- 作成日 : 2025年12月23日
合同会社の職務執行者とは?権限・報酬・登記・肩書きを解説
合同会社では、出資者である「社員」が自ら経営に関わる仕組みが特徴ですが、社員が法人の場合には、その法人に代わって業務を担う「職務執行者」を選任する必要があります。
本記事では、合同会社の職務執行者とは何か、権限や責任・登記・報酬の仕組みなどを解説します。
目次
合同会社の職務執行者とは?
合同会社の職務執行者は、法人が出資者(社員)となっている場合に、実際の経営業務を行う個人として選任される立場です。法人社員自身は業務を執行できないため、代行者としての職務執行者が必要となります。合同会社の実務運営に深く関わる重要な存在です。
法人社員の代わりに業務を執行する自然人のことを指す
合同会社において社員が法人の場合、物理的に会社の業務を行うことはできません。そこで、会社法598条に基づき、その法人に代わって業務を担う者として自然人を選任する必要があります。選ばれた個人は「職務執行者」と呼ばれ、氏名と住所が法務局で登記されます。この制度により、法人社員の業務を人が代わりに実行できる体制が整えられます。
資格要件がなく、誰でも選任することが可能
職務執行者には、特定の資格や経験が求められるわけではありません。選任は自由で、法人の役員や従業員のほか、外部の第三者を起用することもできます。また、同一の法人が複数の職務執行者を選任することも可能です。ただし、業務執行の範囲や権限が重なることで意思決定が複雑になる可能性があるため、定款や契約書に明確なルールを設けておくと混乱を防げます。
合同会社の経営実務を担う経営陣の一員
職務執行者は、合同会社の経営判断や業務執行に携わる立場であり、実務面での経営を担います。株式会社でいえば「執行役員」に近いイメージです。さらに、職務執行者を含む業務執行社員の中から「代表社員」が選ばれることもあるため、職務執行者は合同会社の経営陣の核として機能します。対外的な代表権は持ちませんが、社内では中心的な役割を果たします。
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職務執行者と業務執行社員・代表社員の違いは?
合同会社においては、経営を担う社員に「業務執行社員」と「代表社員」が存在し、それぞれに役割があります。職務執行者はこれらとは異なる立場であり、特に「社員」ではない点が大きな特徴です。
職務執行者は社員ではなく、法人社員の業務を実行する代理人
業務執行社員は、会社に出資し業務執行権を持つ「社員」であり、株式会社でいう取締役に近い存在です。その中から代表権を持つ「代表社員」が選ばれ、会社の対外的な意思表示を行います。一方、職務執行者はこれらと異なり、社員ではなく、法人が社員である場合に、その法人に代わって業務を行う自然人です。したがって、職務執行者は合同会社の構成員ではないものの、業務執行社員と同様に会社の経営実務を担います。
権限と責任は業務執行社員と同等、ただし代表権は持たない
職務執行者は、業務執行社員と同様に会社の業務遂行に関わり、経営判断にも責任を持ちます。ただし、会社を代表する権限(代表権)は有しておらず、対外的な契約や法的行為は代表社員が行います。このように、職務執行者は実務面では経営の中心に立つものの、法律上の地位は異なる立場となっています。
職務執行者の権限と責任の範囲は?
