- 作成日 : 2025年6月30日
飲食店でAIを活用するとどう変わる?具体例やツールの導入方法を解説
飲食店業界では、人手不足や業務効率化の課題が深刻化しており、これらの課題を解決する手段として、AI(人工知能)の活用が注目されています。
この記事では、飲食店でのAI活用方法を目的別に解説し、具体的なツールや導入のポイントをご紹介します。
目次
飲食店でAIを活用するとどう変わる?
飲食店でAIを導入すると、現場の空気や働き方そのものが変わります。AIの導入前と導入後を比べて、その違いを具体的に見ていきましょう。
人手が足りない日常から少人数でも回る現場に
シフト調整の負担や急な欠勤によって、現場が混乱することがあります。特に混雑時には注文が追いつかず、スタッフに負担がかかることもあるでしょう。
こうした課題に対して、注文や配膳を自動化するAIを導入すれば、ホールスタッフの業務負担を大幅に軽減できます。注文はタブレットやスマートフォンで完了し、配膳はロボットが担うことで、スタッフは接客に集中できます。さらに、予約受付もAIに任せれば、営業時間外でもスムーズな対応が可能になり、機会損失を防げます。
接客品質のばらつきを抑えて誰でも一定の対応が可能に
スタッフごとの接客スキルや慣れにより、顧客対応に差が出てしまい、リピーターの満足度に影響が出ることもあります。
AIチャットボットや自動応答システムを使うと、メニューの質問や予約の確認など、基本的な問い合わせに24時間対応できます。これにより、忙しい時間帯でも顧客を待たせず、スタッフのスキル差による対応のブレも抑えられます。一定水準のサービスを誰でも提供できるようになります。
経験頼りからデータで利益を読む
売れるメニューや時間帯の売上傾向を把握する際、スタッフの経験や勘に頼る場面が多くあります。
売上分析ツールや需要予測に対応したAIを導入すれば、売上や来店データをもとに「どの時間帯に何が売れるか」「利益率の高いメニューはどれか」といった情報が自動で可視化されます。感覚ではなく、根拠ある数値に基づいて判断できるようになり、販促や人員配置など店舗運営全体をより計画的に進めることが可能になります。
在庫ミスを防ぎ自動で最適な発注を実現
発注は人任せで、在庫切れやダブり発注、期限切れによる廃棄が発生することがあります。
AIを使った在庫管理では、販売実績や季節要因をもとに最適な在庫量を予測し、無駄のない発注をサポートします。人手による記録ミスが減り、食品ロスの削減にもつながります。
一度きりの来店客からファン化へ
リピーター獲得に向けた施策が顧客ごとに届きづらく、来店が一度きりで終わることも少なくありません。
AIチャットボットを導入することで、営業時間外でも予約や問い合わせに自動で対応できるようになります。さらに、来店履歴や注文データをもとに、個別のキャンペーンやおすすめメニューの案内も可能になり、再来店につなげやすくなります。
飲食店でAIを活用するメリット
飲食店にAIを導入するメリットは、人手不足の解消と業務の効率化を同時に進めることができることです。人件費の負担を抑えながら、サービスの質を安定させる仕組みとしても活用が広がっています。
AIは単に作業を代わりに行うだけではありません。スタッフの負担を減らし、本来集中すべき業務に力を注げるようになります。たとえば、注文受付をAIが自動で行えば、スタッフは接客に専念できるようになり、配膳ロボットを使えば混雑時の回転率も上げやすくなります。
さらに、売上や来店データをAIで分析することで、よく出るメニューや来店の傾向がわかり、感覚ではなく数字をもとにした店舗運営が可能になります。日々の判断に迷いが減り、経営の精度も上がります。
飲食店でのAI活用の具体例
AIは飲食店のさまざまな業務に導入されており、目的に応じて適切な使い方を選ぶことが成果につながります。
セルフオーダー注文対応をAIに任せる
注文受付にAIを活用すると、顧客が自身のスマートフォンやタブレットでメニューを選び、直接注文できます。これにより注文ミスが減り、ホールスタッフの業務も軽減されます。多言語対応も可能なシステムを選ぶと、訪日客へのサービス向上にも役立ちます。
配膳ロボットの活用
配膳では、ロボットが料理を運ぶシステムが増えています。ピークタイムでも一定のスピードで配膳が可能となり、スタッフの移動負担が大幅に減ります。代表的な導入例には、ファミリーレストランでの配膳ロボットや、回転寿司店でのレーン配送システムがあります。
チャットボットで顧客との接点を増やす
AIチャットボットによる自動応答を導入すれば、営業時間外でも予約受付やメニュー問い合わせに対応できます。来店履歴や注文データをもとに、リピーター向けのキャンペーン提案も可能です。
売上分析でヒットメニューを生み出す
売上データや季節変動をもとに、AIが「売れ筋メニュー」を予測し、開発のヒントを提供します。曜日や天気ごとの売上傾向も可視化でき、スタッフ配置や販促にも活用できます。
