- 作成日 : 2025年5月7日
民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)についてわかりやすく解説
民法717条は土地の工作物から生じた損害について、土地の占有者や所有者に無過失責任を課している規定です。本記事では、事例ごとに土地の工作物が原因で他人に損害を与えた場合の法律関係をわかりやすく解説します。要件を把握して、自然災害などで突然大きな責任を負わないためにやっておくべきことを理解し、対策を講じておきましょう。
目次
民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)とは
民法717条は、土地の工作物や樹木などに起因する事故による損害について、被害者保護の観点から特別な賠償責任を定めた規定です。加害者の特定や立証を簡易にするための制度として位置づけられています。ここから、詳細を解説します。
民法717条1項
民法717条1項は土地の工作物による損害賠償責任についての規定です。条文では以下のように規定されています。
「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」
同項本文は土地の工作物の占有者の責任について規定しており、同項ただし書で土地の工作物の所有者の責任が規定されているという二段階の構成です。土地上の工作物によって生じた損害について、被害者が損害賠償請求をするうえで相手方の特定や立証を容易にする趣旨で設けられています。
条文の文言それぞれの内容については、要件の項目にて解説します。
民法717条2項
民法717条2項は、同条1項の適用範囲を広げる内容です。「前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。」と規定し、竹や樹木の栽植や支持の瑕疵による被害も土地の工作物と同様、占有者や所有者に損害賠償責任を負わせています。
民法717条3項
民法717条3項は、損害賠償責任を負う者が複数いる場合の規定です。条文は「前2項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。」とされています。そのため、工作物責任による損害賠償責任を果たした占有者や所有者は、他の賠償責任を負う者に対して求償をすることができます。前述のとおり、民法717条により被害者の損害賠償請求を容易にする反面、本来責任を負うべき者が他にいる場合に求償ができるようになっています。
民法717条における工作物責任の要件
ここからは、民法717条における工作物責任の要件を解説します。
土地の工作物とは
「土地の工作物」に当たるかは、工作物と土地との接着性によって判断されます。道路や石垣、電柱など直接土地に接着しているもののみならず、建物も土地の工作物とされます。また、より広く解釈され、建物に接着されている屋根や看板、エスカレーターなども土地の工作物とされているのが特徴です。
設置又は保存の瑕疵とは
「設置又は保存の瑕疵」とは、土地の工作物がその種類に応じて通常予想される危険に対して通常備えているべき安全性を欠いていることです。設置又は保存とあるため、設置のときから存在している場合も、維持や管理上瑕疵が生じた場合も、工作物の性状や設備から安全性を欠いていれば瑕疵に該当します。
また、工作物そのものには瑕疵がなくとも内在的に危険性がある場合には、危険防止の措置を講じていないことや安全用の設備が欠如していることが全体として瑕疵と判断されます。
瑕疵と損害の因果関係
生じた損害は「瑕疵があることによって」生じたものでなければならないため、瑕疵と損害の間には因果関係が必要です。
民法717条における工作物責任は無過失責任
工作物責任は無過失責任と呼ばれます。前述の条文のとおり、土地の占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意義務を果たしたとき、損害賠償責任を負うのは所有者です。つまり、占有者は過失がある場合にのみ責任を負うこととなりますが、占有者が無過失である場合、所有者は過失の有無にかかわらず責任を負うこととなるため、無過失責任と考えられます。
民法717条における自然災害の免責
地震や台風など不可抗力といえる自然災害が起きたことが起因して損害が生じた場合も工作物責任は生じ得ます。ただし、要件を満たさなければならないことは同様です。そのため、工作物の設置及び管理の瑕疵があり、その瑕疵と損害との間に因果関係があることが必要です。
例えば地震において建物が倒壊して損害が生じた場合、建物に耐震基準を満たしていないといった瑕疵があり、かつ瑕疵によって倒壊して損害が生じたといえるときには、工作物責任が生じます。一方、何ら瑕疵がなく自然災害による不可抗力の結果のみで工作物から損害を生じさせても、工作物責任を負うことはありません。
