• 作成日 : 2025年9月22日

飲食店で原価率60%以上は危険?50%は?計算方法や利益を出すコツ

飲食店経営において、原価率60%という数字は注意が必要な水準です。一般的な目安を大幅に上回り、利益の確保が難しくなるためです。一方で、50%程度ならどうなのか、また意図的な戦略で経営が成り立つケースもあります。この記事では、原価率が経営に与える影響から、具体的な計算方法、そして利益を出すための改善のコツまで、わかりやすくご案内します。

飲食店で原価率60%以上は危険?

飲食店の原価率は、業態にもよりますが一般的には30%前後が目安とされています。原価率が60%を超えると利益を圧迫しかねない、注意すべきサインといえます。どのくらい注意が必要なのか、一般的な平均値や50%の場合と比較しながら見ていきましょう。

飲食店の平均原価率は30%前後が目安

お店の業態によってこの目安は変わってきますが、一般的な飲食店の原価率は、売上の30%前後が健全な水準とされています。

業態原価率の目安
カフェ・喫茶店25%~35%
居酒屋30%~35%
ラーメン店30%~35%
レストラン(フランス・イタリアンなど)35%~40%
焼肉店40%~45%

たとえば、上質な肉を扱う焼肉店では原価率が40%を超え、時には50%に近づくこともあります。それでも、60%以上という水準は、これらの目安を大きく超えている状態といえるのではないでしょうか。

FLコストで見る利益構造

飲食店の経費で大きな部分を占めるのが、食材費である原価(Fコスト)と人件費(Lコスト)です。この2つを合わせた「FLコスト」の売上に対する比率(FL比率)は、経営状態を把握する大切な指標で、一般的に50%~60%に収めるのが目安とされています。

仮に原価率が60%だと、人件費を30%と仮定した場合、FL比率は90%に達してしまいます。

原価率(60%) + 人件費率(30%) = FL比率(90%)

これでは売上の9割が食材費と人件費で占められ、残りの1割で家賃や水道光熱費などを賄うことになり、利益を残すことは極めて難しくなります。

飲食店で原価率60%になる主な原因

飲食店の原価率が60%になる背景には、食材へのこだわりや集客目的の目玉商品、不適切な価格設定や食品ロスといった複数の原因が隠れていることが多いです。気づかないうちに経営を圧迫している要因がないか、一つずつ見ていきましょう。

食材への強いこだわり

「お客様に本物の味を届けたい」という想いから、高級食材や希少な素材を惜しみなく使用した結果、原価率が高騰してしまうケースです。こだわりは他店との差別化につながる大きな武器ですが、持続可能な経営のためには、コスト管理の視点も大切になります。

集客を目的とした目玉商品

「この一皿でお客様を呼びたい」という戦略で、採算を度外視した看板メニューを用意している場合も、全体の原価率を押し上げる要因となります。話題性のある「原価率70%」のようなメニューも、そればかり注文されるとお店全体の収益構造は厳しくなってしまいます。

メニュー全体の価格設定と原価のアンバランス

各メニューの原価を細かく計算しないまま、感覚的に価格設定を行うと、知らず知らずのうちに利益の出にくいメニューばかりになっていることがあります。メニューには、お店の利益を支える商品と、お客様を惹きつけるための商品をバランス良く配置する考え方が有効です。

適切な在庫管理ができていないことによる食品ロス

過剰な発注や食材の管理不足による食品ロスは、そのまま原価率の上昇に直結します。廃棄した食材の仕入れ費用も、すべて原価として計上されるためです。この部分は、管理を徹底するだけでも原価率を大きく改善できる可能性があります。

飲食店の原価率の計算方法

原価率を求めるには「売上原価 ÷ 売上高」で計算します。お店の現状を知るために、棚卸をして、数字で正しく把握しておきましょう。ここでは、その基本的な計算方法と具体例、そして業務を助ける便利なツールをご紹介します。

