- 更新日 : 2025年8月19日
飲食店のビジネスモデルとは?考え方や俯瞰図の作り方、成功事例を解説
飲食店のビジネスモデルは、売上の仕組みや事業戦略を考えるうえで欠かせない考え方です。立地やメニューだけでなく、客単価や回転率、原価といった数字のバランスまで含めて設計することが、継続的な経営には欠かせません。この記事では、飲食店のビジネスモデルの基本や構成の考え方、俯瞰図の使い方、よくある成功事例までをわかりやすく解説します。
目次
飲食店のビジネスモデルとは?
飲食店のビジネスモデルとは、その店が「どのようにして利益を生み出すか」という事業の設計図です。事業計画とは異なり、顧客に価値を提供し、それを収益につなげるまでの一連の流れや仕組み全体を指します。
この設計図が明確であれば、日々の運営における判断基準が定まり、従業員とも共通認識を持って経営を進められるでしょう。反対に、ビジネスモデルがあいまいなままだと、場当たり的な経営になりがちで、収益の見通しが立てづらくなると考えられています。
ビジネスモデルは「儲けを生み出す仕組み」
ビジネスモデルとは、顧客は誰で、どのような価値を提供し、どうやって収益を得るのかを具体的に示した「儲けを生み出す仕組み」のことです。
たとえば、高級レストランであれば、特別な空間と高品質な料理を、記念日などに利用したい富裕層へ提供し、高い客単価で収益を上げます。一方で、駅前の立ち食いそば店は、時間のないビジネスパーソンに、手軽さと速さを提供し、多くの客数で利益を確保します。このように、提供価値と収益構造が一体となったものがビジネスモデルといえるでしょう。
なぜ今、飲食店のビジネスモデルが重要なのか
現代の飲食業界でビジネスモデルの構築が重視される理由は、市場の成熟と消費者ニーズの多様化にあります。
かつてのように「美味しいものを提供すれば客は来る」という時代は終わりを告げました。競合店は増え、顧客は食事の味だけでなく、店の雰囲気、価格、利便性、体験価値など、さまざまな要素をふまえて店を選びます。このような複雑な市場で生き残るには、自店の強みを明確にし、特定の顧客層に確実に価値を届けるための戦略的な設計図、つまりビジネスモデルが欠かせません。
外食産業と飲食店の違い
外食産業と飲食店は似た言葉ですが、その範囲が異なります。
外食産業は、家庭外で提供される食事やサービス全般を指す広い概念です。これには、飲食店だけでなく、ホテルや旅館の宴会部門、社員食堂、病院給食なども含まれます。一方で、飲食店は外食産業の一部であり、一般の顧客に対して食事を提供する店舗(レストラン、カフェ、居酒屋など)を指すのが一般的です。この記事では、後者の「飲食店」に焦点を当てて解説を進めます。
飲食店のビジネスモデルや俯瞰図の作り方
飲食店のビジネスモデルを設計するには、頭の中だけで考えず、全体像を可視化することが効果的です。そのために役立つのが「ビジネスモデル俯瞰図」です。ここでは、代表的なフレームワークである「ビジネスモデルキャンバス」を参考に、ビジネスモデルの作り方を4つのステップで解説します。
この手順で進めることで、自店の強みや弱み、事業の全体像が整理され、より精度の高いビジネスモデルを構築できるでしょう。
ステップ1:事業の9つの要素を洗い出す
最初に、ビジネスモデルを構成する9つの要素を一つずつ洗い出し、書き出していきます。
ビジネスモデルキャンバスというフレームワークでは、事業を以下の9つのブロックに分解して考えます。
ブロック | 内容 | 考えることの例 |
---|---|---|
顧客セグメント (CS) | 誰に価値を提供するのか | 年齢、性別、ライフスタイル、来店動機 |
価値提案 (VP) | どのような価値を提供するのか | 料理の味、価格、店の雰囲気、接客、体験 |
チャネル (CH) | どのように価値を届けるのか | 店舗、Webサイト、SNS、デリバリー |
顧客との関係 (CR) | 顧客とどうつながるか | 会員制度、ポイントカード、SNSでの交流 |
収益の流れ (RS) | どうやって収益を得るのか | 飲食代、テイクアウト、物販、客単価×客数 |
主要な活動 (KA) | 価値提供のために何をするか | 調理、接客、仕入れ、マーケティング |
リソース (KR) | 価値提供に必要な資産は何か | 店舗、設備、人材、レシピ、ブランド |
パートナー (KP) | 誰と協力するのか | 食材の生産者、酒屋、デリバリー業者 |
コスト構造 (CS) | どのような費用がかかるのか | 人件費、食材費、家賃、水道光熱費、販促費 |
これらの項目を一つずつ埋めていくことで、事業の全体像がはっきりと見えてきます。
ステップ2:ビジネスモデル俯瞰図を作成する
9つの要素が洗い出せたら、それらを一枚の図にまとめてビジネスモデル俯瞰図を作成します。
ビジネスモデルキャンバスのテンプレートを使い、各ブロックに付箋やテキストで書き込んでいくとよいでしょう。俯瞰図にすることで、要素間のつながりや事業全体の流れが一目でわかります。
