• 作成日 : 2025年12月11日

移動スーパーは本当に儲からない?理由や開業資金・手順、成功戦略まで徹底解説

移動スーパーは、高齢化社会における買い物困難者を支援する、非常に社会貢献性の高いビジネスです。しかしその一方で、運営の難しさから採算が取れない、あるいは儲からないといった声も少なくありません。

この記事では、移動スーパーの収益性が低いとされる理由を深掘りするとともに、開業に必要な手順、資金、資格、そして赤字を回避し利益を確保するための具体的な運営戦略について詳しく解説します。

移動スーパーは本当に儲からない?

移動スーパーは一概に儲からないとは言えませんが、他の小売業態と比較して利益を出しにくい構造的な課題を抱えているのは事実です。

主な課題は、ガソリン代や車両維持費といった変動費の割合が高い一方で、主な営業エリアの特性(低人口密度など)により、安定した売上を確保しにくい点にあります。

この社会貢献性と事業の採算性のバランスを取ることが非常に難しいため、儲からないと言われることが多いのです。実際、十分な収益を確保できずに撤退する事業者も多い一方で、フランチャイズ(FC)への加盟や個人の運営努力によって、安定した収益を上げている成功事例も存在します。

移動スーパーが儲からないと言われる理由は?

移動スーパーが儲からない、あるいは赤字になりやすいと言われる主な理由は、売上が伸び悩む要因と、利益を圧迫する高コストという2つの問題が複合的に絡み合っているためです。

1. 売上の伸び悩み

売上が伸び悩む要因として、販売エリアの需要、競合状況、そして物理的な限界の3点が挙げられます。

  • 販売エリアの人口密度と需要
    移動スーパーの主なターゲットは、スーパーが遠い買い物困難者です。こうした地域は、必然的に人口密度が低いエリアや、高齢化が進んだ過疎地域であることが多くなります。顧客の絶対数が少ないため、1日の訪問件数を増やしても売上が伸び悩む傾向があります。
  • 競合状況の激化
    買い物困難者支援は社会課題であるため、同じエリアに他の移動スーパー事業者が参入してくる可能性があります。また、近年はコンビニエンスストアやドラッグストアでも生鮮食品や総菜を扱うようになり、これらも強力な競合となります。
  • 物理的な限界(積載量・天候)
    移動販売車に積める商品数には限りがあるため、1日に販売できる売上には物理的な上限があります。また、大雨、猛暑、積雪といった悪天候の日は、顧客が外に出たがらず売上が激減するリスクを常に抱えています。

2. 利益を圧迫する高コスト

利益を直接的に圧迫する要因としては、車両関連費、仕入れ価格、そして商品ロスの3点が挙げられます。

  • 車両関連費
    移動スーパーの運営には、冷蔵・冷凍設備を備えた特殊車両が必須です。この車両の購入費や改造費に加え、日々のガソリン代、車検、税金、保険料、メンテナンス費用といったランニングコストが継続的に発生します。
  • 仕入れ価格
    特に個人事業主として運営する場合、仕入れロットが小さくなるため、大手スーパーマーケットのように安価に商品を仕入れることが困難です。仕入れ価格が高くなると、商品の売価も高く設定せざるを得ません。しかし、価格に敏感な顧客層や競合店の存在を考えると、無闇に売価を上げることもできず、結果として利益率が圧迫されます。
  • 商品ロス
    生鮮食品は鮮度が命です。需要予測が外れて売れ残った商品は廃棄となり、その仕入れ原価はそのまま損失となります。

移動スーパー開業後の平均年収・月収シミュレーション

移動スーパーの年収は一概には言えませんが、個人事業主の場合、平均的な年収(手取り)は200万円〜400万円程度が現実的なラインとされています。もちろん、運営の仕方によってはそれ以上も、あるいは赤字の可能性もあります。

これは、収益構造上、高い経費(仕入れ原価+運営コスト)がかかるため、売上が順調でも手残りは限定的になりやすいビジネスモデルだからです。

月収シミュレーション
  • 総売上高:1,250,000円 (客単価1,000円 × 50人 / 日 × 25日/月)
  • 仕入れ原価:875,000円 (原価率70%と仮定)
  • 売上総利益:375,000円
  • 運営コスト:200,000円 (燃料費、車両維持費、消耗品費など)
  • 営業利益:175,000円 / 月

この場合、年収(手取り)は約210万円(17.5万円×12ヶ月)となり、ここから社会保険料や所得税、住民税を支払います。このシミュレーションから、客単価を上げる、来客数を増やす、原価率を下げる、運営コストを削減する努力がいかに重要かがわかります。

移動スーパーの開業に必要な手順は?

