• 作成日 : 2025年8月19日

AIの契約書レビューは弁護士法72条違反?グレーゾーンと非弁行為のリスクを解説

近年、企業の法務部門や法律事務所で、AI技術を活用した契約書レビューサービスの導入が進んでいます。これらのサービスは、契約書に潜むリスクの洗い出しや修正案の提示などを自動で行い、業務効率を大幅に向上させる可能性を秘めています。一方で、「AIによる契約書関連業務が、弁護士法第72条で禁止されている非弁行為に該当するのではないか」という懸念の声も上がっていました。

この記事では、弁護士法の基本から、2023年に法務省が公表したガイドラインの内容まで掘り下げ、AI契約書サービスと弁護士法72条の関係、いわゆるグレーゾーンを解消するためのポイント、そして非弁行為のリスクを避けて安心して使えるサービスの選び方まで分かりやすく解説します。

弁護士法第72条が禁止する非弁行為とは

非弁行為とは、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件やその他の一般の法律事件に関して鑑定、代理、和解などの法律事務を取り扱うこと、またはこれらの行為を斡旋することを業として行うことを指し、弁護士法第72条で原則として禁止されています。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

引用: 弁護士法|e-Gov 法令検索

AI契約書レビューと弁護士法72条のグレーゾーン

AI契約書レビューサービスが弁護士法第72条に違反するかどうかは、長らく明確な基準がなくグレーゾーンとされてきました。

この状況を整理するため、法務省は2023年8月1日に「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」と題するガイドライン(以下、法務省のAIガイドライン)を公表しました。

参考:AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について|法務局

弁護士法72条の3つの要件

法務省のAIガイドラインでは、あるサービスが弁護士法第72条に違反するかどうかは、「個別具体的な事情に即して判断されるべき」と前置きしつつ、以下の伝統的な3つの要件に照らして判断されることを改めて示しています。

  1. 報酬を得る目的で
  2. 法律事務を取り扱い
  3. 業として行われる

AI契約書サービスの多くは有料のサブスクリプションモデルなどで提供されており、「報酬を得る目的」と「業として行われる」の要件を満たす場合がほとんどです。したがって、最大の論点はサービスが法律事務を取り扱っているか否かです。

AIは法律事務を取り扱っているのか

法務省のAIガイドラインでは、サービスが法律事務の一つである鑑定(法律上の専門知識に基づく法律的見解を述べること)にあたるかどうかが焦点とされています。

法律事務に該当しない可能性が高い例
  • 登録されたひな形とレビュー対象の契約書を比較し、字句の相違点を機械的に表示するだけ。
  • 言語的な意味の類似性のみに着目し、法的な効果とは無関係に類似部分を表示するだけ。
法律事務」に該当する可能性が高い例
  • 契約書の内容をAIが法的に解釈し、個別の条項のリスクや修正案を具体的に提示する。
  • 「この契約は無効です」「この条項では訴訟で敗訴します」といった断定的な結論を示す。

このように、AIが個別具体的な法的判断に踏み込んでいるかどうかが、適法性を分ける重要な分岐点となります。

AI契約書サービスの非弁行為リスクを避けるための選び方

法務省のAIガイドラインを踏まえ、非弁行為のリスクを避け、安心して利用できるAI契約書サービスを選ぶためには、以下の5つのポイントを比較・検討することが重要です。

  1. サービスの立ち位置が明確か
    「本サービスは法的助言(リーガルアドバイス)を提供するものではなく、一般的な情報提供に留まる」「最終的な判断は利用者ご自身または弁護士にご相談ください」といった注意喚起が明確に記載されているかを確認しましょう。
  2. 表現が断定的でないか
    レビュー結果が「違法」「無効」といった断定的な表現ではなく、「リスクの可能性があります」「要検討事項です」など、利用者の判断を促す表現になっているかを確認しましょう。
  3. 判断の根拠や透明性
    なぜその条項がリスクとして検知されたのか、参照した法令や一般的な解説などが示され、判断プロセスの透明性が確保されているサービスが望ましいです。
  4. 人間が介在する設計か
    AIが自動で契約書を修正・締結するような機能はなく、あくまで最終的な判断と操作を利用者に委ねる支援ツールとしての設計になっていることが重要です。
  5. 運営会社の信頼性
    運営会社が弁護士法や関連ガイドラインを遵守する姿勢を公式サイトなどで明確にしているか、信頼できる企業かどうかも確認しましょう。

AI契約書サービスと弁護士によるレビューとの連携方法

先進的な企業では、AI契約書サービスを主に「一次チェック(スクリーニング)」として活用しています。AIによる網羅的なチェックで単純なミスや定型的なリスクを効率的に洗い出し、AIが検出した重要リスク箇所や、特に複雑な取引、新規性の高い契約については、最終的に顧問弁護士にレビューを依頼するという運用フローが効果的です。

  • AIの役割
    網羅的なチェック、単純ミスの発見、定型リスクの洗い出し
  • 弁護士の役割
    高度な法的判断、ビジネス上の戦略的アドバイス、個別具体的な事案への対応

このようにAIと弁護士が協働することで、弁護士はより高度な法的判断や戦略的なアドバイスに集中でき、法務業務全体の品質と効率を飛躍的に向上させることが可能です。サービスによっては、プラットフォーム上で直接弁護士にレビューを依頼できる連携機能を持つものもあります。

グループ企業間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条の関係について

本記事のテーマと関連して、「親会社が子会社の法律事務を行うことは非弁行為にあたるのか」という論点も存在します。これも弁護士法第72条の解釈が問題となります。

この点について、法務省は「事件性」の有無がひとつの重要な判断基準になるという見解を示しています。

原則として「事件性」なし(非弁行為にあたらない可能性が高い)
  • 通常の業務に伴う契約締結のサポートや、法的問題点の検討
  • 株主総会運営が会社法に適合するようサポートすること
原則として「事件性」あり(非弁行為にあたる可能性が高い)
  • 具体的な紛争が生じた後の和解契約の締結
  • 具体的な紛争を背景とした法律相談

たとえ100%の親子会社関係であっても、法人格は別であるため「他人」の法律事務を行うことにはなります。しかし、上記のように具体的な紛争に至らない平常時の法務サポートであれば、直ちに弁護士法違反となる可能性は低いと考えられています。

AI契約書サービスによる非弁行為のリスクを正しく理解しましょう

本記事では、弁護士法第72条の基本から、法務省のAIガイドライン、そして具体的なサービスの選び方までを解説しました。

AI契約書サービスは、法務省のガイドラインを正しく理解し、適切なツールを選んで活用すれば、非弁行為のリスクを回避しながら法務業務の品質と効率を大きく向上させることができます。

重要なのは、AIを万能の解決策と捉えるのではなく、あくまで人間の専門的な判断を支援する優れたツールとして位置づけることです。AIによる網羅的な一次チェックと、弁護士による高度な戦略的判断を組み合わせることで、より強固で効率的な法務体制を構築できるでしょう。

今後の技術の進展と、それに伴う法整備の動向を引き続き注視していくことが重要です。


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