- 更新日 : 2023年9月21日
期限の利益とは?喪失通知書が届いた際の対応も紹介
契約締結にあたり「期限の利益」が与えられることで、債務者は余裕を持って債務の履行に取り組むことができます。しかし民法の規定により、あるいは当事者間の取り決めにより、期限の利益が喪失することもあります。
そもそも期限の利益とは何か、どのような場合に期限の利益が喪失するのか、この記事でわかりやすく解説します。
目次
期限の利益とは
「期限の利益」とは、「定めた期限が到来するまでの間、借金を返済せず自由に使うことができる」など当事者が受ける利益のことです。
例えば売買契約を締結した場合、物を購入した人は代金の支払義務を負います。しかし売買契約を締結する際に「月末にまとめて支払う」との条項を設けていれば、物の引渡しと同時に代金の支払いという債務を履行する必要はなくなります。この場合、購入者は期日である月末まで期限の利益を得ることになるのです。
期限の利益のことは、民法にも規定されています。
期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。
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期限の利益の喪失とは
契約により期限の利益が与えられたとしても、一定の場合にはこれが失われます。期限の利益が喪失するケースは、大きく「民法上規定されている事由が発生したとき」と「契約上規定した事由が発生したとき」の2パターンに分けられます。
民法上の規定
民法第137条に規定されている事由が発生すると、債務者は期限の利益を主張しても債務の履行を拒絶することができなくなります。
次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
いずれも債務履行の実現可能性を下げる事由です。債務者が破産すると債務の回収は困難になりますし、支払いが受けられなくなったときに備えて用意する担保が滅失した場合も、回収できなくなるリスクが高まります。
このような場面では、債務者に期限の利益を主張させるべきではありません。そこで民法では、上記のような場合には期限の利益が主張できないと定められているのです。
次項の「契約上の規定」によるものも含め、期限の利益を喪失してしまう具体的なケースについては後述します。
契約上の規定
民法上の期限の利益喪失事由は、頻繁に起こるものではありません。また、このような事由が発生した後だと、すでに債権回収が困難になっていることがあります。そこで実務上は、これらの事由が生じる前に期限の利益が喪失するよう、当事者間で規定を設けるケースがあります。
民法第137条に規定の各事由に加える形で、特定の条件において利益がなくなるという条項を契約に設けるのです。たとえば、債務者が差押えを受けた場合などです。
契約書における期限の利益喪失条項
契約書で期限の利益が喪失する条件を定める場合に、「具体的にどのような条項として記載されるのか」「どのような場合にその条項を設けることが多いのか」について紹介します。
条項の具体例
期限の利益に関するルールは、各社自由に契約書に記載することができます。そもそも定められないこともありますし、定めるときでも使用する文言や表現などに決まりはありません。
例えば次のように条項を設けられます。
甲又は乙は、次の各号の事由に該当したとき、相手方に対する一切の債務について当然に期限の利益を失う。
1 ・・・
2 ・・・
3 ・・・
これは非常にシンプルな例ですが、より細かく、詳細に条件を定めることも可能です。また、特定の事由に該当したとき即座に期限の利益を失うのではなく、いったん通知を行ってから喪失するとの条項が定められるケースもあります。
この場合、例えば次のような条文です。
甲又は乙は、次の各号の事由に該当したとき、相手方からの通知により、相手方に対する一切の債務について期限の利益を失う。
1 ・・・
2 ・・・
3 ・・・
「通知を要する事由」と「通知を行うことなく当然に期限の利益が喪失する事由」の2パターンに分けて契約書に定めることも可能です。このとき、緊急性の高さで各事由を評価して扱いを分けると良いでしょう。
契約書で期限の利益喪失条項を設定するケース
期限の利益喪失条項は、債権者がスムーズに債権回収を行うために設けられます。この条項を設定するケースと設定しないケースが契約類型で明確に分けられるものではなく、特に債権回収を円滑に行う必要があると判断した場合に設定します。
例えば融資やローンを組むときの契約で期限の利益喪失条項を設け、借り手が期日での返済を怠ったときなどに期限の利益を喪失させることがあります。賃貸借契約や売買契約などでも設定され、ルール違反があったときに債権を早期回収できるように備えるケースもあります。
期日での債務履行がなされない場合でも、催告して後々履行してもらえる可能性はありますが、悠長に履行を待っていると事態が急変して債権回収ができなくなるリスクがあります。そのリスクの大きさを評価し、自社にとって大きな問題となり得るとき、契約書に期限の利益喪失条項を設定することになるでしょう。
期限の利益を喪失してしまうケース
民法第137条第1号によると破産手続開始決定を裁判所から受けたときに喪失します。破産法にも同様の規定が設けられており、破産法ではこのときに「弁済期が到来したものとみなす」と定められています。
第2号の「債務者による担保の滅失・損傷・減少」とは、例えば抵当権を設定している家屋を燃やす行為などを指します。このような債権回収の手段を減らす行為を行うと、期限の利益は喪失します。
