- 作成日 : 2025年11月6日
在庫回転数を改善するには?計算方法から業界別の目安、適正在庫を実現する具体的な方法まで徹底解説
飲食店の経営や小売業において、「在庫回転数」はキャッシュフローに直結する重要な経営指標です。この数値が低いと、資金繰りの悪化や保管コストの増大を招く可能性があります。しかし、自社の在庫管理が健全かどうか、どのように判断すればよいのでしょうか。
この記事では、在庫管理の健全性を示す在庫回転率の計算方法から、業界ごとの目安、そして具体的な改善策までを、初心者の方にもわかりやすく解説します。適正在庫を維持し、経営を効率化するためのヒントを見つけていきましょう。
目次
そもそも在庫回転数(在庫回転率)とは何か?
在庫回転率は、一定期間において在庫が何回出庫されたか(=販売や出荷を通じて消費されたか)を示す指標です。
この数値をみることで、在庫が収益にどれだけ貢献しているか、過剰な在庫を抱えていないかを客観的に把握できます。在庫は資産であると同時に、管理コストや品質劣化のリスクも抱えています。そのため、在庫回転数を適切に管理することは、キャッシュフローの改善や経営の安定化に不可欠といえるでしょう。
在庫回転数が「高い」場合と「低い」場合、それぞれ何を意味する?
在庫回転数の高低は、企業の在庫管理状況を端的に示します。それぞれの状態が何を意味するのかを理解することが、改善への第一歩となります。
| 状態 | 意味すること | メリット | デメリット(注意点) |
|---|---|---|---|
| 高い | 在庫が短い期間で効率よく販売されている。 |
|
|
| 低い | 在庫が長期間販売されずに滞留している。 |
|
|
「在庫回転数」と「在庫回転率」の違いは?
「在庫回転数」と「在庫回転率」は、実務上ほとんど同じ意味で使われることが多く、明確な使い分けはありません。どちらも「期間内に在庫が何回入れ替わったか」を示す指標です。本記事でも同様の指標として扱います。英語では “Inventory Turnover” と呼ばれます。
なぜ飲食店や小売業で特に重要視されるのか?
在庫回転率はすべての業種で重要ですが、特に飲食店や小売業では経営を左右するほどのインパクトを持ちます。
その理由は、これらの業界が扱う商品にあります。
- 品質劣化のリスク:食品には賞味期限・消費期限があり、アパレルには流行があります。在庫期間が長引くと、商品価値が失われ、廃棄(食品ロス)や大幅な値引き販売につながります。
- 販売機会の損失:人気商品が欠品すれば、顧客満足度の低下や他店への顧客流出を招きます。
- キャッシュフローへの影響:仕入れは先払い、売上は後から入金が基本です。在庫が滞留すると、売上がないまま支払いだけが発生し、資金繰りを圧迫します。
在庫回転率の計算方法は?
在庫回転率の計算方法は、主に「金額」で計算する方法と「数量」で計算する方法の2種類があります。
どちらの計算方法を用いるかは、何を基準に在庫の動きを評価したいかによって異なります。一般的には、経営指標として全体のキャッシュフローを把握しやすい「金額」での計算が広く用いられます。
【金額で計算】売上原価を用いる方法(推奨)
最も一般的で正確な計算方法です。売上原価は、販売した商品の仕入れにかかった費用を指します。
- 売上原価:損益計算書(P/L)で確認できます。
- 平均在庫金額:期間中の在庫金額の平均値です。以下の式で計算します。
売上原価: 損益計算書(P/L)で確認できます。
- 期首在庫金額:期間開始時点の在庫金額
- 期末在庫金額:期間終了時点の在庫金額
- 年間の売上原価:6,000万円
- 期首在庫金額:400万円
- 期末在庫金額:600万円
- 平均在庫金額を計算 (400万円 + 600万円) ÷ 2 = 500万円
- 在庫回転率を計算 6,000万円 ÷ 500万円 = 12回
この場合、年間の在庫回転率は「12回」となり、平均して1ヶ月に1回在庫が入れ替わっていることがわかります。
【金額で計算】売上高を用いる方法(注意点あり)
売上高を基準に計算することも可能ですが、注意が必要です。
- 注意点:売上高には利益(粗利)が含まれています。一方、在庫金額は原価で計上されるため、利益分だけ回転率が実態より高く算出されてしまいます。同業他社との比較や業界平均と比べる際は、どちらの計算方法で算出された数値なのかを確認する必要があります。
【数量で計算】出庫数を用いる方法
特定の商品やSKU(最小管理単位)ごとの回転率を物理的に把握したい場合に用います。
- 平均在庫数:(期首在庫数 + 期末在庫数) ÷ 2 で計算します。
この方法は、商品ごとの売れ行きを分析し、発注量を最適化する際に役立ちます。
月次での在庫回転率を計算するにはどうすればいいか?
