• 作成日 : 2025年9月22日

キッチンカーで生ビール販売!ビールサーバー設置と許可取得ルールを解説

夏のイベントやフェス、ランチ営業でも人気の高いビール。キッチンカーで冷たいビールを提供できれば、客単価アップや集客効果が期待できます。

しかし、キッチンカーでアルコールを提供するには、食品衛生法や酒税法などに関する法律を正しく理解し、必要な許可を取得する必要があります。

この記事では、キッチンカーでビールを販売するための条件や資格、注意点について、特に誤解されやすいポイントを中心に詳しく解説します。

キッチンカーでのビール販売の基本ルール

「飲食店営業許可」や「食品衛生責任者資格」など必要な許可と資格を取得すれば、キッチンカーで生ビールを販売し提供することは可能です。音楽フェスやフードイベント会場などで高い需要があり、フードメニューとの相乗効果も期待できるため、多くのキッチンカー事業者が取り入れています。

地域のブルワリーと提携して限定ビールを提供するなど、ストーリー性のある店舗作りができるのも大きな魅力でしょう。

まず、キッチンカーでビールを販売するための最も基本的なルールは「開栓した状態」で提供することです。なぜなら、キッチンカーは「飲食店」として扱われるため、提供できるのは、「その場で消費されること」を前提とした飲食物のみです。

ビール販売は開栓した状態で提供する

認められる提供方法(OK例)
  • ビールサーバーから直接カップに注いで提供する。
  • 缶ビールや瓶ビールの栓を開け、中身をカップに移し替えて提供する。
認められない提供方法(NG例)
  • 未開封の缶ビールや瓶ビールをそのままお客様に渡す。
  • お客様が持参した水筒やタンブラーにビールを注ぐ(衛生管理上の観点から指導される可能性が高い)。

未開封のお酒を販売するには「酒類販売業免許」が必要ですが、この免許はキッチンカーのような移動販売形態では取得することができません。

キッチンカーは、保健所から「飲食店営業許可」を取得することで、「飲食店」としてその場で飲むためのビール(開栓済み)を提供することが認められています。

どこでも販売できるわけではない

営業許可さえあれば、どこでも自由にビールを販売できるわけではありません。出店する場所により、アルコール提供に関するルールが設けられているケースが多いです。

  • 公園:自治体ごとの条例などに基づき、飲酒が制限されている場所が多くあります。
  • イベント会場:イベントの趣旨(例:子供向けイベント)や主催者の方針により、アルコール提供がNGの場合があります。また、会場内の飲料販売は指定業者のみ、という契約になっていることも珍しくありません。
  • 公道:道路交通法などの観点から、キッチンカーによる販売が難しい場合があります。

出店場所を決める際には、必ず事前にその場所の管理者やイベント主催者に「キッチンカーでのアルコール提供は可能ですか?」と確認しましょう。

自家製ビール(クラフトビール)の販売はできる?

「自分で作ったクラフトビールを販売したい」と考える方もいるかもしれませんが、自家醸造したビールを販売するには「酒類製造免許(ビール)」が必要です。この免許は、醸造設備や品質管理体制など非常に厳しい要件があり、個人がキッチンカーで取得することは極めて困難です。

キッチンカーでクラフトビールを販売する場合は、営業許可を持つブルワリー(ビール醸造所)から樽や瓶を仕入れて販売する形となります。

キッチンカーでのビール販売に必要な許可と資格

キッチンカーでのビール販売のために必要な許可や資格は、「飲食店営業許可」と「食品衛生責任者」です。その他必要に応じて届け出が必要です。

飲食店営業許可

キッチンカーで飲食物を提供するための基本となる許可です。出店する地域を管轄する保健所で申請・取得します。例えば、東京都で許可を取ったキッチンカーが、埼玉県内のイベントに出店する場合は、新たに埼玉県の保健所で許可を取得し直す必要があります。

飲食店営業許可を取得するには、シンクの数や給排水タンクの容量など、自治体が定める設備基準を満たした車両を準備する必要があります。また、営業許可申請書、施設の構造及び設備を示す図面、食品衛生責任者の資格を証明する書類などを提出します

申請手数料として15,000円~20,000円程度が一般的です。

食品衛生責任者

「飲食店営業許可」を取得するために必須の資格で、店舗の衛生管理全般に責任を持つ役割を担います。HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理計画の策定や実行も含まれます。

