- 作成日 : 2024年7月16日
ROIC経営とは?意味やWACC・ROE・ROAとの違い・計算式・メリットを解説
ROIC経営とは?意味やWACC・ROE・ROAとの違い・計算式・メリットを解説
企業を安定的に成長させていくためには、事業活動のために調達した資金を活用してどれだけ効率的に利益を産んでいるかが重要です。
そこで重要となるものが「ROIC」です。近年、ROIC経営が注目されており、今後企業を成長させたいのであれば必ず関わってくるものとなるでしょう。
そこで本記事では、ROICの概要を踏まえた上で、ROEやROAとの違いや導入するメリット、デメリットなどを詳しく解説します。
目次
ROICとは

ROICは、Return on Invested Capitalの略称で、日本語で「投下資本利益率」と訳される経済指標です。
企業がその資本をどれだけ効率的に使用して利益を生み出しているかを示します。
具体的には、企業が投資した全ての資本(投下資本という。有利子負債と株主資本の合計)に対して、どれだけのリターンを得たかを評価し、経営者が資本をどれだけ有効に運用しているかを測ります。
ROICの計算方法は以下の通りです。
この計算式の構造をわかりやすく解説すると、以下の図のようになります。

ROICの目安・基準
一般的に、事業単位のROICの目安として7%と言われています。ROICの数値が高いほど、少ない投下資本で多くの利益を生み出していることを示し、その事業のコスト効率が優れていることを意味します。
そのため、7%を上回る場合は、効率よく経営ができている状態で、下回っている場合は事業の撤退や縮小するのを視野に入れる必要があるのです。
ROICとWACCの関係
WACCとは、日本語で「加重平均資本コスト」と訳し、企業の資金調達における全体的なコストを反映しており、株主資本と負債のコストをそれぞれの割合に応じて加重平均したものです。
WACCの計算方法は、以下の通りです。
ROICがWACCを上回っている場合、企業はその資本コスト以上のリターンを生み出していることになります。
これは企業が経済的付加価値を創出していることを示し、投資家にとってもポジティブな要素です。
逆に、ROICがWACCを下回っている場合、企業はその資本コストに見合ったリターンを得られていないことを意味します。
企業が投資した資本を効果的に運用できていないことを示し、経済的な損失を意味するため、この状況が続くと、企業の財務状況は悪化し、投資家からの信頼を失う可能性があるでしょう。
ROEやROAとの違い
ROICと同じく資本生産性を表す指標として、ROE(自己資本利益率)とROA(総資産利益率)があります。
- ROE(自己資本利益率)=当期純利益÷自己資本×100
- ROA(総資産利益率)=当期純利益÷総資産(自己資本+他人資本)×100
ROEとの違い
ROEは、企業が株主から預かった資本をどれだけ効率的に運用して利益を生み出しているかを示す重要な財務指標です。企業の自己資本に対する収益性を評価し、自己資本には株主からの出資金や内部留保している利益が含まれます。
高いROEは、企業が株主資本を効率的に運用して高い利益を上げていることを示し、投資家にとって魅力的な企業と判断されます。
一方、ROICは企業の総投下資本に対する収益性を評価します。ここでの投下資本には、株主資本だけでなく、負債を通じて調達した資金も含まるのです。
高いROICは、企業が全ての資本を効果的に活用して高いリターンを生み出していることを意味します。

ROAとの違い
ROAは、企業が保有する総資産をどれだけ効率的に運用して利益を生み出しているかを示す指標です。
ROAは、企業の総資産全体に対する収益性を評価します。総資産には現金、預金、売掛金、在庫、設備、建物、土地などすべての資産が含まれます。
企業の全体的な資産運用効率を示し、資産を効率的に活用して利益を上げているかを評価しているのです。
一方、ROICは、企業が運営資本に投資した資本に対する収益性を評価します。ここでの投下資本には、株主資本だけでなく、企業が借入金や社債など負債として調達した資金も含まれます。

ROICが注目される理由
ROICが注目されるようになった理由は、主に以下の通りです。
- 投資家が利益率を重視するようになった
- 企業のグループ・グローバル化が発展した
- PBRへの関心が高まった
まず、投資家は企業がどれだけ効率的に資本を運用して利益を生み出しているかを評価するために、ROICを利用している点です。
特に高いROICは、企業が投資家から預かった資本を有効に活用し、優れた経済的付加価値を創出していることを示します。
また、企業が多国籍展開や多角化経営を進める中で、各事業単位や地域ごとの資本効率を評価する必要性が高まっています。
企業はグローバルな視点で資本の配分を最適化し、各事業単位がどれだけ効率的に資本を運用しているかを把握できるからです。
PBRは企業の株価が帳簿価値に対してどれだけ割高または割安かを示す指標であり、投資家にとって重要な評価基準の一つです。
ROICとPBRを併用することで、企業の実際の価値と市場評価のバランスをより正確に判断できます。
ROIC経営のメリット・導入目的

