- 作成日 : 2025年8月5日
リーガルチェックはどこから非弁行為?弁護士法72条をもとにわかりやすく解説
企業のコンプライアンス意識の高まりとともに、リーガルチェックの重要性は広く認識されるようになりました。しかし、「コストを抑えたい」「手軽に済ませたい」という理由から、弁護士以外の事業者やAIサービスに契約書の確認を依頼するケースも増えています。ここで注意が必要なのが、非弁行為のリスクです。弁護士法で禁止されている非弁行為に該当すると、依頼した側も重大なトラブルに巻き込まれる可能性があります。
本記事では、非弁行為の具体的な境界線、依頼してしまった場合のリスク、そしてコンプライアンスを遵守して安全にリーガルチェックを行う方法を詳しく解説します。
目次
そもそもリーガルチェックとは
リーガルチェックとは、契約書、利用規約、プライバシーポリシー、その他法的文書の内容を、法律の専門知識に基づいて検証する作業です。具体的には、以下のような多角的な視点から精査します。
- 適用される法令(民法、会社法、個人情報保護法など)に違反していないか
- 自社に一方的に不利益な条項が含まれていないか
- 権利と義務の関係が明確に規定されているか
- 将来起こりうる紛争の火種(潜在的リスク)はないか
単なる誤字脱字のチェックではなく、事業の法的有効性と潜在的リスクを洗い出す専門的な行為です。
リーガルチェックを怠ると、不利な契約条項を見過ごした結果、多額の損害賠償責任を負ったり、事業の継続が困難になったりするケースも少なくありません。事前に専門家がチェックを行うことは、法務リスクを未然に防ぎ、事業の安定と成長を守るための重要な防衛策と言えるでしょう。
リーガルチェックで問題となる非弁行為とは
リーガルチェックを外部に依頼する際に、最も注意すべき法律が弁護士法です。特に第72条で定められた非弁行為の規定は、誰が法律事務を取り扱えるかを厳格に定めています。
弁護士法第72条の内容
弁護士法 第七十二条
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
この規定の趣旨は、法律事務の専門性に鑑み、質の高い法的サービスを確保し、国民の権利利益を保護することにあります。
非弁行為の構成要件
非弁行為に該当するかは、主に以下の3つの要件を総合的に考慮して判断されます。
- 報酬を得る目的があるか(報酬目的)
- 反復継続して行う意思があるか(業として)
- 取り扱う内容が「その他一般の法律事件・法律事務」にあたるか
これらの要件を満たすと、非弁行為として違法になります。
非弁行為が禁止されている理由
法律事務は高度な専門知識と倫理観を必要とします。もし、誰でも自由に法律事務を行えるようになると、不適切なアドバイスによって国民が不利益を被る恐れがあります。
例えば、誤った内容の契約書を作成してしまったり、不利な条件で和解させられたりするリスクです。弁護士には厳しい資格要件と職務上の義務、懲戒制度が課せられており、これによってサービスの質と公正性が担保されています。非弁行為の禁止は、こうした弁護士制度の根幹を支える重要な規定なのです。
どこからが非弁行為?弁護士法72条の境界線と具体例
では、具体的にどのような行為が非弁行為にあたるのでしょうか。特に判断が分かれやすいケースについて解説します。
契約書の作成・レビュー
弁護士でない者が、個別の事案に応じて具体的な法的判断を加え、契約書の条文を作成、修正、削除する行為は、法律事務に該当し、非弁行為となる可能性が極めて高いです。
- 「この取引のリスクを無くすために、この損害賠償条項を加えましょう」といった具体的な条文案の提案
- 相手方との交渉を想定し、「この条項は不利なので、このように修正してください」と指示する行為
- 個別の事情をヒアリングした上で、契約書全体をオーダーメイドで作成する行為
AIによる契約書チェックサービス
近年台頭しているAI契約書チェックサービス自体は、プログラムが機械的にリスクを指摘するに過ぎません。現状、AIサービス単体が非弁行為となる公式見解は確認されていませんが、「AIの助言にもとづく人の法的判断」が非弁行為となる可能性は否定できません。そのため、AIサービスを活用する際にはあくまで補助的に利用し、最終的には弁護士による確認を取ることが安全です。
- AIがデータベースに基づき、一般的なリスク箇所や欠落条項を指摘する
- 一般的な代替条文案のひな形を提示する
