• 更新日 : 2025年8月19日

飲食店を自宅で開業できる?許可や資格、リフォームのポイントを解説

自宅の空きスペースを活用して、自分の飲食店を開きたいと考えたことはありませんか。適切な準備と法的な条件をクリアすれば、自宅での飲食店開業は十分に実現できます。ただし、住居用のキッチンをそのまま使うことはできず、営業許可の取得や専門的な資格が求められます。

この記事では、自宅で飲食店を開業するための営業スタイル、必須となる資格や許可、施設の基準を満たすためのリフォームのポイント、そして開業までの具体的な流れまで、網羅的にわかりやすく解説します。

飲食店は自宅で開業できる?

自宅での飲食店の開業は可能ですが、そのためには「住居スペース」と「事業用スペース」を明確に分けること、そして保健所が定める施設の基準を満たした専用のキッチンを用意することが絶対条件となります。

多くの人が思い描く「普段使っているキッチンで料理して販売する」という形は、基本的には食品衛生法や地域の条例で認められていません。

事業として飲食物を提供するには、衛生管理の観点から、生活空間とは完全に区画された、営業専用の設備が必要になるのです。この点を最初に理解しておくことが、自宅開業計画の第一歩といえるでしょう。

なぜ自宅のキッチンはそのまま使えないのか

自宅のキッチンがそのまま営業に使えない理由は、衛生管理の基準が異なるためです。家庭用のキッチンは、あくまで家族が食事をするための設備であり、不特定多数のお客様に食事を提供する業務用としては設計されていません。

たとえば、保健所が営業許可を出す際には、以下のような点が厳しくチェックされます。

  • 生活用水と営業用水の分離:
    調理や洗浄に使う水と、家族が手洗いやお風呂で使う水が混ざらない構造になっているか。
  • シンクの数:
    食材用、食器用など、用途別にシンクが分かれているか。多くの場合、2槽以上のシンクが求められます。
  • 衛生的な管理:
    調理器具を洗浄・消毒・保管するための十分なスペースや設備があるか。
  • 従業員の手洗い設備:
    従業員専用の手洗い器が作業場内にあるか。

これらの基準は、食中毒などのリスクを防ぎ、お客様の安全を守るために設けられています。そのため、自宅で飲食店を開業するには、これらの基準を満たすためのリフォームがほぼ必須となります。

自宅でできる飲食店の営業スタイル

自宅での開業は、店舗の規模や構造に制約があるため、どのような営業スタイルを選ぶかがとても大切です。ここでは、自宅での開業に向いている代表的な営業スタイルを3つ紹介します。

テイクアウト・デリバリー専門店

テイクアウト(持ち帰り)やデリバリー(配達)を専門とするスタイルは、自宅開業と相性が良い選択肢の一つです。お客様が店内で飲食するスペース(客席)を用意する必要がないため、厨房設備と商品受け渡しの小さなカウンターがあれば開業できます。

このスタイルの利点は、比較的省スペースで始められること、そして内装工事にかかる費用を抑えられる点にあります。とくに、近年はフードデリバリーサービスのプラットフォームが充実しており、自前で配達員を抱えなくても広範囲に商品を届けられるようになりました。唐揚げや弁当、丼もの、スープなど、専門性の高いメニューに絞ることで、効率的な運営がしやすくなります。

菓子製造・パン屋

クッキーやケーキなどの焼き菓子、あるいはパンを製造して販売するスタイルも人気があります。菓子製造業やパン製造業の営業許可は、飲食店営業許可とは別の許可区分になりますが、基本的な考え方は同じです。

このスタイルの場合、製造するための専用工房と、商品を陳列・販売する小さなスペースがあれば開業できます。工房には、業務用のオーブンやミキサー、作業台など、製造するものに合わせた設備投資が必要です。手作りの温かみや、素材へのこだわりといった独自性を打ち出しやすく、オンラインストアと組み合わせることで全国にファンを広げることも可能でしょう。

