- 作成日 : 2025年8月8日
アルバイトの休業補償とは?支給条件や掛け持ちの場合、休業手当との違いを解説
アルバイトで働いているあなたが、もし会社都合で休業になったり、仕事中の病気や事故で働けなくなったりした場合、「休業補償」がもらえるのか、いくらもらえるのか、不安を感じるかもしれません。この記事では、アルバイトの休業補償について、休業手当との違いや、もらえる条件、具体的な計算方法、さらには掛け持ちの場合の注意点まで、安心して休業補償を受け取るための情報を提供します。
目次
アルバイトも休業補償はもらえる?
アルバイトやパートでも、条件を満たせば休業補償を受け取ることができます。シフト制や時給制でも、労働者として労災保険の対象となっている職場で働いていれば、原則として補償の対象になります。
休業補償と休業手当は混同されがちですが、それぞれ異なる性質のお金です。
休業補償は仕事中のケガや病気が原因で働けなくなった場合に、労災保険から支給される非課税の給付です。
一方、休業手当は、会社の都合で勤務ができなくなったときに会社が支払うもので、こちらは所得税の課税対象です。
なお、休業の最初の3日間(待期期間)は、労災保険からの補償は出ませんが、業務災害であれば、労基法第76条により、会社は平均賃金の60%を休業補償として支払う義務があります(通勤災害の場合は除く)。
4日目以降から労災保険による休業補償が支給される仕組みです。この3日間には、パート・アルバイトのシフトが入っていない日や会社の所定休日など、もともと労働義務のない日は原則として含まれません。
休業補償と休業手当の違い
休業補償 | 休業手当 | |
---|---|---|
支給元 | 労災保険 | 会社 |
対象となる理由 | 業務上の傷病(ケガ・病気) | 会社都合による休業 |
支給開始時期 | 休業4日目から(最初の3日間は会社が負担) | 休業初日から |
税金の扱い | 非課税 | 所得税の課税対象 |
アルバイトが休業補償をもらえる条件や期間
例えば飲食店で働くアルバイトやパートでも、業務中のケガや体調不良によって働けなくなった場合、休業補償の対象になります。以下の条件すべてを満たしていることが必要です。
アルバイトが休業補償を受け取るには、以下の条件をすべて満たす場合に支給されます。
1. 業務中のケガや病気であること
厨房でのやけど、重い食材の持ち運びによる腰痛、配膳中の転倒など、仕事中に発生したケガや病気が対象になります。ランチのピーク時に滑って転倒した、といったケースも該当します。
2. 医師から「勤務不可」と診断されていること
ケガや病気でシフトに入れないだけでなく、「働けない」という診断が必要です。例えば、「厨房の立ち仕事は当面禁止」と医師に言われた場合などです。
3. その期間、給料をもらっていないこと
休業中に給料が全く支払われていないことが基本条件です。1日分だけ支払われていた場合でも、その分は補償額から引かれて調整されます。
休業補償を受けられる期間
休業補償は、休業開始から4日目以降に支給が始まります。例えば、火曜日にケガをして休業を開始した場合、金曜日から労災保険からの支給が始まります。
最初の3日間(水曜〜金曜)は、会社が平均賃金の6割以上を支払う義務があります。この3日間を「待機期間」と呼びます。
休業補償の支給期間には直接的な上限日数はありませんが、療養開始から1年6か月が経過してもケガや病気が治らず、その障害の程度が法令で定める傷病等級(第1級~第3級)に該当する場合には、休業補償給付から傷病(補償)年金に切り替わります。
休業補償がもらえないケース
休業補償は、すべての休業に対して支払われるものではありません。次のようなケースでは支給対象外となります。
- 業務外のケガや病気
私生活中の事故や体調不良は労災補償の対象外です。ただし、通勤途中の交通事故は『通勤災害』として労災の適用対象になる可能性があります。このような場合は、健康保険の傷病手当金が適用される可能性があります。 - 医師の判断で労働可能とされている場合
医師から「勤務に支障がない」と診断された場合や、治療の必要がないと判断された場合は、補償は打ち切りになります。 - 故意や重過失による負傷
アルバイト本人がわざと負傷した場合や、重大な過失による事故(安全対策の無視など)が原因でケガをした場合は、補償の対象から外れます。
アルバイトの休業補償給付の計算方法
アルバイトやパートの休業補償給付の金額は、平均賃金に基づいて計算されます。時給制やシフト制でも、計算方法は正社員と基本的に同じです。
休業補償給付の計算式
休業補償給付の金額は、以下の計算式で算出されます。
休業補償給付の支給額は「給付基礎日額」の80%で、このうち60%が休業補償給付、残り20%が休業特別支給金です。