- AIの診断結果を受け、サービス提供会社の担当者が「あなたのビジネスモデルなら、この条項は必須です」と個別具体的なコンサルティングを行う
AIはあくまでツールであり、そのツールを使って人が個別具体的な法的判断を行えば、その人が非弁行為の主体となり得ます。
コンサルタントの助言
経営コンサルタントやITコンサルタントが、業務の一環として契約書に言及する場面は少なくありません。
- 「一般的に、業務委託契約では成果物の権利帰属を明確にすることが重要です」といった事業上のリスク管理に関する一般的な助言
- 特定の契約書を示し、「この条項は法的に無効なので、相手方に削除を要求すべきです」と断定的な法的判断を伝える行為。
- 依頼者の代理として、契約内容について相手方と交渉する行為。
ビジネス上のアドバイスと、個別具体的な法的判断の境界線は曖昧ですが、特定の法律関係についての具体的な権利義務に関与したと見なされると、違法性が高まります。
行政書士による契約書作成
行政書士は、行政書士法に基づき、権利義務に関する書類の作成代理を業とすることができます。これには契約書の作成も含まれます。
ただし、これは当事者間で内容に争いがない、定型的な書類作成が前提です。
- 契約内容について当事者の意見が対立しており、一方の代理として相手方と交渉し、契約書を作成する行為。
- 将来の紛争を見越して、特殊で複雑な内容の契約書を作成する行為。
上記のような事件性のある案件は、行政書士の業務範囲を超え、弁護士法違反(非弁行為)に該当する可能性があります。
非弁行為を依頼してしまった側のリスク
非弁行為は、行った事業者だけでなく、依頼した側にもリスクが及びます。特に注意すべきリスクを挙げていきます。
作成された契約書が無効になる
適切な法的知見に基づかない契約書は、内容の不備により、いざという時に無効と判断される恐れがあります。非弁行為で作成された契約書が必ず無効になるわけではありませんが、重大な内容の欠陥があれば無効と判断される可能性があります。
専門家責任を問えない
非弁行為を行う事業者には、多くの場合、弁護士のような職業倫理規定や賠償責任保険制度が整備されておらず、損害賠償や倫理上の保障が限定的です。そのため、損害が発生した場合に十分な賠償を受けられない可能性があります。
共犯として罰せられる
非弁行為であることを知りながら依頼した場合、共犯として刑事罰の対象となるリスクがあります。実際に共同して非弁行為を行った場合、罰則を科される可能性があるため、慎重に判断する必要があります。
非弁行為を回避し、安全にリーガルチェックを行う方法
では、コンプライアンスを遵守し、適切にリーガルチェックを行うにはどうすればよいのでしょうか。
1. 弁護士に依頼する
非弁行為のリスクを完全に回避し、最も質の高いリーガルチェックを受ける方法は、弁護士に依頼することです。弁護士は法律の専門家であるだけでなく、守秘義務や職務倫理が課されており、安心して相談できます。万が一トラブルに発展した際も、そのまま代理人として交渉や訴訟を任せられる点は最大のメリットです。
弁護士を選ぶ際は、自社の業界やビジネスモデルに詳しいか、コミュニケーションが円滑か、料金体系が明確かといった点を考慮すると良いでしょう。
2. 弁護士以外の専門家・サービスと正しく連携する
コストや業務内容に応じて、他の専門家やサービスを限定的に利用することも選択肢です。
- 行政書士:争いのない定型的な契約書のひな形作成を依頼する。
- AIレビューサービス:一次的なスクリーニングとして利用し、AIが指摘した箇所や特に重要な契約については、最終的に弁護士の確認を得る。
各専門家やサービスの業務範囲を正しく理解し、越権行為にならないよう注意しながら連携することが極めて重要です。
3. 社内のリーガルチェック体制を構築する
最終的には、社内に一定のリーガルチェック体制を構築することが理想です。法務担当者を配置することが望ましいですが、難しい場合でも、契約書管理規程を作成し、チェックフローを明確にするだけでもリスクは軽減できます。
例えば、「取引金額が500万円以上の契約」や「知的財産権に関する契約」など、リスクの高い契約類型を定め、それらに該当する場合は必ず顧問弁護士のチェックを受ける、といった社内ルールを設けることが有効です。
リーガルチェックと非弁行為に関してよくある質問
ここでは、リーガルチェックと非弁行為に関して頻繁に寄せられる質問について、Q&A形式で分かりやすく回答します。
無報酬であれば非弁行為にはなりませんか?