カフェ・喫茶店

客席を設けるスタイルの中では、カフェや喫茶店が比較的、自宅開業になじみやすいでしょう。大規模な厨房設備を必要とせず、コーヒーや紅茶などのドリンク類と、軽食やスイーツを提供する形であれば、限られたスペースでも運営が可能です。

ただし、客席を設ける場合は、お客様が使用するトイレの設置が必須となります。その際、従業員が使うトイレとお客様が使うトイレは、生活空間を通らずに行き来できる動線を確保するなど、プライバシーへの配慮が求められます。古民家の趣を活かしたカフェなど、自宅ならではの雰囲気を魅力にすることもできます。

自宅で飲食店を開業するための条件

自宅で飲食店を開業するためには、食品衛生法だけでなく、都市計画法や風営法といったさまざまな法律の要件をクリアし、十分な資金を準備する必要があります。見落としがちなポイントも多いため、一つずつ確認していきましょう。

飲食店を開業できる用途地域を選ぶ

まず、自宅が飲食店を営業できる「用途地域」に指定されているかを確認しなくてはなりません。用途地域とは、都市計画法に基づき、土地の利用目的を定めたもので、地域ごとに建てられる建物の種類や規模が制限されています。

たとえば、「第一種低層住居専用地域」は、良好な住環境を守るための規制が最も厳しい地域です。この地域では、原則として店舗の開業はできません。ただし、住宅と兼用で、一定の規模(例:50㎡以下かつ建物の延べ面積の2分の1未満)などの条件を満たせば、例外的に許可される場合があります。

自宅での開業を検討する際は、まず自治体の都市計画担当部署(都市計画課など)に問い合わせ、自身の住所がどの用途地域に該当し、飲食店の営業が可能かどうかを必ず確認しましょう。

保全対象施設からの距離を確認する

深夜0時以降にお酒を提供する、あるいは接待行為を伴う営業(バーやスナックなど)を考えている場合は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)」の規制対象となります。

この法律では、学校、図書館、病院、児童福祉施設といった「保全対象施設」の周辺で、一定の距離(地域によって異なるが、おおむね100mなど)内での営業を禁止しています。

たとえ自宅であっても、この規制は適用されます。通常のレストランやカフェであっても、自治体の条例で独自の規制が設けられている場合があるため、計画段階で管轄の警察署の生活安全課に相談しておくと安心です。

食品衛生責任者の資格と営業許可を取得する

飲食店の営業には、専門的な資格の取得と、保健所からの営業許可が不可欠です。これらは法律で定められた義務であり、クリアしなければ営業を始めることはできません。

食品衛生責任者の資格は必ず取得する

営業許可を受ける施設ごとに、必ず1名「食品衛生責任者」を置かなければなりません。これは、施設における衛生管理の中心的な役割を担う人のことです。

食品衛生責任者になるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

  • 調理師、製菓衛生師、栄養士などの資格を持っている。
  • 各都道府県の知事が指定する「食品衛生責任者養成講習会」を受講し、修了する。

講習会は1日(約6時間)で、食品衛生学、公衆衛生学、食品衛生法などの科目について学びます。費用は1万円程度で、各地域の食品衛生協会で申し込みができます。開業を決めたら、早めにスケジュールを確認して受講しましょう。

保健所の営業許可を得るためのキッチン要件

営業許可を取得するためには、保健所の担当者による実地検査を受け、施設が基準を満たしていることを認めてもらう必要があります。この基準は全国共通のもののほか、自治体によって独自の要件が定められている場合があるため、計画段階で必ず管轄の保健所に相談することが大切です。

一般的に求められる主なキッチン(厨房)の要件は以下のとおりです。

項目要件の例補足
区画
  • 厨房と住居スペースが壁やドアで完全に仕切られていること
  • 厨房内に従業員専用の手洗い設備があること
生活空間を通らずに厨房へ出入りできる構造が望ましいです。
シンク
  • 原則として2槽以上のシンクがあること(食材洗浄用、食器洗浄用など)
  • 給湯設備があること
自治体や営業形態によっては1槽でも認められる場合があります。
床・壁
  • 床はタイルやコンクリートなど、耐水性で掃除しやすい素材であること
  • 壁は床から1m程度まで耐水性の素材であること
掃除がしやすく、衛生的な状態を保てる構造が求められます。
換気
  • 熱や蒸気を屋外に排出できる換気扇があること
調理時の熱気や臭いがこもらないようにするための設備です。
その他
  • 食器や調理器具を衛生的に保管できる戸棚があること
  • 冷蔵庫に温度計が設置されていること・蓋つきのゴミ箱があること
細かい規定は多岐にわたるため、事前の確認が欠かせません。

