- 作成日 : 2025年8月19日
SNSで炎上した飲食店の対応とは?法的ルールと回避策を解説
スマートフォンの普及により、誰もが気軽にX(旧Twitter)、Instagram、TikTokといったSNSで情報を発信できる時代になりました。飲食店にとってSNSは強力な集客ツールですが、同時に「炎上」という大きなリスクも抱えています。
従業員の不適切な投稿や、お客様による迷惑行為の拡散など、一つの投稿が瞬く間に広がり、お店の評判や経営に深刻なダメージを与えることも少なくありません。この記事では、飲食店でのSNS炎上がなぜ起こるのか、その原因から発生時の対応、法的なルール、そして重要な予防策までをわかりやすく解説します。
目次
飲食店でSNS炎上が起きる主な原因
飲食店のSNS炎上は、主に「従業員」「お客様」「店舗側」の3つの要因から発生します。とくに近年は、従業員による不適切な投稿や、お客様の迷惑行為が撮影・拡散されるケースが目立ちます。これらは意図しない形で起こることもあり、日頃からの対策が欠かせません。
従業員による不適切な投稿(バイトテロ)
従業員による不適切な投稿は、炎上のなかでもとくに深刻なダメージにつながりやすいでしょう。
これは、従業員が勤務先の商品や設備を使って、悪ふざけをする様子などを撮影し、SNSに投稿する行為を指します。たとえば、厨房内で食品を使って遊んだり、食洗機に入ったりするような動画がこれにあたります。投稿した本人に悪意はなく、仲間うちでの冗談のつもりが、あっという間に拡散されてしまうケースがほとんどです。
一度拡散されると、お店の衛生管理や従業員教育の体制が厳しく問われ、ブランドイメージは大きく傷つきます。結果として、客足が遠のき、休業や閉店に追い込まれることも少なくありません。従業員一人ひとりのSNSリテラシーの向上が求められるでしょう。
お客様による迷惑行為の投稿
お店が直接関与していなくても、お客様の行動が原因で炎上することがあります。
たとえば、しょうゆ差しやガリの容器に直接口をつける、注文した商品を故意に汚すといった迷惑行為がその一例です。こうした行為を第三者が撮影してSNSに投稿したり、迷惑行為を行った本人が武勇伝のように投稿したりすることで、炎上に発展します。
この場合、お店は被害者であるにもかかわらず「なぜ防げなかったのか」「衛生管理は大丈夫か」といった批判を受けることがあります。迷惑行為そのものを完全に防ぐことは難しいかもしれませんが、お店としてどのような対策をとっていたかが問われることになるでしょう。
店舗側の不手際や衛生問題
お店側のオペレーションや管理体制に起因する問題も、炎上の火種となります。
料理への異物混入や、清掃が行き届いていない厨房の様子、あるいはスタッフの接客態度が悪いといった内容が、写真や動画付きで投稿されるケースです。こうした投稿は、お店のサービス品質や衛生意識に対する不信感を直接的にあおり、顧客離れを引き起こします。
とくに衛生問題は、お客様の健康に直接かかわるため、批判が大きくなりやすい傾向にあります。日頃から清掃や食材管理を徹底し、従業員の接客マナーを高い水準で保つことが、このような炎上を防ぐ基本となるでしょう。
公式アカウントの不適切な発信
お店の情報を発信する公式SNSアカウントの運用にも注意が必要です。
お店の公式アカウントが、特定の思想や信条を支持・批判するような投稿をしたり、他者を軽んじるような表現を使ったりすると、多くの人の反感を買い、炎上につながります。また、流行しているハッシュタグや言葉の意味をよく理解せずに使い、意図せず不適切なメッセージを発信してしまうこともあります。
公式アカウントの投稿は、お店の公式見解と受け取られます。担当者個人の意見や感覚で発信するのではなく、複数人でのチェック体制を整えるなど、慎重な運用が求められるでしょう。
飲食店でSNS炎上が発生した際の初期対応
もしSNSで炎上が起きてしまった場合、パニックにならず、あらかじめ定めた手順に沿って、迅速かつ誠実に対応することが何よりも大切です。初期対応のスピードと内容で、事態の沈静化までの時間が大きく変わってくるでしょう。
1. 事実確認を迅速かつ正確に行う
まず、何が起きているのかを正確に把握しましょう。
炎上のきっかけとなった投稿内容が事実なのか、いつ、どこで、誰が関わったことなのかを迅速に調査します。SNS上のうわさや憶測に惑わされず、防犯カメラの映像を確認したり、関係する従業員からヒアリングを行ったりして、客観的な情報を集めることが大切です。
この事実確認があいまいなまま対応を進めると、後から情報が二転三転し、さらなる不信感を招くことになりかねません。時間は限られていますが、焦らず正確な状況把握に努めましょう。
2. 謝罪や状況説明の声明を出す
事実関係が明らかになったら、お店の公式ウェブサイトやSNSアカウントを通じて声明を出します。