ここでいう「給付基礎日額」とは、原則として業務上の傷病が発生する直前の3ヶ月間の賃金総額を、その期間の総日数で割った1日あたりの平均賃金を指します。
時給制やシフト制のアルバイトの場合でも、この方法で給付基礎日額が計算されます。
最低保障額について
勤務日数が少ないアルバイトなどの場合、平均賃金が実態よりも低く計算される可能性があります。そのため、通常の平均賃金に加えて「最低保障額」も計算し、高い方の金額を給付基礎日額として採用します。
【最低保障額の計算式】
この制度は、労働者災害補償保険法に基づいており、厚生労働省が所管しています。
週3日勤務のアルバイトの例
時給1,200円、1日6時間、週3日勤務(月・水・金)のアルバイトAさんが、労災により10日間休業した場合を例にします。
- 賃金総額(直近3か月間・39日勤務):
1,200円 × 6時間 × 39日 = 280,800円 - 平均賃金(原則):
280,800円 ÷ 92日(暦日) ≈ 3,052円 - 最低保障額:
280,800円 ÷ 39日 × 60% = 4,320円
→ この場合は最低保障額の方が高いため、給付基礎日額は4,320円となります。 - 支給額:
4,320円 × 80% = 3,456円(1日あたり)
3,456円 × 10日 = 34,560円(総額)
なお、労災による休業は、実際の勤務日だけでなく休日も含めて補償対象となります。
週3日勤務でも休業補償は毎日もらえる?
アルバイトであっても、実際にシフトが入っていた日だけでなく、労災によって働けない状態が継続している期間中のすべての暦日(カレンダー上の連続した日数)が補償対象となります。
これは正社員と同様で、「休んだ日が勤務日だったかどうか」は関係ありません。
時効に注意
休業補償給付の請求権は、賃金を受けなかった日ごとに発生し、その翌日からそれぞれ2年で時効となります。休業した日の翌日から2年以内に申請しないと、給付を受け取る権利が消滅してしまうため、早めの手続きが重要です。
アルバイトの休業補償の申請方法
労災による休業補償給付を受け取るには、所定の手順に沿って申請する必要があります。申請は本人でもできますが、通常は勤務先を通じて行います。
休業補償の申請の流れと必要書類
休業補償給付の申請は、以下の手順で行います。
1. 医療機関で受診・診断を受ける
ケガや病気が発生したら、まず速やかに病院を受診し、医師の診断を受けます。このとき重要なのは、「労災である可能性がある」ことを医療機関に必ず伝えることです。通常の健康保険ではなく、労災保険での診療となるため、受付で「労災扱いで受診したい」と明確に伝える必要があります。
医師からは診断書をもらっておきましょう。これは後に必要となる申請書類のひとつです。
2. 会社・勤務先に報告する
受診後は、会社に対して業務中または通勤中のケガや病気であることと、休業が必要な状況であることを報告します。会社は労災申請に協力する義務があるため、必要書類の準備や証明欄の記入などをサポートしてくれます。
3. 必要書類をそろえる
休業補償給付の申請にはいくつかの書類が必要になります。主なものは以下のとおりです。
書類名 | 用途 | 誰が準備・記入するか |
---|---|---|
様式第5号(業務災害) 様式第16号の3(通勤災害) | 労災指定医療機関で治療を受ける(窓口負担なし) | 本人が記入し、会社(事業主)が証明欄を記入 |
様式第7号(1)(業務災害) 様式第16号の5(1)(通勤災害) | 労災指定病院でない病院を受診(費用を一旦全額自己負担した後に請求) | 本人が記入・病院が証明欄を記入(提出先は労基署) |
休業補償給付支給請求書(様式第8号) | 休業補償を請求するための主な書類 | 本人が記入し、会社(事業主)が証明欄を記入 |
医師の診断書 | 業務上の傷病であること、休業の必要性を証明 | 医師が作成(本人が依頼) |
出勤簿・賃金台帳 | 給付基礎日額を算出するための資料 | 会社が用意し提出 |
労働者死傷病報告(軽微な災害を除く) | 労災の発生を監督署に報告する書類 | 会社が提出(本人が提出することはない) |
休業届などの社内書類 | 待機期間中や社内給与処理に必要な場合 | 本人が記入し、会社が処理 |
- 申請書類のほとんどは会社を通して提出されます。本人が直接提出する場合でも、会社の証明が必要なものが多いため、協力が不可欠です。
- 書類の様式は労働基準監督署のウェブサイトでダウンロード可能です。
- 書類不備や記入漏れがあると、支給が遅れる場合があるため、記入前に労働基準監督署や会社の労務担当に確認するのが安心です。
参考:主要様式ダウンロードコーナー (労災保険給付関係主要様式)|厚生労働省
4. 労働基準監督署へ提出する