第3号の「債務者が担保を供与する義務を負う場合において、これを供しないとき」について、担保を供与する義務は当事者の特約、法律の規定(民法650条2項など)、裁判所の命令などから発生します。
契約上の規定については、例えば、以下のような場合に期限の利益が喪失するとの特約が設けられることがあります。
- 財産状況が悪化したとき
- 契約時に提示した経済状況が虚偽であることが発覚したとき
- 分割払いの返済が遅れたとき
- 不渡手形を出したとき
- 債務整理をしたとき
- 財産の差し押さえを受けたとき
- 債務者が死亡したとき
- 債務者が反社会的勢力であることが発覚したとき
期限の利益喪失の事例
期限の利益喪失条項のうち起こりやすいと思われるのは、下記のケースです。
- 分割払いの返済が遅れたとき
- 債務整理をしたとき
- 差押えを受けたとき
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 分割払いの返済が遅れたとき
分割払いの返済が遅れた場合には、猶予期間を設けることが一般的です。
債務者が支払い手続きを忘れているケースもありますし、所定の日に遅れてもその後すぐに支払ってくれれば大きな問題にはなりません。そのため「弁済期に支払わず、〇日が経過すると期限の利益は喪失する」と定めることもあります。
2. 債務整理をしたとき
債務整理は破産の他、民事再生や任意整理なども含みます。
民法上の規定は破産にしか対応していませんが、任意整理などを要する場面でも債務者の経済状況は相当に悪化していると考えられます。そこで「債務整理したとき」として、期限の利益が喪失する範囲を広げているのです。
3. 差押えを受けたとき
差し押さえが生じたときも、同様に債務者の経済状況は悪化していると考えられます。
また、別の債権者に財産を差し押さえられると債権回収が難しくなるため、その時点で期限の利益が喪失すると定めることが多いです。
期限の利益喪失通知がきたときの対処法
期限の利益が喪失すると、債務者は債権者から請求を受けた時点で債務を履行しなければならなくなります。しかし、すぐに債務を履行できない場合もあるでしょう。
分割払いに応じてくれたり、期限を延期してくれたりすれば弁済できる場合は、まずは債権者に交渉しましょう。債権者としても履行を急かして弁済が受けられないよりは、少し待って弁済を受けられたほうがよいはずです。ただし、一度期限の利益を喪失しているため、契約時と同じように猶予期間を設けてもらうのは難しいかもしれません。
「今度こそ期日までに債務を履行できる」ということが伝わるよう、現在の収入や資産を開示し、支払えることを示す資料を準備することが大切です。
その際、総支払額が増えるといった不利な条件が付されることもあるかもしれませんが、交渉次第では不利にならずに済むこともあります。
どうしても弁済できない場合は破産などを検討することになりますが、その前に弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に債権者と交渉してもらうことで破産せずに済むかもしれませんし、破産するにしても弁護士に依頼するほうが安心です。債権者とのやり取りの窓口になってくれますし、書類の作成から裁判所での手続きまで幅広くサポートしてくれます。
期限の利益の喪失を防ぐ方法
期限の利益の喪失という事態が起こらないよう、予防策を講じておきましょう。
その方法として、「返済を自動引き落としにすること」が挙げられます。日々の収入と支出を正確に把握しておく必要がありますが、支払うだけの資力があるにもかかわらず、うっかり支払いを忘れて期限の利益を喪失することも考えられます。
こうした事態を防ぐためには、銀行口座の設定を自動引き落としにしておくことをおすすめします。口座の残高が減っていることに気が付かなければ返済が遅れてしまうかもしれませんが、収入が入ってくる口座で自動引き落としにしておけば、その事態を防ぎやすくなるでしょう。
契約書での期限の利益喪失条項をチェックする際の注意点
契約書を作成するときは、「期限の利益喪失により自社が優位に立つのか、それとも不利な立場に立たされるのか」をまずは考えます。
もし契約書を作成する側が債権者であれば、期限の利益喪失条項を設けた方が良いです。逆に債務者側であればわざわざ自社を不利にするような条項を設ける必要はありません。
相手方から契約書を受け取ってその内容をチェックする側であっても同様です。
自社が債権者であるときは期限の利益喪失条項が設けられているかどうかを確認し、条項が必要なら相手方に交渉して設けてもらうよう働きかけます。また、その条項が設けられている場合であっても、喪失の事由や喪失する債務の範囲が限定的になっていないことをチェックしましょう。
逆に債務者側であるなら、期限の利益が喪失する事由が過剰に設けられていないかどうかを見る必要があります。
どちらの立場からしても、期限の利益が「当然に」喪失するのか、それとも「通知により」喪失するのか、この点もしっかりチェックすべきです。基本的には、緊急の対応を要する事由に対しては「当然に」、そうでない事由に対しては「通知により」期限の利益を喪失させることとなります。
期限の利益を喪失しても焦らず対応しよう
期限の利益を喪失すると、債権者から即座に弁済を求められても拒絶ができなくなります。しかし、相手方が交渉に応じてくれれば弁済を待ってもらえることもあります。焦らず弁護士に相談するなどして、交渉を進めてもらうとよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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