報酬目的は非弁行為の重要な要件であり、完全に無報酬で実費のみの対応であれば違法とは評価されにくいです。ただし、人件費相当や将来の有償取引を期待した対応は、報酬目的と見なされる可能性があります。無報酬であっても反復継続的な対応はトラブルの原因となることもあるため、注意が必要です。
フリーランスのコンサルタントに業務委託契約書のレビューを頼めますか?
そのコンサルタントが弁護士資格を持たない場合、「この条文は法的に問題がある」といった個別具体的な法的判断を伴うレビューを報酬を得て行うことは、非弁行為に該当する可能性が非常に高いです。事業上のアドバイスの範囲に留まるか、慎重な見極めが必要です。
リーガルチェックと非弁行為について正しく理解しましょう
本記事では、リーガルチェックと非弁行為をテーマに、弁護士法72条の規定から、具体的なケース、安全な対処法までを解説しました。
リーガルチェックは事業を守るために不可欠ですが、依頼先を誤ると、非弁行為という思わぬ法務リスクを抱え込むことになります。特に、個別の事情に応じた契約書の作成・修正といった業務は、法的な判断そのものであり、弁護士以外の者が報酬を得て行うことは原則としてできません。
コンサルタントやAIサービスを利用する際は、その業務範囲が一般的な情報提供や技術的支援にとどまっているかを慎重に見極める必要があります。
自社の事業の健全な発展と、大切な信頼を守るため、法務リスクについては常に正しい知識を持ち、必要に応じて迷わず弁護士に相談する体制を整えておくことが、最も確実な解決策です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
不動産賃貸は電子契約もOK!書類の準備や契約の流れ、保管方法を解説
不動産賃貸は電子契約が可能です。宅地建物取引業法の改正により電子化が可能になり、賃貸契約に関する一連の流れをオンラインで完結できるようになりました。これにより、不動産業賃貸の業務を効率化できます。 本記事では、不動産賃貸で電子契約できる書類…
詳しくみる不動産売買契約書は電子化できる!メリットや電子化の流れを解説
不動産取引においても電子契約が全面的に解禁されたため、不動産売買においても電子契約が可能です。ただし、電子化できない書類もあるため注意が必要です。 本記事では、不動産売買の電子契約の流れや電子化できる書類・できない書類、電子化するメリット・…
詳しくみる電子消費者契約法とは?ワンクリック請求への対応や相談先を解説
電子消費者契約法とは、電子商取引などにおける消費者保護を目的とした法律です。この記事では電子消費者契約法の概要および、適用されるケースと対象外のケース、注文のキャンセルを防ぐ事業者の対策等を解説します。 パソコンやスマートフォン、キオスク端…
詳しくみる電子契約の当事者型と立会人型の違いは?メリットや選ぶポイントも解説
電子契約では、契約当事者が電子署名を付与する「当事者型」と、第三者である事業者が電子署名を付与する「立会人型」の2種類があります。電子署名は契約書の信頼性に関わる重要な要素だけに、どちらを使えばいいかお悩みの方もいるかもしれません。 今回は…
詳しくみる電子契約と紙の契約の違いは?メリット・デメリットや電子帳簿保存法対応も解説
紙の書類で行う契約と電子契約とは、形式が異なります。紙の契約は書面で締結するのに対し、電子契約は電子データを使用し、オンライン上で完結させる仕組みです。さらに、法的効力や送付・保管方法など、さまざまな違いがあります。 本記事では、紙の契約と…
詳しくみる電子契約の立会人型とは?当事者型との違いや法的効力、選び方を解説
電子契約には、電子署名の方法によって立会人型と当事者型の2つの方法があります。企業の法務担当者であれば、それぞれの違いをしっかりと理解しておきたいところです。 本記事では、立会人型と当事者型の違いやそれぞれのメリット・デメリット、選び方につ…
詳しくみる