- 更新日 : 2025年11月6日
法人化後の社会保険はいつから必須?費用はいくら?
個人事業主が法人成りをして会社設立をした際、注意点の一つに社会保険があります。法人は、原則として社会保険に加入しなければなりません。では、法人化後はいつから社会保険に加入する必要があるのでしょうか。また、社会保険の加入にあたり、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。
本記事では、法人化後の社会保険について詳しく解説します。
目次
そもそも社会保険とは?
社会保険制度は、公的な団体が運営し、公務員・会社の従業員などが加入します。病気やケガ、失業などの万が一の事態があった場合、保険給付される制度です。原則、加入が義務付けられています。
社会保険には、大きく分けて次の5つがあります。
狭義では、健康保険・介護保険・厚生年金保険の3つを社会保険と呼び、労災保険と雇用保険の2つを労働保険と呼ぶこともあります。
社会保険は、原則として企業(事業所)と従業員がそれぞれ一定割合で負担を分担します。
厚生年金は、厚生労働省が管轄する形で、日本年金機構が実際の運営および管理を担当しています。
一方で、健康保険といった全国健康保険協会(公法人)や、企業の自主性を重視した認可団体である健康保険組合が運営しているものもあります。
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法人化した場合いつから社会保険に入らないといけない?
法人には、複数の社会保険の加入が義務付けられています。ここでは社会保険の種類ごとに、法人化した場合いつから社会保険に入らなければならないのか見ていきましょう。
健康保険、厚生年金保険の場合
法人化した場合、健康保険と厚生年金保険について、強制適用事業所の対象です(事業主だけの場合を含む)。
事業所として5日以内に「新規適用届」の提出をすることが求められています。
また、正社員などの常時雇用者は被保険者となるため、資格取得日から5日以内に「被保険者資格取得届」を日本年金機構(窓口は年金事務所)へ提出しなければなりません。
労働保険(労災保険と雇用保険)の場合
労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称です。労働者を1人でも雇用していれば労働保険に加入する義務があります。
保険関係成立届を成立日から起算して10日以内に所轄の労働基準監督署または公共職業安定所に提出し、概算保険料申告書を50日以内に申告・納付しなければなりません。
また、正社員など、雇用保険の適用対象となる労働者を雇用する場合は、公共職業安定所に「雇用保険適用事業所設置届」および「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。
届け出の提出期限は、以下の通りです。
- 保険関係成立届:保険関係が成立した日の翌日から10日以内
- 雇用保険適用事業所設置届:保険関係が成立した日の翌日から10日以内
- 雇用保険被保険者資格取得届:被保険者資格取得となった日の翌月10日まで
介護保険の場合
介護保険は、40歳以上の方が被保険者となる社会保険です。健康保険に付随する制度であるため、健康保険の手続きをしている場合は、原則として手続きが不要です。
子ども・子育て拠出金の場合
子ども・子育て拠出金とは、子育て支援に充てられる税金のことです。先述の5つの種類ではありませんが、全額が会社負担となる拠出金であり、厚生年金保険料と一緒に徴収されます。そのため厚生年金保険の手続きをしている場合は、手続き不要です。
会社設立時の社会保険加入の手続きは、次の記事で詳しく解説しています。こちらをご参照ください。
個人事業主が法人化すると社会保険はどう変わる?
法人化することで保険関係の適用が変わることもあります。株式会社などの法人の事業所が従業員を1人でも雇用する場合、すべて適用事業所として加入義務が生じます(健康保険・厚生年金保険では事業主だけの場合も含む)。
国民健康保険から「健康保険」へ
公的医療保険については、事業主自身が自治体の運営する国民健康保険から従業員と同様に全国健康保険協会の健康保険の被保険者となります。
国民年金保険から「厚生年金保険」へ
公的年金は2階建ての仕組みとなっています。1階部分はすべての国民が被保険者となる国民年金(基礎年金)で、2階部分は会社員・公務員などの雇用されている方が被保険者となる厚生年金保険です。
個人事業主が法人に変更した場合、健康保険だけでなく、公的年金についても国民年金に加えて厚生年金保険の被保険者になることになります。
労働保険への加入は従業員を雇用してから
労働保険(労災保険、雇用保険)については、個人事業主と法人を問わず、従業員を1人でも雇用すれば、労働保険関係成立届を提出する必要があります。
また、労災保険と雇用保険の従業員に対する扱いの相違に注意しなければなりません。まず、労災保険については、そもそも被保険者という概念がなく、正社員、非正規社員、国籍など関係なく、すべての労働者が適用となります。
一方、雇用保険は、雇用形態を問わず、1週間あたりの所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の継続的な雇用が見込まれている場合、原則として被保険者の対象です(※学生アルバイトは対象外)。
会社代表者ではないなど一定の要件を満たす役員、あるいは事業者からの業務委託を受けて活動するフリーランスなどが対象とされています。
法人化した際の社会保険料はおおよそいくら?
