• 作成日 : 2025年6月30日

【飲食店】PL保険とは?個人事業主が知っておくべきポイント

飲食店を営む個人事業主にとって、万が一の食中毒や異物混入などの事故は大きなリスクです。PL保険(生産物賠償責任保険)は、提供した食品など、製造・販売した製品の欠陥が原因でお客様に損害を与えてしまった場合の賠償金や訴訟費用を補償する保険です。

本記事では、PL保険の基本から、必要性・補償内容・選び方まで詳しく解説します。

【飲食店】個人事業主も覚えておきたいPL保険

PL保険(生産物賠償責任保険)は、飲食店が提供した料理など、製造・販売した製品の欠陥が原因でお客様に損害を与えてしまった場合に、損害賠償金や訴訟費用などを補償する保険です。

個人事業主であっても、食中毒や異物混入による事故が起きれば、高額な賠償責任を問われる可能性があります。PL保険は、そのような経済的リスクに備えるための重要な制度です。

PL法(製造物責任法)とは?

PL法(Product Liability Law/製造物責任法)は、1995年に施行された法律です。この法律では、製造業者・販売業者が製造した「製品」の欠陥によって消費者に損害が発生した場合、過失の有無に関係なく損害賠償責任を負うことが定められています

飲食店であっても、調理された食品は「製造物」に該当します。したがって、たとえ十分に注意をして完全に管理していたつもりでも、食中毒や異物混入といった事故が発生した場合、PL法に基づく賠償請求を受ける可能性があります。

PL法が適用される条件は以下の通りです。

  • 食品などの製品(製造物)に「欠陥(安全性の欠如)」があった
  • 欠陥により、消費者に生命・身体または財産上の損害が発生した
  • 消費者が製品を通常の方法で使用していたにもかかわらず事故が発生した

例:異物混入が原因で歯が欠けた、アレルギー表示ミスで入院、など

PL保険を理解するための6つのポイント

飲食店を経営する個人事業主にとって、PL保険は経営リスクを軽減する重要な仕組みです。ここでは、PL保険の理解を深めるための6つの視点を紹介します。

提供した食品が原因の事故を補償する

PL保険は、飲食店が提供した料理や飲料が原因でお客様に被害を与えてしまった場合に、法律上の損害賠償責任を補償します。

具体的には、食中毒、異物混入、アレルギー表示ミスなどが対象です。

例えば、十分に加熱されていなかった鶏肉によりノロウイルス感染が発生した場合、治療費・慰謝料・営業補償などが支払われることがあります。

PL法により過失がなくても責任を負う

PL法(製造物責任法)では、過失の有無にかかわらず「製造物に欠陥があった」ことで損害が発生すれば、事業者に賠償責任が発生します。

これは「無過失責任」と呼ばれ、例えば、調理中に気づかなかった金属片の混入が原因でお客様が歯を損傷した場合でも、事業者は責任を問われる可能性があります。

高額な損害賠償に発展するリスクがある

飲食店で発生する事故は、1件で数百万円〜数千万円の損害賠償に発展することがあります。過去にはパック詰めの食品に起因する食中毒で450万円超の賠償が発生した例もあります。

小規模な個人事業主にとっては、これが廃業につながるほど深刻な負担になる可能性があります。

訴訟費用やその他の対応費用も補償される

PL保険では損害賠償金だけでなく、訴訟費用・弁護士費用・調査費用なども補償の対象です。例えば、被害者から訴訟を起こされた場合、裁判の弁護士費用や書類作成にかかる費用も保険で対応できます。

また、事故発生時の謝罪対応やお見舞い品の費用なども補償されるケースがあります。これらの費用はいずれも、保険会社によって基本補償に含まれることもあれば、オプションとして追加する必要があることもあります。

SNS時代の風評被害対策にもつながる

今の時代、食中毒や異物混入といった事故の情報は、SNSで一気に拡散されます。たった1件の事故でGoogleレビューに低評価が連続し、予約が激減することもあります。

