- 更新日 : 2025年1月31日
製造委託契約書とは?雛形をもとに内容や注意点を解説
製造委託契約書とは、委託者が受託者に対し何らかの製品の製造業務を委託(発注)し、委託者は製造業務の対価を支払うことを内容とする契約を書面化した契約書です。
この記事では、製造委託契約書を作成する際の内容や注意点を、契約書の雛形をもとにご紹介します。
目次
製造委託契約書とは?
一般的に、製造委託契約においては、委託者が製品の材料やノウハウ(製造方法等)を受託者に提供し、委託者の仕様に従い製品製造を発注します。
製造委託契約は、食品、物品等の製造業務を外部のメーカーへアウトソーシングする手法として、広く行われています。製造委託契約を締結することで、委託者には、受託者に対し製品の製造・生産をしてもらう権利と、製造・生産の対価として報酬を支払う義務が生じます。
これら以外にも、契約書には発注の方法、検収の方法や製品に欠陥があった場合(契約不適合)の対処法など、取引の内容や生じうるリスクを想定し細部まで明確に定めておく必要があります。製造委託契約書に限りませんが、契約書の記載があいまいだったり、当事者双方に認識のズレがあったりすると、トラブルに発展しかねません。
これに対し、材料やノウハウも受託者のものを使用する場合、「製作物供給契約」と呼ばれるのが一般的です。
いずれにせよ、契約から生じる具体的な権利・義務は、契約の名称ではなく、契約の実質的な中身により決まります。したがって、契約書の記載は自社が望むとおりの取引内容となっているか、自社が不当に不利になっていないか、十分に注意する必要があります。
製造委託契約書の雛形
製造委託契約書の雛形(テンプレート)は下記のリンクからダウンロードできます。
雛形はあくまで一般的な内容の記載に留まります。取引の実情や発生するリスクに応じて、適宜カスタマイズしてご使用ください。
製造委託契約書の主な記載事項
製造委託契約書の主な記載事項と、その意義や注意点をご紹介します。以下はいずれも製造委託契約の基礎となる重要事項ですから、きちんと理解しておかなければなりません。
製造物の仕様
メーカーに製造・生産してほしい製品の仕様を定めます。当然ですが、ここがあいまいだと、実際に納品された製品が思っていたものと違った、という事態になりかねません。製品の形状、性能を具体的に記載しておきましょう。
実務では、別途に仕様書を作成し、契約書には「目的物の仕様は、別紙仕様書の内容に合致しなければならない」などと定めることが多いです。仕様書を作成する場合の注意点は、契約書でどの仕様書を用いるのかをきちんと特定しておくことです。受託者の承認を得た仕様書を指すのか、仕様書のみでなく付属書類も含むのかなど、明確かつ具体的な記載が求められます。
加えて、仕様書の変更方法や変更による納期の調整方法も定めておくと、製造過程を経て仕様変更を余儀なくされた場合でもスムーズに対応できます。
原材料などの扱い
製造委託契約では、委託者が原材料を受託者に提供するのが一般的です。何を、いつまでに、どのような方法で、どこに、何円で(無料で)提供するのか明確に定めなければなりません。
受託者たるメーカー側で用意する原材料があって、委託者が原材料の品種や仕様を指定する必要がある場合は、その旨も定めておく必要があります。
委託者の視点でのポイントは、自社が提供する原材料を受託者が契約の目的以外に使用しないよう、原材料の目的外使用を禁止する旨を規定しておくことです。
受託者の視点でのポイントは、原材料の価格の決定権がどちらにあるのか、原材料の購入を強制させられていないかを確認することです。
製造委託契約の中で原材料の提供だけをピンポイントで見れば、有償の場合は売買契約、無償の場合は贈与契約が締結されていることになります。製造委託契約の内部で売買または贈与が行われるというイメージをもっておくと、具体的かつ明確な契約書が作りやすくなります。
納品・検収方法
完成した製品の納品方法や委託者が行う検収の方法を定めます。とくに、検収に関する規定はこの手の契約では肝となる重要な部分です。検収の期限や検収により欠陥・不備(民法および商法では「契約不適合」と規定さています。)が発見された場合の返品、追完、代金減額、損害賠償、契約解除などの対処法も合わせて規定しておきましょう。
委託者側の視点で見ると、検収期間をなるべく長めに設定しておくと業務に余裕ができますし、契約不適合を発見した時点で追完、代金減額、損害賠償、契約解除のどの方法もとれるようにしておく(民法では、まず追完を請求し、追完されない場合にはじめて代金減額請求ができる仕組みとなっています(民法562条、563条))と有利な契約になります。
