• 更新日 : 2025年9月22日

キッチンカーで寿司屋を開業!許可は取れる?衛生管理・費用を徹底解説

キッチンカーでお寿司を提供するには、以前は衛生面から不可能とされていましたが、2021年の食品衛生法改正で、HACCPに沿った管理と営業許可制度が強化され、条件を満たせば寿司など生ものを扱う営業も認められるようになりました。しかし、生魚を扱う以上、許可取得のハードルは他の商材に比べて高く、徹底した衛生管理が求められます。

この記事では、キッチンカーで寿司屋を開業するための許可基準、必要な設備と費用、そして成功事例として「鮨さきがけ」の分析まで、わかりやすく解説します。

キッチンカーでの寿司屋開業は可能?

結論からいうと、キッチンカーでの寿司屋の開業は可能です。以前は、食中毒のリスクが高い生ものの提供は原則として認められていませんでしたが、2021年6月に施行された改正食品衛生法により、適切な設備と衛生管理体制を整えれば、キッチンカーでも寿司(生魚)の提供が認められるようになりました。

ただし、これは誰でも簡単に始められるという意味ではありません。小麦粉を扱うクレープやワッフル、加熱調理する唐揚げなどとは異なり、寿司の提供には極めて高いレベルの衛生管理と、それを実現するためのハイスペックな設備が不可欠です。この高いハードルを乗り越えることが、キッチンカーで寿司屋を開業するための第一歩といえるでしょう。

キッチンカーで寿司屋の営業許可を取るための衛生管理と設備基準

キッチンカーで寿司屋を開業する上で困難なのが、保健所の営業許可を取得することです。ここでは、許可取得の鍵となる資格、設備基準、そして衛生管理のポイントを詳しく解説します。

食品の提供に必要な資格と免許

まず、キッチンカーで安全な寿司を提供するために、法律で定められた資格や免許を取得する必要があります。

  • 食品衛生責任者:
    施設ごとに1名以上の配置が義務付けられている資格です。各都道府県の食品衛生協会が実施する養成講習会(1日)で取得できます。調理師や栄養士の免許があれば、講習は免除されます。
  • 保健所の営業許可(飲食店営業):
    キッチンカーで営業するエリアを管轄する保健所から取得します。寿司の提供は通常「飲食店営業」に分類されます。自治体によって基準が異なるため、車両製作前の事前相談が不可欠です。
  • ふぐ調理師免許:
    もし丸ふぐを取り扱う場合は、都道府県知事が発行する「ふぐ調理師免許」が必須です。有資格者が、専用の設備を備えた場所で処理したものでなければ提供できません。

出店場所に関する許可

食品衛生の許可とは別に、実際に営業する場所を確保するための許可が必要です。

  • 道路使用許可:道路上で営業する場合、管轄の警察署からの許可が必要です。ただし、交通の妨げになる場所では許可が下りにくいため、実際の営業は私有地が中心となります。
  • 場所ごとの営業許可:イベント会場、商業施設、公園といった私有地で営業する場合は、その土地の管理者と個別に出店契約を結び、許可を得る必要があります。

寿司営業に必要な設備基準

生魚を扱う寿司のキッチンカーは、他のキッチンカーよりも厳しい設備基準が求められます。これは、食中毒菌の増殖を防ぎ、安全な商品を提供するためです。

設備基準のポイント理由
シンク3槽シンクが推奨される
(2槽+手洗いシンク)
「食材用」「器具用」「手洗い用」と明確に使い分けることで、交差汚染のリスクを低減するため。
給排水タンク200L程度の大容量タンク手洗いの頻度が高くなるため、十分な水量を確保する必要がある。自治体によっては容量が厳格に定められている。
冷蔵・冷凍設備コールドテーブル(業務用冷蔵庫)、冷凍ストッカー魚介類を常に低温(冷蔵5℃以下、冷凍-18℃以下)で保管し、鮮度と安全性を保つため。家庭用冷蔵庫は不可。
その他連続して温水が供給できる設備、十分な換気設備、石けん・消毒液などの衛生設備衛生的な調理環境を維持するため、保健所の基準で細かく定められている。