PL保険によって事故対応に集中できることで、風評被害が悪化する前に信頼回復の一手を打てる余裕が生まれます。

年間数万円の保険料で大きな安心を得られる

PL保険の保険料は、年間売上や事業内容によって異なります。一般的には年2万〜5万円ほどから加入可能です。商工会議所などを通じた団体保険では、さらに割安で加入できることもあります。

少ないコストで大きな補償が受けられるため、コストパフォーマンスは非常に高い保険といえます。

PL法(製造物責任法)では、製品の欠陥によって消費者が損害を被った場合、事業者の過失の有無にかかわらず損害賠償責任が問われます。飲食店で提供される料理もこの法律の適用対象であり、たとえ少人数で運営する個人店であっても例外ではありません。

SNSやインターネットの影響により、事故が発生した場合の情報拡散も早く、風評被害や営業停止により経営に大きな打撃を与えることもあります。PL保険は、そうした危機を最小限に抑え、店舗の信頼と継続経営を守るための手段として有効です。

個人経営の飲食店にもPL保険は必要?

個人経営の飲食店にもPL保険は必要です。事故が起きた際、責任をすべて一人で負う立場である以上、補償が受けられない状態は大きなリスクです。仕入れた食材の不備や、スタッフのミスによる異物混入、冷蔵機器の故障など、自分に過失がなくても損害が発生することがあります。

さらに、取引先から保険加入の有無を確認される機会も増えており、未加入だと契約を断られる場合もあります。PL保険は、事故対応の手段であると同時に、信頼される店舗経営の証明にもなりつつあります。

PL保険の補償内容と対象範囲

PL保険では、飲食店が提供した料理や商品が原因で、お客様に身体的・財物的な損害を与えた場合に、損害賠償などの費用を補償します。

個人事業主向けのPL保険で補償される費用には、主に以下のようなものがあります。

  • 損害賠償金:お客様に与えた身体的な損害(治療費、慰謝料など)や財物的な損害(お客様の持ち物を汚損・破損した場合など)に対して、法律上の賠償責任に基づいて支払われる金額です。例えば、食中毒によってお客様が入院した場合の治療費や、後遺症が残った場合の慰謝料などが該当します。また、異物混入によってお客様の歯が欠けてしまった場合の治療費なども補償対象となります。
  • 争訟費用:損害賠償請求に関する訴訟費用や弁護士費用などが補償されます。万が一、お客様との間で訴訟に発展してしまった場合、高額な訴訟費用や弁護士費用が発生しますが、PL保険に加入していれば、これらの費用も保険金で賄うことができます。
  • 事故対応費用:事故が発生した場合の損害の発生・拡大を防ぐために支出した費用や、緊急措置費用などが補償される場合があります。例えば、食中毒が発生した場合に、原因を調査するための費用や、お客様への連絡費用、お見舞い費用などが該当します。
  • 損害防止・軽減費用:事故の再発防止策にかかる費用などが補償されることもあります。例えば、食中毒の原因となった調理器具を買い替えたり、衛生管理体制を強化したりするための費用などが補償される場合があります。
  • 協力費用:保険会社が事故解決のために行う要求に協力するために要した費用も補償対象となることがあります。例えば、保険会社から事故状況の詳細な説明を求められた際に、資料作成に要した費用などが該当します。

ただし、故意による事故や重大な過失による事故、危険な物の取り扱いによる事故など、一部補償の対象外となるケースもあります。

例えば、傷んだ食材であることを知りながら料理を提供した場合などは、補償の対象外となる可能性が高いです。また、免責金額(自己負担額)が設定されている場合もあります。免責金額は、保険料を安くするために設定することができますが、事故時には自己負担が発生することを理解しておく必要があります。

個人経営の飲食店のPL保険を選び方

個人事業主がPL保険を選ぶ際には、保険料の安さだけでなく、飲食業ならではのリスクに適切に対応できるかどうかが重要です。自分の店舗に合った保険を選ぶためには、以下のポイントをしっかり押さえる必要があります。

補償内容が飲食業に対応しているか

飲食業特有のリスク(食中毒、異物混入、アレルギーなど)をしっかりとカバーできる保険を選びましょう。自身の店の業態や提供する料理、過去の事故発生状況などを考慮して、必要な補償内容を見極めることが重要です。