飲食店のAI導入に役立つツールと費用の目安
飲食店で活用できるAIツールとその費用の目安を紹介します。
セルフオーダーシステム
セルフオーダーシステムは、顧客が自分で注文を行う仕組みです。AIを組み合わせることで、過去の注文履歴に基づくメニュー提案や多言語対応が可能になり、注文精度と顧客満足度が高まります。
- 初期費用:機能や仕様によって異なりますが、端末本体の価格は、30万~50万円程度が一般的です。これに加えて、10万~50万円程度の設置費用がかかります。
- 月額利用料:ソフトウェア利用料や通信費、端末の保守管理費などが含まれます。商品やサービス内容によって異なりますが、月額1万~3万円程度が相場です。
- キャッシュレス手数料:キオスク端末でキャッシュレス機能を導入する場合はキャッシュレス手数料がかかります。手数料率は1.5~5%程度が相場で、決済方法によって異なります。
導入にあたっては、POSシステムとの連携が必要な場合が多く、その初期設定費用も見込んでおく必要があります。
配膳ロボット
配膳ロボットは、料理や飲み物を自動で運ぶことで人手不足を補い、スタッフの負担軽減にも貢献します。費用は幅広く、1台あたり200万円〜300万円程度が相場です。月額制のレンタルも可能で、3万円~10万円前後から利用できる場合もあります。
価格は、積載量、移動性能、障害物回避機能、操作性などによって変わります。加えて、ソフトウェアのライセンス料やメンテナンス費が別途必要になることもあります。
在庫管理システム
AIを活用した在庫管理システムは、売上データや季節要因をもとに最適な在庫量を自動で算出し、発注作業を効率化します。
月額費用は、一般的には数千円〜数十万円程度です。POSや会計システムとの連携には、数十万円ほどの初期費用がかかることもあります。独自開発の場合は数百万円〜1,000万円超と高額になる可能性があります。
AIチャットボット
AIチャットボットを導入すると、予約受付やメニューの案内などを自動で行えるため、24時間対応が可能になります。定型的な質問に対応するシンプルなチャットボットであれば、初期費用は数万円程度ですが、複雑な対話に対応する高度なチャットボットであれば、50万円〜100万円程度かかるケースもあります。
カスタマイズ開発を行う場合、自然言語処理の高度化に伴い、開発費が1,000万円を超える場合もあります。CRMやSNSとの連携には別途設定費用が発生します。
売上分析ツール
POSや顧客データを活用して売上傾向を可視化するAIツールの費用は、月額数千円〜数百万円と非常に幅広いです。高機能プランでは追加料金が発生する場合もあります。
POSシステムとの連携は前提条件であり、連携費用は標準プランに含まれることもあれば、特殊なPOS使用時は別料金となることもあります。
その他のAIツール
AIによるメニュー価格最適化ツールは、原価や競合価格、需要予測をもとに価格調整を自動化します。AIによるキッチン自動化システムは、調理器具の制御やロボット調理を行うもので、初期投資が高額になりがちです。AIを活用したマーケティングプラットフォームは、顧客データをもとに自動で販促を行います。いずれも費用は導入規模や機能により大きく変動します。
AIツールの導入は、単に導入コストだけでなく、運用や保守、連携費用も含めて総合的に判断することが大切です。
飲食店のAI導入の進め方
飲食店でAIを導入するには、順序立てて計画的に進めることが大切です。導入を成功させるためには、以下のポイントを押さえておくと安心です。
何のために導入するかをはっきりさせる
まずは、自店舗の課題を明確にし、「AIを導入して何を改善したいのか」を具体的に設定します。人手不足、食品ロス、顧客満足など、解決したい課題を洗い出し、達成すべき目標を整理しておきましょう。
自店舗に合うAIの選び方
目標が明確になったら、それに合ったAIソリューションを選びます。機能や費用だけでなく、拡張性やサポート体制、既存システムとの連携のしやすさも比較検討します。いきなり全てに導入せず、小規模に導入して効果を確認するのも効果的です。
システムと連携できるかも確認
AIを導入する際には、POS、会計、顧客管理など既存システムと連携できるかも確認しましょう。連携が不十分だと、業務の手間やミスが増える可能性があります。システム同士の互換性やデータの受け渡し方法などを事前にチェックしておきましょう。
スタッフが安心して使えるようにする
導入したAIを現場で活用するためには、スタッフへのトレーニングも欠かせません。AIが導入される背景や目的を共有し、実際に操作を体験してもらうことで、不安を解消しやすくなります。「AIは仕事を奪うものではなく、仕事を助けるツール」という理解を浸透させることがスムーズな定着につながります。
試験的に導入し効果を見てから広げる
