- 作成日 : 2024年12月3日
契約書の署名は本人以外も有効?代筆の書き方や違法ケース、電子署名も解説
契約書には本人が署名するものですが、契約当事者が会社の場合は「本人」が法人ですので、代表権を持つ代表取締役などが署名を行うことになります。しかし適切な手筈を整えておけば必ずしも代表取締役が署名をする必要はなく、本人以外による署名も有効となります。
契約実務において重要となる“署名”の代理・代筆について知っておきたい要点を当記事で解説していきます。
目次
契約書の署名は本人以外も有効か?
本人以外による契約書への署名も、有効となるケースがあります。本来は本人がしないといけないものですが、そもそも会社には自然人(個人)と異なり実体がありませんので直接サインをすることができません。
そこで会社(法人)が契約の当事者となる場合、当該会社を代表する権限を持つ方が契約書にサインをします。
もし代表取締役を定款で定めているのであれば、当該代表取締役が会社を代表して契約を交わす権限を持ちますので(会社法第349条第4項)、その方が署名欄にサインをするのが一般的です。
代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
契約成立が問題となるケース
原則、代表権を持たない人物が契約書に署名捺印しても無権代理となり、本人である会社にその効力は帰属しません。
代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
また、一定範囲内で会社を代表する権限は与えられているものの、契約締結に関しての代表権までは持っていないケースでも契約成立が問題となり得ます。
契約成立が有効となるケース
うえに示した「民法第113条第1項」の条文にあるように、仮に無権代理による署名が施されたとしても、本人である会社の意思決定として当該無権代理行為を追認(事後的にその行為を容認)すれば、会社にその効力は帰属します。そのため契約も有効に成立することとなります。
また法律上、「代理権を持たないにも関わらずこれがあるかのように振る舞い契約を締結した」場合も想定した規定が設けられています。追認がなかったとしても、この規定に従い、外観を信じた相手方を保護するため本人(会社)に効果が帰属する(契約が成立する)ケースもあるのです。
そのほか、身体上の理由で直接サインするのが難しい方などを補助したり、代筆したりしたときは単に本人の手足として動いたに過ぎない場合には契約が有効に成立します。
本人以外の家族が署名する場合の有効性
個人が契約書に署名をする場面において、その家族が代わりに署名をするとどうなるのでしょうか。
この場合も原則通りに考えます。家族だからといって当然に代理で署名が認められるものではないからです。
例えば、夫が署名をすべき契約書について妻が正当な代理権を受けることなく署名をした場合、契約の有効性が問題となります。
一方で未成年の子どもが契約当事者となる場合、当該未成年者は単独で契約を締結することができないことになっているため、法定代理人である親権者が代わりに対応することとなります。
会社の代表者以外が署名する場合の有効性
会社の事業活動の一環で契約を締結するときは、本人が法人であるため代表者にあたる取締役(代表取締役が置かれているときは当該代表取締役)が本人として署名を行います。
しかし規模が大きくなってくるとすべての契約書への署名を代表取締役が対応するのは現実的ではないため、別の者に権限を与えて対応するのが一般的です。
そして取締役のように法的に会社に対する代表権を持たない支店長などの従業員でも、会社から対外的な代表権を与えられているのなら、その方が署名をしても有効に契約は締結できます。
ただし取引先などの外部からするとその権限について認識できませんので、契約締結をするだけの代表権があることを示すべきです。
なお、正当な代表権を持たない人物が契約書に署名したときでも会社が追認をすればはじめから適切に代理が行われたものとして契約の効力が生じます。
とはいえ、相手方からすれば追認をしてもらえるかどうかがわからないため不安定な立場に置かれることとなってしまいます。
そこで民法では「本人の追認がないうちであれば契約を取り消すことができる」と定めており、加えて「追認をするかどうか本人に催告ができ、催告後も対応をしない場合は追認を拒絶したとみなすことができる」とも定められています。
本人以外が契約書に署名する方法
一般的な会社だと、①代表者から権限を委譲された従業員などの名義で署名をする、または②代表者名義のまま従業員などが代理で署名を行う、のいずれかのパターンで実務が行われています。
①の場合、社内規程などを根拠に契約締結権限を委譲。支店長や○○部長などの肩書を持つ方などが名義人となって、契約を代理で締結します。
実際のところ多いのは②のパターンで、明示的な権限の委譲がないまま署名・捺印されていることも珍しくありません。
電子契約の場合、本人以外の電子署名は有効か?
電子契約においても本人以外の署名(電子署名)は可能です。
電子署名にあたってのルール、法的な考え方は手書きによる署名と大きな違いはなく、会社であれば代表者からの権限の委譲を受けた者が対応すべきです。
違いとしては、「電子署名の作業過程や電子署名を施した日時など、すべての記録が残る」という特徴が挙げられます。手書きで行う署名と違いシステム上で処理を行うため、もし無権代理行為があったとしてもその事実を把握しやすいというメリットがあります。
本人以外の署名で違反となる場合や注意点
本人以外が署名をした場合、契約の有効性について争いが生じるだけでなく、私文書偽造等の罪が成立する可能性もあります。
(私文書偽造等)
第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
そのため権限がないにも関わらず悪意を持って勝手に署名し、契約書を作成したときは、当該人物に刑罰(最大5年の懲役)が科されることもあるのです。
会社などの本人としても、勝手に署名をされてしまうことで対外的な信用に傷がついてしまうおそれがあります。そこで契約業務に関わる権限について明確化し、誰がどのような契約に関して署名ができるのかをしっかりルールとして策定しておくようにしましょう。
電子契約システムを利用する場合も同様です。電子署名に係る権限を明確にして、管理方法などを規程化しておきましょう。
本人以外が署名するときは「顕名」を忘れずに
勝手に本人のふりをして契約書を作成することは刑法に抵触する危険性があります。
他方で、本人以外が署名をしても、当該人物に契約を締結する権限が与えられていれば問題なく契約を成立させられます。
ただしこのときは、代理人が本人のために署名していることを明確にする「顕名」を行いましょう。会社としてはそのほか契約締結に係るルールを規程としてまとめ、契約トラブルが起こらないように備えておくべきです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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