移動スーパーの開業を成功させるには、綿密な事業計画と資金準備が不可欠です。また、法的に食品衛生責任者の資格取得と保健所の営業許可が必須となります。

1. コンセプトと事業計画の策定

誰に(ターゲット)、どこで(エリア)、何を(商品)売るのかという事業の骨格を明確にします。

同時に、客単価や来客数から売上を予測し、仕入れ原価や燃料費などのコストを積算して、現実的な収益シミュレーション(損益分岐点の把握)を行います。この事業計画書は、後の資金調達でも必須となります。

参考:事業計画書の作成例|起業マニュアル|J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]

2. 資金調達

事業計画をもとに、必要な資金を確保します。

資金は開業資金(初期費用)と運転資金(ランニングコスト)に分かれます。特に開業当初は売上が安定しないため、最低でも3ヶ月から半年分の運転資金(仕入れ費、ガソリン代など)を別途用意しておくことが、廃業リスクを避ける鍵となります。自己資金のほか、日本政策金融公庫からの融資や、補助金・助成金の活用が一般的です。

3. 販売エリアと出店場所の調査・交渉

どこで売るかを具体的に決定し、販売許可を得るステップです。

移動スーパーは公道での販売が原則禁止されているため、販売拠点となる私有地の確保が必須です。団地やアパートの管理組合、地域の集会所、個人宅の駐車場などの所有者と直接交渉し、出店(駐車)の許可を得る必要があります。

4. 仕入れ先の決定

商品をどこから、いくらで仕入れるかを決定します。

仕入れ価格(原価)は利益に直結するため、安さだけでなく、品質や安定供給のバランスも考慮して選定します。主な選択肢として、卸売市場、地元の生産者(農家など)、業務スーパーや卸売業者などがあります。

5. 車両の準備

事業の店舗となる移動販売車を準備します。小回りが利く軽トラックベースが一般的です。

最も重要なのは、車両を改造する前に、必ず管轄の保健所に事前相談することです。自治体が定める設備基準(手洗い場の仕様など)を満たさないと営業許可が下りません。

6. 資格取得と営業許可の申請

食品を扱うため、法的に必須となる資格と許可を取得します。

  1. 食品衛生責任各都道府県が実施する講習会(通常1日)を受講し、食品衛生責任者の資格を取得します。
  2. 準備した車両が完成した段階で、管轄の保健所に営業許可を申請します。担当者による車両の実地検査を受け、基準を満たしていれば営業許可証が交付されます。

7. 集客

開業と巡回ルートを地域住民に知らせる活動です。移動販売は訪問日時を周知徹底しなければ売上に繋がらないため、集客は非常に重要です。最も効果的なのは、販売ルートやスケジュールを明記したチラシのポスティングです。並行して、自治会や民生委員、地域包括支援センターへ挨拶回りを行い、協力を仰ぎましょう。

移動スーパーの開業に必要な資格は?

移動スーパーの開業には、主に以下の3つの資格・許可が必要です。

食品衛生責任者

食品を扱う事業に必須の資格です。各都道府県が実施する講習会(通常1日)を受講すれば取得可能です。

保健所の営業許可

営業する地域を管轄する保健所から営業許可(例:食品移動自動車営業、自動車による食品の販売業など)を取得する必要があります。車両の設備が各自治体の基準を満たしているか、実地検査が行われます。

出店場所の許可

公道での販売は原則禁止されています。団地や個人宅の駐車場など、私有地で販売する場合は、その所有者からの許可が別途必要です。

移動スーパーの開業に必要な資金は?

開業資金は、開業資金(初期費用)として約300万〜500万円、月々の運営資金(ランニングコスト)として約10万〜30万円(+仕入れ原価)が目安となります。

最大のコストは車両購入費・改造費です。これに加えて、開業当初の売上が安定するまでの運転資金(仕入れ費、ガソリン代など)を別途確保しておく必要があります。

開業資金

開業資金の平均は約350万〜400万円程度とされ、その大部分を車両費が占めます。以下は、個人で開業する場合の一般的な目安です。

費用の項目金額の目安備考
車両購入・改造費150万〜300万円中古車か新車か、冷蔵・冷凍設備の仕様で大きく変動。
設備購入費20万〜50万円棚、レジ、発電機、手洗い場など。
初期仕入費30万〜50万円開業時の最初の商品在庫。
資格取得・許可申請費3万〜5万円食品衛生責任者講習料、営業許可申請手数料など。
広告宣伝費10万〜20万円チラシ作成・ポスティングなど。
(FC加盟金)(0万〜100万円)FCに加盟する場合に発生。
合計約213万〜425万円

