• 更新日 : 2024年2月19日

知的財産法とは?知的財産権の種類もわかりやすく解説!

知的財産法とは?知的財産権の種類もわかりやすく解説!

知的財産法とは、無体物を創出した者に認められる、物の所有権に類似した独占権です。特許権・実用新案権・商標権・意匠権・著作権等があります。自社の知的財産権を効果的に活用できるように、また他社の知的財産権を侵害しないように、知的財産法に関する理解を深めましょう。

本記事では知的財産法について、目的・知的財産権の種類・申請(出願)の手続き等を解説します。

知的財産法とは?

知的財産とは新たな発明や技術、デザイン、築き上げてきたブランドへの信頼、小説や絵画などの文化芸術的な表現活動などの総称をいいます。社会生活が活性化し、人々が豊かになっていくためには産業の発達や文化の発展が欠かせません。そのためにはこれらの知的財産を有する者に知的財産権を与え、その利用を保護する必要があります。知的財産は形あるものではない、いわゆる「無体物」です。

私たちの日常生活において「財産権」としてイメージされるものは、預貯金や不動産、車や高価な美術品等、目に見える物(有体物)が多いです。これらの有体物に係る財産的権利は、一般法である民法において定められています。

これに対して、「知的財産権」の規定は民法にありません。知的財産権については、特許法、実用新案法、商標法、意匠法、著作権法等の個別法で定められています。

このうち特許法実用新案法商標法意匠法産業財産権法(又は工業所有権法)と呼ばれ、産業財産権法で保護される権利(特許権・実用新案権・商標権・意匠権)は産業財産権と呼ばれます。

知的財産法の目的

では知的財産はなぜ権利として保護が必要なのでしょうか。

今までにない発想による新たな機能・性能を持った新製品の製作、既製品より効能の高い薬品等の開発を行うために、企業は研究開発に多額の費用を投じます。

しかし、その努力と出費によりようやく完成した発明や技術を、自由に他者が利用して全く同じ製品や類似の製品を作ったらどうなるでしょう。
また、長年の企業努力で培った信頼や信用の原点ともなるブランド名と同じ名前を他者が使用して、粗悪品を自由に製造販売できたとすれば、あるいは苦労して描いた絵画の模倣品がインターネットで販売されていたらどうでしょう。

おそらく大多数の企業は見返りもないのに苦労して開発研究をすることをやめるでしょうし、ブランドを勝手に利用された企業は経済的な打撃を受けるでしょう。つまり産業も経済も衰退してしまうのです。同様に、著作物の模倣盗用が自由な社会では文化的発展も望めません。

産業や技術を停滞させることなく活性化させ、社会が未来に向け弛みなく発展を続けるためには人間の知恵と努力の賜物である知的財産に価値を与え、保護することが欠かせないのです。そのため、産業財産権に関する各法は法の目的として「産業の発達に寄与すること」を掲げていますし、著作権法では「文化の発展に寄与すること」を挙げています(各法第1条参照)。

ただし、知的財産法の保護を得るためには、各法で定められた知的財産権の保護要件を満たす必要があります。好き勝手に知的財産権を主張できるとなると、かえって産業や文化の発展を阻害してしまうことに繋がるからです。

知的財産権の種類

主な知的財産権の種類をそれぞれ簡単に説明します。

知的財産権の種類保護の対象
特許権発明(自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの)
実用新案権考案(自然法則を利用した技術的思想の創作)
意匠権意匠(視覚を通じて美感を起こさせる工業的デザイン)
商標権商標(商品やサービスに付された文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音)
著作権著作物(思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの)

特許権

特許法は「発明」の保護や利用等に関するルールを定めた法律です。

特許法2条1項では、「発明」を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定義しています。例えば、単に未知の物質を発見しただけではこの定義の「創作」という要件を満たさず発明にはあたりませんが、 天然物から人為的に分離した化学物質や、その分離方法は「創作」にあたります。創作が高度なものである場合は「発明」にあたり、特許権による保護の対象となります。

さらに、発明を特許として登録するためには、産業上利用できること、新規性(公然と知られた発明でないこと)、進歩性(同業他社が容易に考えつかないこと)等の特許要件を満たす必要があります。

特許出願された発明については、特許庁の審査官が審査を行い、特許要件を満たしていると判断すれば特許登録が行われます。特許登録された発明(=特許発明)については、特許権者が業として独占的に実施できる反面、他人が無許諾で実施することはできなくなります。

