- 更新日 : 2025年7月3日
賃金総額とは?労働保険での意味と平均賃金の計算方法も解説
賃金総額とは、使用者が従業員に対して払う給与や手当などその名前に関わらず、労働の対価として支払われるすべての合計金額を指すものです。労働保険において賃金総額から平均賃金を算出し、さらに、平均賃金は休業手当や解雇予告手当、災害補償の算定などに用います。今回は労働保険の賃金総額について定義や計算方法について解説します。
賃金総額とは
労働保険において賃金総額とは、使用者が労働者に対して給与や賞与、手当など、その名前に関わらず労働の対償として支払うすべての総額を意味するものです。賃金総額を用いて平均賃金を算定するため、労働保険においてとても重要な位置づけのものといえるでしょう。
ここからは賃金総額についての理解を深めるために、労働保険における賃金総額の用いられ方、賃金総額に含まれるもの、含まれないものについて解説していきます。
労働保険において賃金総額は重要
労働保険において賃金総額は重要な位置づけのものであることは、既にお伝えしたとおりです。
賃金総額は、平均賃金の算定の際に必要になるものです。そして、平均賃金は休業手当や解雇予告手当、年次有給休暇中の1日あたりに支払われる賃金、災害補償などの計算の基礎として用いられます。
平均賃金は、具体的にはたとえば休業手当を支払う場合は休業日の前日からさかのぼった3ヵ月間に、その労働者に支払われた賃金総額をその期間の総日数で割って算出します。
賃金総額に含まれるもの
基本的に、労働基準法第11条に定義される賃金すべてが賃金総額に含まれます。労働基準法における賃金とは、賃金、給料、手当など、どのような名称であっても、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいいます。具体的には次のようなものが挙げられます。
- 基本給
- 資格手当
- 家族手当
- 扶養手当
- 通勤手当
- 割増賃金
- 年次有給休暇中に支払われる賃金
- 公民権の行使により休業した期間中の賃金
- 顧客から支払われたチップを従業員全員に再配分したもの
基本給や資格手当などは労働の対価として支払われる賃金としてわかりやすいものといえるでしょう。一方、家族手当や扶養手当などは個人的な事情に対して支払われる属人的なものです。そのため、賃金の定義である「労働の対償」とは性質が異なりますが、賃金総額には含まれることに注意が必要です。
年次有給休暇中に支払われる賃金も、賃金総額に含めるのを忘れないようにしましょう。そのほか一般的にはあまり馴染みがないかもしれませんが、選挙に行く、あるいは住民投票に行くといった「公民権の行使」のために休業している間に支払われる賃金も算入しなければなりません。
また、接客業などにおいて顧客から従業員の1人にチップが支払われたケースで、従業員がチップをそのまま受け取ったような場合は賃金とは扱われません。しかし、一度使用者が受け取り、従業員全員に平等に配布したような場合には賃金に該当し、賃金総額にも含まれます。
賃金総額に含まれないもの
ここまで、賃金総額に含まれるものについてお伝えしてきました。賃金のように支払われたものすべてが賃金総額に含まれると捉えた方もいるかもしれませんが、そうではありません。わかりやすいところでは、半年ごとに支払われる賞与などは算入しません。
賃金総額に含まれないものには次のようなものがあります。
【賃金総額に含まないもの】
- 臨時に支払われた賃金
- 3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 通貨以外の形態で支払われた賃金で一定の範囲に属さないもの
臨時に支払われた賃金とは、結婚手当や私傷病手当、退職金などのことです。支給条件はあらかじめ決められているものの、それがいつ発生するかは誰も予測することができない、発生自体が非常にまれなものを指します。
3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金の代表的なものとしては、夏と冬の年2回支給される賞与が挙げられます。まれに年4回(3カ月ごと)にボーナス支給がある会社がありますが、その場合は賃金総額に含まれることに注意しましょう。