原価率の基本的な計算式

原価率は、以下の計算式で算出します。

原価率(%) = 売上原価 ÷ 売上高 × 100

ここでポイントとなるのが「売上原価」の計算です。これは単純な仕入れ高ではなく、在庫の増減を考慮する必要があります。

売上原価 = 期首棚卸高(月初在庫) + 当期仕入高 – 期末棚卸高(月末在庫)

毎月1回、棚卸しを正確に行い、これらの数字を出すことで、お店の本当の原価率が見えてきます。

【具体例】売上100万円の場合の原価率シミュレーション

1ヶ月の売上高が100万円だった場合、原価率によって手元に残る粗利益売上総利益)がどれだけ変わるかを見てみましょう。

原価率売上原価粗利益(売上高 – 売上原価)
30%300,000円700,000円
40%400,000円600,000円
50%500,000円500,000円
60%600,000円400,000円
70%700,000円300,000円

このように、原価率が上がるほど、人件費や家賃などを支払うための原資となる粗利益が大きく減少することがわかります。

便利な原価計算アプリやPOSレジの活用

毎月の棚卸しや手作業での原価計算は、非常に手間のかかる作業です。そこで、原価計算機能がついたPOSレジや管理アプリの活用をおすすめします。これらのツールを導入することで、日々の売上と連動して原価や利益率が自動で可視化され、より迅速で的確な経営判断が可能になるでしょう。

飲食店が原価率60%でも利益を出すための経営戦略

原価率60%という状態になった場合でも利益を出すには、ドリンクやアルコールなど利益率の高い商品で客単価を上げたり、回転率を高めたり、IT化で人件費を最適化したりと言った方法があります。ここでは、高い原価率ながら利益を確保する方法やアイデアをご紹介します。

利益率の高いメニューで客単価を上げる

フードの原価率をあえて高く設定し、それ自体を集客の魅力としながら、利益率の高い他の商品で全体の収支を調整する戦略です。お客様の注文単価をいかに自然に引き上げるかが鍵となります。

この戦略の中心は、原価率が10%~20%程度と低いドリンクやサイドメニューです。これら利益の源泉となる商品の注文を増やすため、以下のような工夫が考えられます。

  • 利益率の高いドリンク(サワー類など)をメニューブックの目立つ位置に配置する
  • 提供が速く原価の安い「とりあえず」の一品(枝豆、創作冷奴など)を充実させる
  • メイン料理と相性の良いサイドメニューやドリンクをセットにしてお得感を出す
  • 「チーズ」「味玉」など、気軽に頼める数百円のトッピングを用意する

回転率を上げ売上総額を最大化する

一杯あたりの利益は少なくても、とにかく多くのお客様にご利用いただき、売上の総額を増やすことで利益を生み出す「薄利多売」のビジネスモデルです。立ち食いそばや寿司、ランチタイムに特化した定食屋などがこのモデルにあたります。成功には、お客様の滞在時間をいかに効率的にコントロールするかが重要です。

回転率を上げるためには、調理から会計までの全プロセスで時間を短縮する仕組みを構築します。

  • メニュー数を戦略的に絞り込み、提供時間を短縮する
  • カウンター席中心のレイアウトで、グループの長居を防ぐ
  • 少しテンポの速いBGMを流し、心理的に滞在時間をコントロールする
  • 券売機やキャッシュレス決済を導入し、会計を迅速化する

省人化・効率化で人件費を最適化する

原価(Fコスト)が高い分、人件費(Lコスト)を徹底的に抑えることで、FL比率を健全な範囲に収めるアプローチです。品質やブランド価値を維持するためにかけた食材費を、テクノロジーや仕組みで人件費を削減して吸収する、という極めて戦略的な考え方です。

人件費を最適化するには、ITシステムや最新機器の導入が中心となります。

  • お客様の端末で注文するセルフオーダーシステムを導入し、ホール業務を削減する
  • 注文と会計を自動化する券売機を設置する
  • 大量調理と品質の安定化を実現するスチームコンベクションオーブンなどを活用する
  • 勤怠管理や給与計算を自動化するシステムを導入し、店長の事務作業を軽減する

