• 作成日 : 2025年12月11日

派遣会社設立は儲かる?経営者の年収や利益率、マージン率、儲かる仕組みまで解説

派遣会社設立は儲かるビジネスとして注目されることがありますが、その経営は容易ではありません。実際の平均営業利益率は約1.2%と低く、薄利多売になりがちです。加えて資金繰りリスク等もあり、高い収益を上げ、経営者として高い年収を得るには、緻密な戦略が不可欠です。

この記事では、派遣業の収益のからくり、マージン率と利益率の違い、ピンハネと誤解される理由と違法性、そして儲かるための具体的な経営戦略を徹底解説します。さらに、設立ハードルが高い派遣業に対し、別の選択肢として人材紹介業を検討するメリットについても触れていきます。

派遣会社設立が儲かる仕組みは?

派遣会社が儲かる仕組みは、派遣先から受け取る派遣料金と派遣スタッフへ支払う賃金の差額(マージン)から、社会保険料や運営経費などを適正に支払い、最終的な利益を生み出すことです。

「マージン=ピンハネ」という誤解が生じることがありますが、派遣会社は雇用主としてこれらの法定費用を必ず負担する必要があり、マージン徴収は労働者派遣法に基づく合法的な事業活動です。

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

マージンはピンハネではなく事業経費

派遣会社はマージン率を公開する義務(労働者派遣法23条5項)があり、社会保険料・有給休暇費用・教育訓練費・募集広告費・営業人件費・事務所維持費など、法定費用や業務運営にかかる実費をマージンから負担しています。

そのため、差額がそのまま派遣会社の利益になるわけではありません。

しかし、派遣会社はこの600円の中から、以下の費用を支払っています。

  • 社会保険料(時給1,400円に対する会社負担分)
  • 有給休暇を取得した際の賃金
  • スタッフ募集のための広告費
  • 営業担当者や給与計算担当者の人件費
  • 事務所家賃、光熱費
  • キャリアアップのための教育訓練費用

これらすべてをマージンから支払った残りが、会社の利益(平均約1.2%)となります。

注意すべき違法なピンハネ(中間搾取)

違法な中間搾取に該当するケースには、以下等が該当します。

  • 派遣先が指揮命令を外部へ移して再派遣する「二重派遣」
  • 労働者に登録料・紹介料などを不当に課す行為(労働者派遣法40条の6)

これらは明らかに違法です。

派遣会社は、法律でマージン率などの情報を公開する義務があります。これを隠蔽し、不透明な経営を行うことは問題視されます。

派遣会社設立が儲からないと言われる理由は?

派遣業が儲かりにくい最大の理由は、売上(派遣料金)の大部分がスタッフの給与や社会保険料で占められ、会社の利益として残る部分が非常に少ないビジネスモデルだからです。

1. 営業利益率が平均1.2%と低い

一般的に派遣会社のマージン率は平均約30%程度です。しかし、この30%がすべて会社の利益になるわけではありません。

日本人材派遣協会のデータによれば、マージン(30%)のほとんどは以下の経費で占められます。

  • 社会保険料(会社負担分):約10.9%
  • 有給休暇費用:約4.2%
  • その他経費(募集・教育・運営費など):約13.7%

これらを差し引いた最終的な営業利益率は、わずか約1.2%です。これが儲かりにくいと言われる最大のからくりです。
派遣会社は「給与先払い・入金後払い」という構造のため、売上が急増すると運転資金が不足しやすく、資金繰り悪化が大きなリスクとなります。

参考:派遣という働き方|一般社団法人日本人材派遣協会

2. 人件費・社会保険料などの負担増加

近年の社会保険料率の上昇や、法改正によるキャリアアップ支援(教育研修費)の義務化などにより、派遣会社が負担すべき経費は年々増加傾向にあります。

これらのコスト増加分を、そのまま派遣料金に転嫁(値上げ)することは容易ではないため、結果として利益を圧迫する要因となっています。

3. 莫大な売上が必要な薄利多売モデル

営業利益率が1.2%ということは、仮に100万円の売上があっても、利益は1万2,000円にしかなりません。

経営者が十分な年収を得て、会社を成長させるためには、非常に多くの派遣スタッフを稼働させ、莫大な売上高を確保する必要があります。この薄利多売の仕組みが、派遣経営の難しさを示しています。

派遣会社経営者の平均年収は?

派遣会社経営者の平均年収に関する公的な統計はありませんが、営業利益率が1.2%と低いため、年収は事業規模に完全に依存します。設立後、数百人規模の稼働を達成して初めて、1,000万円超などの高年収が現実的になります。

経営者の役員報酬は、会社の営業利益から捻出されます。仮にスタッフ1人あたりの年間売上を400万円、営業利益率を1.2%と仮定した場合、経営者の年収の源泉となる営業利益は以下のようになります。

稼働スタッフ数年間売上高(目安)営業利益(目安)
20名8,000万円96万円
100名4億円480万円
500名20億円2,400万円

派遣会社設立直後から儲かる状態になり、経営者が高い年収を得ることは不可能です。薄利多売モデルの中で、地道に規模を拡大していく忍耐強い経営が求められます。

派遣会社設立が儲かるための経営戦略は?