通貨以外の形態で支払われた賃金で一定の範囲に属さないものについては、法令や労働契約に定められていない現物給与などをイメージしていただければよいでしょう。
【平均賃金の算定期間および賃金総額から除くもの】
- 業務上の負傷や疾病によって休業した期間とその期間の賃金
- 産前産後の休業期間とその期間の賃金
- 育児休業および介護休業期間とその期間の賃金
- 試用期間とその期間中の賃金
上記に挙げたものは、当該期間中に支払われた賃金だけでなく、その日数自体も算定期間から除く点に留意してください。
平均賃金とは
労働基準法において平均賃金とは、賃金総額を用いて下記の算定の基礎として用いられるものです。
- 休業手当
- 解雇予告手当
- 年次有給休暇中の賃金
- 災害補償
- 減給の制裁の制限額
たとえば、有給休暇は賃金が支払われるからこそ安心して休めますが、休んでいる間に支払われる賃金は、平均賃金をもとに計算できます。平均賃金か通常の賃金、あるいは健康保険の標準報酬月額の30分の1相当額のいずれか、就業規則に定められているものを支払うことになっています。
平均賃金はこのように年次有給休暇中の賃金をはじめ、休業手当や解雇予告手当、災害補償など、使用者が労働者に対して支払うものや、減給の制裁の制限額などの単価となります。
休業手当は使用者に原因がある事由で休職する際、平均賃金の100分の60以上が支払われるものです。たとえば、原材料の不足や事業設備の故障により工場が休業したようなケースがあてはまります。
また、労働者を解雇する場合、少なくとも30日前に解雇する旨を予告する必要がありますが、予告しないときには30日以上の平均賃金を支払わなければなりません。この「30日以上の平均賃金」が解雇予告です。
災害補償は、労働者が業務上の事由で怪我をしたり病気にかかったりして療養する場合、労働できず賃金をもらえないときに、平均賃金の100分の60の休業補償を支払うものです。
減給の制裁は、職場の規律などに違反した労働者に対する制裁として、労働者の賃金の一定額をマイナスさせるものです。減給する額には制限があり、1回の額が平均賃金の1日分の半額を上回ってはいけません。
労働基準法における平均賃金は、労働保険のほかの制度である労災保険では給付基礎日額、雇用保険では基本手当の日額にあたります。それぞれ詳細の内容や名称が異なることがポイントです。
平均賃金の計算方法
平均賃金の計算方法は、下記のとおりです。
【月給制の場合】
算定するべき事由の発生した日「以前」3ヵ月間とありますが、厳密には事由発生したその日は入らず、前日以前の3ヵ月間であることに注意しましょう。
業務上の怪我や病気で労働基準法の災害補償を受ける場合を例に挙げると、事由が発生した日=怪我をした日は早退して病院に行くなど、労務を提供できない時間が生じることがほとんどです。その日を計算の3ヵ月間に含めてしまうと賃金の実態と乖離する可能性が高いため、労働者保護の観点からこのようなルールになっています。
しかし、実際の運用としては、当該期間中に賃金締切日がある場合は直近の賃金締切日から起算することになっています。前述したルールは原則であり基本的な考え方と捉えていただければよいでしょう。
【日給、時給、出来高制の場合】
労働保険上の賃金総額に対する理解をしっかり深めよう!
労働保険において、賃金総額は労働基準法上の平均賃金の算出のために用いられる重要なものの1つです。賃金総額を用いて計算した平均賃金は、休業手当や解雇予告手当、有給休暇中の賃金などの計算の基礎に使われます。
賃金総額を計算する際は、その中に含まれるもの、含まれないものがあるため、きちんと確認することが大切です。賃金総額に対する理解を深め、正しい運用をおこないましょう。
よくある質問
賃金総額とはなんですか?
基本的には労働の対償として支払われた賃金の合計額で、平均賃金の算定に用いられるものです。詳しくはこちらをご覧ください。
賃金総額に含まれるものには何がありますか?
基本給、資格手当、家族手当、扶養手当、通勤手当、割増賃金、年次有給休暇中に支払われる賃金などがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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