経営にROICを導入するメリットは、主に以下の通りです。
- ROEやROAの問題点を解決できる
- 事業や部門ごとに分けて算出できる
- さらなる資金調達につながる
ROEやROAの問題点を解決できる
ROEやROAの問題点を解決できるメリットがあります。ROEとROAの問題点は、それぞれ以下の通りです。
ROE:負債比率の影響を受けやすい
ROA:資産の質や資本構成の違いを考慮しない傾向にある
ROICは運転資本や固定資産などの投下資本をもとに計算され、企業がどのように資本を運用しているかを詳細に評価します。
資産の質や構成の違いを反映し、異なる業界やビジネスモデル間の比較をより適切に行うことが可能です。
さらに、ROICは企業が資本をどれだけ効果的に利用しているかを示すため、資本の最適配分を促進し、長期的な成長戦略の策定に役立つでしょう。
事業や部門ごとに分けて算出できる
ROIC経営を導入することで、企業は各事業や部門ごとに投下資本とそのリターンを分離して評価が可能です。
例えば、製造部門、販売部門、研究開発部門など、それぞれの部門がどれだけの投資を受け、その投資がどれだけのリターンを生み出しているかを明確にできます。
これにより、企業は各部門の強みと弱みを正確に把握し、資本配分の最適化を図ることが可能です。
さらなる資金調達につながる
ROIC経営は、企業が投下資本をどれだけ効果的に運用して利益を生み出しているかを示す指標です。高いROICは、企業が資本を有効に活用し、高いリターンを生み出していることを示します。
これにより、投資家や金融機関は、その企業が信頼できる投資先であり、リスクに見合ったリターンを提供できると判断してくれるのです。
ROIC経営のデメリット

一方、経営にROICを導入するデメリットは、主に以下の通りです。
- 計算式が複雑でわかりづらい
- ROICが有効ではない場面もある
計算式が複雑でわかりづらい
計算式が複雑でわかりづらいのも、ROIC経営のデメリットです。ROICの計算には多くの要素が関与し、これらを正確に把握するためには専門的な知識と経験が求められます。
しかし、一度計算方法を習得すれば、迅速に数値を算出できるようになります。「投下資本」などの用語やROICの意義については、社内研修を通じて学習する機会を設けると効果的です。
ROICが有効ではない場面もある
経営状況によって、ROICが適用できる場面とそうでない場面があります。
例えば、投下資本をあまり使用しないサービス業では、ROICを使う必要がなく、正確な評価が難しいです。
また、企業の創業期や成長期には大量の投資が必要なため、ROICを活用すると数値が低くなってしまうでしょう。
ROIC経営を導入するのであれば、成長期の中頃から安定期までの間が有効的です。
ROICを上げるには?経営のポイント

