- 更新日 : 2025年6月19日
社会保険の健康保険料はどのくらい?計算方法や標準報酬月額の仕組みを解説
健康保険料や厚生年金保険料がどのように計算されるかは、実務に携わる者として当然備えておくべき基礎知識です。社会保険に関する知識が不足したまま給与計算を行うと、従業員から徴収すべき保険料に過不足が生じ、従業員からの信頼を損ないかねません。
保険料計算のミスによる問題を防ぐため、本記事では、社会保険の制度概要や健康保険料、厚生年金保険料の計算方法や事業主・従業員の負担割合、実務上の注意点を解説します。
目次
社会保険とは
社会保険とは、病気やケガ、老後、失業などのリスクに備えるために設けられた公的な保険制度です。主に会社員や公務員など、一定の条件を満たす労働者は、原則として加入が義務づけられています。
保険料は、毎月の給与から自動的に差し引かれる仕組みになっています。
社会保険料の種類
社会保険料には複数の種類があり、それぞれが異なる目的に使われます。主な保険料は下記の5種類です。
保険の種類 | 概要 |
---|---|
健康保険料 | 業務外の病気・ケガ・出産・死亡に備える医療保険 |
厚生年金保険料 | 老後の生活保障(老齢年金)・障害・死亡に備える年金 |
介護保険料 | 将来、介護が必要になった際の費用に備える保険 |
雇用保険料 | 失業した場合の生活保障や再就職支援に備える保険 |
労災保険料 | 業務中や通勤中の事故による病気・ケガに備える保険 |
これらの保険料は、加入者ごとに定められた料率で計算され、給与から控除されます。
社会保険料の負担割合
社会保険料は、労働者がすべて負担するのではなく、会社(事業主)も負担するのが原則です。
- 健康保険・厚生年金・介護保険:原則、折半(50%ずつ)
- 雇用保険:事業主と従業員で分担(業種により料率が異なる)
- 労災保険:事業主が全額負担
たとえば、健康保険料が月2万円かかる場合、従業員と会社がそれぞれ1万円ずつを負担します。この負担割合を理解しておくことで、昇給で実際にどれだけ手取りが増えるか、事業主が負担すべき保険料がどれぐらい増えるかについて一定程度見通しが立ちます。手取り額のブレを抑える調整や、年末調整・退職時の精算対応にも役立つでしょう。
参考:
健康保険法 | e-Gov法令検索
厚生労働省|介護保険制度について
厚生労働省|労働保険料の申告・納付
以下の記事では、雇用保険の会社負担について解説していますので、あわせてご覧ください。
健康保険料の計算に必要な標準報酬月額とは
健康保険料や、厚生年金保険料を算出する際の基準となるのが「標準報酬月額」です。実際の給与額をもとに、あらかじめ定められた等級区分に当てはめた金額で、社会保険料のほか将来の年金額の計算にも使われます。
標準報酬月額の計算には、基本給だけでなく、役職手当や通勤手当、残業代なども含まれます。一方、出張旅費や慶弔見舞金のような、労働の対価とはみなされない一時的な収入は含まれません。
以下の記事では、標準報酬月額について詳しく解説していますので、理解を深めたい方は参考にしてください。
標準報酬月額の決まり方
社会保険に加入する際、入社時や労働条件の変更時点での契約内容をもとに、初回の標準報酬月額が設定されます。そのあと、毎年1回「定時決定」という仕組みによって見直しが行われます。
定時決定は、4〜6月の3ヶ月間に実際に支払われた報酬の平均額をもとに、「算定基礎届」が事業主から提出される手続きのことです。この平均額に該当する等級に基づき、9月から翌年8月までの標準報酬月額が適用される流れです。
なお、すべての被保険者が定時決定の対象ではありません。6月2日以降に社会保険に加入した被保険者、7~9月に随時改定(後述)に該当する被保険者は、定時決定の対象外となります。
定時決定の対象とならないケース
標準報酬月額の決定には原則「定時決定」が用いられますが、下記の場合は例外として別の方法で決定・改定されます。
- 6月2日以降に新たに被保険者となった場合
- 賃金に大きな変動があった場合(随時改定)
昇給や降給などで固定的賃金に変動があり、結果として現在の標準報酬月額と実際の給与に2等級以上の差が生じた場合、「月額変更届」を提出する必要があります。これを「随時改定」と呼び、変動後3ヶ月間の報酬平均をもとに新たな標準報酬月額が適用される仕組みです。
とくに7〜9月に随時改定が発生した場合は、定時決定よりも優先され、定時決定の対象外となります。このように制度を正しく理解しておくことで、従業員も企業も適切な保険料を負担し、将来の年金や給付に備えられるでしょう。
社会保険の定時決定・随時改定について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
毎月の給与にかかる社会保険料の計算方法
社会保険料は、給与計算の中でもとくにミスが許されない重要項目です。担当者は最新の保険料率や計算基準を正確に把握し、適切に処理する責任があります。
ここでは、各保険料の計算式や最新の保険料率について、項目ごとに解説していきます。
