- 作成日 : 2022年2月25日
専用実施権とは?通常実施権との違いや申請方法を解説!
他人の特許発明を使って製品の製造等(実施)をするためには、特許権者から実施権の設定を受ける必要があります。実施権には第三者の権利侵害を排他できる「専用実施権」と、排他的効力を有さない「通常実施権」があり、それぞれ定義が異なります。この記事では、これらの違いやそれぞれのメリットについて解説します。
専用実施権とは?
産業上利用可能な発明が成された場合、それを公開して広く知らしめれば、さらに有用な発明が成される可能性があります。これにより、ますますの産業発展が期待できるでしょう。しかし、せっかく多額の研究費を投じて成した発明を他者に自由に使われてしまうと、発明に対するインセンティブが削がれてしまいます。
そこで、発明内容の公開を条件に一定期間その発明を実施する権利を独占させることにしたのが「特許制度」です。特許権を取得すると、原則として出願日から20年間、特許権者は特許発明を独占的に実施することができます。この制度により、正当な権利のない第三者が特許発明を実施した場合は、実施の差止請求や損害賠償請求をすることができます。
特許権者は特許発明を自ら実施するのではなく、他者に実施権を設定して実施料を取ることにより、特許から利益を得ることもできます。特許権者から専用実施権を設定してもらい、特許庁に登録すると、専用実施権者は独占的に特許発明を実施することができるようになるのです。専用実施権は、地域・期間・産業分野などの範囲を限定して設定することができます。
専用実施権を設定すると、特許権者であってもその範囲においては特許発明の実施ができなくなります。また、専用実施権者はその範囲内で特許権者や正当な権利のない第三者が特許発明を実施している場合、実施の差止請求や損害賠償請求をすることができます。
特許を出願したものの、まだ特許が取れていない発明については、仮専用実施権を設定することができます。その後、特許登録があった暁には、仮専用実施権者に専用実施権が設定されたものとみなされます。仮専用実施権は将来の権利を確保することにより、特許登録に先立って安心して製造等の準備を進められることがメリットです。
専用実施権と通常実施権との違い
特許発明の実施権には「専用実施権」のほかに「通常実施権」があり、通常実施権には「独占的通常実施権」と「非独占的通常実施権」があります。
通常実施権者は、特許発明を実施することができます。しかし、特許権者は誰かに通常実施権を設定しても、原則として自分で特許発明を実施することもできますし、第三者に重ねて通常実施権を設定することもできます。
そのため、通常実施権者は専用実施権者と異なり、特許権者や第三者が特許発明を実施していても差止請求や損害賠償請求をすることはできません。
ただし、通常実施権の設定契約で特許権者に対して自ら特許発明を実施することを禁止したり、第三者に通常実施権を設定することを禁止したりすることは可能です。このような禁止規定を設ければ、契約上通常実施権者は特許発明を独占的に実施することができるようになります。このような「禁止義務を付けた通常実施権」を「独占的通常実施権」といい、「禁止義務のないもの」を「非独占的通常実施権」と呼びます。
独占的通常実施権は、特許発明を独占的に実施できるという点では専用実施権に近いといえます。しかし、専用実施権とは異なり、独占的通常実施権に基づいて侵害者に対して差止請求等をすることはできないため、契約違反に基づいて特許権者から第三者に対して侵害差止の措置を取ってもらうほかありません。
この記事をお読みの方におすすめのガイド5選
最後に、この記事をお読みの方によく活用いただいている人気の資料・ガイドを紹介します。すべて無料ですので、ぜひお気軽にご活用ください。
※記事の内容は、この後のセクションでも続きますのでぜひ併せてご覧ください。
電子契約にも使える!契約書ひな形まとめ30選
業務委託契約書など各種契約書や、誓約書、念書・覚書、承諾書・通知書…など使用頻度の高い30個のテンプレートをまとめた、無料で使えるひな形パックです。
導入で失敗したくない人必見!電子契約はじめ方ガイド
電子契約のキホンからサービス導入の流れまで、図解やシミュレーションを使いながらわかりやすく解説しています。
社内向けに導入効果を説明する方法や、取引先向けの案内文など、実務で参考になる情報もギュッと詰まった1冊です。
紙も!電子も!契約書の一元管理マニュアル
本ガイドでは、契約書を一元管理する方法を、①紙の契約書のみ、②電子契約のみ、③紙・電子の両方の3つのパターンに分けて解説しています。
これから契約書管理の体制を構築する方だけでなく、既存の管理体制の整備を考えている方にもおすすめの資料です。
自社の利益を守るための16項目!契約書レビューのチェックポイント
法務担当者や経営者が契約書レビューでチェックするべきポイントをまとめた資料を無料で提供しています。
弁護士監修で安心してご利用いただけます。
法務担当者向け!Chat GPTの活用アイデア・プロンプトまとめ
法務担当者がchat GPTで使えるプロンプトのアイデアをまとめた資料を無料で提供しています。
chat GPT以外の生成AIでも活用できるので、普段利用する生成AIに入力してご活用ください。
専用実施権のメリット
発明をして特許権を取得したものの、自らそれを実施して利益を上げることができない場合、実施能力のある第三者に専用実施権または通常実施権を設定してライセンス料(実施料)を取れる点が、特許権者にとってのメリットといえるでしょう。
上述のとおり、専用実施権の設定・登録をすると、専用実施権者は独占的に特許発明を実施することができるようになります。実施権者としては、正当な権利のない第三者を排他できるという点で、通常実施権より専用実施権のほうが強い権利となります。実施権者にとっては、専用実施権のほうがより安心して設備投資を行えるため、利益の最大化を図りやすい点がメリットといえます。一般的に、通常実施権よりも強い権利となる専用実施権のほうがライセンス料は高額になります。
専用実施権の申請方法
特許庁への専用実施権設定登録申請では、「1.専用実施権設定登録申請書」に、「2.専用実施権設定契約証書」と、「3.特許権者の印鑑証明書」を添付して申請します。特許権を複数の者で共有している場合は、「4.専用実施権設定者以外の共有者の同意書」も必要です。これらの添付書類が外国語で作成されている場合は、「5.日本語の訳文」も提出します。代理人に申請してもらう場合は、「6.委任状」も必要です。
専用実施権設定登録申請書は、特許権者と専用実施権者が共同して作成し、特許権者の実印を押印しなければなりません。申請書には特許番号、専用実施権の範囲(地域・期間・適用分野・数量制限・顧客制限など)、登録の目的(専用実施権の設定)、申請者(特許者・専用実施権者)それぞれの住所、氏名(名称)、添付書面の目録を記載します。また、申請書には、特許権1件につき1万5,000円の収入印紙(登録免許税)を貼付する必要があります。
専用実施権設定契約証書は特許権者と専用実施者の間の契約書になりますが、特許庁への提出用に契約内容を抜粋して作成したもので構いません。特許番号、専用実施権の範囲、申請者の住所、氏名(名称)の記載と、特許権者の実印の押印が必要です。原本または公証人により、「原本に相違ない」ことを証明されたコピーを提出します。
共有者の同意書は専用実施権設定者に宛てて、他の共有者が専用実施権者に対し専用実施権を設定することについて同意する旨を記載した上で実印を押印し、印鑑証明書を添付する必要があります。
特許が関わる時は、専用実施権の設定も忘れず行おう!
