- 作成日 : 2025年6月20日
サラリーマンも創業融資は受けられる?日本政策金融公庫の制度や副業禁止の注意点も
「今の会社で働きながら、いつか自分のビジネスを立ち上げたい」「培ってきたスキルやアイデアを活かして、新しい挑戦をしたい」こうした熱い想いを抱くサラリーマンの方は少なくありません。その実現を後押しするのが、国や自治体がサポートする創業融資制度です。この記事では、サラリーマンが創業融資をどう活用し、審査で何が重視され、副業で始める場合に何に注意すべきかを徹底解説します。
目次
サラリーマンも創業融資は受けられる?
「サラリーマンでも、本当に創業融資を受けられるのか?」この疑問への答えは明確に「YES」です。会社員としての安定した立場や収入は、一見起業と対極に思えるかもしれませんが、その社会的信用や計画性が審査で有利に働くことも少なくありません。もちろん、事業経験の不足といった特有の課題はありますが、適切な準備と戦略で夢の実現に向けた資金調達は十分に可能です。
サラリーマンが活用できる代表的な創業融資制度
サラリーマンが創業を目指す際、資金調達の大きな支えとなるのが公的融資制度です。これらを理解し活用することが、事業の円滑なスタートに繋がります。
日本政策金融公庫の新規開業資金
日本政策金融公庫の「新規開業資金」は、新規創業者や事業開始後間もない方向けの代表的な制度です。原則無担保・無保証人で利用可能で、融資限度額は最大7,200万円(うち運転資金4,800万円)と、事業開始資金をカバーしやすい設定です。金利も比較的低利で、返済期間も長期設定が可能です。
サラリーマンにとっては、在職中に準備を進め、融資内定後に退職というステップも選択肢として考えられます。計画的な起業に適しており、自己資金要件も事業経験や計画内容により柔軟に判断されます。
地方自治体の制度融資
各都道府県や市区町村が、地元の信用保証協会や金融機関と連携して設けているのが「制度融資」です。金利が低めに設定され、信用保証料の補助が受けられる場合が多く、資金調達コストを軽減できる点が大きなメリットです。
また、自治体によっては女性や若者、特定成長分野での起業を対象とした、より有利な融資制度が用意されていることもあります。窓口は地域の商工担当課や提携金融機関で、日本政策金融公庫の融資との併用も可能な場合があるため、事業予定地の自治体情報を確認し相談しましょう。
民間金融機関のプロパー融資
銀行や信用金庫などが信用保証協会の保証なしに直接融資するのが「プロパー融資」です。金融機関が全額リスクを負うため審査は慎重に進められ、特に事業実績のない創業期には、サラリーマンの安定収入や社会的信用があってもハードルは高いと言えます。まずは公的融資の活用を優先し、事業が軌道に乗り実績を積んだ後、運転資金の追加調達などで検討するのが現実的です。
サラリーマンが創業融資を受けるメリット
会社員という立場は、創業融資において一見不利に思えるかもしれませんが、実は特有のメリットが存在します。これらを理解し、最大限に活かすことが融資を成功させるポイントになります。
社会的信用と安定収入の実績が評価される
サラリーマンとしての長年の勤務や安定企業での職歴は、金融機関に対する一定の社会的信用を示します。毎月の安定収入は返済能力の証左となり、特に事業実績のない創業初期には大きなアドバンテージです。これは、職歴が不安定な方や既に退職して定期収入がない方と比較した場合、審査で好意的に評価される重要なポイントであり、融資担当者に安心感を与えます。
計画性や自己管理能力をアピールしやすい
サラリーマンの業務経験は、目標設定、計画立案、タスク管理といったビジネスの基本スキルを養います。これらの能力は事業計画の策定や今後の事業運営に不可欠であり、融資審査の際に事業主としての素養として好評価に繋がります。これまでの職務経歴を振り返り、事業運営にどう活かせるかを具体的に説明することで、事業の実現可能性を高められます。
自己資金を準備しやすい
自己資金は事業への本気度と財務的安定性を示し、創業融資の重要な審査項目です。サラリーマンは毎月の給与から計画的に貯蓄を進めたり、退職金を充当したりできる可能性があります。特に、毎月コツコツ貯蓄してきた実績は、金融機関に対するアピールポイントの一つであり、融資担当者に良い印象を与えます。十分な自己資金は、融資条件の好転や融資額増加の可能性も高めます。
サラリーマンが創業融資を受けるデメリット
サラリーマンが創業融資を目指す際には、その立場ゆえの課題や注意点も存在します。これらを事前に把握し、対策を講じることが重要です。
