- 更新日 : 2025年10月21日
役員の重任登記とは?再任との違いや手続き方法、忘れた場合のリスクも解説
役員の任期満了時に発生する「重任登記」。役員のメンバー構成が変わらないため、つい忘れがちな手続きではないでしょうか。しかし、この手続きを怠ると過料(罰金)の対象となる可能性があります。
この記事では、なぜ重任登記が必要なのかという基本から、自分で手続きを完結させるための詳しい手順、必要書類、費用、そして万が一忘れてしまった場合のリスクまで、初心者の方にもわかりやすく解説します。計画的な会社運営のために、ぜひご活用ください。
目次
法人登記の役員重任とは?
会社の役員構成が変わらない場合でも、役員の任期が満了するたびに「重任登記」という手続きが必要です。これは、同じ人が引き続き役員を務めることを株主総会で決議し、その事実を法務局に届け出て登記簿に記録するためのものです。
この手続きによって、会社の登記事項が最新の状態に保たれ、会社の透明性と社会的信用が維持される仕組みになっています。
役員が同じでも「重任登記」は義務
役員の任期が満了したら、任期満了日に終結した株主総会の決議に基づき、その翌日から2週間以内に役員変更(重任)の登記を申請します。これは会社法の変更登記ルール(2週間)に基づく法定義務です。役員が退任・就任した場合だけでなく、同一人の続任(重任)も「登記事項に変更が生じる」扱いとなります。
- 役員の任期とは
株式会社の取締役の任期は、原則として「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時まで」とされています。また、非公開会社では、定款で定めることにより、任期を最長で「選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」伸長できます。
この任期が満了するたびに、株主総会で改めて役員を選任し直し、その結果を登記する必要がある、というわけです。
出典:会社法 第三百三十二条、第九百十五条|e-Gov法令検索
「重任」と「再任」の違いは?
「重任」とは役員が任期満了後、間を空けずに同じ役職に就くことを指します。一方で「再任」は、一度役員を退任した人が、後に再び同じ役職に就く場合も含む、より広い意味合いで使われる言葉です。
登記手続きにおいては、この二つは明確に区別されます。任期満了と同時に継続して役員に就任する場合は「重任」となり、手続きは1回で済みます。
しかし、もし任期満了で一度役員としての地位を失い、翌日以降に再び就任するようなことがあると、「退任」と「就任」の2つの登記が必要になる場合があります。これにより、手続きが複雑になったり、登録免許税が余計にかかったりすることもあり得ます。
項目 | 重任 | 再任 |
---|---|---|
タイミング | 任期満了後、途切れることなく継続して就任する | 退任後、期間が空いてから再び就任する場合も含む |
登記手続き | 「重任」として1度の手続きで完了する | 「退任」と「就任」の2つの登記が必要になることがある |
費用 | 登録免許税1件分 | 登録免許税2件分 |
一般的な使われ方 | 登記や法律上の手続きで使われることが多い | 日常会話や一般的なビジネスシーンで広く使われる |
法律上の手続きにおいては「重任」という言葉が使われる、と覚えておくとよいでしょう。
重任登記が必要になるタイミングとは?
重任登記が必要になるのは、定款で定められた役員の任期が満了するタイミングです。
具体的には、役員の任期が「選任後〇年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時まで」と定められているため、この定時株主総会が開かれる時期が、登記の準備を始める合図となります。
たとえば、3月決算の会社で、取締役の任期を2年と定めているケースを考えてみましょう。 2023年6月の定時株主総会で選任された取締役の任期は、2年後の2025年3月期に関する定時株主総会(通常は2025年6月に開催)が終わるまでとなります。 したがって、この2025年6月の定時株主総会で同じ人が再び取締役に選任された場合、2025年6月の株主総会終結日の翌日から2週間以内に重任登記を申請しなければなりません。
自社の役員の任期がいつ満了するかは、会社の「定款」と「登記事項証明書(登記簿謄本)」で確認できます。登記事項証明書には役員の就任年月日が記載されているため、定款で定められた任期と照らし合わせることで、正確な満了時期を把握できるでしょう。
役員重任の法人登記を忘れるとどうなる?罰金やリスクは?