「この顧客層にこの価値を届けるには、このチャネルが最適だ」「この活動を行うには、このパートナーとの連携が欠かせない」といったように、各要素の関連性を意識しながら整理することが大切です。
ステップ3:収益とコストをシミュレーションする
俯瞰図が完成したら、次はそのビジネスモデルで実際に利益が出るのかどうか、収益とコストのシミュレーションを行います。
「収益の流れ」で設定した客単価や想定客数から売上を予測し、「コスト構造」で洗い出した人件費、食材費(原価)、家賃などの固定費・変動費を差し引いて、損益分岐点や見込み利益を計算します。
このシミュレーションにより、ビジネスモデルの実現性や収益性を客観的に評価できます。もし利益が見込めない場合は、前のステップに戻り、価格設定やコスト構造を見直す必要があります。
ステップ4:PDCAを回し改善を続ける
ビジネスモデルは一度作ったら終わりではありません。市場環境や顧客のニーズは常に変化するため、定期的に見直し、改善を続けることが求められます。
Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のPDCAサイクルを回しましょう。実際に店舗を運営するなかで得られたデータ(売上、客層、人気メニューなど)をふまえ、ビジネスモデルが想定どおりに機能しているかを評価します。
そして、課題が見つかれば改善策を考え、実行に移す。この繰り返しが、持続的に成長できる強いビジネスモデルを育てていきます。
成功事例に学ぶ飲食店ビジネスモデル
独自のビジネスモデルで成功している飲食店の事例を3つ紹介します。これらの事例に共通するのは、ターゲット顧客を明確にし、その顧客に響く独自の価値を提供している点です。
価格と品質を両立する製造直販モデル「サイゼリヤ」
「サイゼリヤ」は、徹底したコスト削減と品質へのこだわりを両立させることで、圧倒的な低価格を実現しています。その根幹にあるのが、食材の生産から加工、店舗での提供までを一貫して自社で管理する「製造直販(SPA)」モデルです。
オーストラリアにある自社工場でハンバーグの製造を行うなど、グローバル規模で調達と製造体制の効率化を進め、低価格でも利益を出せる仕組みを構築しています。この効率化によって生み出された価値を、顧客に低価格という形で還元しているのが最大の強みです。
高回転率で高級食材を提供するモデル「俺の株式会社」
「俺のフレンチ」や「俺のイタリアン」で知られる「俺の株式会社」は、「高級店の料理を低価格で提供する」という革新的なビジネスモデルを確立しました。
価値提案は、一流の料理人が高級食材を使って作る本格的な料理を、従来の3分の1程度の価格で提供することです。これを実現するため、店舗の多くを立ち飲み形式にして客席の回転率を極限まで高め、原価率を高く設定しても利益を出せる仕組みを構築しました。
飲食店の常識であった「客単価」ではなく「回転率」で利益を生み出すという逆転の発想が成功の要因です。
IT活用で顧客満足度を高めるモデル「スシロー」
回転寿司業界をけん引する「スシロー」は、ITを駆使して「うまいすしを、腹一杯。」という理念を実現しています。各皿に取り付けたICタグで寿司の鮮度を管理し、廃棄ロスを削減。
さらに、過去の販売実績や顧客の利用状況といった膨大なデータを分析し、需要を予測してレーンに流す寿司の種類や量を最適化しています。
これにより、顧客はいつでも新鮮な寿司を食べられ、店舗は廃棄コストを抑えながら高い顧客満足度を維持できます。IT投資を顧客価値の向上と運営効率化に直結させている好例です。
空間価値を提供するフランチャイズモデル「コメダ珈琲店」
「コメダ珈琲店」は、「街の“リビングルーム”」をコンセプトに、くつろぎの空間を提供することで独自の地位を築いています。フルサービスの接客、ゆったりとした座席、無料Wi-Fiや電源の提供など、顧客が長時間滞在したくなる環境を整えています。モーニングサービスに代表されるお得感のあるメニューも魅力です。
ビジネスモデルの核は、本部が物件開発や経営ノウハウを提供し、オーナーが地域に根差した運営を行うという、Win-Winの関係を築いたフランチャイズシステムにあります。コーヒーを売るだけでなく「くつろげる時間と空間」という価値を提供しているのが特徴です。
均一価格で安心感を提供するモデル「鳥貴族」
焼き鳥居酒屋チェーンの「鳥貴族」は、全品を均一価格で提供するという、シンプルかつ強力なビジネスモデルで成長を続けています。メニューの価格がすべて同じであるため、顧客は会計を気にせず安心して注文できます。このわかりやすさが、若者やファミリー層など幅広い顧客に支持されています。
運営面では、メニューを鶏肉料理に絞り、国産食材にこだわることで品質を担保。均一価格を実現するために、仕入れの効率化や店舗オペレーションの標準化を徹底し、低価格でも利益を確保できる体制を構築しています。
これから伸びる飲食店のビジネスモデル
飲食業界は変化の激しい市場ですが、将来性がないわけではありません。「飲食業界はやめとけ」といった声も聞かれますが、時代の変化に対応した新しいビジネスモデルには大きな可能性があります。