徹底すべき衛生管理のポイント

設備を整えるだけでなく、日々の運営における衛生管理が信頼の基盤となります。

  • 厳格な温度管理:
    仕入れから調理、提供までのすべての工程で魚介類の温度管理を徹底します。調理中のネタも、ネタケースに入れるなどして低温状態を維持しなければなりません。
  • 営業許可を得た仕込み場所の確保
    キッチンカー内でできる調理は、基本的には「握る」「盛り付ける」といった最終工程に限られます。魚を捌いたり、シャリを合わせたりする作業は、営業許可を取得した別途の「仕込み場所」で行う必要があります。シンクの数や広さなどの基準を満たす必要があるため、一般の家庭用キッチンを仕込み場所として使用することは認められていません。なお、給排水タンクを一定容量以上備えた車両では、一部の仕込み作業をキッチンカー内で行える場合もあります。ただし、詳細な基準は自治体によって異なるため、地域の保健所に事前確認しましょう。
  • HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理計画
    2021年の法改正により、すべての食品事業者で「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理が義務化されました。これは、危害(食中毒菌など)を予測し、それを防ぐための管理方法を計画・記録する衛生管理の手法です。「どの工程で菌が付着しやすいか」「ネタの温度管理はどう行うか」といった計画を立て、日々のチェックと記録を徹底することが不可欠です。
  • 交差汚染の防止と調理器具の消毒
    生の魚介類を扱うため、調理器具を介した細菌の汚染(交差汚染)には細心の注意が必要です。魚用、野菜用などでまな板や包丁を使い分ける、使用後の調理器具は都度洗浄・殺菌を徹底するといったルールを厳守しましょう。とくに、スポンジやふきんは細菌が繁殖しやすいため、こまめな交換や消毒が欠かせません。
  • 調理スタッフの衛生管理
    調理を行うスタッフは、こまめな手洗いやアルコール消毒の徹底はもちろん、清潔なユニフォームを着用し、髪の毛などが落ちないように帽子をかぶることも基本です。また、下痢や発熱などの症状がある場合は、調理に従事しないというルールを厳格に守ることが、ノロウイルスなどの感染拡大を防ぐ上で極めて重要になります。

寿司営業用キッチンカーの特殊な車両・設備と初期費用

寿司を提供するためのキッチンカーは、車両選びから特殊な厨房設備まで、他の移動販売とは一線を画します。ここでは、必要な車両や設備と、それにかかるリアルな初期費用についてシミュレーションします。

寿司用のキッチンカー車両選びのポイント

寿司用のキッチンカーでは、軽トラックをベースにした車両での開業は困難と考えたほうがよいでしょう。理由は、先述した3槽シンクや大容量の給排水タンク、業務用の冷蔵・冷凍庫といった大型設備を搭載する必要があるためです。

これらの設備と食材、そして作業スペースを確保するには、1.5tトラック以上の大きさの車両が推奨されます。広いスペースは、衛生的な調理環境を保ち、効率的なオペレーションを行う上でも不可欠です。

寿司のキッチンカーに必須の設備一覧

基本設備に加えて、寿司の提供に特化した以下の設備が必要となります。

  • ネタケース:
    カウンター越しにお客様に新鮮なネタを見せつつ、低温で保管するためのショーケース。集客効果と衛生管理を両立します。
  • 業務用冷蔵・冷凍庫(コールドテーブル):
    天板が作業台になっているタイプの業務用冷蔵庫。限られたスペースを有効活用できます。
  • 製氷機:
    魚の鮮度を保つために氷は欠かせません。とくに夏場は大量に消費するため、製氷機があると安心です。
  • 炊飯器・保温ジャー:
    シャリを提供するための必須設備です。
  • 高性能発電機:
    多くの電気設備を同時に稼働させるため、出力が大きく、かつ静音性の高い発電機が求められます。

1.5tトラックでの初期費用シミュレーション

寿司用のキッチンカーは、車両と設備が高額になる傾向があります。以下に、1.5tトラック(新車)をベースにした場合の初期費用の一例を示します。

項目費用(目安)備考
車両購入費300万円~1.5tトラック新車の場合
キッチンボックス製作・内装費250万円~断熱材、防水加工、換気設備などを含む
厨房設備費150万円~3槽シンク、タンク、コールドテーブル、ネタケースなど
許可申請・その他20万円~営業許可申請、食品衛生責任者講習、備品など
合計720万円~

※中古車を選んだり、設備を中古品で揃えたりすることで費用を抑えることも可能です。ただし、衛生面に関わる設備は信頼性を優先することをおすすめします。

キッチンカー寿司屋の原価計算と利益シミュレーション

厳しい許可基準や高額な初期投資が求められる寿司のキッチンカーですが、成功のためには、綿密な資金計画が必要です。ここでは、原価の考え方と、具体的な利益シミュレーションを解説します。

寿司の原価計算と仕入れのポイント

寿司の味と収益性を左右するのがネタの仕入れです。地域の卸売市場で信頼できる仲卸業者を見つけたり、産地直送のルートを開拓したりして、質の良い食材を安定的に確保することが求められます。

寿司の原価率は、ネタの品質に大きく依存しますが、一般的に30〜40%(高品質ネタを扱う場合は50%を超える)と、他の飲食業態(平均30%)に比べて高くなる傾向があります。これは、お客様の満足度に直結するため、ネタの質を落とせないという寿司ならではの特性によるものです。

たとえば、8貫の握り寿司セットを1,500円で販売する場合の原価は以下のようになります。

  • 販売価格:1,500円
  • 目標原価率:45%
  • 原価:1,500円 × 45% = 675円
  • 粗利益:1,500円 – 675円 = 825円