補償限度額が事故の規模に見合っているか

万が一の事故における損害賠償額は高額になる可能性もあるため、事業規模やリスクに見合った十分な補償限度額を設定しましょう。目安として、賠償責任保険の限度額は数千万円から数億円程度で設定すると良いでしょう。過去の裁判事例などを参考に、適切な限度額を設定することが大切です。

無理のない保険料か

保険料は、年間売上や補償内容、支払限度額によって異なります。複数の保険会社から見積もりを取り、無理なく支払える範囲で最適なプランを選びましょう。PL保険の保険料は、売上高や業種によって大きく変動します。団体保険や商工会議所の保険 を利用することで、保険料を抑えられる場合もあります。

免責金額の設定はどうか

免責金額(自己負担額)を設定することで保険料を抑えることができますが、事故時に自己負担が発生することを考慮して慎重に検討しましょう。免責金額を高く設定すると保険料は安くなりますが、事故時の自己負担額も大きくなります。逆に、免責金額を低く設定すると保険料は高くなりますが、事故時の自己負担額は小さくなります。免責金額を0円に設定できるプランもあります。

特約の確認

必要に応じて、リコール費用や事業休業損失などをカバーできる特約が付帯できるか確認しましょう。例えば、製造または販売した食品に欠陥が見つかり、自主回収(リコール)を行う必要が生じた場合、その費用は高額になる可能性があります。リコール費用をカバーできる特約を付帯しておくと安心です.

補償対象外となるケースの確認

どのような場合に保険金が支払われないのかを事前にしっかりと把握しておきましょう。故意または重大な過失による事故や、法令違反による事故などは補償対象外となる場合があります。保険会社ごとに補償対象外となるケースが異なるため、契約前に必ず確認することが重要です。

PL保険選びでは、飲食業特有のリスクに対応した補償内容、十分な補償限度額、無理のない保険料が重要です。商工会議所などの団体保険も検討してみましょう。

個人経営の飲食店がPL保険に加入する手続き

個人経営の飲食店がPL保険に加入する方法はいくつかあります:

  1. 保険会社に直接申し込む
    各損害保険会社のウェブサイトや窓口から直接申し込むことができます。この方法は、特定の保険会社のプランに絞って検討したい場合や、すでに取引のある保険会社がある場合に便利です。
  2. 保険代理店を通じて申し込む
    複数の保険会社のプランを比較検討したい場合は、保険代理店に相談するのがおすすめです。保険代理店は、様々な保険会社のプランを取り扱っているため、自身の店の状況やニーズに合った最適なプランを見つける手助けをしてくれます。
  3. 商工会議所や業界団体を通じて申し込む
    所属している商工会議所や業界団体が提供する団体保険を利用できる場合があります。団体保険は、一般的に保険料が割安になるメリットがあります。
  4. オンラインで申し込む
    インターネット上で簡単に見積もりを取り、申し込み手続きを完了できる保険商品も増えています。オンライン申し込みは、時間や場所を選ばずに手続きができるため、忙しい個人事業主にとって便利な方法です。

PL保険の申し込みに準備する情報

保険の申し込みの際には以下の情報や書類が必要となる場合があります:

  • 事業者の情報:氏名、住所、連絡先、開業日など
  • 飲食店の情報:店舗名、所在地、事業内容、年間売上高など
  • 提供する食品に関する情報:メニュー、主な食材、調理方法、衛生管理体制など
  • 本人確認書類:運転免許証、健康保険証など
  • 年間売上高を証明する書類:確定申告書の写しなど

PL保険加入までの基本的な流れ

  1. 保険会社または代理店に見積もりを依頼
  2. プラン内容と保険料を比較検討
  3. 必要書類を提出し、申し込み手続きを実施
  4. 保険料を支払い、契約開始