ここでは、今後とくに成長が期待される3つのビジネスモデルの方向性を紹介します。これらのトレンドをふまえることで、将来性のある経営戦略を描けるでしょう。
ゴーストレストランやデリバリー専門店
店舗を持たず、デリバリーサービスを通じてのみ商品を販売するゴーストレストランは、今後も成長が見込まれるビジネスモデルです。
初期投資を大幅に抑えられるため、個人でも開業しやすいのが大きな利点でしょう。客席がないため、立地に縛られず、家賃の安いエリアで開業できます。複数の業態を一つのキッチンで運営することも可能で、売上のデータを分析しながら、需要の高いメニューに柔軟に対応していけます。成功するには、デリバリープラットフォーム上での魅力的な見せ方や、リピートを促すための工夫が求められます。
フードテックが変える飲食店の未来
IT技術を活用して食の課題を解決する「フードテック」は、飲食店のビジネスモデルを大きく変える可能性を秘めています。
たとえば、モバイルオーダーやセルフレジは、注文や会計業務を効率化し、人手不足の解消に貢献します。また、需要予測AIを活用すれば、食品ロスの削減と発注の最適化が可能です。植物由来の代替肉や培養肉といった新しい食材もフードテックの一分野であり、これらを取り入れることで、環境意識の高い顧客層にアピールする新しい価値提案ができるようになるでしょう。
SDGsへの貢献が価値になるビジネスモデル
持続可能な開発目標(SDGs)への関心が社会全体で高まるなか、環境や社会に配慮した経営姿勢そのものが、顧客にとっての価値となります。
たとえば、規格外野菜を積極的に仕入れて食品ロス削減に取り組んだり、地元の生産者から直接食材を仕入れて地域経済の活性化に貢献したりする活動です。また、フェアトレードのコーヒー豆を使用することや、プラスチック製ストローを廃止することも、企業の姿勢を示すメッセージになります。こうした取り組みをSNSなどで発信し、共感を呼ぶことで、価格競争とは異なる軸で顧客から選ばれる飲食店になることができるでしょう。
飲食店のビジネスモデルを見直すときのポイント
すでに飲食店を経営している場合、定期的にビジネスモデルを見直すことで、経営課題の発見や売上改善の機会につながります。見直しを行う際は、以下の3つのポイントをチェックしてみましょう。
これらの問いに明確に答えられない場合、ビジネスモデルのどこかに問題が潜んでいる可能性があります。
コンセプトと現状は一致しているか
まず確認すべきは、開業時に設定した店舗のコンセプトと、現在の運営状況が一致しているかどうかです。
「落ち着いた大人の隠れ家」をコンセプトに開業したのに、いつの間にか安さを求める学生客ばかりになっていないでしょうか。ターゲット顧客や提供価値が当初の想定とずれてしまうと、店の強みがぼやけ、誰にも響かない中途半端な存在になってしまいます。改めてコンセプトを定義し直し、メニュー、価格、内装、接客のすべてがそのコンセプトに沿っているかを確認しましょう。
収益構造に問題はないか
売上は立っているのに利益が残らない場合、収益構造に問題があるのかもしれません。
客単価は適正でしょうか。原価率は高すぎないでしょうか。FLコスト(食材費と人件費の合計)が売上の70%を超えているようなら、早急な見直しが求められます。メニューごとの売上と原価を分析し、利益率の低い商品は価格改定や内容の見直しを検討します。また、アイドルタイムを収益化するための新しいメニューやサービス(例:カフェタイムの導入)を考えるのも一つの方法です。
顧客との関係は築けているか
新規顧客の獲得コストは、リピーター維持コストの5倍かかるともいわれます。安定した経営のためには、一度来店した顧客との関係を築き、再来店を促す仕組みが欠かせません。
ポイントカードや会員アプリ、SNSでの情報発信など、顧客とつながり続けるための施策は機能しているでしょうか。顧客リストは整備され、DMやメールマガジンなどで再来店を働きかけているでしょうか。顧客満足度調査などを実施し、顧客の声に耳を傾け、サービス改善に活かす姿勢も、良好な関係を築く上で大切です。
飲食店のビジネスモデル設計が経営安定につながる
この記事では、飲食店のビジネスモデルの考え方から俯瞰図の使い方、成功事例、見直しのポイントまでを紹介しました。ビジネスモデルは単なる計画書ではなく、誰に何をどう届けて収益を得るかを整理する経営の土台です。
市場や価値観が変わり続ける中で、感覚や経験だけに頼った運営では安定した成長は見込めません。自店の強みや方針を明確にし、継続的にモデルを見直していくことが、経営の安定と差別化につながっていきます。ビジネスモデルを戦略的に設計することで、変化の中でも軸を持った経営が可能になります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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