したがって、自然災害の力と工作物の瑕疵が相まって被害が生じたといえるときは、占有者又は所有者が損害賠償責任を負うこととなります。
民法717条に関する判例と実務上の解釈
工作物責任のうち、工作物の瑕疵をどのように、そしてどの時点で判断するかに関する判例を、判断のポイント別に2つ紹介します。
安全設備と工作物の瑕疵
被害者が踏切を横断しようとして電車と接触した事案で、踏切道の軌道施設における保安設備と瑕疵の関係に関する判例を紹介します(最判昭和46年4月23日)。
まず、踏切の保安設備の有無が工作物の瑕疵に当たるかの判断に関して「土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備と併せ一体としてこれを考察すべき」として、必要な保安設備がないときは民法717条1項の瑕疵に当たるとしました。さらに、行政指導の基準に従って警報器を設置していなかった保安設備について「設置標準は行政指導監督上の一応の標準として必要な最低限度を示したものである」としたうえで、見通しの悪さや過去の接触事故数、交通量などから、少なくとも「警報機を設置するのでなければ踏切道としての本来の機能を全うしうる状況にあったものとはなしえないもの」として、踏切に警報器の保安設備を欠いていたことを土地の工作物の瑕疵と判断しました。
このように工作物そのものではなく、保安設備を備え付けるという危険予防の対策をしていないことが工作物の瑕疵とされることがあるでしょう。そのため、工作物から生じ得る危険を予見し対策を講じることが、土地の工作物の占有者や所有者には求められます。
通常有すべき安全性の評価基準時
続いて紹介するのは、通常有すべき安全性の評価基準時についての判断が問題となった事案です(最判平成25年7月12日)。
本事案では、勤務先の壁面に吹き付けられた石綿が露出していて建物で長年勤務していた従業員に健康被害が生じた事案で、建設当時は健康被害の危険性はまだ指摘されていなかったものの、その後段階を経て健康被害の危険性の指摘や規制措置の導入がされたという経緯がありました。
判例では、原審が「民法717条1項は土地の工作物の種類に応じて通常有すべき安全性を欠くことをもって瑕疵とし」、「通常有すべき安全性とは、瑕疵判断の基準時に社会通念上要求される工作物の安全性をいい、客観的に定められるべきものである」と判断したことを前提に、「本件建物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになったのはいつの時点からであるかを明らかに」して、その時点以降の石綿と健康被害との間の相当因果関係を認めることができるか否かを審理する必要があると判断しました。
つまり、石綿により健康被害を生じさせる状態であっても、客観的に危険性が指摘され対処が必要とされる前の時点では建物の瑕疵とはいえないため、その時点で発生していた損害は、瑕疵との因果関係が認められなくなります。
このように、設置時と同じ状態であっても、時勢の変化により瑕疵が後発的に生じる可能性がることから、占有者や管理者側としてはこれまで問題がなかったものが瑕疵となっていないかの確認を怠ると工作物責任を負いかねません。また、被害者側からしても、後から生じた瑕疵と自らの損害との因果関係があるかきちんと確認することが必要です。
民法717条に関して注意すべきポイント
土地の工作物の所有者及び占有者は、まずは工作物の危険性を把握し、安全設備を含め設置及び保存に瑕疵がないように管理しなくてはなりません。占有者は、これに加えて工作物から損害が生じないように必要な措置をしておくことで、被害を未然に抑制し、かつ仮に損害が発生しても免責される可能性を高めることが可能です。
また損害を受けた側は、工作物の占有者と所有者を特定して、損害賠償請求の相手方を把握しましょう。
工作物責任を負わないことが大切
工作物責任は無過失責任です。ただし、何らの帰責性がないわけではなく、工作物が通常有すべき安全性を欠くという瑕疵がなければ責任を負うことはありません。設置時の瑕疵や安全設備を含む保存上の瑕疵をそれぞれ生じさせないような管理を行うことが重要です。
一方で、瑕疵のある状態で放置していると自然災害など不測の事態によって生じた損害でも、占有者や所有者に損害賠償責任が生じます。定期的に管理態勢をチェックし、瑕疵を放置しないようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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