アップセル戦略でさらに高単価を狙う

高原価の看板メニューを基準とし、それよりさらに上のランクの商品へお客様を誘導する「アップセル」も有効な戦略です。より高い金額を支払う意思のあるお客様から、しっかりと利益を確保します。

無理に勧めるのではなく、お客様が自ら「より良いもの」を選びたくなるような魅力的な選択肢を提示することがポイントです。

  • 同じ食材でもランクを分けた「松竹梅」メニューを用意する(例:和牛の通常部位と希少部位)
  • 特別な調理法や熟成期間などをうたった「プレミアムメニュー」を数量限定で提供する
  • 料理の価値をさらに高めるワインのペアリングセットなどを提案する

会員制・サブスクモデルで安定収益を築く

毎月定額の料金をいただくことで、安定した収益基盤を作り、顧客をファンとして囲い込む戦略です。天候や景気に左右されない固定収入は、経営の安定に大きく寄与します。

会費収入そのものだけでなく、会員の来店頻度を上げ、追加注文を促すことがこのモデルの狙いです。

  • 月額制のドリンクパス(例:月額500円で来店ごとに1杯無料)を発行する
  • 定額のお食事券を割引価格で販売する(例:月額3,000円で3,500円分利用可能)
  • 会員しか注文できない限定メニューや、会員限定のイベントを開催し特別感を提供する

飲食店が原価率60%の状態からコストを下げる方法

もし意図せず原価率が高騰しているのであれば、すぐに対策をとりたいところです。飲食店の原価率を下げるには、仕入れやメニューの見直しといった直接的な方法に加え、ITシステムを活用した間接的なコスト削減も有効です。日々の営業ですぐに実践できる、具体的な改善策をご提案します。

仕入れ先の見直しと価格交渉

まずは、コストの源流である仕入れから見直してみてはいかがでしょうか。ただ安さを求めるのではなく、業者様と良い関係を築きながら、お互いにとって良い条件を探っていくのが成功のコツです。

品質を維持したままコストを抑える方法は、意外と多くあります。

  • 相見積もりと業者選定:
    今の業者様だけでなく、複数の業者から見積もりをとるのは基本です。価格はもちろん、配送の頻度や品質の安定性なども含めて、総合的に検討してみましょう。
  • 交渉材料を用意する:
    「月末に現金でまとめて支払う」「配送は業者様の都合の良い曜日に合わせる」など、相手のメリットになる提案をすることで、価格交渉がスムーズに進むケースも少なくありません。
  • 仕入れ先の多様化:
    近隣のお店と協力して「共同仕入れ」を行ったり、生産者から直接仕入れたり、規格外野菜を安く活用したりと、新しいルートを開拓するのも一つの手です。

メニュー構成の最適化(ABC分析の活用)

メニューブックは、お店の利益を左右するとても大切なセールスマンです。感覚だけに頼らず、一度データと向き合ってみることで、改善点が見えてきます。その際に役立つのが、どのメニューがお店に貢献してくれているかを診断する「ABC分析」です。

メニューを「人気(売れ数)」と「利益率」で分類し、それぞれに合った対策をとります。

  • Aランク(花形商品):
    お店の看板商品です。メニューブックで写真を大きく使ったり、SNSで積極的にアピールしたりして、さらに注文を促進しましょう。
  • Bランク(金のなる木):
    利益率は高いけれど、あまり注文されない隠れた優良商品。スタッフから「実はこれもおすすめでして」と一言添えたり、セットメニューに組み込んだりして、魅力を伝えていきます。
  • Cランク(負け犬):
    人気も利益率も低い商品は、お客様に感謝を伝えつつ終売にするか、レシピや価格を抜本的に見直すといった判断が必要になります。