書類がそろったら、勤務先の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。通常は会社がまとめて提出しますが、本人が直接提出することも可能です。提出先の監督署や受付時間は、事前に確認しておくとスムーズです。なお、労働基準監督署の受付時間は平日のみである点に注意が必要です。
5. 審査と支給決定
書類提出後、労働基準監督署で審査が行われます。問題がなければ支給が決定され、指定した口座に休業補償給付金が振り込まれます。支給までにはスムーズに進めば1~3か月程度で支給されることもありますが、災害状況の調査が必要な場合などは、半年以上かかることもあります。
会社の待機期間中の費用負担と手続き
労災(労働災害)で仕事を休んだ場合、休業補償給付が支給されるのは休業4日目以降からです。最初の3日間は「待機期間」とされており、この間の補償は労災保険ではなく、会社が直接支払う義務があります(労働基準法第76条)。
この3日間分の賃金に相当する金額は、通常の給与と同様に、会社が本人に直接支払います。処理の方法は企業によって異なりますが、一般的には以下のような対応や手続きが求められます。
- 所定の申請書の記入
社内手続きとして、休業申請書や報告書の提出が必要になる場合があります。 - 診断書や出勤簿の提出
休業の事実や期間を確認するために、医師の診断書や出勤簿などの資料を求められることがあります。 - 勤務・賃金情報の確認
賃金相当額の計算のため、勤務日数、時給、直近の給与状況などについて確認されることがあります。
これらの手続きや書類の要件は会社ごとに異なるため、労災による休業が発生したら、できるだけ早く人事や労務担当者に相談することが大切です。
万が一、会社がこの3日間の補償に対応しない、または不当に遅れているような場合は、管轄の労働基準監督署に相談することも選択肢の一つです。適切な支払いを受けるためにも、状況に応じて公的機関の支援を活用しましょう。
アルバイトを掛け持ちしている場合の休業補償はどうなる?
アルバイトを掛け持ちしている場合、ケガや病気を負った状況や、掛け持ち先の就労実態によって、補償の対象となる収入や金額が変わることがあります。
原則はすべての勤務先の賃金を合算した額を基に計算
2020年9月の制度改正により、「複数事業労働者制度」が導入されました。これにより、複数の仕事を掛け持ちしている労働者が労災に遭った場合、原則としてすべての勤務先の賃金を合算した額を基に給付額が計算されます。例えば、A社での勤務中にケガをした場合でも、B社から得ている賃金も含めて休業補償額が算定されます。
休業補償の原因が会社の場合、アルバイトは会社に請求できる?
休業の原因が会社の過失や不法行為にある場合、労災保険とは別に、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。その場合には、法的な証拠や因果関係の立証が必要になります。
労災保険からは、医療費や休業補償などの給付が支給されますが、それだけでは補えない損害(たとえば慰謝料や賃金の全額補償との差額など)がある場合は、会社に対して民事上の損害賠償請求をすることが可能です。
これは、会社が安全配慮義務を怠った場合や、不法行為(例:ハラスメント)を行った場合に該当します。
損害賠償を請求できる例
以下のようなケースでは、損害賠償請求が認められる可能性があります。
- 安全対策の不備
例:機械に安全カバーがなく、事故につながった - ハラスメントによる精神的損害
例:パワハラ・セクハラを受け、うつ病などを発症し休業に至った
これらは、労災保険の補償とは別に、会社に責任があると判断される部分について請求できるものです。
会社への請求方法
会社に損害賠償を請求する場合は、まず会社と話し合い、示談での解決を試みるのが一般的です。話し合いで解決しない場合は、内容証明郵便で請求書を送付したり、労働審判や民事訴訟などの法的手続きを検討したりすることになります。
このような状況になった場合は、弁護士や労働基準監督署に相談することをおすすめします。 専門家のアドバイスを受けることで、適切な請求方法や必要な証拠について具体的に知ることができます。
アルバイトでも正しく申請すれば休業補償を受けられる
アルバイトやパートでも、労災によるケガや病気で働けなくなった場合、条件を満たせば休業補償給付を受けることができます。補償対象は暦日単位で、勤務日かどうかに関わらず支給されます。
休業手当との違いや、掛け持ちの場合の取扱い、会社が原因の場合の損害賠償請求についても知っておくと安心です。申請手続きは会社と連携し、早めに進めましょう。
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