個人事業主と、法人化した場合の社会保険料の金額は異なります。法人化した場合の社会保険料の金額は、健康保険、厚生年金ともに次の計算式で求めます。
上記で計算した金額を、事業者と従業員で折半をして負担します。
これまで段階的に引き上げがあった厚生年金保険の保険料率は、2018年10月以降、18.3%で全国一律で固定されています。
健康保険については運営者が全国健康保険協会のほか、大手企業や業界団体などが自主的に運営する健康保険組合があり、全国健康保険協会の都道府県支部や健康保険組合によって異なります。
例えば、全国健康保険協会の東京都の場合、2025(令和7)年3月分(4月納付分)からの健康保険料は、9.91%であり、介護保険第2号被保険者(40歳から64歳)の場合は、介護保険料1.59%が上乗せされます。
参考:令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
法人化した際の社会保険の手続き
法人化した際の社会保険の代表的な手続きは、次のようになります。
健康保険・厚生年金保険新規適用届
「健康保険・厚生年金保険新規適用届」は、会社が社会保険に加入する際に必要な届け出です。会社設立がされてから5日以内に、会社所在地を所轄する年金事務所に届けることが求められています。
「健康保険・厚生年金保険新規適用届」には、次の書類を添付する必要があります。
- 法人(商業)登記簿謄本(原本)
- 法人番号指定通知書などのコピー
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」は、役員(社長)や従業員が被保険者となる際に必要な書類です。従業員を雇用してから5日以内に会社所在地を所轄する年金事務所で手続きします。原則として、添付書類は必要ありません。
健康保険被扶養者(異動)届
「健康保険被扶養者(異動)届」は、健康保険に加入する人に、扶養家族がいる場合や、扶養家族が増えた場合などに必要な届け出です。
法人化した場合、従業員などに社会保険の扶養家族がいる場合は、その発生の事実から5日以内に会社所在地を所轄する年金事務所に届け出る必要があります。
法人化したら社会保険料を経費にできる?
法人の場合、各種社会保険について事業主に納付義務のある保険料があります。これは事業を運営するうえで欠かせない費用であるため、経費として計上可能です。
ただし、「法人化したほうが社会保険料を経費にできるからお得」と単純に評価することはできません。個人事業主だとしても、経費にはならないものの社会保険料控除として納めた保険料を所得から差し引くことがあるためです。
※法人化したとしても役員個人の所得税が発生し、その計算の過程で役員個人が負担した保険料分につき社会保険料控除ができる。
法人化の準備や手続きは大変?参考データ
法人化して社会保険への加入を検討する際、会社設立の準備や手続き全体がどの程度の負担になるのか、事前に把握しておくことが大切です。ここでは、会社設立経験者への調査データをもとに、手続きの難易度について解説します。
会社設立経験者の約65%が「大変だった」と回答
マネーフォワード クラウドで実施した調査によると、会社設立の準備や手続きについて「大変だった」または「少し大変だった」と回答した経験者は全体の64.7%に上り、3分の2近くの人が何らかの困難を感じていたことが分かりました。
設立年数別に見ると、設立1年以内の企業では44.4%が「大変だった」と回答しており、全区分で最も高い割合となっています。設立直後で記憶が鮮明なためか、手続きの複雑さがより強く印象に残っていると考えられます。また、設立2~3年以内の企業では「大変だった」「少し大変だった」の合計が82.9%に達し、最も高い数値を示しました。
出典:マネーフォワード クラウド、先輩起業家が一番困ったことは?【会社設立の意思決定調査】(回答者:会社設立の経験がある方1,040名、集計期間:2024年1月)
社会保険手続きも含めた計画的な準備が必要
法人化後は、健康保険・厚生年金保険の新規適用届を5日以内に提出するなど、期限が定められた社会保険関連の手続きが複数発生します。会社設立時には登記手続きに加えて、税務署への届出や社会保険の加入手続きなど、同時並行で進めるべき業務が多く存在します。
手続きの複雑さを実感した経験者が多いことを踏まえると、余裕を持って準備を進め、必要に応じて社会保険労務士や税理士などの専門家への相談も検討しましょう。
法人化したら社会保険の手続きを忘れずに
社会保険は、従業員が安心して働くことができるために不可欠な公的な医療保険・年金制度です。「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」「労災保険」「雇用保険」と多岐にわたっています。
手続きが複雑ですが、従業員を雇用する場合は適切に行う必要があります。状況によっては、専門家である社会保険労務士に依頼することも検討してみましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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