健康保険料
健康保険料は、標準報酬月額に保険料率をかけて算出されます。基本的な計算式は下記のとおりです。
- 健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率
- 従業員が負担する健康保険料=健康保険料÷2
健康保険料率は、加入している健康保険組合によって異なります。また、全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合は、都道府県ごとに料率が設定されています。
毎年見直されるため、必ず最新の情報を公式サイトで確認しましょう。
厚生年金保険料
老後の生活を支える厚生年金保険料も、標準報酬月額をもとに計算します。
- 厚生年金保険料=標準報酬月額×18.3%
- 従業員の負担額=上記で算出した保険料÷2
厚生年金保険料率は、平成16年(2004年)から段階的に引き上げられてきました。しかし、平成29年9月に最後の引き上げが完了し、18.3%で固定されました。
健康保険料とは異なり、料率は全国一律となります。毎年行われる定時決定で標準報酬月額が変更されない限り、負担額は変わりません。
参考:全国健康保険協会|令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額(東京都)
介護保険料
介護保険料は、40歳以上65歳未満の従業員が対象です。健康保険に上乗せする形で徴収されます。計算式は下記のとおりです。
- 介護保険料=標準報酬月額×介護保険料率
- 従業員の負担額=上記で算出した保険料÷2
協会けんぽの場合、令和7年3月分からの介護保険料率は全国一律で1.59%です。ただし、社会情勢に応じて見直されるため、定期的な確認が必要です。
雇用保険料
雇用保険料は、これまでの3つとは計算の基準が異なります。標準報酬月額ではなく、残業代や手当を含む毎月の給与総支給額に、保険料率をかけて算出します。
- 雇用保険料=給与総支給額×雇用保険料率(労働者負担分)
令和7年4月1日から令和8年3月31日までの保険料率は、一般の事業で1.45%です。このうち、従業員(労働者)が負担する料率は0.55%、事業主が0.9%を負担します。
料率は、事業の種類によって異なるため注意が必要です。
参考:厚生労働省|令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内
労災保険料
業務中や通勤中のケガなどに備える労災保険料は、全額を事業主が負担します。そのため、従業員の給与から天引きされることはありません。
計算式は「全従業員の1年間の賃金総額×労災保険料率」です。事業主が年度はじめに申告・納付するのが一般的です。
料率は事業の種類ごとに災害リスクに応じて細かく定められており、毎年見直されます。
賞与(ボーナス)にかかる社会保険料の計算方法
毎月の給与だけでなく、賞与(ボーナス)からも社会保険料は天引きされる仕組みです。計算には、税引前の賞与額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」が基準として用いられます。
健康保険・厚生年金・介護保険は、標準賞与額にそれぞれの保険料率をかけて計算し、会社と従業員が折半で負担します。一方、雇用保険は実際の賞与額をもとに、料率をかけて計算されるのが基本です。
なお、標準賞与額には上限があり、健康保険は年度の累計で573万円、厚生年金保険は1ヶ月あたり150万円までと定められています。
社会保険料徴収の対象者
社会保険料は、各保険制度における加入対象者から徴収されます。基本的には、下記の条件に該当する従業員が対象です。
保険料の種類 | 対象 |
---|---|
健康保険・厚生年金 | 原則、法人企業のすべての従業員 個人事業は常時5人以上の特定業種の従業員が対象 |
介護保険 | 健康保険の加入者のうち、40歳以上65歳未満の方が対象 40歳到達月から保険料が徴収される点に注意が必要 |
雇用保険 | 週20時間以上勤務し、31日以上の継続雇用が見込まれる方が対象 |
このように、保険の種類によって加入条件は細かく定められています。加入対象となるか不確かな場合は、まず勤務先の人事・労務担当者に確認しましょう。
参考:
日本年金機構|適用事業所と被保険者
全国健康保険協会|介護保険制度と介護保険料について
厚生労働省|雇用保険の被保険者について
2024年10月から社会保険料の加入条件が拡大
2024年10月から、短時間労働者に対する社会保険の適用範囲が更に拡大されました。それまでは、従業員数101人以上の企業に勤務するパート・アルバイトが主な対象でした。しかし、現在は51人以上の事業所まで適用対象が拡大されます。
週20時間以上働いている短時間労働者も、社会保険に加入する機会が大きく増える見込みです。企業は、加入義務のある従業員を見落とさないように、就業実態をふまえた労務管理の体制整備が求められます。