その反面、特許発明は公開され、誰でも自由にその仕組みを参照できるようになります。特許権の保護期間である20年(特許法67条1項)が経過すると、特許発明はパブリック・ドメインとなり、誰でも利用できるようになります。

すなわち特許法は、特許権を付与して発明を保護する一方で、その代償として発明を公開することでさらなる発明を促すという形で、発明の保護と利用のバランスを図っているのです。

実用新案権

実用新案法は、「考案」の保護や利用に関するルールを定めた法律です。

実用新案法2条1項では、「考案」を「自然法則を利用した技術的思想の創作」定義しています。特許権の対象となる「発明」とは異なり、「高度なもの」であることは要求されていません。
何らかの工夫により新たなものを生み出したものの、発明ほど高度なものとはいえないときは、特許権の対象にはなりませんが、実用新案権によって保護を受ける余地があります。身近な日用品に工夫を凝らすことでより便利に使いやすいものができた場合等は、実用新案権の出願を検討しましょう。

実用新案も登録して初めて保護の対象となる点は特許権と同じです。しかし、特許登録されるためには提出された書類が適切かどうかのチェック(方式審査)と審査官による審査(実体審査)があるのに比べ、実用新案権は審査官による実体審査を経ずに登録できるという大きな違いがあります。ただし、無効事由が存在する場合には、後に無効審判によって実用新案権が当初に遡って消滅することがあります。

実用新案権の存続期間は、出願日から10年間です(実用新案法15条)。

意匠権

意匠法は、工業的に生産される製品等のデザイン(=意匠)の保護や利用に関するルールを定めた法律です。

意匠法2条1項では、「意匠」を「物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(=形状等)、建築物の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるもの」と定義しています。例えばインテリアとして楽しめる灯りやお洒落なキッチングッズ等は、そのデザインが消費者の購買欲をそそり、製品の売上、ひいては産業経済の発展に繋がることから、意匠権による保護の対象となります。

意匠権も出願し登録を受けることで生まれる権利であり、特許権同様要件についての審査をクリアする必要があります。意匠権の存続期間は、出願日から25年です(意匠法21条)。

商標権

商標法は、商品名やロゴ等の「商標」の保護や利用に関するルールを定めた法律です。

商標法2条1項では、「商標」を人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるものであって、次に掲げるものいうと定義しています。

①業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
②業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(①にあたるものを除く)

例えば商品のブランド名や名称、ロゴ等は商標にあたります。

商標には、自社の商品を一目で他社のものと区別できる機能があります。また、商標を目にするだけでその商品の品質に一定の信頼が置けたり、斬新なネーミングやロゴでインパクトを与えたりする等、商標自体が顧客誘引力を持つケースも少なくありません。そこで商標法は、同じ商標や類似の商標を第三者に勝手に使用されないよう、登録商標の商標権者に対して独占権と禁止権を認めています。

商標登録には、自己の業務に関する商品・サービスについて使用するものであることに加えて、識別性や公共性等の要件を満たす必要があります。商標権の存続期間は設定登録の日から10年ですが、特許権・実用新案権・意匠権と違い存続期間の更新が可能です(商標法19条)。

著作権

著作権法は、著作物の保護や利用に関するルールを定めた法律です。

著作権法2条1項1号では、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しています。

著作物の利用につき、原則として著作者に独占権を与え、さらに他人に対して利用を許諾してライセンス料を得られるようにすれば、社会全体で創作に対する意欲が増して文化的発展に繋がります。そこで著作権法では、著作物について著作権を発生させ、著作者の保護を図っています。

産業財産権とは異なり、著作権は特に登録を要することなく、著作物が創作された時点で自然に発生するのが大きな特徴です。著作権の保護期間は原則として、創作から著作者の死後70年が経過するまでとされていますが(著作権法51条)、著作物の種類等によって一部例外が設けられています。

事業者が知的財産権を申請(出願)すべきケース

自社において生み出した技術・デザイン・ブランド名等について、他社による模倣を防ぎたい場合には、産業財産権の出願を行いましょう。

保護を受けたいもの出願すべき産業財産権
高度な科学技術を用いた創作特許権
技術を用いた創作(高度ではないもの)実用新案権
工業上のデザイン意匠権
名称、マーク、ロゴ等商標権