申請後、審査を経て正式に補償がスタートします。店舗オープン前に備える場合は、営業開始日から補償を有効にできるように逆算して申し込みましょう。

個人事業主の飲食店がPL保険で備えるべきリスク

飲食店経営には、日々の衛生管理や品質管理を徹底していても防ぎきれないリスクが存在します。PL保険は、そうした予測不能な事故によって発生する損害への備えとして機能します。ここでは、実際にPL保険で備えるべき具体的なリスクを解説します。

食中毒事故

飲食店で最も発生頻度が高く、かつ深刻な影響を及ぼすリスクが食中毒です。原因は、加熱不足・冷蔵保存ミス・調理器具の不衛生・従業員の手指の汚染など多岐にわたります。
例えば、サルモネラ菌やノロウイルスによる集団感染では、入院費・治療費・慰謝料の請求が重なり、1件で数百万円以上の損害になるケースもあります。

異物混入

調理中や仕込みの際に、金属片・プラスチック・髪の毛・虫などが混入する事故も、賠償の対象になります。例えば、金属片でお客様が口内を切った場合や、義歯が破損した場合には治療費や修理費を負担することになります。
異物混入はSNSで拡散されやすく、店舗の信頼回復には時間とコストがかかるため、初動対応の補償があるPL保険は非常に心強い存在です。

アレルギー事故

アレルゲンの表示ミスや、スタッフによる誤った説明が原因で食物アレルギーによる重篤な症状が出る事故も深刻です。

例として、ナッツアレルギーのあるお客様に誤ってナッツ入りのスイーツを提供してしまい、アナフィラキシーショックを引き起こした場合、治療費だけでなく、後遺症や精神的損害に対する慰謝料の請求にも発展します。

テイクアウト・デリバリー時の品質変化

近年増加しているテイクアウトやフードデリバリーでは、店内と異なり温度管理が難しいため、食品の劣化リスクが高まります。

配達中の温度変化により食材が腐敗し、食中毒が発生した場合も、店舗の責任が問われる可能性があります。PL保険により、こうした外部要因に対する備えも可能になります。

誤表示・誤情報による消費者被害

食品ラベルの誤記、産地偽装、賞味期限の誤表示などにより、消費者の健康や財産に被害を与えた場合も、PL保険の補償対象になることがあります。

例えば、「無添加」と表示した商品に保存料が含まれていた場合や、アレルゲンフリーと誤認させるような表示による被害は、訴訟に発展するリスクもあります。

個人事業主の飲食店経営者がPL保険以外にも検討すべき保険

施設賠償責任保険

お客様が店内で転倒したり、設備に起因する事故でケガや物損が発生した場合に補償されます。

PL保険ではカバーされない「提供商品以外」に関する事故への備えとして重要です。

  • 例:滑りやすい床で転倒、椅子の破損でケガ

火災保険

火災・爆発・落雷・水濡れなどによる建物や設備の損害を補償します。

厨房設備の多い飲食店では火災リスクが高いため、必須の保険といえます。

  • 例:調理中の火災で厨房設備が全焼、再開までに数か月

店舗休業保険

事故や災害により営業ができなくなった期間の固定費や売上損失をカバーします。

PL保険では補償されない「事業継続のための損失補填」に対応する保険です。

  • 例:営業停止処分で1週間休業→売上ゼロ+家賃・人件費は継続発生

店舗総合保険(パッケージ保険)

PL保険・施設賠償・火災保険・休業補償などをまとめて契約できる保険です。

個別に契約するより保険料が抑えられることもあり、管理も簡単になります。パッケージ型の保険にどのような補償が含まれているかは、保険会社によって異なります。

  • 例:1契約で複数リスクを一括補償、更新も一度で済む

これらの保険を組み合わせることで、事故や災害に強い経営体制が整います。PL保険はあくまで一部であり、店舗経営の安定を図るには包括的なリスク対策が求められます。

個人経営の飲食店を守るPL保険

PL保険は、個人で飲食店を経営する方にとって、万が一の事故から事業と生活を守るための重要な備えです。食中毒や異物混入などのリスクは避けがたく、損害賠償や訴訟対応には大きな負担がかかります。

PL保険に加入することで、金銭的なダメージを抑え、信頼回復と事業継続の土台を築くことができます。


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