低い利益率を克服し儲かる派遣会社にするには、以下のような戦略が重要です。

総じて利益率改善の鍵は、直請け比率の向上です。

二次請け・三次請けではマージンが分散し、利益率は大幅に低下することには留意が必要です。

1. 高単価領域に特化し利益率を上げる

利益率を改善する最も有効な戦略は、高単価領域へ集中することです。

ITエンジニア、看護師・介護福祉士、施工管理技士、CADオペレーターなど、専門スキルが必要で人材不足が顕著な分野に特化する ことで、高い派遣料金を設定しやすくなり、利益率の改善に直結します。利益率が低い最大の要因は、競合が多い分野での価格競争だからです。

2. KPI管理による徹底したコスト削減

薄利多売モデルでは、わずかなコスト管理の差が利益を大きく左右します。以下のKPI(重要業績評価指標)を重視すべきです。

  • CPA(Cost Per Acquisition):派遣スタッフ1人を採用するためにかかったコスト。CPAを低く抑えることが重要です。
  • 稼働率:登録しているスタッフのうち、実際に派遣先で稼働しているスタッフの割合。待機スタッフを減らし、稼働率を高く維持することが売上に直結します。

3. 継続契約率の向上

儲かる仕組みを安定させるには、継続契約率の向上が不可欠です。

営業担当による手厚いフォローアップや、適切なキャリア相談、スキルアップ支援を通じてスタッフの定着率を高め、派遣先との継続契約率を上げる ことで、採用コストが際限なく発生することを防ぎ、利益圧迫を回避できます。

4. 損益分岐点の可視化

派遣会社設立当初から、何人稼働すれば赤字から黒字になるのかという損益分岐点を正確に計算し、可視化することが重要です。また、派遣業は給与先払い・入金後追いとなるため、莫大な運転資金が必要です。自社のキャッシュフローと損益分岐点を把握し、利益が出る仕組みを設計することが、経営の第一歩です。

派遣会社設立ではなく人材紹介業という選択肢も

派遣会社設立は、最低2,000万円の資産要件など許可ハードルが非常に高く、かつ低利益率です。そのため、より低い参入障壁で高利益率が期待できる人材紹介業への参入を検討することも有力な選択肢です。

派遣業と人材紹介業は、どちらも人と企業を繋ぐビジネスですが、許可要件、ビジネスモデル、収益構造(利益率)が大きく異なります。

派遣会社設立の許可要件

派遣業(労働者派遣事業)を始めるには、厳しい許可要件をクリアしなければなりません。

項目派遣業(労働者派遣事業)
財産的基礎要件(1) 基準資産額 ≧ 2,000万円 × 事業所数
(2)(1)のうち 現金・預金額 ≧ 1,500万円 × 事業所数
事務所要件原則 20㎡ 以上の面積、面談スペースの確保など
その他派遣元責任者の選任(講習受講必須)など

この最低2,000万円の資産という要件が、設立時の最大のハードルとなります。

参考:労働者派遣事業・職業紹介事業・募集情報等提供事業等 |厚生労働省

人材紹介業のメリット

人材紹介業(有料職業紹介事業)は、企業に正社員や契約社員を紹介(斡旋)し、採用が決定した時点で紹介手数料を受け取るビジネスです。

派遣業と比較した場合、人材紹介業には以下のメリットがあります。

  • 高い利益率:派遣業のような社会保険料負担や継続的な給与支払いが発生しません。売上(紹介手数料)の多くが利益となり、一般的に営業利益率は20%〜と高い傾向があります。
  • 低い参入障壁:派遣業のような厳しい資産要件(2,000万円)はありません。現金500万円(+資産総額500万円)と事務所要件などを満たせば許可が取得可能で、個人でも起業しやすいとされています。

ただし、参入障壁が低い分、競合も多いのが実情です。ITエンジニア専門ハイクラス層特化特定地域密着など、独自の強みを持ち、他社との差別化戦略を成功させることが、高利益率を実現する鍵となります。

参考:有料職業紹介事業 許可要件(概要)|厚生労働省

派遣会社設立に関してよくある質問

最後に、派遣会社設立に関してよくある質問とその回答をまとめました。

派遣会社設立に必要な初期費用はいくらですか?

派遣業(労働者派遣事業)の許可を得るには、最低でも2,000万円の基準資産額(うち1,500万円は現金・預金額)が事業所ごとに必要です。ただし債務超過でないことが必要です。

派遣のマージン率30%は違法ではないのですか?

違法ではありません。

マージン率30%は、すべてが会社の利益になるわけではありません。この中から、派遣会社が雇用主として負担する社会保険料(約10.9%)や有給休暇費用(約4.2%)、スタッフの募集広告費や管理部門の人件費(合わせて約13.7%)などを支払っています。これらを支払った残りの約1.2%が、最終的な営業利益となります。

派遣会社経営で儲かるには戦略的な仕組みが必要

派遣会社設立は、儲かるというイメージとは裏腹に、平均営業利益率が1.2%と非常に低く、その仕組みは薄利多売の厳しい経営を強いられるビジネスモデルです。

ピンハネという誤解を解き、社会保険料などのコストを適正に管理しつつ、高単価領域への特化やKPI管理、継続率向上といった戦略を実行することが、成功への唯一の道です。

また、2,000万円という設立ハードルの高さを鑑みると、より低リスク・高利益率が期待できる人材紹介業からスタートする、あるいは両方の許可を取得して事業の柱を複数持つ、といった戦略的な判断も重要になるでしょう。


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