事業の経験不足が課題となる
多くの場合、サラリーマンは起業分野で直接的な事業経営を行った経験がありません。これは金融機関が懸念する点であり、事業計画書で自身のスキルや経験不足をどう補うか、具体的かつ説得力を持って示す必要があります。これにより金融機関の不安を払拭し、事業の実現可能性を高めます。
時間的な制約の中で準備を進める必要がある
現職を続けながらの起業準備は時間的制約が大きいです。事業計画策定、市場調査、情報収集、融資申請に関わる書類準備など多くのタスクがあり、質の高い準備のためには業務時間外や休日を有効活用し、効率的な時間管理と強い意志が求められます。時には業務量調整や有給休暇の計画的利用も必要となり、限られた時間で成果を出す自己管理能力が試されます。
退職という大きな決断が伴う
創業融資が決定し、起業した事業が本格化すれば、現職を退職するという大きな決断が必要です。融資実行の条件として事業への専念を理由に、金融機関から退職を求められることも珍しくありません。安定収入を失う不安は当然ありますが、事業へ専念する覚悟を示すことも時には重要です。退職タイミングは融資担当者とよく相談し、生活設計や事業計画と照らし合わせ慎重に判断する必要があります。
サラリーマンが創業融資を成功させるためのステップ
創業融資を成功させるためには、計画的かつ戦略的なアプローチが不可欠です。ここでは、サラリーマンが融資を勝ち取るための具体的な5つのステップを解説します。
STEP1:自己分析と事業アイデアの具体化
創業融資への第一歩は、起業動機や提供価値を深く掘り下げることから始まります。自身の経験やスキル、情熱を注げる分野かを冷静に自己分析し、具体的な事業アイデアを練り上げ、市場での通用性を客観的に調査します。市場規模、将来性、競合状況を徹底的にリサーチし、事業の独自性や強み、明確なターゲット顧客、具体的な収益モデルを明確化することが、事業計画書作成の強固な土台となります。
STEP2:自己資金の準備と資金計画の作成
自己資金は事業への本気度とリスク負担覚悟を示す重要指標で、審査で厳しくチェックされます。目標額を設定し毎月の給与から計画的に積み立てるなど着実に準備し、通帳履歴で貯蓄経緯を示すと計画性の証明となり有利です。ただし、「見せ金」は金融機関の信用を損なうため厳禁です。必要な設備資金・運転資金を算出し、自己資金と融資希望額を明確にし、無理のない資金計画を策定します。
STEP3:事業計画書の作成
事業計画書は、事業の実現可能性を金融機関に伝えるための重要な書類です。創業動機や熱意に加え、経営者の略歴、特にサラリーマン時代の職務経験やスキルが新事業にどう貢献するかを具体的に記述します。未経験分野なら学習努力や資格取得もアピール材料です。商品・サービスは独自性や差別化戦略を明確にし、販売・仕入計画では具体的アプローチを記述します。資金計画と収支計画は、具体的使途と客観的根拠に基づく現実的な見通しを示す必要があります。
STEP4:金融機関への相談・申込
事業計画がある程度固まったら、日本政策金融公庫や自治体の融資相談窓口、取引金融機関などに相談します。多くは事前予約が必要です。相談時は事業計画書を持参し、熱意を伝えつつ計画内容を冷静かつ論理的に説明し、質問には誠実に回答しましょう。創業支援に強い税理士や中小企業診断士といった専門家に事前相談し、計画書ブラッシュアップや面談ロープレの支援を受けるのも成功確率を高める有効な手段です。
STEP5:面談対策
書類審査を通過した後は多くの場合、金融機関の融資担当者との面談があります。これは人物像や事業への熱意、計画の実現性を直接伝える重要な機会です。事業計画書の内容を完全に理解し、自分の言葉で情熱を持って説明できるよう徹底準備しましょう。創業動機、事業内容の詳細、自己資金を形成した経緯、売上・利益計画達成見込み、返済計画、競合との差別化戦略、リスクヘッジ策など想定問答を準備することが重要です。清潔感ある服装でハキハキと、自信と誠実さをもって臨みましょう。
サラリーマンが創業融資で失敗しないためのポイント
創業融資は事業開始の重要ステップですが、融資を受けること自体がゴールではありません。事業を成功させ、安定的に継続するために注意すべき点を押さえておきましょう。
現実的な返済計画を立てる
