- 更新日 : 2025年6月24日
福利厚生が最低限しかないとどうなる?全くない会社への罰則や自分でできる対策も解説
福利厚生がない、または最低限しかない会社で働くことは、私たちの生活や将来設計に大きな影響を与えます。しかし、実際にどのような影響やリスクがあるのか、具体的に知らない方も多いのではないでしょうか。この記事では、法律上義務付けられている福利厚生の最低ラインや、福利厚生がないことで生じる問題、また最低限しかない場合の具体的なデメリットや対策について、わかりやすく解説します。
目次
福利厚生の最低ラインとは?
企業には福利厚生を整備する義務がありますが、すべての福利厚生が義務付けられているわけではありません。ここでは、法律上企業に義務付けられている福利厚生の最低ラインについてわかりやすく解説します。
健康保険・厚生年金保険への加入義務
会社は条件を満たした従業員を雇用する場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられています。原則として、正社員に限らず、一定条件を満たすパートやアルバイトでも加入対象となります。これにより、病院での診療費負担の軽減や将来の年金保障など、従業員の生活や老後のサポートが可能になります。
労災保険への加入義務
会社は従業員を1人でも雇用している場合、労災保険への加入が義務付けられています。労災保険とは、従業員が仕事中や通勤途中でケガや病気をした場合に、治療費や休業中の給料の一部を補償する制度です。この制度は企業の規模や業種にかかわらず必ず適用されるため、すべての会社が加入している必要があります。
雇用保険への加入義務
会社は一定の勤務時間や期間の条件を満たす従業員に対して、雇用保険への加入が義務付けられています。雇用保険は、失業時の給付金や育児休業給付、介護休業給付など、働く人が一時的に働けなくなった際の生活を支えるための制度です。企業側にはこの保険への加入が法律で義務付けられており、従業員の雇用を守る重要な制度となっています。
年次有給休暇の付与義務
労働基準法では、一定期間勤務した従業員に対して、年次有給休暇を付与することが義務付けられています。正社員だけでなく、パートやアルバイトでも勤務日数や時間に応じて有給休暇を取得する権利があります。会社側が有給休暇の取得を妨げることは認められておらず、従業員は法律で保障された休暇を利用できます。
福利厚生が全くないとどうなる?
企業には法律で定められた最低限の福利厚生を従業員に提供する義務があります。しかし、中にはこれらの義務を守らず、「福利厚生が全くない」状態で従業員を働かせている会社も存在します。この章では、福利厚生が全くない会社で働くとどのような問題が起きるのかを具体的に解説します。
法律違反で企業が行政指導や罰則を受ける
福利厚生が全くない状態というのは、法律で義務付けられている社会保険(健康保険・厚生年金)、労災保険、雇用保険、有給休暇などを提供していない状態を指します。これらの法定福利厚生は企業にとって絶対的な義務であり、違反すれば以下のような行政指導や罰則を受ける可能性があります。
- 労働基準監督署からの是正勧告・指導
- 保険料の遡及徴収
- 悪質な場合は刑事罰や企業名の公表といった社会的制裁
従業員としても、会社が法律違反をしている状況では安心して働くことができず、会社の経営自体も不安定になりがちです。
労災保険未加入で費用徴収される
福利厚生が全くないということは、労災保険にも加入していない状態です。労災保険に未加入であっても、保険給付は受けられます。しかし、故意や重大な過失による未加入の場合には、給付に要した費用が事業主から徴収されます。保険給付は大きな額となることもあるため、会社にとって大きな負担となるでしょう。
社会保険未加入で収入が大幅に減少する
会社が社会保険(健康保険・厚生年金)に加入していない場合、個人で国民健康保険や国民年金に加入し、保険料を全額自己負担しなければなりません。健康保険や厚生年金の場合は保険料を会社が半分負担しますが、国民健康保険や国民年金では全額個人負担になるため、収入が大きく減少します。
例えば月収が20万円程度の場合でも、国民年金と国民健康保険の合計で毎月数万円を自己負担することになり、経済的負担が大きくなります。