正しい歩留まりを把握しレシピに反映させる

「歩留まり」、つまり仕入れた食材から実際に使える部分の割合を正確に把握することは、気づかぬうちに膨らむコストを防ぐ重要なポイントです。 たとえば、1kg・1,000円で仕入れた野菜のヘタや芯を300g廃棄した場合、実際に使えるのは700g。この場合、可食部700gあたりの原価は1,000円ということになります。

食材を処理する際にこまめに記録をとり、正確な歩留まりを把握する習慣をつけましょう。廃棄するはずだった野菜の皮や芯で風味豊かな出汁をとるなど、ゼロウェイストの意識もコスト削減につながります。

在庫管理の徹底と食品ロス削減

食品ロスは、仕入れた食材をそのまま捨ててしまうのと同じで、原価率改善においては、真っ先に取り組みたい課題です。これを防ぐには、まずお店の在庫状況を「見える化」することから始めましょう。

日々の地道な管理が、月末の利益に大きな差を生みます。

  • 在庫管理表の作成と共有:
    「何が」「どこに」「どれだけあるか」を一覧できる管理表を作り、厨房内の誰もが見える場所に掲示します。
  • 毎日のチェックと責任者の配置:
    発注担当者などが中心となり、毎日の営業前後に在庫をチェックする習慣をつけます。
  • ロス管理シートの活用:
    なぜ食材を廃棄することになったのか、その原因(発注ミス、保存方法の誤りなど)を記録・分析することで、同じ失敗を繰り返さないための具体的な対策が打てるようになります。

ポーションコントロール(分量の標準化)

同じメニューでも、作るスタッフによって味や量が違うと、原価率を安定させるのは難しいものです。「ポーションコントロール」を徹底することが、お店の信頼とコスト管理の両方につながります。

レシピに「肉100g」「ソース50cc」と記載するだけでなく、それを誰でも正確に再現できる仕組みが大切です。たとえば、パスタソースは一人前ずつ小分けにして冷凍しておく、サラダのドレッシングは専用のディッシャーを使う、といった具体的なルールを設けます。

写真付きの詳細なマニュアルを作成し、スタッフ間で定期的に味見をするなど、お店全体で品質を維持する意識を持つことが理想的です。

水道光熱費や消耗品費など、固定費を見直す

食材原価(Fコスト)だけでなく、日々の運営で必ずかかる水道光熱費や消耗品費といったコストにも目を向けてみましょう。一つひとつは小さな金額でも、積み重なると大きな差になります。

「ちりも積もれば山となる」という視点で、お店の経費全体をチェックします。

  • 水道光熱費:
    節水コマの設置や、食洗機のまとめ洗いを徹底するだけでも水道代は変わります。また、電力・ガス会社は自由化されていますので、一度プランを見直してみるのも良いでしょう。照明をLEDに変えるのも、長期的に見れば効果的な投資です。
  • 消耗品費:
    おしぼりや割り箸、ナプキンなど、お客様に提供する消耗品も、品質を落とさずに、より安く仕入れられる業者を探してみましょう。
  • ペーパーレス化:
    予約台帳や勤怠管理をデジタル化することで、紙や印刷にかかるコストを削減できます。ITシステムの導入は、業務効率化による人件費削減にもつながります。

原価率60%でも収益を確保するには見直しと工夫が重要

原価率60%という水準は、飲食店の経営にとって赤信号といえる状態です。多くの場合、FL比率が限界を超え、利益が出にくい構造になってしまいます。高原価の要因として、メニュー構成の不均衡や仕入れ価格、食品ロスなどが複雑に絡み合っていることが少なくありません。

ただし、ドリンク戦略や高回転モデル、オペレーションの効率化などによって、高原価率でも黒字経営を実現している店舗もあります。重要なのは、現状の数字を正確に把握し、原因に応じた打ち手を講じることです。仕入れ先の見直し、ABC分析によるメニュー最適化、在庫管理の徹底など、地道な改善の積み重ねが、持続可能な飲食店経営につながります。


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