開業資金を準備する

当然のことながら、開業するための資金も必須の条件です。自己資金はいくらあるのか、融資はいくら必要かを明確にし、具体的な資金計画を立てる必要があります。初期投資だけでなく、開業後しばらく売上が安定しなくても事業を継続できるだけの運転資金も合わせて準備することが、事業を軌道に乗せるうえでとても大切です。

自宅での飲食店開業にかかる費用とリフォームのポイント

自宅開業は、テナントを借りる場合に比べて家賃がかからないという大きな利点がありますが、初期投資がゼロというわけではありません。とくに、施設の基準を満たすためのリフォーム費用は、計画段階でしっかりと見積もっておく必要があります。

主な初期費用と運転資金の内訳

開業に必要な資金は、大きく「初期費用(イニシャルコスト)」と「運転資金(ランニングコスト)」に分けられます。以下の費用は一般的な目安であり、物件の状況や導入する設備のグレードによって大きく変動します。

初期費用の目安

項目費用の目安内容
物件取得費0円(自宅のため)自宅開業の最大のメリット。
内外装工事費100万円~500万円厨房リフォーム、壁紙、床材、電気・ガス・水道工事など。
厨房設備費50万円~200万円業務用冷蔵庫、コンロ、シンク、作業台、調理器具など。
その他備品費10万円~50万円食器、レジ、テイクアウト用容器、看板など。
許認可取得費約2万円飲食店営業許可の申請手数料(自治体による)。
例:東京都では15,000円〜30,000円程度
合計162万円~752万円

運転資金の目安(月額)

運転資金は、開業後すぐには売上が安定しない可能性をふまえ、最低でも3ヶ月分、できれば6ヶ月分を準備しておくのが望ましいでしょう。

自宅キッチンのリフォーム費用の相場

自宅キッチンを営業許可の基準に合わせてリフォームする場合、その費用は工事の規模によって大きく変動します。店舗設計・施工会社の情報などを参考にすると、工事内容や設備の規模により異なりますが、小規模な改修で100万円前後、大規模なリフォームでは300万円を超えることもあります。

  • 小規模なリフォーム(約100万円~)
    シンクの増設、手洗い器の設置、壁や床の一部張り替えなど、既存のキッチンを活かしつつ最低限の改修を行うケース。
  • 大規模なリフォーム(約300万円~)
    間取りの変更を伴う工事、給排水管やガス管の大規模な移設、厨房全体の設備を一新するケース。

費用を抑えるためには、複数のリフォーム業者から相見積もりをとることが基本です。また、中古の厨房機器をうまく活用したり、DIYで対応できる部分を検討したりすることも有効な手段となります。

自宅で飲食店を開業するための流れ

自宅で飲食店を開業する計画は、段階を踏みながら着実に進めましょう。ここでは、開業までの一般的な流れを5つのステップで解説します。

1. コンセプトと事業計画の策定

最初に、「誰に」「何を」「どのように」提供するのかというお店のコンセプトを固めます。ターゲット顧客、メニュー、価格設定、営業スタイルなどを具体的に決めましょう。そのうえで、売上予測や資金計画を盛り込んだ事業計画書を作成します。これは、融資を受ける際にも必要となる重要な書類です。

2. 資金調達

事業計画書をもとに、自己資金で不足する分を調達します。日本政策金融公庫の「新規開業資金」や、自治体の制度融資など、創業者向けの融資制度は比較的利用しやすいでしょう。補助金や助成金も、返済不要の資金として活用できる可能性があるので調べてみてください。