福利厚生が最低限しかない会社で働くデメリット
企業が法律で義務付けられた最低限の福利厚生しか用意していない場合、法律違反にはなりませんが、従業員にとって働く環境としては必ずしも十分とは言えません。この章では、福利厚生が最低限しかない会社で働く場合の具体的なデメリットについてわかりやすく解説します。
病気やケガの自己負担が大きい
最低限の福利厚生が整備されている会社では、健康保険や労災保険に加入していますが、法定外の福利厚生である「病気休暇」や「傷病手当金の上乗せ給付」などの制度がないケースが多いです。そのため、病気やケガなどで長期間休業した場合、収入が大きく減少するリスクがあります。特に入院や長期療養が必要な病気の場合、自己負担が増えて生活が苦しくなる可能性が高くなります。
出産や育児、介護への支援が期待できない
福利厚生が最低限しか整備されていない会社であっても、「育児休業」「介護休業」などの制度は法律で定められているため存在します。しかし、実際には会社として十分にサポートしていないケースが少なくありません。特に出産や育児、介護が発生した場合、経済的・精神的なサポートが不足し、働き続けることが困難になる可能性があります。
また、育児休業の取得実績がほとんどない会社では、制度があっても利用が難しく、実質的に休暇を取れないこともあります。
将来の年金額に影響する
最低限の福利厚生では厚生年金保険への加入義務はありますが、企業独自の「企業年金」や「退職金制度」がありません。そのため、老後に受け取れる年金が「基礎年金と厚生年金のみ」となり、老後の生活資金が不足する可能性が高くなります。特に、退職金がない場合には、老後の生活を自分自身で計画的に準備していかなければなりません。
働くモチベーションが低下する可能性がある
福利厚生は従業員への待遇や配慮を示すものであり、職場での満足感やモチベーションにも大きく影響します。福利厚生が最低限しかない会社で働く人は、「会社から評価されていない」「将来への不安が大きい」などの理由からモチベーションが低下しやすくなります。その結果、仕事に対する意欲が下がり、職場環境が悪化するリスクもあります。
社員の定着率が低く、職場環境が安定しない
福利厚生が最低限しかない会社は、社員が長期的に働き続けることが難しい環境になりがちです。福利厚生が整っている会社に比べて、社員の定着率が低くなり、人材が頻繁に入れ替わります。そのため、職場環境が安定せず、人材育成やチームとしてのパフォーマンスにも影響が出ます。特に長期的なキャリア形成を考える人にとっては大きなデメリットとなります。
福利厚生が最低限しかない会社でよくあるトラブル事例
福利厚生が法律で定められた最低限のラインしか整備されていない会社では、制度があるにもかかわらず、実際に問題やトラブルが発生するケースがよく見られます。この章では、福利厚生が最低限しかない会社でよくあるトラブル事例を取り上げ、具体的に解説します。
病気やケガで収入が減少する事例
福利厚生が最低限しかない会社では、法定の社会保険には加入していますが、「病気休暇」などの法定外福利厚生がないため、長期間病気やケガで休んだ場合、有給休暇を使い切った後は収入が途絶えることになります。結果的に、病気やケガによって収入が大きく減少し、生活費に困るというトラブルがよく発生しています。
特に大きな病気や事故の場合には、有給休暇が足りず、治療や生活に必要なお金が不足することが珍しくありません。
交通費や家賃の自己負担が重く生活が苦しくなる事例
通勤手当や住宅手当がない場合、自宅から職場まで距離が遠い社員や家賃の高い地域に住む社員は、自費で大きな負担をすることになります。その結果、給与額は平均的でも、実際の手取り額が少なくなり、「生活がギリギリになってしまった」というケースがよく見られます。例えば、通勤費用だけで月に1〜2万円を自己負担すると年間では数十万円となり、給与の額面と実際の手取りに大きなギャップが生まれ、生活が苦しくなることがあります。
退職金制度がなく老後資金が不足する事例
福利厚生が最低限の場合、会社独自の退職金や企業年金がないことが多いため、長年勤務した後に退職した際、退職後の資金が不足するトラブルが発生しています。従業員は退職金があることを期待していたが、実際には何も支給されず、老後資金を自分で用意していなかったために困窮するというケースも少なくありません。
