• 更新日 : 2025年6月2日

有給休暇の金額が6割になるケースとは?計算方法や違法性を解説

有給休暇を取得した際の給与が「6割になる」と聞いたことはありますか? 実は有給休暇中の給与計算には法律で認められた複数の方法があり、条件次第では支給額が通常の約6割程度となるケースもあります。こうした支給額の違いは違法なのでしょうか? この記事では、有給休暇の金額が6割になる理由や計算方法、そして違法性の有無について詳しく解説します。

有給休暇の給与が6割になるケースとは?

年次有給休暇(いわゆる年休)は本来「休んでも給与が支払われる休暇」ですが、必ずしも通常の勤務時と同額が支給されるとは限りません。企業が定める計算方法によっては有給取得日の給与が通常より減額される場合があります。つまり、有給休暇中の給与が「6割」程度になるのは、会社が特定の給与計算方法を採用している場合に生じるのです。

企業が平均賃金方式を採用している場合

有給中の給与が6割程度になるケースが、労働基準法上の「平均賃金」方式を採用している場合です。平均賃金方式では、過去3ヶ月間の賃金から算出した平均額を有給取得日の給与とします。具体的には以下の2通りの計算を行い、金額が高いほうをその日の有給給与とします。

  • (A) 過去3ヶ月の賃金総額 ÷ 過去3ヶ月の総日数(暦日数)
  • (B) 過去3ヶ月の賃金総額 ÷ 過去3ヶ月の総労働日数 × 60%

上記のうち(B)は、法律で定められた最低保証額(6割保障)です。休日や欠勤が多く暦日数で割ると低い金額になる場合でも、労働日数で割った金額の60%を下回らないように保障されています。

そのため実務上、平均賃金方式を取ると結果的に通常より賃金が約6割程度になることがほとんどです。例えば残業代や歩合給が少ない労働者であれば、通常の給与よりかなり低い金額(約6割)で有給日を計算できるため、企業側にとっては支払額を抑えられるメリットがあります。一方で、残業や出来高払いが多い場合には平均賃金額のほうが逆に高くなるケースもまれにあります。

月給制と日給制・時給制での違い

有給休暇中の給与計算方法は、社員の賃金形態によって企業が選択するケースもあります。月給制の正社員であれば、有給取得日に給与を控除せず、満額支給する方法(通常の賃金支払い)が一般的です。月給者の場合、何日有給を取っても月給は変わらないため、実質的に100%支給となります。この方法は計算も簡単で、事務処理が楽な点がメリットです。

一方、日給制・時給制の社員やパート・アルバイトの場合は、有給取得日に支払うべき金額を個別に算出する必要があります。

多くの企業では、日給制・時給制であっても「所定労働時間×時給」など通常勤務した場合と同じ計算で支払います。

しかし企業によっては、パート・アルバイトなど労働日数や勤務時間が不規則な労働者に対して平均賃金方式を採用することがあります。

労働日数が少ないケースでは平均賃金を用いたほうが1日あたりの支給額を低く抑えられるため、パートやアルバイトほど有給給与が6割計算になりやすい傾向があります。

パート・アルバイトと正社員での差

正社員(フルタイム)とパートタイマー・アルバイトの間で有給取得日の給与計算方法が異なるケースも存在します。ただし法律上は雇用形態に関係なく、有給休暇取得者には適切な賃金を支払わなければなりません。

正社員は月給制であることが多いため100%支給が主流ですが、パート・アルバイトは時給制・シフト制で働くため平均賃金方式が採用されやすいのが実情です。

その結果、パート・アルバイトが有給を取った場合に「思ったより支給額が少ない(約6割しかない)」と感じるケースにつながります。

しかし有給休暇の権利や計算方法自体は正社員も非正社員も同じです。いずれの場合も後述する3つの計算方法のいずれかによって算定されており、企業が就業規則で定めた方法に従って支払われています。

有給休暇の給与を計算する3つの方法

労働基準法第39条第9項では、有給休暇取得日の賃金を支払う方法として次の3つを採用できると定められています。

  1. 通常どおりの賃金で支払う(所定労働時間働いたものとみなす)
  2. 平均賃金を支払う(直近3ヶ月の賃金総額から平均賃金を計算して支給する)
  3. 標準報酬日額をもとに支払う(健康保険法に定める標準報酬月額の1日相当額を支給する)

いずれの方法を採用するかは会社が事前に就業規則などで定めておく必要があり、労働者ごとに都合の良い方法に変えることはできません。では、それぞれの計算方法の概要と特徴を見てみましょう。

1. 通常の賃金を支払う

有給休暇を取得した日も通常勤務と同じ賃金を支払う方法です。一般的な方法で、計算上も簡便なのが利点です。具体的には、有給取得日を出勤扱いとみなし、その日働いたものと仮定して給与計算します。

例えば月給制社員なら、有給の日も欠勤控除せず満額の月給を支給します。また、時給制のパート・アルバイトでも、その日の所定労働時間分の賃金(時給×所定時間)を支払えば通常どおりの扱いになります。この方法では有給を取得しても収入が減らないため、労働者にとって安心感があります。また計算も平時と同じなので、給与担当者にとってもミスが起こりにくいでしょう。