なお著作権については、自然に発生するので出願する必要はありません。

知的財産権を申請(出願)する手順

産業財産権の出願手続きは、いずれも以下の流れで進みます。

①先行技術等の調査
②出願書類の作成・提出
③特許庁の審査官による審査
④登録

①先行技術等の調査

出願しようとする発明・考案・意匠・商標につき、他社において同じような出願がなされていないかどうかを調べます。先行技術等の調査にあたっては、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」を活用するのが便利です。

参考:特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)

②出願書類の作成・提出

産業財産権の種類に応じた出願書類を作成し、特許庁に提出します。出願書類の作成は、弁理士等に依頼するのが一般的です。

③特許庁の審査官による審査

特許庁の審査官が、各産業財産権の登録要件を満たしているかどうかを審査します。審査の過程で問題が認められた場合には、審査官が出願人に対して補正等を求めるケースもあります。

形式審査と実体審査の両方が行われるのが原則ですが、実用新案権については実体審査が行われず、形式審査のみが行われます。

④登録

審査官が登録要件を満たしていると判断した場合には、産業財産権の登録を行います。登録後、各産業財産権を行使できるようになります。

産業財産権と著作権の違いは?

知的財産権のうち著作権は、産業財産権とは性質が異なる権利です。

具体的には、以下の各点が異なります。

①目的の違い
②管轄官庁の違い
③方式主義と無方式主義の違い
④著作者人格権

①目的の違い

著作権法の目的は「文化の発展」に寄与すること(著作権法1条)です。文化芸術は人々の生活や心を豊かにするものであることから、新たな創作物に一定の保護を与えることで積極的な創作を推奨しています。

これに対して、各産業財産権法の目的は「産業の発達」に寄与することと定められています(特許法1条等)。

②管轄官庁の違い

法の目的の帰結として、著作権は文化庁(文部科学省)の管轄となります。これに対して産業財産権は、特許庁(経済産業省)の管轄です。

③方式主義と無方式主義の違い

産業財産権はいずれも出願し登録されることで初めて権利が発生しますが、著作権は登録しなくとも著作物が創作された時点で自動的に発生する点が違います(同法17条2項参照)。

著作権にも登録制度はありますが、実際にはほとんど利用されていません。著作権の登録を受けなくとも、第三者に対して著作権を主張できるからです。

産業財産権のように、権利の発生に登録等の方式を必要とすることを「方式主義」といいます。これに対して著作権のように、方式を要せず権利が発生することを「無方式主義」といいます。

④著作者人格権

著作権は、「著作権人格権」と「著作財産権」の2つの権利に大別されます。
「著作権」は財産的な利益を保護する権利で、他の産業財産権同様譲渡することが可能ですが、「著作者人格権」は人格的な利益を保護する権利(著作者だけが持っている権利)のため、譲渡することはできません。

「著作者人格権」には、未公表の著作物を公表する権利(=公表権)、著作者名を表示し又は表示しない権利(=氏名表示権)、および著作物を意に反して改変されない権利(=同一性保持権)が含まれます。

これに対して「著作財産権」は、著作物を独占的に利用できる権利です。また、著作物の利用を第三者に許諾することで、ライセンス料収入を得ることもできます。著作権者による利用許諾は、著作財産権に基づくものです。

一方産業財産権には、著作者人格権のような権利は含まれていません。産業財産権については、権利者の人格的利益を保護する必要はなく、あくまでも経済的側面のみに注目して保護すれば足りると考えられているからです。

知的財産法に関する資格

知的財産法に関する業務を取り扱うことができる主な資格は、「弁理士」と「弁護士」です。出願業務は弁理士、トラブル対応は弁護士に依頼するのが一般的な棲み分け方です。

弁理士

産業財産権に関する出願や不服申立ての手続きについて、代理・鑑定その他の事務を行います。出願書類の作成等は、弁理士に依頼するとスムーズです。

弁護士

知的財産法に関する業務全般を行います。特に、知的財産権に関係するトラブルの解決は、主に弁護士が取り扱っています。

産業の発達には知的財産の保護が欠かせない

人間の創意工夫を財産として保護するための一連の知的財産法は、作者や企業の利益を保護することにより、創作活動や事業活動の奨励を図っています。その反面、一定期間を経過した創作についてはパブリック・ドメインとすることで、他人がその創作を用いて新たな創作を生み出す流れを作り、産業や文化の発達に繋げることも目的としています。

知的財産権は、その種類によって保護の対象・要件・期間や出願審査の手続き等が異なりますので、各権利を取得しようとする際には十分に確認してください。


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