食品衛生責任者の取得は、各都道府県の食品衛生協会が開催する養成講習会(1日程度)を受講すれば取得できます。受講料は10,000円前後が目安です。

調理師、栄養士、製菓衛生師などの資格を持っている場合は、講習が免除されることができます。

深夜営業(0時以降)の場合は追加の届出が必要

深夜0時を過ぎてお酒をメインとして提供する場合は、警察署へ「深夜酒類提供飲食店営業届」の提出が必要です。ただし、食事メニューが中心で、あくまでサイドメニューとしてビールを提供する場合は不要なケースもあります。自身の営業形態に合わせて、事前に警察署に確認しましょう。

キッチンカーへのビールサーバー設置8つのポイント

キッチンカーにビールサーバーを設置するために、特別な許可や免許は基本的に不要です。サーバーの設置と使用は、前述の「飲食店営業許可」の範囲内で認められます。

ただし、営業許可を申請する際、保健所の担当者による車両のチェックが行われます。その際に、ビールサーバーが衛生的に管理できる状態で設置されているかどうかが確認されます。

スペース計画の徹底

サーバー本体(ディスペンサー)、ビール樽(ケグ)、炭酸ガスボンベの3点セットを置くスペースが必要です。特にビール樽は営業規模によって10L、15L、20Lとサイズが変わります。繁忙期には予備の樽も積む必要があるため、それら全てを収納できるスペースを設計段階から確保しましょう。

重量への配慮と確実な固定

サーバー本体が約30kg、満タンのビール樽が20kg以上、ガスボンベが約10kgと、合計で60kgを超える重量物になります。走行中の激しい揺れに耐えられるよう、水平で頑丈な台に設置し、ベルトや金具で確実に固定してください。重心が偏らないような配置も重要です。

排熱・換気ルートの確保

サーバーは内部を冷やすために熱を放出します。冷蔵庫と同じで、周囲に空間がないと熱がこもり、冷却効率が低下してビールがぬるくなったり、最悪の場合は故障につながります。サーバーの背面と側面には最低でも5cm、できれば10cm以上の隙間を確保し、車内の熱気を外に逃がす換気扇の近くに設置するのが理想です。

安定した電源の確保

ビールサーバーは電力を消費します。消費電力は機種によりますが、200W~300W程度が一般的です。

  • 発電機:
    パワーはありますが、騒音や排気ガスの問題で出店場所によっては使用が制限されます。静音タイプを選び、排気の向きには細心の注意が必要です。
  • ポータブル電源:
    静かでクリーンですが、高出力のものを長時間稼働させるには大容量で高価なモデルが必要です。サーバーの消費電力と営業時間を計算し、余裕を持った容量を選びましょう。

関連:キッチンカーの電源はどう確保する?発電機の種類や電力不足の対策を解説

炭酸ガスボンベの安全な取り扱い

炭酸ガスボンベは高圧ガス製品です。必ず立てた状態で鎖やベルトで固定し、転倒しないようにしてください。また、万が一のガス漏れに備え、車内の換気は常に意識しましょう。

衛生管理のしやすさを考慮した配置

毎日の洗浄作業が必須です。タップ(注ぎ口)やドレンホースの取り外し、内部チューブの洗浄がスムーズに行えるよう、サーバー周りには作業スペースを確保しましょう。手が届きにくい場所に設置すると、日々の清掃が億劫になり、衛生状態の悪化につながります。

水濡れ対策

ビールの注ぎ足し、サーバー洗浄、氷の補充などで水がこぼれることは日常茶飯事です。サーバーを置く床や台の素材は、耐水性のあるステンレスや防水加工された合板などを使用し、床には防水マットを敷くなどの対策を講じましょう。

ビールの仕入れ先と保管

開業前に、近隣の酒類卸業者(酒屋)と契約し、ビール樽を仕入れるルートを確保しておく必要があります。クラフトビールを扱いたい場合は、ブルワリーと直接交渉することもあります。また、ビール樽は品質保持のため、基本的には冷蔵保管が推奨されます。キッチンカー内の冷蔵庫や、自宅・倉庫の大型冷蔵庫で適切に保管する体制を整えましょう。