通常の賃金を支払う具体的な計算の例は以下の通りです。

  • 時給制の計算例: 「時給 × 所定労働時間」で計算します。
    1日8時間勤務、時給1,200円のアルバイトが有給を1日取得した場合、その日の給与は1,200円×8時間=9,600円となります。
  • 月給制の計算例: 「月給 ÷ その月の所定労働日数」で1日あたりの賃金単価を出し、有給取得日数分支給します。月給30万円、1ヶ月の所定労働日数が20日の場合、1日あたり30万円÷20日=1万5千円が日給相当額となります。

2. 平均賃金を支払う

労働基準法上の「平均賃金」を有給休暇日の給与として支払う方法です。平均賃金とは、「直近3ヶ月間に支払われた賃金総額を、その期間の総日数(暦日数)で割った金額」を指します。ただし、暦日数で割った額が低すぎる場合の最低保障として、「賃金総額を労働日数で割った額の60%」と比較して高いほうを使うルールになっています。

したがって計算手順としては、まず(A)暦日数で割った額と(B)労働日数で割った額の60%をそれぞれ算出し、最も高い金額をその労働者の平均賃金とします。

  • (A) 過去3ヶ月の賃金総額 ÷ 過去3ヶ月の総日数(暦日数)
  • (B) 過去3ヶ月の賃金総額 ÷ 過去3ヶ月の総労働日数 × 60%

■ 例)アルバイトの直近3ヶ月の給与総額が60万円の平均賃金の計算例

  • 3ヶ月の暦日数:90日
  • 実際の労働日数:45日
  • (A)(暦日数):60万円÷90日=6,667円
  • (B) (労働日数):60万円÷45日×60%=8,000円

(A)と(B)を比較すると(B)のほうが高いため、この労働者の平均賃金は8,000円となります。

つまり有給を1日取得すると1日あたり8,000円が支払われる計算です。

このように、勤務日数が少ない人ほど(B) が適用されやすく、場合によっては通常の賃金より少ない「6割相当」の金額が支払われることになります。

平均賃金方式にはメリットとデメリットがあります。メリットは、企業側から見ると有給取得日に支払う金額を低めに抑えられる場合が多い点です。特に勤務日数が少ない労働者ほど平均賃金額は通常賃金より低く出る傾向があるため、人件費の節減につながります。一方デメリットは、上記のような最低保障計算が必要になるため計算事務が煩雑になることです。また労働者にとっては、有給を取ると普段より給与が減ってしまうため不安や不満が生じやすい点もデメリットと言えます。

3. 健康保険法の標準報酬月額をもとに支払う

3つ目は、健康保険法の標準報酬月額を基準に算出した金額(標準報酬日額)を支払う方法です。標準報酬月額とは社会保険の保険料計算の基礎となる報酬額で、等級ごとに定められた月額の基準給与です。この標準報酬月額を30で割った額が「標準報酬日額」となり、有給休暇1日あたりの支給額として用いられます。

ただし、標準報酬月額には上限があり実際の賃金より低く設定されているケースが多いため、この方法を採用すると有給日の支給額が低くなる可能性があります。

そのため労使協定(労働組合または従業員代表との書面協定)で定めた場合にのみ利用できる方法とされています。また、パートタイマーやアルバイトの多くは社会保険(健康保険)に加入していない場合も多く、その場合この方法自体が適用できません。

以上の理由から、実務上この標準報酬日額方式を採用する企業は少ないのが現状です。通常は前述の「通常の賃金」か「平均賃金」のどちらかが使われています。

有給休暇の給与が6割は違法ではない?違法の場合は?

有給休暇中の給与が通常の6割程度しか支払われない場合、一見「賃金カットでは?」と不安になるかもしれません。しかし結論から言えば、6割支給自体は違法ではありません

労働基準法第39条では、有給休暇の賃金支払い方法として前述の3つ(通常賃金、平均賃金、標準報酬日額)が認められており、企業は就業規則等でどの方法を採用するか定めることができます。

平均賃金方式を正しく適用した結果、有給日の賃金が約6割になるのであれば、それは法律の範囲内の支給といえます。実際、平均賃金方式の場合は最低保障額として「60%相当」を用いることが想定されており、法律上も有給日給与が6割になる可能性を織り込んでいるのです。

最低賃金を下回る場合、独自の減額は違法

有給休暇中の給与額が違法となるケースは、労働基準法で定められた最低賃金を下回る支給を行っている場合です。

前述の平均賃金の計算では(A)暦日数割と(B)労働日数割×60%の高いほうを支払う必要があります。にもかかわらず、仮に企業が低い方の金額(60%相当額)のみを支払っていたとすれば、それは労働基準違反となります。

例えば計算上は本来8,000円支払うべき有給日に、会社が「有給は一律60%支給だから」と4,800円しか支給しなかった場合、このような扱いは許されません。

また、法律で認められていない独自の減額も違法です。「会社独自で有給は半日扱いにする」「有給取得日は一律基本給の半額だけ支給する」など、法定の範囲を逸脱したルールは無効となります。

