- 更新日 : 2025年3月3日
退職者も給与支払報告書は必要?不要な場合や書き方の注意点を解説
退職者の給与支払報告書は、原則として作成・提出が必要です。本記事では、給与支払報告書と源泉徴収票の違いや給与支払報告書の提出が不要なケース、書き方の注意点、よくある質問などを解説します。退職者に関する手続きを正しく進めるために、必要な知識を確認しましょう。
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目次
退職者も給与支払報告書の作成は必要?
給与支払報告書は、市区町村が住民税を計算する際に欠かせない情報源となるため、原則として退職者も従業員と同様に対象となります。
給与支払報告書は、支払った給与額に基づいて作成し、対象は正社員やパート・アルバイトに限らず退職者も含まれます。提出先は、退職者が居住している市区町村です。
給与支払報告書の提出は地方税法により義務付けられています。提出を怠った場合、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されるおそれもあります。そのため、提出期限を守り、必要な書類を確実に作成・提出するようにしましょう。
給与支払報告書と源泉徴収票の違い
給与支払報告書と源泉徴収票は、記載内容がほぼ同じでも、目的と提出先が異なります。
給与支払報告書は、住民税の計算に必要な情報を市区町村へ提出するための書類です。各従業員の居住地に応じて、それぞれの市区町村に送付します。
一方、源泉徴収票は、給与額や源泉徴収した所得税額を明示する書類であり、提出先は税務署(一定額以上の場合)と従業員本人です。
退職者の給与支払報告書が不要なケース
退職者に対する給与支払報告書の作成義務は、支払った給与額によって判断されます。対象年度の給与が30万円を超える場合には、関係市区町村へ提出しなければなりません。一方で、30万円以下の給与に関しては、提出を省略できる場合があります。
ただし、多くの市区町村では、給与額が30万円以下であっても提出を推奨しており、金額に関係なく提出を義務付ける市区町村も存在します。住民税を正確に課税するには、給与支払情報が重要とされているためです。
提出期限は、給与を支払った年の翌年1月31日です。報告書には、前年1月1日から12月31日までに確定した給与総額を記載します。また、在籍している従業員については、30万円以下の給与でも提出が必要なため、混同しないよう注意が必要です。
退職者の給与支払報告書は書き方が異なる?
退職者に関する給与支払報告書の書き方は、在籍者とは一部異なります。まず、住所欄には退職時の住所を記載しなければなりません。そして、退職した年の1月1日から退職日までに支払われた給与の総額を正確に記入しましょう。
さらに、在職者と退職者を区別するため、「中途就・退職欄」の記載が必須です。この欄に正しく記入することで、給与支払報告書から退職者であることが明確になります。記載漏れがあると、後の手続きや確認作業に支障をきたす可能性があるため、作成時には注意を払いましょう。
退職者の給与支払報告書:個人別明細書の書き方
個人別明細書に記載すべき主な項目は以下のとおりです。より具体的な記載方法については、給与支払報告書と総括表の書き方徹底ガイドをご覧ください。
項目 | 記載内容 | 注意点 |
---|---|---|
住所欄 | 退職者の退職時の住所を記載 | 給与支払報告書の住所欄には、退職時の正確な住所を記載し、転居の有無を確認した上で適切に記載すること |
支払金額 | 退職年に支払が確定した給与などの総額を記入 | 過去の給与支払に誤りがあった場合は適切な修正が求められるため、金額を正確に確認する |
給与所得控除後の金額 | 「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」に基づいて計算された給与所得控除後の金額を記載 | 年末調整をしない場合は、空白にする |
所得控除額の合計額 | 社会保険料控除や扶養控除、基礎控除など各種控除の合計額を記入 | |
源泉徴収税額 | 源泉徴収票に基づき、源泉所得税と復興特別所得税の合計額を記載 | 年末調整をしない場合、その年に天引きした所得税等の合計金額を記載 |
中途就職・退職者欄 | 退職欄に〇を記入し、退職年月日を明記する | 記入もれがないよう、特に注意が必要 |
引用:目次、提出調書一覧、給与支払報告書(個人別明細書)|大阪市
退職者の給与支払報告書:総括表の書き方
総括表の左側は、給与支払者に関する情報を記載し、右側には、受給者に関する人員数を記載します。
右側の報告人員の内訳を記入する欄では、在籍者と退職者を分けて記載しなければなりません。
【給与支払報告書(総括表)の右側の欄】
報告人員 | 受給者総人員 | 人数 | |
---|---|---|---|
特別徴収 (住民税等を給与から差し引きする人) | 在職者 | 人 | |
普通徴収 (住民税等を給与から差し引きできない人) | 退職者・退職予定者 | 人 | |
乙欄・その他 | 人 | ||
計 | 人 |
報告人員の内訳には、一般従業員の人数を特別徴収の欄に記入します。退職者は、普通徴収の退職者の欄に退職した従業員の人数を記載しましょう。報告人員の欄には、在籍者数と退職者数、その他の従業員数の合計を記入します。
詳細な記載方法については、給与支払報告書と総括表の書き方徹底ガイドをご覧ください。
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退職者の給与支払報告書に関するよくある質問
退職者の給与支払報告書に関するよくある質問は、以下のとおりです。
給与支払報告書の退職者のマイナンバーは必要?