このような場合、自分自身で退職金相当額をあらかじめ計画的に準備しておかないと、将来的に経済的な困難に直面する可能性があります。
育児休業が取得しづらく離職する事例
最低限の福利厚生として育児休業制度は法律上整備されていますが、実際には「職場の雰囲気的に休みが取りにくい」「育休を取ると昇進や評価に影響が出る」というケースがよくあります。そのため、本来育休が取得できるのに制度を利用せず、やむを得ず退職する社員が出るというトラブルがよく起こっています。
特に育児休業の取得実績がない職場では、従業員が制度を利用しにくくなり、結果的に職場を去るというケースが頻繁に起こります。
福利厚生が最低限しかない場合に自分でやるべき対策
福利厚生が最低限しかない会社で働く場合、自分自身で将来のリスクや生活上の負担を軽減するための備えをする必要があります。この章では、福利厚生が最低限しか整備されていない職場で働く方が、自分自身でできる具体的な対策についてわかりやすく解説します。
自分で医療保険や所得補償保険に加入する
最低限の福利厚生では、病気やケガで長期的に休業した際の収入の保障が不十分な場合があります。そのため、自分自身で民間の医療保険や所得補償保険に加入しておくと、いざという時の経済的負担を抑えることができます。民間の保険に加入しておけば、病気や事故など万が一の場合に自己負担額が軽減されるため、安心して働ける環境を整えることができます。
通勤費や家賃などの生活費を節約する
最低限の福利厚生しかない会社では、通勤手当や住宅手当が支給されないことが多いため、生活費の負担が増える可能性があります。そのため、自宅から近い職場を選んだり、交通費が安くなる通勤方法を検討したり、家賃が低いエリアに住居を構えるなど、生活費を抑える工夫を積極的に行うことが大切です。生活費を節約することによって、実質的な手取り収入を増やし、安定した生活を送ることが可能になります。
将来に向けて資産形成を始める
福利厚生が最低限しかない職場では、退職金制度や企業年金といった老後資金の支援がないことが多いため、自分で将来に備えた資産形成を始めることが重要です。具体的には、個人型確定拠出年金(iDeCo)やつみたてNISAといった制度を利用し、長期的な視点で資産形成をしておくと、退職後の生活資金不足を防ぐことができます。早い段階から少しずつでも計画的に資産を積み立てることで、将来的な経済的不安を軽減することが可能になります。
自分自身で健康管理を徹底する
福利厚生が最低限の場合、定期健康診断は会社で実施されますが、それ以外の病気予防や健康維持のための制度が充実していません。そのため、自分自身で健康管理を徹底することが非常に重要です。定期的に自治体が実施する健康診断を活用したり、生活習慣病やがん検診を自主的に受けたりすることで、病気の早期発見や予防につながります。健康維持は医療費の負担軽減にもつながるため、意識的に健康管理に取り組むことが必要です。
企業が福利厚生を充実させるためにすべきこと
企業が福利厚生を充実させることは、従業員のモチベーション向上や定着率アップにつながり、結果的に企業自体の成長にもつながります。この章では、企業が福利厚生を充実させるために具体的にどのような取り組みをすべきか、わかりやすく解説します。
従業員のニーズを把握するための定期的なヒアリングを行う
福利厚生を充実させるためには、まず従業員が実際に求めているものを明確に把握する必要があります。経営陣が一方的に制度を整えるのではなく、定期的にアンケートや面談などを通じて、従業員がどのような福利厚生を必要としているのかを具体的にヒアリングしましょう。従業員のニーズに応じた制度を設計することで、満足度の高い福利厚生が提供できるようになります。
法定外福利厚生を計画的に導入する
法律で義務付けられた最低限の福利厚生だけでなく、住宅手当、家族手当、通勤手当、退職金制度、企業年金制度などの法定外福利厚生を導入することで、従業員の経済的・心理的な負担を軽減できます。すべての制度を一度に導入することが難しい場合でも、計画的に少しずつ充実させていくことで、企業の負担を抑えながら福利厚生を拡充できます。