月々のランニングコスト

月々の運営費(固定費・変動費)は約10万〜30万円程度が見込まれます。これに加えて、売上の約60〜70%程度の商品仕入れ原価がかかります。

  • 仕入れ原価:売上の60〜70%程度
  • 燃料費(ガソリン代):月3万〜10万円程度
  • 車両維持費:月2万〜5万円程度
  • 消耗品費:月1万〜2万円程度
  • (ロイヤリティ):FC加盟の場合、売上に応じた手数料

開業当初は売上が安定しないため、上記のランニングコストとは別に、少なくとも半年分程度の運営資金(約60万〜180万円)を運転資金として用意しておくことが、事業を軌道に乗せる上で極めて重要です。

移動スーパーの開業に必要な資金調達の方法は?

自己資金で不足する場合、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」や、各自治体の創業支援補助金などを活用するのが一般的です。

移動スーパーは社会貢献性が高いため、補助金や低利融資の対象となりやすい側面があります。

  • 日本政策金融公庫:日本政策金融公庫は、民間銀行に比べて創業者への融資に積極的です。しっかりとした事業計画書が鍵となります。
  • 補助金・助成金:返済不要の資金ですが、申請に手間がかかり、採択されるとは限りません。また、原則として後払い(事業実施後の精算)です。

参考:融資制度を探す|日本政策金融公庫

移動スーパーを黒字化するための運営戦略は?

移動スーパーの黒字化には、以下の4点を徹底することが必須条件です。

1. 徹底したコスト管理

最も重要なのは、日々の変動費である商品ロス(廃棄)と燃料費の削減です。

  • 商品ロスの削減:顧客から事前に注文を聞く(御用聞き)ことで、仕入れの無駄をなくし、確実な売上を確保します。また、過去の販売データ(天候、曜日、顧客の顔ぶれ)を記録・分析し、需要予測の精度を向上させます。
  • 燃料費の削減:効率的なルートを設計し、販売中の長時間のアイドリングを徹底して避けます。

2. 仕入れ(原価)の最適化

仕入れ原価の高さは利益を直接圧迫するため、仕入れ先を多様化し、原価率を下げる工夫が必要です。卸売市場、業務スーパー、地元の生産者(農家)など、複数の仕入れ先を比較検討し、商品ごとに最も安く安定的に仕入れられるルートを確保します。

3. 効率的な販売ルートとエリア戦略

顧客の密度、移動時間、競合の有無のバランスを最適化し、ガソリン代あたりの売上が最も高くなるルートを構築します。

人口密度が低くても、高齢化率が高く、競合(スーパーやコンビニ)が遠い、需要が集中している地点(例:団地、高齢者施設、集会所など)を見つけ出します。各地点での滞在時間と売上を記録し、売上が少ない場所は訪問頻度を減らすか、ルートから外すといった見直しを継続的に行います。

4. 売上を最大化する販売戦略

安売り競争ではなく、顧客との密なコミュニケーションによる御用聞きと、利益率の高い関連商品の提案が成功のポイントです。

移動スーパーの顧客は、安さ以上に買い物の楽しさや人との繋がりを求めているケースが多いです。「〇〇さん、こんにちは!」といった世間話や、顧客の好みを覚えることが、競合との最大の差別化となります。

また、「今日のお刺身なら、このワサビも合いますよ」といった関連販売(クロスセル)や、総菜、パン、和菓子、日用品など、粗利の取れる商品を拡充し、客単価アップを図ります。

移動スーパーの開業を成功に導くために

「移動スーパーは儲からない」と言われる背景には、人口密度の低いエリアでの営業、競合の存在、そして車両維持費・燃料費・仕入れ価格の高さといった、確かに厳しい構造的な課題があります。

しかし、これは成功できないという意味ではありません。本記事で解説した開業の手順、必要な資金と資格を確実にクリアし、コスト管理(特にロスと燃料費)、効率的なルート設計、仕入れの最適化、そして顧客との関係性構築という経営戦略を地道に実行することが、採算が取れる事業への唯一の道です。

綿密な準備と戦略を持って、地域に不可欠な存在を目指しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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