役員の重任登記は、期限が「株主総会で重任を決議した日(株主総会終結日)の翌日から2週間以内」と短く、日常業務に追われていると、うっかり忘れてしまうこともあるかもしれません。しかし、この手続きを怠ると、金銭的なペナルティだけでなく、会社の信用にかかわる大きなリスクにつながることもあります。
ここでは、登記を忘れてしまった場合に何が起こるのかを解説します。
登記懈怠(とうきけたい)による過料(罰金)
定められた期間内に登記申請をしないことを「登記懈怠(とうきけたい)」といい、登記を怠った会社の代表者個人に対して、地方裁判所から過料(かりょう)が科されることがあります。
過料は、法律違反に対する金銭的な制裁であり、行政罰の一種です。刑事罰である「罰金」とは異なり、前科がつくことはありませんが、会社の代表者個人が支払いを命じられるものです。 会社法第976条では、登記を怠った者は「百万円以下の過料に処する」と定められています。
登記懈怠の期間がどれくらい続くと過料の通知が来るか、という明確な基準はありません。期限を1日過ぎただけですぐに通知が来るわけではなく、数ヶ月後や1年以上経過してから突然、裁判所から通知が届くケースも多いようです。いつ通知が来るかわからないため、期限内に手続きを済ませることが肝心です。なお、通知を放置すると、最終的に個人財産の差押えに至る可能性もあるため、必ず記載された期限内に納付しましょう。
登記を怠った過料の金額や通知のタイミング
過料の金額は、法律上「100万円以下」と幅広く定められており、具体的な金額は登記を怠った期間や会社の規模や状況、登記遅延が故意か過失かなどをふまえて、裁判所の裁量によって決定されます。
明確な算定基準は公表されていませんが、一般的には登記懈怠の期間が長くなるほど、金額も高くなる傾向があるようです。数万円程度で済むこともあれば、懈怠期間が数年に及ぶと10万円を超えるケースも見られます。
通知は、法務局から管轄の地方裁判所に登記懈怠の事実が通知された後、裁判所から会社の代表者個人の住所宛てに「過料事件通知書」といった書面で届くのが一般的です。
この通知を無視していると、最終的には個人の財産が差し押さえられる可能性も否定できません。通知が届いたら、指定された期限内に記載された金額を納付する必要があります。
長期間放置すると「みなし解散」の恐れも
役員変更登記をせずに長期間放置していると、過料だけでなく、さらに深刻な事態を招くことがあります。それは「みなし解散」です。
みなし解散とは、最後の登記から12年が経過した株式会社について、法務局が「この会社は事業を廃止して活動実態がない」と判断し、職権で解散の登記を入れてしまう制度です。
法務省は毎年、この条件に該当する会社に対して官報公告を行うとともに、通知書を発送します。通知書に記載された期限内に「まだ事業を廃止していない」旨の届出を行うか、役員変更などの登記を申請すれば解散を免れることができます。しかし、これらの対応をしないと、職権で解散登記がなされてしまいます。
一度みなし解散の状態になっても、3年以内であれば「会社継続」の決議と登記を行うことで会社を復活させられますが、余計な手間と費用がかかることは言うまでもありません。
出典:令和6年度の休眠会社等の整理作業(みなし解散)について|法務省
役員重任の法人登記を自分でするには?手続きの流れ
役員の重任登記は、司法書士などの専門家に依頼するのが一般的ですが、手続きの流れを理解すれば、自分で申請することも可能です。費用を抑えたい場合や、会社運営の実務を学びたい場合には、挑戦してみる価値があるでしょう。ここでは、株式会社(取締役会を設置していない会社)を例に、自分で手続きを進めるための具体的なステップを解説します。
STEP1:株主総会で役員選任の決議を行う
最初に、定時株主総会を招集し、任期が満了する役員を再び選任(重任)するための決議を行います。
株主総会は、会社の基本的な方針や重要事項を決定する最高意思決定機関です。役員の選任も、この株主総会の決議によって正式に決定されます。 決議が成立したら、その内容を証明する書類として「株主総会議事録」を作成します。この議事録は、後の登記申請で法務局に提出する重要な添付書類のひとつです。
議事録には、開催日時や場所、出席した株主の氏名、議決権の数、議案、決議の結果などを正確に記載しなければなりません。とくに、どの議案で誰が役員として選任され、その人が就任を承諾した旨が明確にわかるように記述することが求められます。
STEP2:必要書類を作成・準備する
株主総会での決議が終わったら、法務局へ提出するための登記申請書類一式を作成・準備します。主な必要書類は以下のとおりです。これらの書類は、会社の機関設計(取締役会があるか、など)によって少しずつ異なりますので、事前に自社の状況を確認しましょう。
- 株式会社変更登記申請書
登記の目的(「役員の変更」など)や登記すべき事項、登録免許税額などを記載するメインの申請書です。 - 株主総会議事録