年次ではなく、より短期的な在庫管理を行うために月次で計算することも有効です。計算式の期間を「月」に置き換えるだけで算出できます。
- 月間平均在庫金額:(月初在庫金額 + 月末在庫金額) ÷ 2
在庫回転日数はどのように計算し、活用するのか?
在庫回転日数とは、在庫が1回転(仕入れから販売まで)するのに平均で何日かかるかを示す指標です。
この日数が短いほど、商品が現金化されるスピードが速いことを意味し、資金効率が良いと判断できます。仕入れサイクルの目安としても活用できるため、在庫回転率とあわせて確認することが重要です。
在庫回転日数の計算方法
計算方法はいくつかありますが、在庫回転率を使って計算するのが最もシンプルです。
- 分析期間:1年間(365日)
- 年間の在庫回転率:12回
- 在庫回転日数を計算 365日 ÷ 12回 ≒ 30.4日
この場合、在庫は約30日間で1回転している、つまり仕入れてから販売されるまでに平均で約30日かかっていることがわかります。
在庫回転日数から何がわかるのか?
在庫回転日数は、ビジネスのスピード感を測る指標です。
- 現金化のスピード:在庫という資産がどれくらいの期間で現金に変わるかがわかります。
- 商品の鮮度:日数が長い商品は、品質劣化や陳腐化のリスクが高いと判断できます。
- 仕入れ計画の基準:次の仕入れまでに必要な日数の目安となり、過剰在庫や欠品を防ぐための計画に役立ちます。
在庫回転率の目安は業界ごとにどれくらい違うのか?
在庫回転率の適正な目安は、業界や取り扱う商材の特性によって大きく異なります。そのため、業界平均を一律の目標とするのではなく、自社の過去データや競合他社の動向と比較することが重要です。
商品の単価、ライフサイクルの長さ、需要の安定性などが業界ごとに異なるため、回転率の平均値にも差が生まれます。例えば、生鮮食品を扱うスーパーマーケットと、大型機械を扱う製造業では、目指すべき回転率は全く違います。
業界別の平均在庫回転率の目安
経済産業省の「2023年企業活動基本調査(2022年度実績)」によると、主要な産業の棚卸資産回転率(在庫回転率)は以下のようになっています。
出典:経済産業省「2023年企業活動基本調査(2022年度実績)」 を基に作成
| 産業 | 棚卸資産回転率(回/年) |
|---|---|
| 製造業 | 9.94 |
| 卸売業 | 13.91 |
| 小売業 | 13.56 |
| 飲食サービス業 | 41.67 |
注:この調査では「棚卸資産回転率 = 売上高 ÷ 棚卸資産」で計算されています。
なぜ業界によって目安が異なるのか?
- 飲食サービス業:食材の賞味期限が非常に短いため、仕入れた在庫を素早く消費する必要があり、回転率は極めて高くなります。
- 小売業・卸売業:飲食業ほどではないものの、商品の鮮度やトレンドが重要であり、比較的高い回転率が求められます。
- 製造業:原材料の調達から製品の完成、出荷まで時間がかかるため、他の業種に比べて回転率は低くなる傾向があります。部品や半製品など、様々な段階の在庫を抱えることも一因です。
在庫回転率が低い(悪い)場合、どのような問題があるか?
在庫回転率が低い状態が続くと、「キャッシュフローの悪化」「管理コストの増大」「品質劣化・陳腐化のリスク」という、経営における3つの大きな問題を引き起こします。
これらの問題は相互に関連しあっており、放置すると経営体力を著しく消耗させる原因となります。それぞれの問題が具体的にどのような影響を及ぼすのかを理解しておく必要があります。
問題点1:キャッシュフローの悪化(資金繰りの圧迫)
在庫は、販売されて初めて現金になります。売れない在庫(滞留在庫)を多く抱えている状態は、現金が倉庫で眠っているのと同じです。仕入れ代金の支払いは発生しているのに、売上としての現金が入ってこないため、手元の資金が減少し、資金繰りが悪化します。
問題点2:在庫管理コストの増大
在庫を保管するには、様々なコストがかかります。
- 保管スペースの賃料
- 倉庫の光熱費、保険料
- 在庫を管理する人件費
- 棚卸しにかかる費用
在庫が多ければ多いほど、これらの不要なコストが経営を圧迫します。
問題点3:品質劣化・陳粗化のリスク
長期間保管された商品は、その価値が低下するリスクに常に晒されています。
- 飲食店:食材の鮮度が落ち、廃棄せざるを得なくなる(食品ロス)。
- 小売業:季節商品や流行品が型落ちになり、定価で売れなくなる(陳腐化)。
- 製造業:保管環境によって部品が錆びたり、破損したりする。
価値が下がった在庫は、最終的に廃棄やセール販売というかたちで損失につながります。
在庫回転数を改善するには、どのような方法があるか?