合同会社における職務執行者は、法人社員の代理として日常的な経営業務を行いますが、その行動には一定の制限もあります。ここでは、職務執行者が持つ権限と、果たすべき法的責任について見ていきます。
【権限】会社の業務を執行する広範な裁量に及ぶ
職務執行者には、業務執行社員と同様に、合同会社の業務を日常的に実行する権限が与えられています。これは、契約交渉の準備、社内管理、業務オペレーション全般など、経営の実務を幅広く担うことを意味します。職務執行者の立場は法人社員の「代行者」であり、内部的にはその法人に代わって経営判断を行うことが可能です。
ただし、職務執行者には法律上の「代表権」がないため、会社を法的に代表して契約を締結することはできません。対外的な行為については、代表社員の承認または名義を用いて対応する必要があります。この点が、業務執行社員や代表社員との明確な違いです。
【責任】善管注意義務や忠実義務など経営者と同等の責務が課される
職務執行者は、会社の経営に携わる重要な立場として、一定の法的責任を負います。会社法上の「善良なる管理者の注意義務(善管注意義務)」や「忠実義務」が適用されます。これは、職務執行者が常に会社の利益を最優先に考え、誠実かつ適切な判断と行動をとることが求められることを意味します。
仮に、重大な過失や自己の利益を優先する行為などによって会社に損害を与えた場合には、損害賠償責任を問われる可能性もあります。社員ではないものの、経営に深く関与する職務執行者には、経営陣の一員として高い倫理観と責任意識が求められます。
職務執行者の報酬はどのように支払われる?
合同会社に職務執行者を設けた場合、その報酬は合同会社から直接支給されるのではなく、いったん法人社員へ支払われた上で、そこから職務執行者本人に分配される仕組みになります。報酬の支払経路と注意点を解説します。
合同会社からの報酬は法人社員に支払われる
合同会社は、職務執行者を選任している法人社員に対して役員報酬を支払います。この法人社員は出資者であり、業務執行権を有しているため、経営活動に対する報酬の受領者となるのが原則です。報酬額の決定は定款や業務執行契約に基づいており、一般には毎月定額で支払われます。この報酬は合同会社の損金(経費)として計上され、法人側では収益として扱われます。
つまり、職務執行者が実際に動いているとしても、対外的には合同会社と法人社員の間に報酬の契約関係が存在するという形になります。
職務執行者本人の報酬は法人側から給与として支給される
職務執行者は、法人社員からの委任により業務を実行している個人です。したがって、その報酬は当該合同会社ではなく、法人社員から本人(職務執行者)に支給されます。職務執行者が法人の役員であれば役員給与、従業員であれば通常の給与扱いとなり、所得税の源泉徴収や社会保険料の手続きも法人側で行います。
たとえば、親会社の従業員が子会社の合同会社で職務執行者を兼ねる場合、親会社からの給与に職務執行手当を上乗せするかたちで支給されることが一般的です。ただし、職務執行者は合同会社の従業員ではないため、合同会社側での給与支払報告書の提出や社会保険の加入手続きは不要です。
労働保険や社会保険の適用には注意が必要
職務執行者の給与は法人社員から支給されるため、社会保険や労働保険(雇用保険・労災保険)の適用対象となるのは法人側です。しかし、職務執行者が合同会社での活動を「役員相当」として行っている場合、形式上は労働者と見なされず、雇用保険に加入できないケースがあります。
実務の比重が合同会社に偏っている場合や、職務執行者が専任的に活動しているときには、保険適用上の判断に注意が必要です。このようなケースでは、税理士や社会保険労務士などの専門家への事前相談が望ましいです。
職務執行者の登記手続きはどうする?
合同会社で法人が業務執行社員となる場合、その代理人として選任される職務執行者は、氏名と住所を法務局に登記する必要があります。選任や変更のたびに定められた方法で登記申請を行う義務があり、怠ると過料の対象となる可能性もあります。
職務執行者は、氏名と住所の登記が必須
合同会社で職務執行者を置いた場合、その氏名および住所は必ず登記事項となります。これは、会社の意思決定に関与する自然人の情報を登記簿で明確にしておくことで、利害関係者に対して透明性を確保し、法的責任の所在を明らかにするための制度です。
したがって、法人が業務執行社員として合同会社に参加する際には、同時にその職務を担う人物を選任し、速やかに登記手続きに進む必要があります。登記される情報は一般に公開され、登記事項証明書(履歴事項全部証明書)にも記載されます。
登記申請は、変更後2週間以内に必要書類を添えて行う
職務執行者を新たに選任した場合や、変更・退任があった場合には、その日から2週間以内に法務局で登記申請を行わなければなりません。この申請には、選任を証明する書類が必要です。選任を決定した法人の取締役会または株主総会の議事録、本人の就任承諾書、法人の登記事項証明書などを用意します。
また、退任の場合には前任者の辞任届が必要となります。これらの書類とともに、登録免許税(通常1万円程度)を納付し、所定の様式で申請を行います。期限を超えると過料(罰金)の対象となるため、遅延しないよう留意が必要です。
職務執行者の肩書きは名刺にどう書く?
