• 作成日 : 2026年1月19日

ストックオプションの公正な評価単価が下がる要因は?計算式や株価下落時の対策を解説

ストックオプションの公正な評価単価が下がる主な要因は、株価変動率(ボラティリティ)の低下、権利行使までの期間短縮、および算定時点での株価水準の低さにあります。評価単価が下がると、企業にとっては会計上の費用負担が減るメリットがある一方で、従業員のインセンティブ低下や税務リスクが生じる可能性もあります。

本記事では、評価単価が変動するメカニズムや計算ロジック、実際に株価が下がってしまった際の対策、そして条件変更時の会計処理までわかりやすく解説します。

ストックオプションの公正な評価単価とは?

公正な評価単価とは、ストックオプション付与時点における権利そのものの理論上の価値のことです。これは、将来権利を行使する際に支払う「権利行使価格」とは明確に区別されます。

  • 行使価額:権利行使時に支払う金額
  • 公正な評価単価:金融工学的なモデルを用いて「その権利にいくらの価値があるか」を算出したもの

上場企業やIPO準備企業の場合、この単価に基づいて「株式報酬費用」を計上する必要があります。評価単価が低いほど企業の利益圧迫要因は減少しますが、一方で従業員にとっては「価値の低い権利をもらった」とみなされ、インセンティブ効果が薄れる側面もあります。

参考:企業会計基準第8号ストック・オプション等に関する会計基準|企業会計基準委員会(ASBJ)

ストックオプションの公正な評価単価が下がる要因は?

ストックオプションの公正な評価単価を下げる要因は、主に以下の3点です。一般的にブラック・ショールズ・モデルや二項モデルを用いて計算される際、これらの変数が変化することで評価単価は下がります。

要因1. 株価変動率(ボラティリティ)の低下

ボラティリティが低いと、将来株価が大きく上昇する可能性も低いとみなされ、評価単価は下がります。

ボラティリティとは、株価が将来どの程度変動するかを示す指標です。

  • 変動率が高い:株価が権利行使価格を大幅に超えるチャンスが増えるため、オプション価値は上がります。
  • 変動率が低い:株価が安定しており変動が少ない場合、オプションとしての価値(時間的価値)は低く見積もられます。

要因2. 予想残存期間(権利行使期間)の短縮

権利行使までの期間が短いほど、株価が上昇する機会が減少するため、評価単価は下がります。オプションには「時間的価値」が含まれます。

  • 期間が長い:株価が上昇するチャンスが増えるため価値は高まります。
  • 期間が短い:行使期間が短い設定や、付与から時間が経過して満期が近づくと、時間的価値が減少し、評価単価は低下します。

要因3. 対象株式の株価(原資産価格)の下落

算定時点での株価が低い場合、権利行使益を得られる確率が減るため、評価単価は下がります。

現在の株価が権利行使価格よりも低い、あるいは低い水準にある場合、そこから利益が出る水準まで上昇するハードルが高くなるため、オプションの理論価値は低くなります。

【一覧表】各変数が評価単価に与える影響

各変数が変動した際、評価単価がどう動くかをまとめた表は以下の通りです。

変数(パラメータ)上昇した場合の影響下落した場合の影響
株価(原資産価格)評価単価は上がる評価単価は下がる
権利行使価格評価単価は下がる評価単価は上がる
ボラティリティ評価単価は上がる評価単価は下がる
残存期間評価単価は上がる評価単価は下がる
配当利回り評価単価は下がる評価単価は上がる
無リスク利子率評価単価は上がる評価単価は下がる

評価単価が下がることによるメリット・デメリットは?

評価単価の下落は、企業側にはコスト削減のメリットがある一方、税務上のリスクもあります。

メリット:株式報酬費用の計上額を抑制できる

最大のメリットは、会計上の利益確保です。 ストックオプション(特に有償ストックオプションや信託型など)を発行する際、企業は公正な評価単価に基づいた費用を損益計算書(P/L)に計上しなければなりません。

  • 費用の抑制:評価単価が低く算出されれば、費用として計上すべき株式報酬費用が減少します。これにより、営業利益へのインパクトを最小限に抑えることが可能です。
  • 投資家への説明:既存株主に対して、希薄化(ダイリューション)の懸念はあるものの、会計上のコスト負担が少ないことを説明しやすくなります。

デメリット:税制適格性否認(給与課税)の可能性

一方で、権利行使期間を延長するなどして評価単価が下がった場合は危険です。税制適格ストックオプションの要件を満たさなくなり、税制非適格ストックオプションとして給与課税が課されるリスクが生じます。そのため、条件を変更する場合は税制適格ストックオプションの要件を引き続き満たしているかどうか、注意が必要です。

参考:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/r05_stock_option_faq.pdf

株価が権利行使価格を下回った場合の対策は?