STEP1で作成した、役員の重任を決議した事実を証明する書類です。
- 株主リスト
株主総会での決議時点における、議決権数の多い上位10名の株主情報、または議決権割合が2/3に達するまでの少ない方などを記載したリストです。 - 就任承諾書
重任した役員が、その役職に就くことを承諾した意思を示す書類です。株主総会議事録で承諾を明確にし本人が記名押印していれば、就任承諾書を省略できる扱いの運用があります。 - 印鑑(改印)届書
代表取締役が交代しない場合でも、申請書に押す会社実印の印鑑カードの継続使用を希望する場合や、新しい印鑑を登録する場合に提出が必要です。
これらの書類のひな形は、法務局のウェブサイトで入手できます。記載例もあわせて確認しながら、間違いのないように作成を進めましょう。
STEP3:法務局へ登記申請を行う(2週間以内)
すべての書類が準備できたら、会社の所在地を管轄する法務局へ登記申請を行います。申請期限は、重任を決議した株主総会の「終結日」の翌日から起算して2週間以内です。
申請方法は、主に3つあります。
- 窓口申請:法務局の窓口へ直接書類を持参する方法です。書類に不備があった場合に、その場で補正(修正)の指示を受けられることがあります。
- 郵送申請:書類一式を封筒に入れ、法務局へ郵送する方法です。登記申請書を入れた封筒の表面に「登記申請書在中」と記載し、書留郵便で送付するのが一般的です。到着日が申請日の扱いとなります。
- オンライン申請:法務省の「登記・供託オンライン申請システム」を利用して、インターネット経由で申請する方法です。専用ソフトのインストールや電子署名の準備が必要ですが、法務局へ出向く手間が省けます。
申請後、書類に不備がなければ、通常1週間から2週間程度で登記が完了します。完了予定日は、申請先の法務局のウェブサイトで確認するか、窓口で直接たずねることができます。
登記完了までの期間は?
登記申請から完了までの期間は、申請方法や法務局の混雑状況によって異なりますが、おおむね1週間から2週間が目安です。
たとえば、東京法務局のウェブサイトでは、各登記申請の処理状況(完了予定日)が日々更新されています。申請した日付を元に、自分の会社の登記がいつ頃完了するのかを予測できます。 登記が完了すると、登記事項証明書を取得して、役員の情報が正しく更新されているかを確認できます。金融機関での手続きや、重要な契約を結ぶ際に最新の登記事項証明書が必要になることもあるため、完了後は1通取得しておくと安心でしょう。
役員重任の法人登記に必要な書類と費用は?
役員重任の登記を進めるにあたり、もっとも気になるのが「どのような書類を、どうやって準備すればよいのか」そして「全部でいくらかかるのか」という点ではないでしょうか。
申請方法には、法務局の窓口へ直接持参する方法のほかに、郵送やオンラインで行う方法もあります。
ここでは、登記申請に必要な書類の詳細と、費用の内訳について解説します。あらかじめ全体像を把握しておくことで、スムーズに準備を進められるでしょう。
必要になる書類一覧
取締役会を設置していない株式会社の役員重任登記では、一般的に以下の書類が必要となります。自社の状況と照らし合わせながら、準備の際のチェックリストとしてご活用ください。
- 株式会社変更登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
これらの書類の作成にあたっては、法務局が提供する記載例が大変参考になります。一つひとつ確認しながら進めることをおすすめします。
ケース別(取締役会の有無など)で必要になる書類
会社の機関設計によっては、上記の基本書類に加えて、追加の書類が必要になることがあります。
- 取締役会を設置している会社の場合:代表取締役の選定を取締役会で行うため、「株主総会議事録」に加えて「取締役会議事録」の添付が必要になります。
- 本人確認証明書が必要な場合:重任する取締役が、印鑑届出をしていない場合などには、その取締役の「本人確認証明書」(住民票の写し、運転免許証のコピーなど)が必要になることがあります。
- 定款の変更も同時に行う場合:役員の任期を伸長するなど、定款の内容そのものを変更する議案も株主総会で決議した場合は、その旨を記載した株主総会議事録が必要となります。
自社の状況がどのケースに当てはまるかわからない場合は、事前に管轄の法務局の登記相談窓口に問い合わせて確認すると、書類の不備を防ぐことができます。
登録免許税の税額
役員変更の登記申請には、登録免許税という税金を納付しなければなりません。この税額は、登記申請時点の資本金の額によって決まります。
- 資本金が1億円以下の場合:1万円
- 資本金が1億円を超える場合:3万円
この登録免許税は、収入印紙で納付するのが一般的です。1万円または3万円分の収入印紙を購入し、登記申請書の「登録免許税」欄の横にある貼付台紙に貼り付けます。収入印紙は、郵便局や法務局内の印紙販売所で購入できます。 貼り付けた収入印紙には、消印をしないように注意しましょう。消印は法務局の職員が行います。