創業時の希望的観測だけで事業・返済計画を立てると、不測の事態で資金繰りが悪化し、将来的な事業継続が困難になる可能性があります。売上予測は控えめに、経費は多めに見積もるなど、慎重な収支計画策定が重要です。固定費や返済額を正確に把握し、損益分岐点についても確認を行い、赤字に陥らない具体的対策を常に考えるべきです。現実的で堅実な計画こそが、持続可能な事業運営の基盤となります。
情報収集や専門家の活用を惜しまない
ネットの情報は玉石混淆で、掲載内容も最新情報とは限らず、創業融資や会社設立制度は変更されることもあります。情報収集においては、日本政策金融公庫や中小企業庁など、公的機関の公式サイト、信頼できる専門家からの情報を重視すべきです。税理士、中小企業診断士、行政書士など、創業支援に実績ある専門家は、事業計画策定から資金調達、会社設立、創業後の経営助言まで幅広く支援してくれます。専門家相談は費用がかかる場合もありますが、事業成功のための重要な投資の一つと捉え積極的に活用しましょう。
退職のタイミングは慎重に検討する
サラリーマン起業で現職をいつ退職するかは、将来の生活設計に関わる重要な決断になります。一つの目安は融資内定後、資金調達の目処が立った上での退職で、これにより経済的不安を軽減し安心して事業準備に専念できます。事業内容によっては、審査過程で早期退職を条件とされる稀なケースもあります。退職タイミングは、融資条件、生活費確保、準備進捗などを総合的に考慮し、最適判断を下す必要があります。
家族の理解と協力を得る
起業は創業者本人だけでなく、家族の生活にも多大な影響を与えます。特に安定収入のサラリーマンからの起業は、収入不安定さや時間の使い方などで家族に負担や不安を与えることもあります。そのため起業を決意した段階で、事業内容や将来ビジョン、リスク、覚悟を家族に伝えるため、十分な話し合いを持つことが非常に重要です。家族の理解と協力は、困難な時期を乗り越える大きな精神的支えとなり、事業に集中できる良好な環境を築く上でも不可欠でしょう。
サラリーマンが副業で創業融資を受ける場合の注意点
近年、本業を持ちながら副業としてスモールビジネスを始めるサラリーマンが増えています。副業での起業においても、創業融資を利用すること自体は可能ですが、特有の注意点があります。
就業規則に副業禁止の記載がないか確認する
副業開始前に最も重要なのは、勤務先の就業規則で副業が許可されているか、条件(許可制、届出制、禁止等)を必ず確認することです。無許可副業が発覚すれば、勤務先から懲戒処分のリスクがあります。金融機関が勤務先に副業事実を通知することは原則ありませんが、就業規則違反は後々トラブルの原因になり得ます。副業が許可されていても、競業避止義務や情報漏洩規定、その他遵守事項も確認しましょう。
事業規模に見合った借入希望額を設定する
副業で始める事業は、初期投資や運転資金が比較的少額で済むスモールスタートが一般的です。創業融資の申請時には、事業規模や収益計画に見合った現実的で適切な借入希望額の設定が大切です。過大な借入は返済負担を重くし、事業継続リスクを高めます。日本政策金融公庫は副業でも事業計画が堅実なら融資対象ですが、あくまで事業に必要な範囲内での資金調達を心がけ、自己資金とのバランスも考慮し無理のない資金計画を立てましょう。
税務処理と会社への影響を考慮する
副業所得は原則、雑所得か事業所得として確定申告が必要です。不適切な税務処理は追徴課税の徴収を受ける可能性があります。また住民税の納付方法次第では、副業による所得の増加が勤務先に知られる可能性もゼロではありません。給与所得の場合、多くは住民税が給与天引される特別徴収です。副業所得は自ら納付する普通徴収で申告することで、会社に所得変動を知られにくくできます。必要に応じて税理士などの専門家に相談し、適切な税務処理と会社への影響を最小限に抑えるためのアドバイスを受けましょう。
サラリーマンの強みを活かし、創業融資を受けましょう
サラリーマンが創業融資を受け、自身のビジネスを立ち上げることは不可能な挑戦ではありません。むしろ、会社員として培った社会的信用、計画性、自己資金準備のしやすさは、創業融資を目指す上で大きなアドバンテージです。近年は、副業で小さく始め、徐々にステップアップする選択肢も増えてきています。最も重要なのは、事業経験不足を補う徹底した情報収集と学習意欲、金融機関を納得させる質の高い事業計画書の作成です。この記事があなたの起業という夢の実現に向けた確かな一歩となることを願っています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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