お店側に非がある場合は、真摯に謝罪することが基本です。何に対して謝罪しているのかを明確にし、今後の対応策や再発防止策をあわせて示すことで、誠実な姿勢が伝わりやすくなります。
一方、お店が被害者の場合や、情報が事実と異なる場合は、その旨を冷静に説明する必要があります。感情的な反論は火に油を注ぐだけなので、あくまでも客観的な事実にもとづいて、落ち着いたトーンで説明することが求められます。
3. 問い合わせ窓口の一本化
炎上が発生すると、電話やメールでの問い合わせ、SNSへのコメントなどが殺到することが予想されます。
こうした問い合わせに対応する窓口を一本化し、社内で対応方針を共有しておくことが混乱を防ぎます。担当者によって言うことが違うという状況は、お店への不信感を増大させます。あらかじめFAQ(よくある質問とその回答)を用意しておくと、スムーズな対応がしやすくなるでしょう。
また、従業員が個別に対応してしまわないよう、問い合わせはすべて指定の窓口へ誘導するように徹底させることも忘れてはなりません。
飲食店のSNS炎上に関わる法的なルールと責任
SNSでの炎上は、投稿の内容や行為によっては、法的な責任が問われることがあります。お店が加害者や被害者になった場合に、どのような法律が関係してくるのかを知っておくことは、リスク管理のうえで欠かせません。
迷惑行為に対する刑事罰の可能性
悪質な迷惑行為は、犯罪として処罰の対象となることがあります。
たとえば、テーブルに害虫のおもちゃを置いて「料理から出てきた」と嘘の投稿をSNSで行い、お店の信用を傷つけて業務を妨害した場合、「偽計業務妨害罪」(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立するかもしれません。また、店員に大声で怒鳴りつけたり土下座を強要したりして業務を妨げた場合は、「威力業務妨害罪」(同)にあたる可能性があります。
最近では、共有のしょうゆ差しの注ぎ口に直接口をつけたり、未使用の湯呑みをなめ回したりする動画が問題になりました。こうした行為は、食器などを汚損し、使えなくする行為として「器物損壊罪」(3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)に問われることがあります。
実際に、迷惑行為の動画をSNSに投稿した人物が逮捕される事例も出てきています。悪質な行為に対しては、泣き寝入りせず、警察に相談して被害届を提出するという毅然とした対応をとるべきでしょう。
投稿者への損害賠償請求
炎上によってお店が受けた損害は、投稿者に対して請求できる場合があります。
売上が減少した分の損害、炎上対応のためにかかった人件費、毀損したブランドイメージの回復にかかる費用などを算出し、投稿者本人や、監督責任のある親権者(未成年者の場合)に対して、民事訴訟を通じて損害賠償を求めるというのも、対応の一つです。
請求が考えられる損害には、以下のようなものが挙げられます。
- 直接的な損害:汚された食器や調味料の交換費用、清掃・消毒にかかった費用など。
- 逸失利益:炎上による客数減少で失われた売上。
- 対応費用:炎上対応にかかった従業員の人件費、弁護士費用など。
- ブランドイメージの毀損:落ちた評判を回復するための広告費用など。
損害額の算定は簡単ではありませんが、弁護士などの専門家に相談しながら進めることになります。法的措置をとるという姿勢を見せること自体が、将来の同様の行為に対する抑止力となる側面もあるでしょう。
お店側が問われる法的リスク
従業員が炎上を引き起こした場合、お店側も責任を問われることがあります。
民法では、従業員が業務中に他人に損害を与えた場合、雇用主である会社もその損害を賠償する責任を負うと定められています(使用者責任)。
たとえば、従業員がふざけて厨房の食材で不衛生な行為を行い、その動画が炎上してお店の売上が大幅に落ちたとします。この場合、お店の経営者は株主などから経営責任を問われるかもしれません。また、従業員がお客様の個人情報をSNSに漏らしてしまった場合、そのお客様からお店が訴えられることも考えられます。
ただし、お店側が従業員の選任や監督について、相当の注意を払っていたことを証明できれば、責任を免れる場合もあります。
「SNS利用に関するガイドラインを策定していた」「定期的にコンプライアンス研修を実施していた」といった具体的な対策は、こうした万が一の際に、お店自身を守る材料にもなります。
飲食店のSNS炎上を未然に防ぐための予防策
炎上が起きてから対応するのでは、多大な労力とコストがかかります。最も効果的なのは、炎上を未然に防ぐための対策を日頃から講じておくことです。従業員の意識改革と、お店としての明確なルールの設定が、炎上しにくい環境をつくります。
SNS利用に関するガイドラインの策定
まず、従業員が守るべきSNS利用のルールを文書でつくりましょう。