合同会社の職務執行者は、正式な法律上の立場として名刺に記載することができます。ただし、その表現は相手の理解度や状況に応じて工夫が求められます。
職務執行者は、そのまま名刺に記載できる
「職務執行者」は会社法に規定された正式な役職であり、「○○合同会社 職務執行者 氏名」といった形で名刺に記載することは問題ありません。取引相手が会社法や法人登記に精通している業界であれば、正確な役職名を使うことは信頼性にもつながります。
しかしながら、「職務執行者」や「業務執行社員」といった名称は一般には馴染みが薄く、「社員」という語が含まれることから従業員と誤認されることもあります。そのため、肩書きが正確であっても伝わりにくいという実務上の問題もある点に留意が必要です。
社外に通じやすい肩書きを使う例もある
名刺に記載する肩書きは、法律上の制限がなければ自由に設定できます。合同会社では「取締役」や「代表取締役」といった株式会社特有の役職名を用いることはできませんが、「代表」「社長」「CEO」などの一般的な肩書きは使用可能です。
親会社が合同会社の出資者(法人社員)であり、その社員から選任された職務執行者が実質的に経営トップとして行動している場合には、「代表」や「CEO」と記載することで、取引先に役割が明確に伝わります。ただし、会社形態が合同会社であることは名刺に明示し、誤解を避ける配慮が求められます。法的には問題がなくても、相手の誤認を招かない表現を選ぶことが大切です。
職務執行者を選任しないリスクは?
合同会社で法人が業務執行社員になっている場合、職務執行者の選任は法律上の義務です。選任しないまま運営すると、登記手続きの遅延や法的な瑕疵、さらには責任追及につながるおそれがあります。
会社法違反となり過料の対象になる可能性がある
会社法598条は、法人が業務執行社員である場合に、必ずその職務を行う自然人を選任することを求めています。したがって職務執行者を置かない状態は法令違反となり、法務局への登記も行えません。登記を怠った場合には、代表社員や会社に対し過料(罰金)が科される可能性があります。
また、法人社員が業務執行を直接行えない以上、業務を執行する自然人が不在となるため、法的には経営体制が欠けた状態と判断されるリスクがあります。
対外的信用に影響する
職務執行者を置かない合同会社は、実質的に業務を行う担当者が不在の状態となります。銀行口座の開設や契約手続きでも、登記簿に責任者として自然人の記載がないことで手続きが進まない場合があります。また、取引先は登記簿の内容を確認するため、職務執行者が未登記であることは「管理体制の不備」として信用を損なう要因になります。
法人社員のみの構成で運営していると見なされれば、意思決定プロセスの曖昧さが疑われ、ビジネス機会の喪失につながることも考えられます。
業内部統制にも支障が出る
職務執行者を選ばないまま経営を行うと、誰が業務執行上の判断責任を負うのか明確になりません。法人社員自体には自然人のような意思決定機能がないため、会社内での承認プロセスや意思決定が滞り、内部統制が機能しにくくなります。
万が一、法的トラブルや損害が発生した場合、責任追及先が曖昧になり、法人社員側にも大きなリスクが生じます。このように、職務執行者の不在は経営面でも法務面でも深刻な問題を引き起こす可能性があります。
職務執行者を正しく理解し合同会社を運営しよう
合同会社の職務執行者は、法人が出資者となる場合に経営を担う欠かせない役割です。権限は業務執行社員と同様に広範ですが代表権はなく、報酬の受け取り方や登記手続きにも独自のルールがあります。本記事で解説したポイントを踏まえて職務執行者の役割と運用を正しく理解し、合同会社の適切なガバナンスと円滑な運営につなげましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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