3. 資格取得と保健所への事前相談

食品衛生責任者の資格をまだ持っていない場合は、この段階で取得します。同時に、リフォームの設計図などを持参して、管轄の保健所に事前相談に行きましょう。計画している施設で許可が取得できそうか、専門的なアドバイスをもらうことで、手戻りを防ぐことができます。

4. 施設工事と設備・備品の購入

保健所のアドバイスをふまえて、リフォーム工事に着手します。工事と並行して、厨房機器や食器、テイクアウト容器などの備品を発注・購入しておくとスムーズです。

5. 営業許可申請と開業準備

施設の完成予定日の10日前~2週間前を目安に、保健所に営業許可を申請します。申請後、担当者による実地検査が行われ、問題がなければ許可証が交付されます。

許可証を受け取ったら、いよいよ営業を開始できます。メニューの試作やSNSでの告知など、最終的な開業準備を進めましょう。

自宅での飲食店開業を成功させるために

自宅での開業は、テナント型の飲食店とは違った工夫や配慮が必要です。ここでは、運営を円滑に続けていくために意識しておきたいポイントを紹介します。

近隣トラブルを避けるには事前の説明と配慮が必要

自宅で飲食店を開業する際に、最も注意が必要なのが近隣との関係です。騒音やにおい、ごみの管理、来店客の出入りなどが、思わぬ苦情につながることがあります。

営業を始める前に、どのような影響が出るかを整理し、近隣の方に説明して理解を得るよう努めましょう。営業時間を絞り、早朝や深夜の営業は避ける方が無難です。

設備面でも、排気ダクトの向きやごみ箱の密閉保管、防音材の設置など、できるかぎりの対策をとることが大切です。ご近所との関係が良好であれば、トラブルが発生した際にも落ち着いて話し合える環境が整います。

集客の工夫を怠らない

自宅開業は、立地面で不利なケースが多いため、「知ってもらう」ための工夫が欠かせません。まずは、SNSでお店の雰囲気や料理の魅力を継続的に発信することから始めましょう。

たとえば、InstagramやX(旧Twitter)を活用し、メニューやこだわりを写真付きで投稿することで、ファンを増やすことができます。Googleビジネスプロフィールへの登録も、地図検索で見つけてもらいやすくなるためおすすめです。

オフラインでは、チラシのポスティングや地域イベントへの出店など、地道な活動も効果的です。「近所に面白そうなお店ができた」と思ってもらうきっかけを増やすことが重要です。

一度来てくれたお客様に満足してもらえれば、自然と口コミが広がります。味はもちろん、接客や空間づくりまで含めた体験に気を配ることが、リピーターづくりにつながります。

衛生管理はマニュアル化と習慣づけで保つ

自宅と調理場の距離が近いため、一般的な店舗以上に衛生管理が求められます。住居部分から菌や異物が入り込まないように、日々の衛生習慣を定着させることが大切です。

具体的には、次のような取り組みをおすすめします。

  • 調理前後の手洗いの徹底
  • 食材の温度管理や期限の確認
  • 使用後の調理器具の洗浄と消毒
  • 排水口や換気扇などのこまめな清掃

これらをマニュアルにまとめておくと、誰かに手伝ってもらう場合にも共有しやすくなります。日々の積み重ねが、お客様の安心感や信頼につながるでしょう。

計画的な準備が、自宅での飲食店開業を成功に導く

自宅で飲食店を開業することは、一定の条件を満たせば可能です。ただし、営業許可やリフォーム、近隣対応など、通常の店舗開業とは異なる準備が求められます。

テイクアウトやデリバリーなど、自宅でも実施しやすいスタイルを選び、保健所との事前相談を重ねながら、必要な設備やルールを整えていくことが重要です。加えて、地域との関係性や集客、衛生管理といった日々の運営面でも、丁寧な姿勢が問われます。

何よりも大切なのは、安易な考えで始めないことです。しっかりとした事業計画を立て、保健所などの専門機関に相談しながら一歩ずつ着実に進めることが、地域に愛されるお店をつくることにつながるでしょう。


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