条件
#契約書
(ここにマスキングした契約書全文を貼り付け)
不利な条項の洗い出し
自社にとって潜在的なリスクを見つけ出す、リーガルチェックの核となる作業です。立場を明確に指定することがポイントです。
#役割
あなたは、中小企業を専門とする経験豊富な日本の弁護士です。
#指示
以下の業務委託契約書について、「委託者(甲)」の立場から、不利な条項、リスクとなりうる曖昧な表現、法的に問題となる可能性のある箇所をすべてリストアップしてください。それぞれの項目について、なぜ問題なのかという理由も併せて説明してください。
#契約書
(ここにマスキングした契約書全文を貼り付け)
代替案の作成
リスクを指摘させるだけでなく、その解決策まで提案させることで、より実務的なサポートが得られます。具体的な修正案を求めることが重要です。
#役割
あなたは、IT業界の契約交渉に精通した日本の弁護士です。
#指示
(上記のプロンプトでリスクを洗い出した後)
先ほど指摘した各リスク項目について、委託者(甲)のリスクを低減するための具体的な修正条文案(代替案)をそれぞれ提示してください。
#リスク項目
(ChatGPTが指摘したリスク項目を貼り付け)
契約書の種類比較
2つの契約書の違いを明確にしたい場合に役立ちます。変更点をハイライトさせることで、交渉のポイントが明確になります。
#役割
あなたは、契約書の比較と分析を専門とするパラリーガルです。
#指示
以下の「契約書A」と「契約書B」を比較し、相違点をすべてリストアップしてください。条項番号ごとに、どのように内容が異なるのかを分かりやすく表形式でまとめてください。
#契約書A
(ここにマスキングした契約書Aの全文を貼り付け)
#契約書B
(ここにマスキングした契約書Bの全文を貼り付け)
ChatGPTを活用したリーガルチェックの注意点
業務効率化に大きな可能性を持つChatGPTですが、その限界とリスクを理解しないまま利用することは、重大なトラブルにつながりかねません。ここでは、特に注意すべき3つのポイントを解説します。
情報の正確性と最新法令への対応
ChatGPTの知識は、学習データに基づいています。そのため、ごく最近の法改正や最新の判例が反映されていない可能性があります。また、特定の業界だけで通用する特殊な商慣習や専門用語を誤って解釈することもあります。出力された内容が常に正しいとは限らず、ファクトチェックは必須です。法的判断の根拠としてAIの回答をすべて信用することは絶対に避けてください。
機密情報漏洩の危険性
最も警戒すべきリスクが機密情報の漏洩です。デフォルト設定のChatGPTでは、入力した情報がAIの学習に利用される可能性があります。API経由での利用や、設定でオプトアウトすることも可能ですが、それでも人的ミスによる情報入力のリスクは残ります。契約内容は、一度漏洩すれば取引先からの信頼失墜や損害賠償問題に発展しかねません。マスキングの徹底は、最低限の防御策です。
無料のAIツールの注意点
無料のAIツールも散見されますが、利用には細心の注意が必要です。なぜ無料で提供できるのか、そのビジネスモデルを理解する必要があります。多くの場合、ユーザーが入力したデータを収集・分析し、サービスの改善や新たなビジネスに活用している可能性があります。利用規約をよく読み、自社の機密情報がどのような目的で利用されるのかを把握した上で、利用を判断すべきです。安易な利用は、予期せぬ情報漏洩リスクを招きます。
ChatGPTを活用しても弁護士によるレビューが不可欠
AIによるチェックは便利ですが、最終的な判断は弁護士に依頼するのが最も安全です。AIにはできない、専門家ならではの価値があります。
- ビジネスの背景理解
弁護士は、契約書上の文言だけでなく、その背後にあるビジネスモデルや業界の力関係、将来起こりうるトラブルを想定して、多角的にリスクを評価します。 - 戦略的アドバイス
単なるリスクの指摘に留まらず、交渉を有利に進めるための戦略や、相手方との関係性を考慮した落としどころなど、企業の状況に合わせた最適なアドバイスを提供できます。 - 法的責任
弁護士は、そのアドバイスに専門家としての責任を負います。AIの出力結果には、誰も責任を取ってくれません。
日常的なNDAや定型契約書の一次レビューは生成AIで行いコストを削減し、そこで洗い出されたリスク箇所や、M&A契約、ライセンス契約といった重要度・専門性が高い契約書は、最終的に弁護士にレビューを依頼する、というハイブリッドなアプローチが最も効果的です。
ChatGPTをリーガルチェックに賢く活用しましょう
本記事では、ChatGPTを活用したリーガルチェックについて、その具体的な方法からプロンプト例、そして限界とリスクまでを網羅的に解説しました。
生成AIは、契約書業務を効率化する強力なツールですが、決して万能ではありません。情報漏洩対策を徹底し、必ず人間の目で最終確認を行うことが不可欠です。AIの能力を正しく理解し、リスクを管理しながら賢く活用することで、安全で質の高い法務体制を構築していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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