退職者の給与支払報告書には、マイナンバーの記載が必要です。ただし、従業員がマイナンバーの提出を拒否した場合には、記載しなくてもよいとされています。
従業員がマイナンバーの提出を拒否した場合、企業は提出が法的義務であることを再度伝えるべきですが、それでも提供を受けられない場合は、記載せずに提出できます。ただし、提供を求めた経緯について記録し、企業側の義務違反でないことを明確にしておきましょう。
退職者と連絡が取れないとき
退職者との連絡が取れなくなるのは、円満に退職しないケースでよく見られ、突然出社しなくなったり、引っ越しにより所在が不明になったりすることもあります。
たとえ退職者と連絡が取れない場合でも、会社は給与支払報告書を提出しなければなりません。この提出義務は、退職者に問題があった場合でも変わりません。
連絡が取れないことで業務に支障が出る場合、退職者が住んでいた市区町村の相談窓口に問い合わせ、適切な手続きを進めましょう。
退職者が引っ越して住所不明な場合
退職者が退職後に転居しているケースもあり得ます。退職者が、引っ越して連絡が取れなくなった場合でも、給与支払報告書の提出をしなければなりません。
在職中に転居していなければ、退職年度における1月1日時点での住所が基準となり、給与支払報告書は当該市区町村に提出するのが原則です。住所が不明な場合でも、退職時に把握していた市区町村の自治体に相談し、適切な手続きを行うようにしましょう。
給与支払報告書の提出期限が過ぎたらどうなる?
給与支払報告書の提出期限を守らない場合、事業主や事務担当者には最大1年の懲役または50万円以下の罰金が科せられるおそれもあります。
さらに、給与支払報告書は各従業員の住民税計算に使用されるため、提出が遅れることにより、住民税の請求時期もずれ込んでしまいます。
住民税の賦課が行われる6月に提出が間に合わない場合、12ヶ月分の税額を少ない月数で分割して支払うことになり、従業員の月々の納税負担が増えてしまう恐れもあるため必ず期限内に提出しましょう。
給与支払報告書の提出後、すぐ従業員が退職した場合は?
従業員が退職した際、住民税の徴収方法に変更が生じます。会社での天引き(特別徴収)が継続できなくなるため、個人での納付(普通徴収)への変更手続きをしなければなりません。手続きは、転職の状況により分かれます。
次の勤務先がすでに決定している場合は、勤務先によって天引きを継続するため、異動届出書を作成して退職者に渡し、退職者が新しい勤務先に提出しなければなりません。
一方、次の勤務先が未定の場合、退職の時期で対応が変わってきます。
- 年初から4月までに退職する場合
5月分までの住民税を最後の給与から差し引きます。ただし、給与が赤字にならないか、事前の確認が大切です。 - 5月に退職する場合
その月の住民税のみを徴収します。 - 6月~12月に退職する場合
基本的に個人納付となりますが、退職者の希望により、一括での天引きも可能です。
退職者についての給与支払報告書の内容や書き方を理解し、適切な手続きを踏もう
退職者の給与支払報告書の作成と提出は、正確な住民税の計算に欠かせません。給与額が30万円以下であっても提出が求められる場合もあります。また、提出期限を守ることも重要です。
退職者の情報は、退職時の住所や給与金額を正確に記入し、必要な項目に漏れがないようにしましょう。また、退職者と連絡が取れない場合でも、提出義務は変わりません。適切に対応し、提出書類に誤りがないよう努めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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