市場環境の変化などで株価が下がり、権利行使価格を割ってしまった状態を「アンダーウォーター」と呼びます。この状態では権利を行使しても損をするため、インセンティブ効果が消失します。 これを解消するための主な対策は以下の3つです。

対策1. リプライシング(権利行使価格の修正)

既存のストックオプションの権利行使価格を、現在の低い株価に合わせて引き下げる手法です。

  • メリット:従業員は再び含み益を得られる可能性が生まれます。
  • デメリット:既存株主にとっては「業績悪化のペナルティを経営陣が負わず、利益だけ享受しようとしている」と映るため、株主総会での承認ハードルは非常に高いのが現実です。機関投資家(議決権行使助言会社など)は原則として反対推奨を行う傾向にあります。また、税制適格ストックオプションの場合、要件を引き続き満たすかどうか、注意が必要です。

対策2. ストックオプションの再付与

既存の権利を放棄させ、現在の株価水準で新たなストックオプションを発行し直す手法です。

実質的な効果はリプライシングに近いですが、会計処理上は「既存オプションの費用計上の継続」に加え「新規オプションの費用計上」が発生するため、コスト負担が増大する可能性があります。

対策3. 業績連動型(パフォーマンス・シェア)への切り替え

株価だけでなく、売上高やEBITDAなどの業績目標達成を条件とする報酬制度を併用します。

市況全体の影響で株価が下がっている場合でも、従業員の努力が反映される業績指標を用いることで、モチベーションの維持を図ります。RS(譲渡制限付株式)やRSU(譲渡制限付株式ユニット)などのフルバリュー型プランの導入も一つの解決策です。

条件変更時の会計処理のルールは?

アンダーウォーター対策などで条件変更(リプライシング等)を行った場合、再評価によって単価が変動します。重要なのは、単価が下がっても費用は減らせないという会計ルールです。

ケース1. 条件変更により公正な評価単価が上がる場合

追加費用の計上が必要です。

条件変更日において、「変更後の単価」から「変更前の条件での単価」を差し引いた差額(増加した価値分)を、追加の株式報酬費用として認識します。増加分を残存期間にわたって按分して上乗せ計上します。

ケース2. 条件変更により公正な評価単価が下がる場合

費用の減額は行わず、当初の費用計上を継続します。

仮に行使価格を変更した結果、評価単価が下がったとしても、過去に決定した費用認識額を引き下げることは認められません。変更前の「付与日時点の単価」に基づいた費用計上をそのまま継続します(減額処理は不可)。

変動の方向条件変更後の評価単価の動き会計処理(費用認識)
価値上昇変更前より高くなる追加費用を計上
(増加分を上乗せ)
価値下落変更前より低くなる変更なし
(当初の計画通り継続、減額不可)

参考:企業会計基準適用指針第11号ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針|企業会計基準委員会(ASBJ)

権利の失効や見込みが変わった場合の処理は?

評価単価自体は原則固定ですが、計算のもう一つの要素である「数量」の変動は費用に反映されます。

  • 失効見込みの変更:期末ごとに退職率などを見直し、変更後の見込みに基づいて当期末までに費用処理すべき金額を算出し、そこから前期末までに費用計上した金額を差し引いて当期の費用を算出します。
  • 権利確定後の失効:権利行使期間に入ってから、行使されずに期間満了(失効)した場合、その金額は「新株予約権戻入益」として特別利益に計上します。

評価方法や算定モデルによる違いは?

公正な評価単価を算出するには、適切なモデルの選定が必要です。どのモデルを使用しても、「一度決めた付与日時点の単価は、条件変更がない限り動かさない」という会計処理のルールは共通です。

  • ブラック・ショールズ・モデル:簡便で一般的だが、権利行使が満期のみと仮定されるなど制約がある。
  • 二項モデル:権利行使のタイミングを柔軟に反映できるが、計算負荷が高い。

いずれの場合も、会計基準に則り、恣意性のない客観的なデータを入力して算定することが求められます。

公正な評価単価が下がる要因と影響を理解しよう

ストックオプションの公正な評価単価が下がるメカニズムとその影響について解説しました。

  • 下落の主因:株価変動率(ボラティリティ)の低下や残存期間の短縮が主な要因。
  • 会計上の影響:評価単価の低下は、企業の株式報酬費用を圧縮できるメリットがあるが、税務リスクには注意が必要。
  • 株価下落時の課題:アンダーウォーター状態でのリプライシングは、株主説明のハードルが非常に高い。
  • 会計処理:条件変更で単価が下がっても、費用の減額はできない(追加計上はあり得る)。

ストックオプションは設計時のシミュレーションだけでなく、付与後の株価推移に応じたメンテナンスや、税制適格要件の遵守が重要です。専門家と連携し、公正かつ効果的な制度運用を目指しましょう。

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