- 更新日 : 2021年10月5日
取締役の法的な責任とは
取締役は株主に経営を任された株式会社の代表者であり、役員にふさわしい判断と行動力を持って、会社経営にあたることを期待されています。違反が発覚すると責任がおよぶ範囲も広く、場合によっては損害賠償責任を負うこともあります。
取締役の役目
株式会社には少なくとも1人の取締役を置くこととなっています。株式会社は出資者である株主が実質的な所有者であり、株主により選ばれた取締役は、株主から会社の運営を任されています。
取締役の役目は、定款に定められた事業目的を遂行する上での舵(かじ)取りです。そのため、会社が進むべき道を具体的に決定し、それが確実に実行されているか常にチェックする義務があります。
会社によっては、「執行」と「不正がないか検査する」のふたつの役割を兼任する取締役も存在します。また、取締役は株主総会を定期的に開催し、株主に対して懸案事項を説明しなければなりません(説明責任)。
さらに、役員および社員による不正行為を防止するための充実した内部統制システムの構築、労働関係法規を遵行した従業員のプライバシー保護やセクハラ対策、従業員が働きやすい環境(人事や労務、賃金の支払いなど)を維持する義務もあります。
善管注意義務と忠実義務
聞き慣れない言葉ですが、「善管注意義務」とは、取締役が会社に対して担う基本的義務のことで、会社の経営にたずさわる者として、善良な管理者の注意を持って会社経営や諸問題に取り組まなければならないこと意味します。
さらに、定款や法令を守り、株主総会での決議に従い、取締役としての任務を遂行しなければなりません。もし、注意義務や任務を怠り、会社に損害をもたらした際には、「善管注意義務」に背いたとして損害賠償を請求されることもあります。
「善管注意義務」違反とは取締役が経営において著しく不合理で誤った判断を下したことにより生じた損失のことで、通常の任務遂行に際し、会社の利益を考えて行動した上で失敗した場合には「善管注意義務」違反とはみなされません。
とはいえ、その行動は、取締役として期待される知見や合理的判断をもとに実行されたものであるべきです。「忠実義務」は「善管注意義務」とほぼ同義で使われ、取締役は会社に対して忠実に任務を遂行する義務があることをいいます。
取締役の法的責任
法令や定款に従い取締役として常識的な行動をとらなかった場合や、任務を怠った場合には、責任をとる必要があります。多くの場合、それによって生じた損害を賠償する責任を負うことになります。
次にお話しする利益相反や、違法配当(配当できる利益がないにもかかわらず違法に利益配当を行う)など行った場合には、法的責任が追求されることになるでしょう。
利益相反について
取締役が会社と直接取引する際には、事実を開示して株主総会または取締役会で承認を得ることが必要です。取締役がそれを怠りかつ利益相反行為(取締役が得をすることにより会社側が損害を被った)があった場合、取締役は損害額を賠償する必要があります。
取締役自身が扱う製品を市場の相場より高い値段で会社に買わせるケースがこれにあたります。また、取締役と第三者が取引をする間接取引においても利益相反が当てはまり、任務を怠った場合には、損害賠償の責任が生じます。
過失の有無にかかわらず損害賠償責任が生じるケース
取締役が会社の持つコネやノウハウを使い取引を行うことを競業取引といいます。会社が当然受け取るべき利益を自分の懐に入れるわけですから、その取締役は承認を得ているかどうかにかかわらず、任務を怠ったとみなされ、競業取引で得た利益を会社に賠償する責任を負います。
第三者に対する責任
取締役は、第三者である株主や会社の債権者、取引先に対して、悪意もしくは重大な過失があった場合、会社以外の第三者に対して損害賠償をする責任が生じます。
代表例としては、株式の新規受付や引き受け募集の際、公告すべき重要事項に虚偽の事実を記載した場合や、財務諸表に虚偽の記載をした場合などが挙げられます。
まとめ
このようなわけで、取締役には問題を迅速に把握して対応できる高度な注意力と判断力が求められており、重責を担うポジションです。
会社は利益を株主に還元するのみならず、自社製品・サービスや事業を通じて社会に貢献することが期待されています。自社製品の欠陥、不備により事故もしくは損害を招いた場合には、社会への責任として損害賠償だけではなく、取締役が辞任を余儀なくされることもあります。
関連記事
定款の認証を初めての方でもスムーズに進める手順まとめ
役員報酬の決め方の注意点と知っておくべき3つの制度
よくある質問
取締役の役目は?
取締役の役目は、定款に定められた事業目的を遂行する上での舵(かじ)取りです。詳しくはこちらをご覧ください。
取締役の法的責任は?
利益相反や、違法配当など行った場合には、法的責任が追求されることになるでしょう。詳しくはこちらをご覧ください。
利益相反とは?
取締役が株主総会または取締役会で承認を怠り、利益相反行為があった場合、取締役は損害額を賠償する必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会社設立の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
役員の関連記事
新着記事
零細経営とは?中小企業との違いや支援制度、成功のコツを解説
零細経営とは、一般に中小企業基本法の「小規模企業者」がイメージとして最も近く、製造業・建設業・運輸業等は常時使用する従業員20人以下、卸売業・小売業・サービス業は5人以下の小規模な事業運営を指します。迅速な意思決定が強みですが資金繰りや人材…
詳しくみる法人登記は郵送でできる?申請方法や封筒の書き方、必要書類を解説
法人登記は、法務局の窓口へ行かずに郵送で申請を完結させることが可能です。そのため、遠隔地にいても、日中の業務が多忙でも、会社の設立や役員変更などの手続きを進められます。 しかし、郵送ならではの書類の準備や封筒の書き方にはルールがあり、これを…
詳しくみる【テンプレ付】役員の住所変更の法人ガイド!自分で行う手続きや費用まとめ
会社の代表権を持つ役員の住所が変更された場合は、変更の生じた日から2週間以内に、変更の日から2週間以内に法務局で法人登記の変更申請を行う必要があります。特に、代表取締役(株式会社)や代表社員(合同会社)など代表権を有する者の住所は登記事項と…
詳しくみる訪問看護の許認可とは?開設に必要な要件や申請の流れを解説
訪問看護事業を開設するには、介護保険法にもとづく都道府県知事などからの「指定」が必要です。この指定を受けるためには、法人格の取得、専門スタッフの配置、事務室の確保といった人員・設備・運営に関する基準をすべて満たす必要があり、計画的な準備が求…
詳しくみる創業融資が返せない場合はどうする?6つのリスクや対処法を解説
創業融資の返済が困難になった場合、何よりも先に融資を受けた金融機関へ相談することが最善の策です。放置してしまうと、延滞損害金の発生や信用情報への悪影響、最悪の場合は資産の差し押さえといった深刻な事態につながりかねません。 事業を始めたばかり…
詳しくみる創業融資後に倒産したらどうなる?自己破産後でも融資は可能か解説
一度事業に失敗し倒産を経験しても、日本政策金融公庫の「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」などを活用すれば、再び創業融資を受けられる可能性があります。そのためには、過去の失敗を分析し、それを乗り越えるための具体的な事業計画と、再起に向け…
詳しくみる