在庫回転数を改善するには、まず現状を正確に把握した上で、「リードタイムの短縮」「需要予測の精度向上」「滞留在庫の削減」といったアプローチを体系的に進めることが効果的です。
やみくもに在庫を減らすだけでは、欠品を招きかねません。データに基づいて自社の課題を特定し、一つずつ着実に対策を講じていくことが、適正在庫の実現につながります。
STEP1: 現状を正確に把握する(ABC分析)
まずは、どの在庫が経営に貢献し、どの在庫が滞留しているのかを可視化します。その際に有効なのがABC分析です。 ABC分析とは、在庫を売上高や重要度に応じてA・B・Cの3ランクに分けて管理する方法です。
- Aランク:売上への貢献度が非常に高い、最重要在庫。欠品は絶対に避けるべき。
- Bランク:Aランクほどではないが、安定的に売れている在庫。
- Cランク:売上への貢献度が低い在庫。過剰在庫になりやすく、削減の主なターゲット。
この分析により、管理の優先順位をつけ、Cランクの在庫をいかに減らすかという具体的な目標設定ができます。
STEP2: リードタイムを短縮する
リードタイムとは、商品を発注してから納品されるまでにかかる時間のことです。この時間が長いと、欠品を恐れて余分に在庫を抱えがちになります。
- 発注プロセスの見直し:発注作業をデジタル化し、承認フローを簡素化する。
- 仕入れ先の見直し:より短納期で納品してくれる仕入れ先を探す、または交渉する。
- 物流体制の効率化:納品後の検品や棚入れの時間を短縮する。
STEP3: 需要予測の精度を向上させる
過去の販売データや季節変動、天候、周辺イベントなどの情報を基に、将来の需要を予測します。
- POSデータ(販売時点情報管理システム)の活用:「いつ」「何が」「いくつ売れたか」という客観的なデータを分析する。
- 販売管理システムの導入:過去の販売実績から、AIが需要を予測してくれるシステムも増えています。
- 現場の声を反映:顧客と直接接するスタッフからの情報を予測に加味する。
STEP4: 適正な発注方式を見直す
自社の状況に合わせて、発注方式を見直すことも有効です。
- 定期発注方式:「毎週月曜日」のように、決まったタイミングで発注量を変える方法。需要の変動が大きい商品に向いています。
- 定量発注方式:「在庫が〇個になったら」のように、決まった量を自動的に発注する方法。需要が安定している商品に向いています。
STEP5: 滞留在庫・不動在庫を削減・処分する
長期間売れていない在庫は、思い切って処分することも重要です。
- セールやキャンペーンの実施:値引きをしてでも販売し、現金化を優先する。
- セット販売:人気商品とセットにして販売する。
- 廃棄ルールの設定:「最終入荷日から1年以上経過した商品は廃棄する」といった明確なルールを設ける。
STEP6: 在庫管理システムを導入する
Excel(エクセル)やスプレッドシートでの管理に限界を感じたら、在庫管理システムの導入を検討しましょう。
- リアルタイムでの在庫状況の可視化
- ハンディターミナルによる入出庫作業の効率化
- 発注業務の自動化
- 人的ミスの削減
これにより、在庫管理にかかる手間を大幅に削減し、より正確なデータに基づいた意思決定が可能になります。
在庫回転率を高めすぎることによるデメリットはあるか?
デメリットはあります。在庫回転率を過度に高めようとすると、「欠品による販売機会の損失」や「頻繁な発注によるコストの増大」といったデメリットが生じる可能性があります。
在庫は「多すぎても少なすぎてもいけない」という性質を持っています。回転率の向上だけを追求するのではなく、自社にとっての「適正な在庫レベル」を見極めることが肝心です。
デメリット1:販売機会の損失リスク
在庫を切り詰めすぎると、急な需要の増加やメディアでの紹介などがあった際に対応できず、欠品を起こしてしまいます。これは、得られたはずの売上を逃す「機会損失」であり、顧客満足度の低下にもつながります。
デメリット2:頻繁な発注によるコスト・手間の増加
在庫を少なく保つためには、発注の頻度を増やす必要があります。これにより、1回あたりの送料が割高になったり、発注や検品にかかる人件費が増大したりする可能性があります。
脱・どんぶり勘定!データに基づいた在庫管理で経営を強くする
本記事では、在庫回転数の重要性から具体的な計算方法、業界別の目安、そして改善策までを網羅的に解説しました。在庫回転率は、単なる在庫の動きを示すだけでなく、自社のキャッシュフローや経営効率を映し出す「経営の健康診断」のような指標といえます。
まずは自社の在庫回転数を正しく計算し、現状を客観的に把握することから始めましょう。データに基づいた適正な在庫管理を実践し、機会損失と無駄なコストを削減することで、より強く、安定した経営体質を築くことができるはずです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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