- 作成日 : 2026年1月19日
監査役にもストックオプションを付与できる?税制適格や有償ストックオプションについて解説
監査役へのストックオプション(新株予約権)の付与は、法律上可能です。しかし、税制優遇が受けられる「税制適格ストックオプション」の利用は原則不可能であり、実務上は「有償ストックオプション」が有力な選択肢となります。
本記事では、監査役への付与が認められる法的根拠、税務上の厳しい制約、そして代替案として有効な3つの手法について、実務的な観点から徹底解説します。
目次
監査役にもストックオプションを付与できる?
監査役に対するストックオプションの付与は、会社法上認められています。ただし、監査役はその職務の性質上、業務執行権を持たないため、付与の目的や報酬としての設計には慎重な判断が必要です。
参考:会社法 第361条(取締役の報酬等)|e-Gov法令検索、会社法 第387条(監査役の報酬等)|e-Gov法令検索
会社法における監査役報酬としての位置づけ
ストックオプションは、会社法上「職務執行の対価」として位置づけられます。監査役への付与は「非金銭報酬」に該当するため、定款に定めがない限り、株主総会の決議によって具体的な報酬額や内容を決定しなければなりません。
監査役の独立性と業績連動のジレンマ
法的に可能であっても、ガバナンス上のリスクが存在します。
監査役は取締役の職務執行を監査する立場にあり、その職務には高度な「独立性」が求められます。
もし監査役が株価上昇が自身の巨額の利益に直結するストックオプションを過度に保有していたら、「株価を上げるために、取締役の不正会計を見逃す」といった利益相反が生じる懸念があります。そのため、日本監査役協会や証券取引所は、監査役に対する過度な業績連動型報酬に対して慎重な姿勢を示しています。
監査役はなぜ税制適格ストックオプションの対象外?
多くのスタートアップが利用する「税制適格ストックオプション(税制優遇あり)」ですが、監査役は原則としてこの対象外となります。
租税特別措置法において、税制優遇が受けられる対象者は「取締役、執行役および使用人(従業員)」に限定されており、監査役はここに含まれていないからです。
理由1. 業務執行を行わない法的立場との不一致
税制適格要件では、発行会社と「雇用関係」または「特定の委任関係(業務執行を行う取締役等)」にあることが求められます。 しかし、監査役は会社法上、業務執行を行わず、使用人(従業員)との兼務も禁止されています。この法的な立場の違いにより、たとえその他の要件を満たしても、人的要件の不一致により税制優遇を受けることができません。
理由2. 最大約55%の課税が「権利行使時」に発生する
税制適格要件を満たさない「税制非適格ストックオプション」となった場合、税負担は非常に重くなります。
株式を売却して現金化する前の段階で、多額の納税資金が必要となるため、付与された監査役にとってはキャッシュフロー上の負担が極めて大きくなります。
監査役へストックオプションを付与する方法は?
監査役への付与はハードルが高いものの、以下の3つのアプローチで実施することが可能です。
方法1. 税制非適格ストックオプションとして付与する
最もシンプルな方法は、税制メリットを諦め、通常の「税制非適格ストックオプション」として付与することです。
これは特別なスキームを必要とせず、手続き自体は一般的です。ただし、監査役が権利を行使した時点で、含み益に対して原則として給与所得として課税されます。株式を売却して現金化する前に納税資金が必要になるため、監査役個人の金銭的負担が大きくなる点がデメリットです。
参考:No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について|国税庁
方法2. 有償ストックオプションを利用する
「時価発行新株予約権(有償ストックオプション)」を利用することで、税制適格に近い税務メリットを享受できる可能性があります。
これは、監査役が新株予約権の公正な価値(時価)を金銭で払い込んで取得する手法です。「報酬」ではなく「投資」とみなされるため、権利行使時の課税がなく、株式売却時の譲渡所得課税(約20%)のみで完結します。税制適格が使えない監査役にとって、最も合理的かつ実務的な選択肢と言えます。
方法3. 監査等委員会設置会社に移行し、監査等委員に就任させてから付与する
監査等委員会設置会社に移行し、監査等委員に就任させ、その後に税制適格ストックオプションを付与する方法があります。
監査等委員は監査を行うものの法律上は取締役であるため、監査等委員は税制適格オプションの付与対象者と解されています。監査を行う役割を担ったまま税制適格ストックオプションを付与する一つの方法と言えるでしょう。
監査役へストックオプションを発行する手順は?
監査役へストックオプションを発行する場合、会社法に則った厳格な手続きが必要です。以下に一般的なフローを解説します。
1. 募集事項の決定と株主総会の決議
取締役会にてストックオプションの募集事項(数、払込金額、行使期間など)を案として策定し、株主総会で決議を得ます。
監査役への付与が「報酬」とみなされる場合(無償発行や有利発行など)は、報酬枠の決議が必要です。有償で発行する場合であっても、非公開会社においてはストックオプションを発行すること自体に株主総会の承認決議が求められるため、留意する必要があります。
2. 割当ての決定と契約締結
総会決議に基づき、誰に何個割り当てるかを決定し、対象となる監査役と「新株予約権割当契約」を締結します。
この契約書には、権利行使の条件(ベスティング条項など)や、退任時の取り扱いについて明記します。
3. 新株予約権の登記
発行した新株予約権の内容を、発行日から2週間以内に法務局へ登記申請します。
登記には、株主総会議事録や新株予約権原簿などの添付書類が必要です。
監査役へのストックオプションを付与する場合の注意点は?
監査役へのストックオプション付与を検討する際は、法的な手続きだけでなく、対外的な見え方やガバナンスへの影響を考慮しなければなりません。
1. コーポレートガバナンスの機能不全リスク
監査役に過度な業績連動報酬を与えると、監査役の独立性が疑われ、コーポレートガバナンスが機能していないと判断されるおそれがあります。特に上場準備企業(IPO準備企業)や上場企業において、監査役がストックオプションを大量に保有している状態は、証券取引所や投資家からネガティブに捉えられる可能性があります。「監査の公正性」と「インセンティブ」のバランスをどう説明するか、合理的なロジックが必要です。
2. 説明責任とロジックの構築
導入にあたっては、以下のポイントを明確にする必要があります。
- 目的の明確化:なぜその監査役にインセンティブが必要なのか(例:高度な専門性を持つ社外監査役の招聘など)。
- 公正価値の算定:有償ストックオプションの場合、第三者機関による適正なプライシングを行う。
- 株主への説明:お手盛り批判を避けるため、透明性の高いプロセスで決定する。
監査役には有償ストックオプションの付与が主流
監査役へのストックオプション付与は、法的には可能ですが、税務上およびガバナンス上のハードルが高い施策です。
- 税制適格は不可:監査役は税制適格要件を満たさないため、通常の無償ストックオプションでは税負担が重くなる。
- 有償ストックオプションが主流:税メリットを享受でき、独立性の懸念も比較的少ない「有償ストックオプション」が解決策となる。
- 株主総会は必須:無償ストックオプションの場合は報酬規制や有利発行の観点から、株主総会での決議が必要。有償ストックオプションの場合は報酬とはみなされないため報酬規制の観点での株主総会での決議は不要だが、非公開会社ではストックオプションの発行自体に株主総会での決議が必要となる。
適切な設計を行うことで、企業の成長と監査機能の強化を両立させることが可能です。
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