どのような投稿が問題になるのか、具体的な例を交えながらわかりやすくまとめたガイドラインを作成し、全従業員に配布して周知します。たとえば、「お店の制服を着たままの投稿は控える」「厨房内の写真は撮影しない」「お客様や他の従業員のプライバシーを侵害しない」といった基本的なルールを明記します。
このガイドラインは、作って終わりではありません。内容を理解しているか定期的に確認し、時代に合わせて見直していく姿勢が大切です。
従業員への定期的なコンプライアンス研修
ルールを定めても、その背景にあるリスクを理解していなければ、本当の意味で浸透しません。
SNS炎上の恐ろしさや、一つの投稿がお店や同僚、そして自分自身の人生にどのような影響をおよぼすのかを学ぶ研修を、定期的に実施しましょう。過去に実際に起きたニュースなどを教材にすると、より現実味をもって受け止められるのではないでしょうか。
とくに、新しく入ったアルバイトや若い従業員は、SNSのリスクに対する意識が低い場合もあるため、雇用時の初期研修に組み込むことが効果的です。
お客様の迷惑行為に対する店内での注意喚起
従業員だけでなく、お客様に向けたメッセージも予防策の一つです。
「他のお客様のご迷惑となる行為はおやめください」「店内での無断撮影はご遠慮ください」といった注意書きを、メニューや店内の目立つ場所に掲示します。これにより、迷惑行為をしようとする人への心理的な抑制が期待できますし、万が一トラブルになった際にも、お店として事前に注意喚起していたという事実が、お店の立場を守る助けになることがあります。
表現を工夫し、高圧的にならないよう配慮しつつも、お店として毅然とした態度を示すことが大切です。
従業員によるSNS炎上を防ぐためのルール作り
従業員による不適切な投稿、いわゆる「バイトテロ」は、お店にとってきわめて大きな脅威です。これを防ぐためには、研修などの意識教育とあわせて、物理的・制度的にリスクを低減させる仕組みづくりが欠かせません。より踏み込んだ具体的なルールを整備しましょう。
業務中のスマートフォン持ち込み・使用ルールの明確化
不適切な投稿の多くは、業務中にスマートフォンで撮影されることから始まります。
これを防ぐために、勤務中のスマートフォンの取り扱いについて、明確なルールを設けましょう。たとえば、「厨房やバックヤードへの持ち込みは原則禁止とし、休憩時間以外は個人ロッカーで保管する」といったルールが考えられます。
業務上、連絡などでスマートフォンが必要な場合は、会社貸与の端末を使用する、あるいは私物利用のルールを厳格に定めるなどの対策をとります。ルールを設けるだけでなく、なぜそのルールが必要なのかを丁寧に説明し、従業員の理解を得ることが運用のポイントです。
SNS投稿における禁止事項のリスト化
ガイドラインをさらに具体的にし、何を投稿してはいけないのかをリストにして示すと、従業員の理解が深まります。
あいまいな表現ではなく、誰が見ても判断に迷わないような具体的な項目を挙げることがコツです。
- お店のロゴが入った制服を着用した状態での投稿
- 厨房、バックヤード、事務所など、お客様が立ち入らない場所の撮影と投稿
- 他の従業員やお客様の顔や個人情報がわかる形での投稿
- 開発中の新メニューや社外秘の経営情報に関する投稿
- お店や会社、取引先に対するネガティブな内容の投稿
これらのリストを休憩室などに掲示し、いつでも確認できるようにしておくとよいでしょう。
秘密保持に関する誓約書の活用
従業員を採用する際に、書面で約束を取り交わすことも有効な手段の一つです。
入社時に、業務を通じて知ったお店の情報を外部に漏らさないこと(秘密保持義務)、そしてお店の評判や信用を傷つけるような行為をしないことを約束する誓約書に署名してもらいます。法的な拘束力はもちろんですが、署名するという行為自体が、従業員に責任感を自覚させ、SNSの利用に対して慎重になるきっかけを与えるでしょう。
誓約書の内容については、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談のうえ、自社に合ったものを作成することをおすすめします。
飲食店がSNS炎上と向き合うために
飲食店のSNS炎上は、誰にでも起こり得る現代の経営リスクです。不適切な投稿や迷惑行為がきっかけとなって、一瞬で信用が失われることもあります。
重要なのは、炎上を防ぐルールと教育を日常的に整えておくこと、そして万が一の事態には冷静で誠実な対応を取ることです。
法的リスクも視野に入れつつ、従業員・顧客・お店の信頼関係を守るための備えが、長く愛される店舗づくりにつながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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