いきなりすべての業務をAI化するのではなく、一部の業務や店舗で試験的に導入し、効果を測定する方法が現実的です。KPI(売上、業務時間、ロス率など)を設定して、導入前後の変化を数値で比較し、効果が確認できれば本格導入へと進めましょう。
情報の安全管理も忘れずに
顧客情報や売上データを扱うAIシステムでは、情報の保護も欠かせません。データの暗号化やアクセス制限が施されているかを確認し、プライバシー保護に関する法令(個人情報保護法など)にも注意を払いましょう。信頼できるベンダーと契約することも安心材料のひとつです。
飲食店でAI導入をする際の注意点
飲食店でのAI導入は、導入に伴うリスクや現場での運用面にも目を向ける必要があります。
業務フローに合っているか確認する
飲食店でのAI導入は、便利さだけで判断せず、実際の業務フローや現場の状況に合っているかを重視することが大切です。高機能なツールでも、使いにくければ現場で定着せず、かえって業務が煩雑になる可能性があります。特に、既存のPOSレジや会計ソフトと連携できるかどうかは、導入前に必ず確認しておきましょう。スムーズな立ち上げのためには、小規模なテスト導入を行い、実際の運用での課題を洗い出しておくことが有効です。
接客の質を保つための工夫も忘れずに
AIを導入すると、注文や配膳などの業務が自動化され、スタッフとお客様が直接関わる機会が減ることがあります。そのため、「接客が機械的になってしまうのでは」と不安に感じる方もいるかもしれません。
ただし、定型業務をAIに任せることで、スタッフは本来の接客により多くの時間を割けるようになります。たとえば、「ご注文ありがとうございます」「お食事の味はいかがでしたか?」といったちょっとした声かけや、目配り・気配りといった細やかな対応に集中できるようになるのは、大きなメリットです。
AIで生まれた余裕をどのように活かすかは、スタッフ全員で共有しておくことが大切です。
費用だけでなく効果にも注目する
AI導入にあたっては、初期費用や月額費用だけでなく、そのツールによって「何がどれだけ改善されるか」を見る視点が重要です。例えば、人件費の削減、作業時間の短縮、食品ロスの減少、売上の向上など、数値化できる効果があるかどうかを確認しましょう。
また、導入にかかったコストが何か月で回収できるかを事前に試算しておくと、導入判断がしやすくなります。AIは単なる経費ではなく、うまく活用すれば将来的に収益を押し上げる投資となり得ます。
飲食店のAI導入に役立つ補助金や助成金
飲食店がAI関連ツールやシステムを導入する際に利用しやすい補助金制度をいくつか紹介します。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者が販路開拓や業務効率化のために行う取り組みを支援する制度です。飲食店でのAI導入も対象となることがあり、セルフオーダーや在庫管理などのツール導入費、周辺機器の購入費などが補助されるケースがあります。
補助率は2/3、上限は最大200万円で、申請には経営計画書や見積書などが必要です。
参考:小規模事業者持続化補助金
IT導入補助金
業務効率化やDX推進を目的として、POSレジ、予約管理システム、会計ソフト、クラウド勤怠管理などのITツール導入に使える補助金です。運営効率を上げるためのツール導入を計画している場合に活用価値があります。
補助額は最大450万円、補助率は類型により1/2〜3/4となっており、IT導入支援事業者との連携が必須です。
参考:IT導入補助金制度概要
地方自治体による補助
地域によっては、商店街支援や中小企業のDX促進を目的とした独自の補助金制度が設けられている場合があります。たとえば、都道府県や市区町村が運営するデジタル導入支援や設備投資支援金などの公的支援制度が該当します。対象となる経費や条件は自治体ごとに異なるため、出店エリアの自治体や商工会議所の公式サイトで最新情報を確認しておくことが大切です。
補助金を活用する場合、導入前の申請が原則であり、導入後の支出は補助対象とならないことがあるため、スケジュールには注意が必要です。また、申請には事業計画書の提出を求められることがあります。
飲食店のAIを導入は効率化の一歩に
AIの導入は、人手不足の解消や業務の効率化だけでなく、スタッフが本来の接客やサービスに集中できる環境づくりにもつながります。定型業務をAIに任せることで、丁寧な対応や会話といった“人にしかできない接客”の質を高めることができます。
AIツールの導入は目的と現場の状況に合ったシステム選びが重要です。小さく始めて効果を見極めながら進めることで、無理なく導入が可能です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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