受託者側の視点でみると、検収期間は短く、検収終了通知がない場合には合格したものとみなす、検収に合格した製品にその後契約不適合が見つかっても責任を負わないといった規定があると有利です。
支払額・タイミング
支払いの締日・支払日を明記します。支払日が休日・祝日となる場合に支払日をいつにするかも記載しておきましょう。支払方法は、支払いの証拠を残すために振り込みをおすすめします。振り込みとする場合、振込手数料をどちらが負担するのかの記載が必要です。
製造委託契約を結ぶ際の注意点
製造委託契約を結ぶ際の注意点をご紹介します。細かい点かもしれませんが、後々のトラブルを避けるためにも理解しておきましょう。
再委託の可否
製造業務を委託する委託者としては、その受託者(メーカーなど)を信頼しており、その受託者だからこそ委託したいと考えていることもあります。その場合、受託者が勝手に第三者へ再委託してしまうと、予想外の結果を招いてしまいます。
そこで、委託者としては、許可なく再委託することを禁止する旨を規定しておくのが一般的です。
受託者側としては、再委託する場合には下請法違反にならないよう注意が必要です。下請法の適用の有無は取引内容と当事者の資本金で決まりますから、事前に確認しておきましょう。
仕様変更が生じた際の対応
製造を進めていく過程で仕様変更の必要が生じることがあります。
仕様変更は一方からの通知で自由に行えるのか、同意が必要としてそれは書面によるのか、メールでもよいのかなど、仕様変更の方法を具体的に定めておきましょう。
製造委託契約書は取引の実情を反映しリスクに備えるべき
製造委託契約書を作成する際に意識すべき点は、現実に行われる取引が契約書という書面にきちんと反映されているか、リスクをケアできているかです。ここで紹介した製造委託契約書の内容や注意点を踏まえて適切な契約書を作成しましょう。
よくある質問
製造委託契約書とは何ですか?
製造委託契約書とは、委託者が受託者に対し何らかの製品の製造業務を委託(発注)し、委託者は製造の対価を支払うことなどを内容とする契約を書面化した契約書です。詳しくはこちらをご覧ください。
製造委託契約書にはどのような事項を記載すべきですか?
最低限、委託する製品の仕様、仕様変更の方法、報酬の額や支払方法、再委託の可否、原材料の取り扱い、検収の方法および契約不適合責任は記載すべきです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
契約書の関連記事
新着記事
利用規約のリーガルチェックとは?確認すべきポイントや進め方を解説
インターネットサービスやアプリを運営する企業にとって、利用規約の整備は避けて通れない課題です。利用規約は形式的な書面ではなく、ユーザーとの契約関係を明示し、トラブルを防ぐための重要な役割を担います。しかし、その内容が不適切であれば、法的責任…
詳しくみる下請法における役務提供委託とは?適用基準や法改正のポイントを解説
2026年1月に施行される改正下請法(正式名称:製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法))は、役務提供取引を含む多様な委託関係に対して規制強化を行い、企業間の取引…
詳しくみる【2026年下請法改正対応】資本金3億円以上の委託事業者が知っておくべき義務や禁止行為を解説
下請法は、委託事業者と中小受託事業者の取引における公正性を確保するために制定された法律です。違反があれば是正勧告や企業名の公表が行われ、信用失墜のリスクを伴います。本記事では、資本金3億円・5,000万円の基準や禁止行為、改正への対応などを…
詳しくみる下請法は資本金1億円の企業に適用される?2026年改正内容と対応策を解説
2026年1月に施行される改正下請法(略称:中小受託取引適正化法)は、資本金や従業員数に応じて適用範囲が大きく拡大され、中堅企業にも影響が及びます。中でも資本金1億円の企業は、発注者・受注者いずれの立場でも新たに下請法の規制対象や保護対象と…
詳しくみる建設業に下請法は適用される?2026年改正の変更点・対応策を解説
建設業においても、下請法(2026年1月施行の改正後は「中小受託取引適正化法」)の適用が求められる場面が拡大しています。従来、建設工事の再委託は建設業法の規律下にありましたが、資材の製造や設計図面の作成といった工事以外の業務委託には下請法が…
詳しくみる2026年下請法改正の要点は?企業への影響やとるべき対策を解説
2026年1月施行の改正下請法(通称:取適法)は、企業の取引実務に大きな影響を与える法改正です。本記事では、その背景や目的から、主要な変更点(価格協議義務の明文化、手形禁止、適用範囲の拡大など)をわかりやすく整理し、企業が取るべき対応につい…
詳しくみる