キッチンカーでビールを販売するための車両と設備

美味しい生ビールを提供するには、重量のある機材を積載できる車両と、適切な温度管理ができる専用の設備が欠かせません。ここでは、ベースとなる車両選びから解説します。

ベースとなるキッチンカー

ビール販売では、ビール樽(ケグ)やビールサーバー、冷蔵設備など、重量のある機材を多く積載します。そのため、車両の最大積載量に余裕を持たせることが大切です。

  • 軽トラックベース:
    初期費用を抑えられ小回りが利くメリットはありますが、積載量の観点からビール販売にはあまり向いていません。小さなサーバーと1つの樽を積むのが限界の場合が多く、フードメニューとの両立は難しいでしょう。
  • 普通車(1.0t~1.5tトラック)ベース:
    ビール販売にはこのサイズが最も一般的です。ビールサーバー、複数の樽を冷やすケグクーラー、炭酸ガスボンベ、そしてフード用の調理設備まで、無理なく搭載できるスペースと積載量を確保できます。

ビールサーバーと周辺設備

生ビール販売に欠かせないのがビールサーバーです。ビールサーバーだけではなく以下のような設備が必要です。

  • ビールサーバー(ビアタップ):
    ビールを注ぎ出すための蛇口部分。1口のものから、複数のクラフトビールを提供できる多連タップまで様々です。設置には、カウンターに穴を開けるなどの加工が必要になります。
  • 冷蔵・冷却設備:
    ビールの温度管理と品質を保つために必要です。ビール樽(ケグ)を丸ごと冷やせる「ケグクーラー」と呼ばれる専用冷蔵庫や、大型のコールドテーブルを設置するのが一般的です。
  • 炭酸ガスボンベ(ガスシリンダー):
    ビールをサーバーから押し出すために必要な高圧ガスを入れたものです。キッチンカーでの取り扱いには、転倒しないようしっかりと固定するなど、安全管理を徹底する必要があります。
  • その他:
    ビール樽とサーバーをつなぐヘッドやホース、圧力を調整する減圧弁(レギュレーター)なども必要です。

その他の共通設備

ビール販売であっても、保健所の基準を満たすための基本的な厨房設備はもちろん必要です。

  • シンクと給排水タンク
    保健所の基準で設置が義務付けられており、一般的に「手洗い用」と「器具洗浄用」でシンクを2槽以上設置します。ビールサーバーの部品やグラスを洗浄することも想定し、作業しやすいサイズのシンクを選びましょう。給排水タンクの容量は、提供するメニューの数や工程によって決まります。
  • 作業台(ワークスペース)
    ビールを注いだり、フードメニューを盛り付けたり、会計を行ったりするための衛生的なスペースです。ビールサーバーを設置すると作業スペースが狭くなるため、効率的な動線を考えてレイアウトを決めることが大切です。清掃のしやすさからステンレス製が推奨されます。
  • 収納棚・戸棚
    ビールカップやフード用の容器、おしぼりなどを衛生的に保管するために欠かせません。走行中の振動で物が落下したり散乱したりしないよう、必ず扉が付いたものを選びましょう。
  • 電源設備
    ビールサーバーの冷却装置やケグクーラーは多くの電力を継続的に消費するため、余裕を持った電源計画が大切になります。使用する電気製品の合計消費電力(ワット数)を計算し、それに見合った容量の発電機やポータブル電源を準備しましょう。

キッチンカーでのビールサーバーの衛生管理

ビールサーバーの洗浄を怠ると、ビールに雑味が混じったり、酸っぱくなったりするだけでなく、雑菌が繁殖し食中毒の原因にもなります。保健所のチェックでも非常に重視されるポイントです。

毎日の営業終了後に行うこと(水通し洗浄)

  1. ビール樽を外し、洗浄用の樽に付け替える。
  2. 中に水を入れた洗浄樽から、タップを通じて水がきれいになるまで流し続ける。
  3. タップを分解できる範囲で分解し、ブラシで洗浄する。

週に1回程度行うこと(スポンジ洗浄)