社会保険料の納付方法
社会保険料は、企業がまとめて国に納付します。そのため、従業員が自ら手続きを行う必要は基本的にありません。
しかし、会社を退職した後や、勤務先の社会保険の加入対象でない場合は、個人で納付手続きが必要です。それぞれの納付方法を解説します。
企業が納付する場合
企業に勤務する正社員や、加入条件を満たすパート・アルバイトの場合、社会保険料は会社が毎月の給与から天引きします。会社が負担する分と合算し、国や自治体へ納付する仕組みです。
項目 | 詳細 |
---|---|
納付先 |
|
納付方法 |
|
納付期限 | 健康保険・厚生年金:原則として、対象月の翌月末日 雇用保険・労災保険:年度更新時に概算払(7月10日まで) |
会社が納付を怠ると延滞金が発生するため、企業の経理・人事担当者は期限内に正しく納付することが重要です。
以下の記事では、社会保険料の納入告知書についてわかりやすく解説していますので、担当者の方は参考にしてください。
従業員が自分で納付する場合
会社を退職した場合や、勤務先の社会保険に加入していない場合は、ご自身で保険料を納付する必要があります。ケースごとの手続きを、下表にまとめています。
ケース | 主な対応 | 加入する保険制度 | 詳細 |
---|---|---|---|
元従業員(退職後) | 会社を介した社会保険の加入・納付が終了するため、本人が保険料を直接納付する必要がある | 健康保険(任意継続) | 退職後も最大2年間、協会けんぽや健康保険組合に継続加入が可能 保険料は全額自己負担(会社負担相当分も含む) |
国民健康保険・国民年金 | 自営業・無職となった場合は、居住地の市区町村を通じて国保・国民年金に加入する 原則として、14日以内に申請手続きを行う | ||
従業員(現職) | – | 国民健康保険・国民年金 |
|
主な納付先や納付方法は、下記のとおりです。
種類 | 納付先 | 納付期限 | 納付方法 |
---|---|---|---|
任意継続(協会けんぽ・組合) | 協会けんぽ・保険組合 | その月の10日(10日が土日・祝日の場合は翌営業日)まで ※組合による | 納付書持参で金融機関またはコンビニ・口座振替・クレジット納付(自治体による) |
国民健康保険 | 市区町村 | 当月末日 | |
国民年金 | 年金事務所 | 翌月末日 |
参考:
全国健康保険協会|保険料の納付方法について
大陽日酸健康保険組合|よくある質問
日本年金機構|国民年金保険料
大阪市|国民年金保険料の納付
前納制度を活用すれば、一定期間分を一括で支払えます。
健康保険料を計算する際の3つの注意点
健康保険料の計算には、基本的なルールや計算式がある一方で、見落としがちな注意点もいくつか存在します。ここでは、健康保険料を計算・管理する際に押さえておきたいポイントを解説します。
1. 保険料率の定期改定に注意する
社会保険料の中には、年度や数年単位で見直されるものがあり、健康保険料率もそのひとつです。たとえば、協会けんぽでは毎年3月に保険料率が更新され、都道府県ごとに異なる料率が適用されます。
また、雇用保険料も年度ごとに変更される場合があります。古い料率をもとに計算すると、従業員から徴収すべき金額に誤差が生じるおそれがあるため、注意が必要です。
正確な保険料を算出・徴収するために、最新の料率を公式サイトで確認しましょう。
2. 年3回以下の支給は「賞与」とみなされる
毎月の給与とは別に年に3回以下の頻度で支給される報酬は、原則として「賞与」として扱われます。健康保険法・厚生年金保険法上の取り扱いで、通常の給与とは別に、賞与としての保険料が課されます。
賞与にかかる健康保険料や厚生年金保険料の計算式は、標準賞与額×各保険料率です。下記のように、一定の上限額も設けられています。
- 健康保険:年間累計額573万円
※毎年4月1日から翌年3月31日までの累計額 - 厚生年金:1ヶ月あたり150万円
報酬の支給回数や名目に関わらず、実務では賞与の定義に注意を払い、適切な保険料計算が求められます。
以下の記事では、賞与にかかる雇用保険料について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
3. 残業や手当が増えた月は標準報酬月額が変わる可能性がある
標準報酬月額は、毎年4~6月の報酬(支給額)をもとに決定されます。この期間に残業や各種手当が大幅に増えると、本来の基本給よりも高い報酬額で標準報酬月額が算出され、9月から翌年8月までの保険料が高額になる可能性があります。
とくに4〜6月が繁忙期にあたる企業は、残業代やインセンティブなど一時的な増加が影響を及ぼしやすくなるでしょう。結果、年間を通じた保険料の負担が増える場合もあるため、標準報酬月額の決定時期には注意が必要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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