ROICを向上させるための経営のポイントは、主に以下3つあります。
- 企業全体でROICの重要性とその意味を理解する
- 各事業部門やプロジェクトごとにROICを計算する
- 長期的な視点を持つ
ROICは、企業が投下した資本をどれだけ効率的に運用して利益を生み出しているかを示す指標です。したがって、経営陣だけでなく、全社員がROICの概念を理解し、その向上を目指す必要があります。
社内研修や教育プログラムを通じてROICの基本的な概念や計算方法を学ぶ機会を設けることが効果的です。
ROICの向上を目指すためには、各事業部門やプロジェクトごとにROICを計算し、評価することも重要です。例えば、製造部門、販売部門、研究開発部門など、それぞれの部門がどれだけ効率的に資本を運用しているかを評価することで、資本配分の最適化を図れます。
ROICは短期的な利益だけでなく、長期的な経済価値の創出を評価する指標となるため、長期的な成長戦略や投資計画を考慮した上で、ROICを評価しましょう。
まとめ
ROICは、企業がその資本をどれだけ効率的に使用して利益を生み出しているかを表す指標です。一般的に、ROICの目安は7%であり、この基準を上回る場合は資本効率が優れていると判断できます。
7%を上回るためには、ROEやROAなどとの違いを理解した上で、各事業部門やプロジェクトごとにROICを計算し、評価するといったことが大切です。
ROIC経営を効率良くできるよう、メリットやデメリットも踏まえた上で、導入の検討をしてください。
この記事をお読みの方におすすめのガイド4選
最後に、この記事をお読みの方によく活用いただいている人気の資料・ガイドを紹介します。すべて無料ですので、ぜひお気軽にご活用ください。
やることリスト付き!内部統制構築ガイド
内部統制を基礎から知りたい方・内部統制の導入を検討している担当の方・形式だけになっている内部統制を見直したい方におすすめの人気ガイドです。
内部統制の基本と内部統制構築のポイントをギュッとまとめています。
ストック・オプション丸わかりガイド!
ストック・オプションの概要や種類、IPO準備企業がストック・オプションを利用するメリットに加え、令和5年度税制改正の内容についても解説した充実のガイドです。
IPOを検討している企業様はもちろん、ストック・オプションについて学習をしたい企業様も含め、多くの方にご活用いただいております。
J-SOX 3点セット攻略ガイド
すべての上場企業が対象となるJ-SOX(内部統制報告制度)。
本資料では、IPO準備などでこれからはじめてJ-SOXに対応する企業向けにJ-SOXの基本からその対応方法までをまとめた、役立つガイドです。
マネーフォワード クラウドERP サービス資料
マネーフォワード クラウドERPは、東証グロース市場に新規上場する企業の半数※1 が導入しているクラウド型バックオフィスシステムです。
取引データの自動取得からAIによる自動仕訳まで、会計業務を効率化。人事労務や請求書発行といった周辺システムとも柔軟に連携し、バックオフィス業務全体を最適化します。また、法改正に自動で対応し、内部統制機能も充実しているため、安心してご利用いただけます。
※1 日本取引所グループの公表情報に基づき、2025年1月〜6月にグロース市場への上場が承認された企業のうち、上場時にマネーフォワード クラウドを有料で使用していたユーザーの割合(20社中10社)
よくある質問
ROIC経営を行う目的は?
ROIC経営を行う目的は、企業が資本をどれだけ効率的に運用して利益を生み出しているかを正確に評価し、持続可能な成長と競争優位性を確立するためです。 この指標を重視することで、経営者は資本の最適配分と効率的な運用を実現し、企業全体のパフォーマンスを向上させられるでしょう。
ROIC経営で失敗する原因は?
ROIC経営の失敗原因の1つは、指標の誤解や過度な依存です。 ROICは重要な指標であるものの、それだけに依存して全ての経営判断を行うと、他の重要な財務指標や非財務的要素を見落とす可能性があります。 例えば、短期的なROICの向上を優先するあまり、長期的な成長機会や戦略的投資を犠牲にすることが考えられます。 企業はROICを含む複数の指標をバランスよく活用し、総合的な経営判断を行う必要があるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
JASDAQ上場とは?東証一部・二部・マザーズとの違いや審査基準を解説
将来的に、株式市場への上場を考えているけれど、何から始めてよいかわからないと考えている事業主もいるのではないでしょうか。2022年4月から、東京証券取引所の市場区分が再編されたので、これを機会にぜひ知識として身につけ、上場に向けた検討をして…
詳しくみる指名委員会とは?権限や役割をわかりやすく解説
指名委員会とは、経営陣の選任・解任に関する決定を主な業務とする機関です。 会社法や取引所の規定により、指名委員会(または監査役会など)の設置が義務となる場合があります。 本記事では、指名委員会の概要や設置目的、権限を解説します。また、指名委…
詳しくみる戦略立案に欠かせない競合分析とは?目的や実施手順などを解説【テンプレート付き】
「競合」を分析する機会は、ビジネスにおけるさまざまな場面に存在します。営業担当者が顧客に提案する際にライバルを分析する場合や、経営層が中長期の戦略を描く場合、商品開発者が新ブランドを起案する場合などが挙げられます。 したがって、競合分析はほ…
詳しくみるIPO広報の役割は?求められることや実践のポイントを解説
IPO(新規株式公開)は企業にとって大きな転機です。企業の魅力を投資家に効果的に伝えることで、信頼を得て株式の成功を収めることができます。 本記事では、IPOにおける広報の重要性や戦略を詳しく解説します。 IPO広報とは IPO広報とは、企…
詳しくみる知的財産デューデリジェンス(知財DD)とは?目的や手順などの全体像を解説【テンプレート付き】
知的財産は企業の競争力の源泉であり、デジタル技術の進展によってその重要性はますます高まっています。言い換えれば、他社や自社の知的財産の評価や現状を見誤ると、思いもよらないリスクを招いたり、突然競争力を失ったりする事態になりかねません。 そこ…
詳しくみるIR資料とは?決算説明会資料の作成方法や押さえるべきポイントを解説
IR資料とは、企業が投資家や株主に向けて提供する重要な情報をまとめた資料のことです。 この資料は、企業の経営戦略や財務状況、業績見通し、リスク管理など、投資判断に必要な情報を網羅しています。 IR資料の種類には、有価証券報告書、中期経営計画…
詳しくみる