仮にそのような就業規則や社内慣行があっても、労働基準法の定める基準(通常賃金か平均賃金以上)を下回る部分は法的に効力がありません。パート・アルバイトだからといって有給取得時の賃金を不当に安くすることは許されず、雇用形態にかかわらず最低賃金は守る必要があります。

パート・アルバイトに対する違法な扱いに注意

パートタイム労働者やアルバイトに有給休暇を与えない、または有給取得時の給与を支払わないといった行為も違法となります。労働基準法第39条は、一定の条件を満たした全ての労働者に有給休暇を与えるよう義務付けています。

正社員でなくても有給休暇は付与され、その賃金も正しく支払われなければなりません。中には「パートに有給を与えるとシフトが回らないから」と取得を拒むケースや、「アルバイトの有給は無給扱い」などと誤った運用をする事例も聞かれますが、これらは明確に労基法違反です。パート・アルバイトであっても、有給休暇を取得すれば本記事で解説したいずれかの方法で計算された適正な賃金を受け取る権利があります。万一その権利が守られていない場合は、労働基準監督署などに相談することが望ましいでしょう。

有給休暇の給与計算の注意点

有給休暇取得時の給与計算に関して押さえておきたい注意点をまとめます。

算出した有給の額が最低賃金を下回らないようにする

有給休暇中の給与を計算する際は、その金額が最低賃金を下回らないか確認しましょう。特に平均賃金方式を用いた場合、勤務日数が極端に少ないと算出額が思いのほか低くなることがあります。しかしどんな場合でも、1日あたりの有給支給額を時間換算したときに各都道府県の最低賃金額を下回るようなことがあってはなりません

有給1日分の金額を所定労働時間で割った単価が最低賃金を下回ってしまうようであれば、計算方法の見直しや不足額の補填が必要です。

有給取得時の手当の扱いに注意(皆勤手当・通勤手当など)

有給休暇を取得した場合の各種手当の取り扱いにも注意が必要です。例えば皆勤手当(無遅刻無欠勤手当)は、「休まず出勤したこと」に対するインセンティブですが、有給取得を理由にこの手当の支給対象から外すことはトラブルのもとになります。

一方、有給取得者にも皆勤手当をそのまま支給すると決めた場合、今度は出勤していない日に手当を支給する形となり、他の従業員との不公平感や会社のコスト増につながります。一般的には有給取得によって皆勤手当が減額されないよう配慮しつつ、就業規則で明確にルール化することが望ましいでしょう。

また通勤手当の扱いも確認が必要です。通勤手当が毎月定額支給の場合、有給取得日であっても通常は満額支給されます。一方、出勤日数に応じて実費精算するタイプの通勤手当では、有給で出勤しなかった日の交通費支給は不要ですが、その分有給取得日の総支給額が出勤日より低くなることになります。これは違法ではありませんが、労働者にとって「有給を取ると手当分損をする」と感じる要因にもなります。会社としては手当の種別(固定支給か日額支給か)に応じて、有給取得時の扱いを就業規則に定め、法律違反や想定外の過払い・不支給が発生しないよう注意しましょう。

有給休暇取得時の給与が社会保険料や税金に与える影響

有給休暇を取得することで、その月の給与額が変動すると社会保険料や源泉所得税にも影響が及ぶ場合があります。

例えば平均賃金方式で有給を計算し通常より給与が減ると、その月の総支給額が平月より低くなることがあります。健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額は基本的には年間を通じて固定ですが、定時改定のタイミングで大幅な給与変動があると等級に影響する可能性があります。また、定時決定のタイミング以外であっても大幅な固定給の変動があれば、随時改定によって等級が変わる可能性もあるでしょう。

また、月々の源泉所得税は給与額に応じて天引きされていますが、有給取得で一時的に給与が減るとその月の所得税額も減少するでしょう(年末調整で最終的に調整されます)。こうした変動自体は違法ではなく自然なものですが、従業員に事前に説明しておく配慮も大切です。「有給を取ったら手取りが減って社会保険料も変わった」という誤解や不安を防ぐために、会社側は有給取得時の給与計算方法だけでなく、その結果として起こりうる保険料・税金面の変化についても周知しておくと良いでしょう。

有給休暇の金額が6割になる理由を理解しよう

有給休暇中の給与が6割になるケースは、賃金計算方法の違いや企業の就業規則での定めによるものです。労働基準法で認められた範囲内であれば、有給取得日に通常より低い金額(約6割程度)が支払われること自体は違法ではありません。

特に平均賃金方式を採用している場合は、計算上どうしても6割程度の水準になることが多くあります。大切なのは、自分の会社がどの計算方法を採用しているのかを把握し、それによって適正な有給休暇の給与が支払われているか確認することです。

もし法定の基準を下回る扱いや、不当に有給取得を控えさせるような運用が行われている場合は注意が必要です。適切な知識を身につけ、有給休暇を安心して取得できる環境づくりを心がけましょう。各種手当の扱いや計算結果にも目を配り、有給休暇取得による不利益が生じないようにすることが、労使双方にとって健全な職場づくりにつながります。

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