水通し洗浄の後、ビールライン(チューブ)の径に合ったスポンジを専用の洗浄液とともにラインに通し、内部の汚れを物理的にこすり落とす。

キッチンカーのビール価格の設定

ビールの価格設定は、原価計算を基礎にしつつ、出店場所や商品の価値を考慮して戦略的に決めることが大切です。ここでは、価格を決めるための3つのステップを解説します。

ステップ1:1杯あたりの原価を計算する

まず、ビール1杯を提供するために直接かかる費用(原価)を正確に計算します。原価には、ビールそのものの価格だけでなく、カップなどの資材費も含まれます。

【計算例】15Lのビール樽(9,000円)を400mlカップで提供する場合

  • ビール自体の原価(1杯あたり)
    • 提供可能杯数: 15,000ml ÷ 400ml = 37.5杯
    • 1杯あたりの原価: 9,000円 ÷ 37.5杯 = 約240円
  • カップ・資材費(1杯あたり): 約30円
  • 合計原価(フードコスト): 240円 + 30円 = 270円

この計算により、1杯あたりの最低限のコストが270円であることがわかります。

ステップ2:利益と経費を上乗せする

次に、原価に利益とその他の経費を乗せて、基準となる販売価格を考えます。飲食店の原価率は、一般的に30%~40%が目安とされます。

仮に原価率を40%と設定した場合、

販売価格の目安 = 原価 270円 ÷ 0.4 = 675円 

となります。

この価格で販売した場合、差額の約400円の中から、出店料、人件費、燃料費、保険料といった経費を支払い、残りが最終的な利益となります。

ステップ3:出店場所や市場価格をふまえて最終価格を決める

最後に出店場所の状況に合わせて調整します。

  • 市場価格を調査する
    音楽フェスなどのイベントでは比較的高めの価格設定が受け入れられやすい一方、地域のマルシェなどでは周辺の店舗との価格バランスを考える必要があります。
  • 商品の付加価値を考慮する
    どこでも飲める一般的なビールと、特定の地域でしか飲めない希少なクラフトビールとでは、お客様が感じる価値が異なります。商品の希少性やストーリーをうまく伝えられれば、相場より高い価格でもお客様に納得してもらえるでしょう。

これらの要素を総合的に判断し、「700円」や「800円」といった、きりの良い販売価格を決定していきます。

キッチンカーでのビール販売の注意点

キッチンカーでビールを販売する際は、資格や設備を整えるだけではなく、出店場所の規約確認やお客様の年齢確認、PL保険への加入、酔客への対応など、安全に運営するための配慮が欠かせません。特にアルコールを扱う場合は、一般的な飲食営業よりも法令やモラル面での注意が多いため、事前準備と当日の運営ルールをしっかり整えましょう。

出店場所のルールを確認する

公園やイベント会場など、出店場所によってはアルコールの提供が禁止されている場合があります。地域の条例やイベント主催者の規約を必ず事前に確認しましょう。違反すると営業停止や契約解除のリスクがあります。

年齢確認の徹底

未成年者へのアルコール提供は法律で固く禁じられています。年齢が確認できない場合は勇気を持って販売を断ることが必要です。レジ前に「年齢確認にご協力ください」という掲示を設置し、スタッフ全員が一貫して対応できる体制を整えましょう。

PL保険(生産物賠償責任保険)への加入

提供した飲食物が原因で食中毒や体調不良が発生した場合に備えて、必ずPL保険に加入しましょう。万一の事故対応や賠償金の負担を軽減でき、事業継続にもつながります。

酔客への対応

泥酔しているお客様への追加提供は、事故やトラブルの原因となります。提供を断る判断基準や対応マニュアルを用意し、スタッフ全員が適切に対応できるようにしておきましょう。

これらのポイントを押さえ、お客様に美味しいビールと楽しい時間を提供できるキッチンカーを目指しましょう。

適切な許可と準備でキッチンカーのビール販売を成功させよう

キッチンカーでの生ビール販売は、イベントを盛り上げ、お客様に特別な時間を提供できる大きな魅力があります。実現のためには、保健所の「飲食店営業許可」や「食品衛生責任者資格」を取得し、衛生基準を満たしたビールサーバーや冷却設備を整えることが必須です。

また、出店場所ごとのアルコール提供ルールを事前に確認し、未成年者や泥酔客への提供を防ぐ体制作りが必要です。

安心安全な美味しい一杯を提供するために、ルールを遵守しながら、計画的に準備を進めましょう。


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