特許権者は、特許発明を独占的かつ排他的に実施する権利を有しています。特許権者は専用実施権を設定し、専用実施権者に特許発明を独占的かつ排他的に実施する権利を許諾することができます。
専用実施権を設定すると、その設定範囲内では、特許権者も特許発明を実施することができなくなります。これに対し、特許発明の実施は有するものの、排他権のないものを通常実施権といいます。
通常実施権を許諾しても、特許権者はその設定範囲内で自ら特許発明を実施することが可能です。契約上、特許権者の実施や他者への通常実施権の設定を禁止して、通常実施権者に独占的に特許発明を実施させることも可能です。これを独占的通常実施権と呼びます。
独占的通常実施権は、特許発明を独占的に実施できるという点で専用実施権に近い権利ですが、専用実施権と異なり、独占的通常実施権者は侵害者に対して差止請求や損害賠償請求をすることはできません。
このように、専用実施権は非常に強力な権利です。他社から技術提供を受け、それに特許発明が含まれる場合は、専用実施権の設定を検討しましょう。
被許諾者としては専用実施権の設定が好ましい場合が多いものの、特許権者自身の実施も制限されること、特許庁への登録が必要になることから、専用実施権を設定したがらない特許権者もいます。専用実施権の設定を拒まれた場合は、その代替手段として独占的通常実施権の設定を検討してもらいましょう。
よくある質問
専用実施権とは何ですか?
専用実施権とは、特許庁への登録によって他人の特許発明を独占的かつ排他的に実施できる権利のことです。専用実施権が設定されると、特許権者自身もその設定範囲内では特許発明を実施することができなくなります。詳しくはこちらをご覧ください。
専用実施権と通常実施権の違いは何ですか?
専用実施権は他人の特許発明を独占的かつ排他的に実施できる権利であり、侵害者に対して差止請求等をすることができます。一方、通常実施権は他人の特許発明を実施できるものの、侵害者を排他することはできません。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
労務提供とは?労働者と交わす契約の種類や労務の内容、労働契約違反について解説
従業員を雇うことで、会社は賃金を支払う代わりに、事業のために必要な業務を従業員に行ってもらうことができます。雇われている会社のために従業員が働くことを「労務提供」といいます。当記事では労務提供について詳しく解説します。 労務提供とは? 「労…
詳しくみる運送委託に下請法は適用される?2026年改正のポイントと対応を解説
2026年1月に施行される改正下請法(通称:取適法)では、これまで適用外だった「運送委託」が新たに規制対象に追加されます。荷主企業が運送業者に商品を届けさせる契約も、正式に「特定運送委託」と位置付けられ、発注書の交付義務や支払期限の遵守、価…
詳しくみる下請法におけるキャンセルは合意があれば可能?
下請取引は多くの産業で不可欠ですが、親事業者と下請事業者の間には力関係の不均衡が存在しがちです。この不均衡が悪用され、下請事業者が不利益を被ることを防ぐのが下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」)です。 特に発注後のキャンセルは下請事業者…
詳しくみる会社法370条(取締役会の決議の省略)とは?書面決議・みなし決議の要件を解説
会社法370条は、実際に取締役会を開催せずに書面決議が行える旨を定めた規定です。書面決議は「みなし決議」とも呼ばれ、迅速に決議を行える点がメリットです。 一方で法定の要件を満たさない場合、決議が無効となるおそれもあるため正しい手続きが欠かせ…
詳しくみるコンプライアンス規程とは?作り方や運用方法を解説
企業が法令を守るだけでなく、社会的責任を果たし信頼を得るためには、組織全体にコンプライアンスの意識を根付かせることが欠かせません。その中核を担うのがコンプライアンス規程です。 本記事では、コンプライアンス規程の定義や目的から、記載項目、作成…
詳しくみる下請法の支払期日は60日以内!いつから起算するのか、数え方もわかりやすく解説
下請法では、親事業者は下請代金の支払期日を給付受領日から60日以内に設定する義務があります。しかし「いつから数えるのか」「例外はあるのか」といった点に戸惑う実務担当者も少なくありません。 本記事では起算日の数え方や例外、違反時の注意点を実務…
詳しくみる