その他にかかる費用
登録免許税のほかに、手続きを進めるうえで発生する可能性のある費用には、以下のようなものがあります。
- 登記事項証明書の取得費用
- 郵送申請する場合の書留郵便代
- 法務局へ行く場合の交通費
- 司法書士への報酬(依頼する場合)
自分で手続きを行えば、司法書士への報酬はかからず、登録免許税と実費のみで済ませることができます。
郵送で申請する場合のポイント
法務局へ出向く時間がない場合に便利な郵送申請ですが、いくつか注意すべき点があります。追跡が可能な書留郵便などを利用し、封筒には「登記申請書在中」と朱書きしましょう。最も重要なのは、申請期限の2週間は、郵便物の消印日ではなく法務局への到着日で判断される点です。
期限に間に合うよう、数日の余裕をもって発送してください。もし書類に不備があった場合は、電話連絡の後、郵送か窓口で修正することになります。
オンラインで申請する場合のポイント
登記・供託オンライン申請システムでのオンライン申請は、平日8:30〜21:00です。24時間対応ではありません。マイナンバーカードとICカードリーダライタ、そして専用ソフトのインストールが必須となります。添付書類は、電子署名を付与したPDFファイルとして送信します。申請日扱いとなるのは送信完了時刻なので、21:00を過ぎると翌営業日扱いになります。
役員重任の法人登記でよくありがちな失敗例
役員重任登記は、手順どおりに進めれば自分で完了できる手続きですが、初めての方にとっては、思わぬところでミスをしてしまうことも少なくありません。書類の不備で法務局から補正(修正)の連絡が来ると、余計な時間と手間がかかってしまいます。
ここでは、初心者がとくに陥りがちな失敗例とその対策を解説します。事前に知っておくことで、スムーズな申請を目指しましょう。
失敗例1:株主総会議事録の記載ミス
失敗例のひとつとして、登記申請の添付書類である「株主総会議事録」の記載内容の不備です。
議事録は、単に決議の結果が書かれていればよい、というものではありません。会社法で定められた記載事項が漏れていたり、内容が不明確だったりすると、法務局で受理されない原因となります。
- 開催日時や場所の記載漏れ:いつ、どこで開かれた総会なのかが特定できない。
- 出席株主、議決権数の記載漏れ: 定足数を満たしたか判断できない。
- 被選任者の氏名が不正確:登記簿上の漢字と、議事録の漢字が異なっている(例:「斎藤」「齋藤」「齊藤」など)。
- 就任承諾の記載がない:選任された役員が、就任することに同意したかどうかがわからない。
- 法務局の記載例を参照し、登記事項証明書と完全一致の氏名で記載する。
- 株主総会の出席者、議決権数、議案、決議結果を漏れなく記載する。
- 就任承諾は議事録に必ず記載し、役員本人の記名押印があることを確認する。
失敗例2:就任承諾書の作成漏れ
重任した役員が、その就任を承諾したことを証明する「就任承諾書」も、不備が起こりやすい書類です。
株主総会議事録に「被選任者は、席上でその就任を承諾した」といった趣旨の記載があり、その役員本人が議事録に記名押印している場合には、就任承諾書の添付を省略できます。 しかし、この記載がない場合や、役員が株主総会を欠席していた場合には、別途、就任承諾書を作成して添付しなければなりません。
- 議事録に就任承諾の記載がないのに、就任承諾書を添付し忘れてしまう。
- 就任承諾書の日付を、株主総会の日より前の日付にしてしまう。
- 就任の承諾は、選任された後に行われるものです。そのため、就任承諾書の日付は、選任の決議があった株主総会の日付で作成する必要があります。原則として、株主総会議事録と就任承諾書はセットで準備する、と考えておくと漏れがなくなるでしょう。
失敗例3:登録免許税(収入印紙)の不備
登録免許税の納付方法である、収入印紙の取り扱いに関するミスも散見されます。
申請書の所定の場所に、正しい金額の収入印紙を貼り付ける必要がありますが、金額を間違えたり、貼り忘れたりするケースがあります。
- 金額の間違い:資本金1億円超の会社が1万円の印紙を貼ってしまう、など。
- 貼り忘れ:申請書を作成することに集中してしまい、印紙を貼るのを忘れてしまう。
- 収入証紙との混同:国に納める登録免許税は「収入印紙」で納付します。都道府県に納める手数料などで使う「収入証紙」と間違えないように注意が必要です。
- 誤って消印してしまう:収入印紙に自分の印鑑で割印(消印)をしてしまうと、無効となります。
- 申請書を提出する直前に、資本金の額を確認し、正しい税額(1万円か3万円か)を再確認しましょう。収入印紙は郵便局などで購入し、申請書の貼付台紙に貼り付け、絶対に消印はしない、と覚えておくことが大切です。
役員重任の法人登記は司法書士に頼むべき?