この粗利益(825円)から、出店料、人件費、燃料費などの経費を差し引いたものが、最終的な利益となります。

リアルな売上・利益シミュレーション

次に、平日のオフィス街でのランチ出店を想定して、より具体的な1ヶ月の収支シミュレーションを見てみましょう。

項目金額・数値備考
客単価1,200円海鮮丼+お茶を想定
1日の販売数50食
1日の売上60,000円1,200円 × 50食
月の営業日数20日
月の総売上1,200,000円60,000円 × 20日
月の原価(45%)540,000円120万円 × 45%
月の粗利益660,000円120万円 – 54万円
月の経費300,000円出店料、燃料費、人件費など
月の営業利益360,000円660,000円 – 300,000円

これはあくまで一例です。天候や出店場所に大きく左右されるのがキッチンカービジネスの特徴ですが、こうしたシミュレーションを通じて自身の事業の損益分岐点を把握し、安定した売上を確保するための戦略を立てることが不可欠です。

人気店「鮨さきがけ」に学ぶキッチンカー寿司屋の成功戦略

キッチンカーの寿司屋として口コミでも評判の人気店「鮨さきがけ」は、単に珍しいからという理由だけではありません。ここでは、キッチンカーで寿司屋を開業する上で、何が重要なのか、分析していきます。

なぜ「鮨さきがけ」は人気なのか?口コミとメニューから徹底分析

「鮨さきがけ」の成功は、単に珍しいからという理由だけではありません。その背景には、緻密に計算された戦略があります。

  • 圧倒的な本格志向
    店主は名店で修行を積んだ寿司職人です。キッチンカーでありながら、高級店さながらの本格的な江戸前寿司を提供しています。ネタの目利き、仕込み、握りの技術といった「本物の価値」が、最大の強みとなっています。
  • 巧みなSNS戦略
    Instagramを駆使し、その日の新鮮なネタや美しい握りの写真を投稿。出店場所や時間をリアルタイムで告知することで、ファンが訪れやすい環境を作っています。フォロワーとの積極的なコミュニケーションも、エンゲージメントを高める要因でしょう。
  • 魅力的なメニューと価格設定
    「おまかせさきがけ握り (五貫、十貫)」といったセットメニューを中心に、旬のネタを提供しています。キッチンカーならではのコスト削減を価格に反映させ、高品質な寿司を比較的手頃な価格で楽しめる「お得感」が、多くのリピーターを生んでいます。出店場所は都内各所を移動しており、その希少性も人気に拍車をかけています。

キッチンカーで寿司屋を開業するまでの7ステップ

これまでの情報をふまえ、キッチンカーで寿司屋を開業するための具体的なステップを7つにまとめました。計画的に準備を進めましょう。

STEP1:事業計画書の作成と資金調達

どのような寿司を、どこで、誰に売りたいのかというコンセプトを固め、収支シミュレーションを含む詳細な事業計画書を作成します。自己資金で不足分は、この計画書をもとに金融機関に融資を申し込みます。

STEP2:資格取得や保健所への事前相談

食品衛生責任者の資格を取得します。並行して、営業したいエリアの保健所に事前相談に行き、寿司の提供に必要な設備基準や衛生管理について詳細な指導を受けます。

STEP3:キッチンカーの製作や設備購入

保健所の指導に基づき、車両の選定と内装の設計、特殊設備の購入を進めます。信頼できるキッチンカー製作専門の業者に依頼するのが安心です。

STEP4:保健所の営業許可取得

キッチンカーが完成したら、保健所に営業許可の申請を行います。担当者による車両の実地検査に合格すれば、晴れて営業許可証が交付されます。

STEP5:保険への加入

万が一の食中毒事故に備える「生産物賠償責任保険(PL保険)」や、車両事故に備える自動車保険に加入します。

STEP6:魚の仕入れルート確保

事業の生命線となる、新鮮で質の良い魚を安定的に仕入れるためのルートを確立します。市場の仲卸業者などと良好な関係を築きましょう。

STEP7:出店場所の確保と集客準備

ランチ需要が見込めるオフィス街や、人が集まるイベントなど、コンセプトに合った出店場所を確保します。同時に、SNSアカウントを開設し、開業に向けた情報発信を始めましょう。

綿密な計画がキッチンカーでの寿司開業を成功に導く

キッチンカーでの寿司屋開業は、法改正によって現実的な選択肢となりました。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。生魚を扱うという特性上、保健所の厳しい設備基準をクリアし、食中毒のリスクを徹底的に排除する高度な衛生管理体制を構築することが大前提となります。

さらに、ハイスペックな車両や設備にかかる多額の初期投資、原価率の高いネタの仕入れなど、事業としてのハードルも低くはありません。成功事例「鮨さきがけ」のように、専門的な技術、質の高い商品、そして巧みなマーケティング戦略を組み合わせ、綿密な計画のもとに準備を進めることが、この挑戦的なビジネスを成功に導くでしょう。

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