健康管理や疾病予防に関する支援を強化する
従業員の健康は企業の生産性にも直結するため、健康診断の充実や定期的なストレスチェック、メンタルヘルスケアの制度などを積極的に導入することが効果的です。これらの健康支援策を整備することで、従業員が安心して働ける環境が整い、病気やメンタル不調による離職リスクを軽減することが可能です。
育児・介護と仕事の両立を支援する制度を整備する
近年では働く人々のライフスタイルが多様化し、育児や介護との両立が必要となるケースが増えています。育児休業や介護休業制度の充実に加え、時短勤務やフレックスタイム、在宅勤務など柔軟な働き方を認める制度を整えることで、従業員の定着率が向上します。こうした制度が充実している企業は、優秀な人材を長期的に確保しやすくなります。
福利厚生を企業の魅力として積極的に発信する
福利厚生をただ整備するだけでなく、それを企業の強みとして積極的に社外にアピールすることで、採用活動にも役立ちます。
自社の福利厚生が充実していることを求人情報やホームページなどで明確に伝えることで、優秀な人材を惹きつける効果も期待できます。また、福利厚生を通じた企業ブランドの向上にもつながります。
福利厚生を定期的に見直して改善を行う
一度整備した福利厚生制度を放置するのではなく、定期的に見直しを行い、改善や修正を加えることが重要です。定期的に従業員の利用状況や満足度を分析し、制度が現状に合っているかを評価します。その結果を踏まえ、改善すべき点を明確化し、随時アップデートしていくことで、常に従業員が満足できる制度を維持することができます。
企業が福利厚生を充実させることは、長期的に見れば企業の成長に直結する重要な経営課題です。従業員のニーズをしっかりと把握し、計画的かつ継続的に取り組んでいくことが求められます。
福利厚生がない場合によくある質問
福利厚生については、特に初めて就職や転職を検討する際に疑問が生じやすいものです。この章では、福利厚生に関するよくある質問について具体的に解説します。
パートやアルバイトも福利厚生が全くないと違法になる?
パートやアルバイトであっても、一定の条件を満たせば、会社には社会保険や雇用保険への加入、有給休暇の付与などの義務があります。例えば、週の所定労働時間と月の所定労働日数が正社員の4分の3以上であれば、パートやアルバイトであっても健康保険や厚生年金に加入する義務があります。また、労災保険は労働時間や勤務日数にかかわらず、すべての労働者が加入対象となります。そのため、これらの条件を満たしているにもかかわらず、福利厚生が全くない状態は違法となります。
一方で、勤務時間が短いなど、法律上の加入要件を満たさない場合には、福利厚生がなくても違法にはなりません。そのため、自分自身の勤務状況を確認しておく必要があります。
福利厚生がない分、手取りが増えることはある?
福利厚生が整備されていない会社の場合、企業側が福利厚生にかかる費用を給与に反映させているケースもあります。そのため、額面給与が高めに設定されることはありますが、実際の手取り収入が必ず増えるとは限りません。なぜなら、福利厚生がないと社会保険料の全額自己負担や通勤費、健康診断費用などの支出が増え、結果として手元に残るお金が減少する可能性があるからです。
したがって、給与が高くても福利厚生がないことで生活コストが増えるため、実質的な手取りが増えるかどうかは個々の状況によって異なります。給与額だけではなく、実際にかかる生活費を含めて総合的に判断することが重要です。
福利厚生が全くない会社は法律違反
福利厚生が全くない会社は法律違反であり、働く側にも多くのリスクをもたらします。また、最低限の福利厚生だけが整っている会社でも、病気やケガ、出産・育児、老後資金など、さまざまな面で自己負担が増える可能性があります。これらのリスクを回避するためには、制度の有無を事前に確認し、自ら保険加入や資産形成、健康管理を行うことが大切です。企業側も、福利厚生の充実が従業員の定着率やモチベーションを高める鍵となることを理解する必要があります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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