役員の重任登記は自分で行うこともできますが、法務局へ提出する書類の作成には専門的な知識が求められます。本業が忙しく、手続きに時間を割けない場合もあるかもしれません。そのようなときに頼りになるのが司法書士です。ここでは、司法書士に依頼するメリット・デメリットや、費用相場、そして信頼できる司法書士の選び方について解説します。
自分でやる場合と司法書士に依頼する場合の比較
手続きを自分で行うか、専門家である司法書士に依頼するかは、費用、時間、確実性の3つの観点から検討するとよいでしょう。
比較項目 | 自分で行う場合 | 司法書士に依頼する場合 |
---|---|---|
費用 | 登録免許税と実費のみ(1万円~) | 登録免許税+司法書士報酬(合計で3万円~6万円程度) |
時間・手間 | 書類作成や法務局とのやりとりに時間がかかる | 打ち合わせのみで、ほとんどの手間を省ける |
確実性 | 書類の不備による補正リスクがある | 書類作成から申請まで正確に行われるため、安心感が高い |
重任登記を自分で行う最大のメリットは、やはり費用を安く抑えられる点です。一方、司法書士に依頼する最大のメリットは、貴重な時間と手間を節約でき、法的な正確性が担保される点にあるといえるでしょう。
司法書士に依頼するメリット・デメリット
司法書士に依頼することの利点と、考慮すべき点を整理してみましょう。
- 時間と手間の節約:株主総会議事録や登記申請書など、煩雑な書類の作成から法務局への申請まで、すべてを代行してもらえます。
- 法的な正確性の担保:会社法などの法律に準拠した、間違いのない書類を作成してもらえます。書類不備による補正のリスクがほとんどありません。
- 関連する手続きへのアドバイス:役員変更だけでなく、定款変更や他の登記事項に関する相談にも乗ってもらえることがあります。
- 費用がかかる:登録免許税などの実費に加えて、司法書士への報酬が発生します。
- 社内にノウハウが蓄積されにくい:手続きをすべて任せてしまうため、自社で登記実務に関する知識や経験を得る機会は少なくなります。
会社の規模や法務担当者の有無、経営者がどれだけ本業に集中したいか、といった状況をふまえて、どちらの方法が自社に合っているかを判断することが大切です。
信頼できる司法書士の選び方
司法書士に依頼すると決めた場合、どの事務所に頼めばよいか迷うかもしれません。信頼できる司法書士を選ぶためのポイントをいくつか紹介します。
法人登記の経験が豊富か
司法書士の業務分野は、不動産登記、相続、成年後見など多岐にわたります。ウェブサイトなどで、法人登記(商業登記)を専門分野として掲げ、実績が豊富な事務所を選ぶと安心です。
料金体系が明確か
依頼する前に、必ず見積もりを取りましょう。報酬額だけでなく、登録免許税や登記事項証明書の取得費用といった実費がすべて含まれた、総額がわかる明確な見積もりを提示してくれる事務所が望ましいです。
コミュニケーションが円滑か
こちらの質問に対して、専門用語を多用せず、わかりやすく丁寧に説明してくれるかどうかも重要なポイントです。気軽に相談できる、相性の良い司法書士を見つけましょう。
最近では、オンラインで相談から依頼まで完結できる事務所も増えています。複数の事務所のウェブサイトを比較検討したり、初回相談無料のサービスを利用したりして、自社に合ったパートナーを探してみてはいかがでしょうか。
役員重任の法人登記は任期満了後2週間以内の手続きが必須
役員の重任登記は、役員のメンバー構成が変わらない場合でも、法律で定められた会社の大切な義務です。この記事で解説したとおり、手続き自体は流れとポイントを理解すれば、自分で進めることも十分に可能です。
もっとも重要なのは、役員の任期を正しく管理し重任を決議した株主総会の終結日の翌日から起算して2週間以内という申請期限を厳守することに尽きます。万が一この期限を過ぎてしまうと、登記懈怠として過料の制裁を受けたり、長期間放置すれば「みなし解散」につながったりするリスクも考えられます。
本業に集中するために司法書士に依頼するのも賢明な選択ですし、コストを抑えるために自分で挑戦することも、会社運営の良い経験となるでしょう。いずれの方法をとるにせよ、計画的な準備で、確実な手続きを心がけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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